【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
この戦いの最終目標は勝利ではない。
四人の目的はソルシエラの奪還であった。
次点で杭の破壊。
六波羅は地絃天星埜御霊を前にしても冷静だった。
「それが噂に聞く那滝家の化け物か」
「凄いでしょ? ソルシエラを捕まえてから急に力が増したみたいでさ。やっぱり、血筋って大事なんだねー」
ネームレスはおどけてそう言って見せるが、隙が一切見当たらない。
下手に動けば、彼女ではなくその後ろの地絃天星埜御霊が動き出すだろう。
「来ないの? 六波羅さんに0号におまけにリュウコちゃんまで。それだけの戦力を引っ提げてきたのにビビってんだ」
「おまけ……私、おまけ……」
両者会話のみでの探り合いが続く。
やがて動いたのは、0号であった。
「あんな鳥風情、すぐに堕としてくれる」
彼女の足元に魔法陣が展開され、収束砲撃の準備が速やかになされる。
対してネームレスは何もせずに静観していた。
「お前、もうボロボロだろ。干渉の力もまともに使えないんじゃないの?」
「……そんなふりをしているだけかもしれないねぇ」
「強がっちゃって」
大鎌の先の銃口がネームレスと地絃天星埜御霊へ向けられる。
そして、躊躇なくそのトリガーは引かれた。
「手加減は無しだ」
放たれた銀色の砲撃は閃光のごとき速度で進む。
干渉の力を纏った一撃は、確かに地絃天星埜御霊を捉えネームレスをも纏めて消し飛ばした……かに思えた。
「――うん、弱い。今のお前なら勝てる」
確信に昂る声が煙の中から聞こえる。
煙が吹き飛ばされ、翼を広げた地絃天星埜御霊が現れた次の瞬間、空は黄金に埋め尽くされた。
「なんだこの魔法式はァ……!?」
『リーダー、やばいですよこれ! 原理は姉様の収束砲撃と同じ、だけど空と無理やり共鳴現象を引き起こしてめちゃヤバ速度で魔力を増幅してますぅ!』
「これは……私の干渉の権能すらも吸収したのか……!?」
「………………帰りたい」
黄金の空は、ただ一羽の怪物のために作られた舞台であった。
前提として、共鳴現象は完全に同調した存在が一対一で魔力を掛け合わせることで互いの魔力を増幅させる。
ならば、この空全てを自身と同格の存在と定義し、無理やりに共鳴現象を引き起こすとどうなるのか。
その問いの答えは至って単純だった。
地絃天星埜御霊の支配下に置かれた空そのものが、砲撃を放つ巨大な銃口となる。
「っ、マズイ! 龍位継承――タラスク!」
初めに動いたのはリュウコだった。
自分が被害に遭う攻撃に人一倍敏感な彼女は、理屈を放って即座に防御を選択。
中でも、自分が守りに信頼を置く姿へと躊躇なく変化させた。
攻撃を捨てた、バルティウスの完全な防御形態。
大きな甲羅を空に向け、リュウコ達を守るようにバルティウスは覆いかぶさった。
間もなく、空の輝きが増し辺りが閃光に包まれる。
「っ、これはまさか……ッ!」
「おいおい、想定以上だなァ!」
0号は更に干渉の壁を作り上げ、六波羅は最悪の事態に備えて無敵の異能をここで使用した。
それから一秒もなく、辺りを轟音と熱が包み込む。
「う、うわあああああ! バルティウス、頑張ってー! やっぱり無限再生の方が良かったかもおおぉぉぉぉぉぉ!」
「泣き言吐くんじゃねェ! 耐えて見せろリュウコォ!」
地上が揺れ、熱気がリュウコの髪を焦がす。
半泣きでありとあらゆる偉い存在に祈ったリュウコは、辺りが静まったことでゆっくりと目を開いた。
「………………え」
辺りは、ダンジョン空間の端まで荒野が広がっている。
あるのは唯一、空へと延びる杭のみだ。
それ以外の物は、校舎を含めて消え去っていた。
欠片一つ残されていない。
全て、一度の砲撃で灰塵と化したのだ。
『やばいですぅ! ちょ、これ一旦逃げましょう! 無理無理無理! 勝てないってぇ!』
「こんな化け物がいるなら、確かに余計な守りはいらねェか。一度の攻撃で消し炭にしちまうんだからよォ」
「今のは0号の干渉の力を吸収して増幅させたからだけどね。ま、それでもお前達よりはずっと強い。だからさ、逃げなよ。今なら逃がしてあげる」
「……成程なァ」
ネームレスは、今に至るまでずっと動いていない。
彼女はそうする必要がないのだ。
地絃天星埜御霊、世界で唯一のSランクに至った魔物。
その真価が今発揮されている。
(今、俺達の最善手は……)
自分たちに配られたカードを再確認して、六波羅はすぐに口を開いた。
「0号、仮にネームレスだけならどれだけ戦える」
「……おそらく勝てないだろう。が、今ならまだ無様に負けることもない。引き分けまでは持っていく」
「そォか、ならお前は今すぐ杭に行け。そして、ネームレスを相手にしながら俺の合図を待て」
「君はどうするつもりだい?」
「決まってんだろォ? 今から、俺とリュウコであのでけェ鳥を相手にする」
「えっ」
「確かに、干渉の力を使って吸収されたら不利になる。わかった、いいだろう」
「えっ、私の意見は? ねえ、バルティウスの背中焦げてんだけど!? アレと戦うの!?」
バルティウスの背中を指さしながら半泣きでリュウコはそう言った。
それに同調するように、六波羅の手の中で弓がカタカタと揺れる。
『私もあんな化け物の相手はごめんですぅ!』
「勝ったら、お前の要望を一つ聞いてやる」
『あんな鳥、私とえちえち水着メイドリーダーの相手じゃないですぅ!』
「おい何要望するつもりだテメェ」
エイナは『やってやりましょうよぉ!』と意気込むだけで、詳しい事は教えてくれなかった。
が、やる気になったのならそれでいいと、六波羅は弓を構える。
そして、リュウコをちらりと見て言った。
「これに勝ったら、次の人気投票で一位が決まったも同然だろうなァ……」
「あの鳥ぶっ殺す!!」
六波羅の口車に乗せられた二名は、やる気に燃えていた。
それをどこか冷めた目で見ながら、0号はふわりと浮く。
「では、始めるぞ」
「あァ……互いに生きて帰ろうぜ」
0号は、魔力を放出し杭へと一直線に向かう。
同時に六波羅は追おうとする地絃天星埜御霊へと矢を放った。
「ネームレスの雑魚はどうでもいいが……お前は俺達と遊ぼうぜェ? こっちもでけェの飼ってるからよォ」
「龍位継承――八岐大蛇」
六波羅達の背後で、カメのような姿からバルティウスが変化を始める。
やがてその体は、八つの首を持つ山の如き巨大な龍へと変化を遂げた。
その大きさは、地絃天星埜御霊を遥かに超えている。
「報告書20枚分の痛み、お前に味わわせてやる!」
リュウコの叫びと共に、バルティウスは八つ尾を鞭のように振り回して地絃天星埜御霊へと攻撃を仕掛けた。
しかし、地絃天星埜御霊はまるで木の葉が舞うように不規則な動きで攻撃を躱す。
「躱したってことは、当たりたくないって事だね!」
リュウコは嬉しそうにそう叫ぶ。
しかし、その攻撃は一向に当たる気配を見せなかった。
尾の間を縫うように飛翔する地絃天星埜御霊は、バルティウスの胴へと到達。
翼の中に刻まれた砲撃陣で一斉に攻撃を開始した。
黄金の砲撃が、バルティウスの翡翠色の肌を焼き焦がしていく。
直接的なダメージはないものの、その巨体がわずかに後ずさりする。
向かって行った八つの頭による反撃も空振りで終わった。
「くっそ、大振りで当たりづらい! チョイスミスったかも!」
「いや、それでいい」
バルティウスへと追加で放たれた黄金の光線が、下方からの赤い光によってかき消される。
次いで放たれた二射目は、地絃天星埜御霊へと直撃した。
この戦いで初めての被弾に、地絃天星埜御霊の注意は地上の六波羅へと向く。
「成程、砲撃に無敵の力を纏わせるってのはこうやるのかァ……! 干渉みてェにデモンズギアに元々ある権能じゃねェから器用なことはできそうにねェが――」
『私たちの愛で、足りない分は補いますぅ!』
硝子の靴は砕け散る兆しを見せない。
それどころか、六波羅はこの土壇場で砲撃に自身の無敵を纏わせることに成功していた。
地絃天星埜御霊は、バルティウスと六波羅の二つの存在を認めてようやく敵であると認識する。
すなわち、ここからが戦いなのだ。
「久しぶりの共同作戦だァ! 勝ったらまた飯奢ってやるよォ!」
「その『勝ったら』ってのやめない!? フラグになりそうで怖いんだけど!」
『リーダー、この戦いが終わったら丘の上に白い家を建てて一緒に暮らしましょうぅ』
「わざとやってんのかー!」
絶対の無敵と神話に語られる怪物が、改めて地絃天星埜御霊へと挑む。
新たな決戦が始まろうとしていた。
同時に、杭の前でも一つの戦いが始まろうとしている。
「ネームレス、何度お前が私とマスターに負けたと思っているんだい?」
「昔の事でしょ。今はただの雑魚じゃん、お前」
「へぇ^^」
0号は大鎌をネームレスへと向ける。
対して、ネームレスは機械仕掛けの剣の切っ先を向けた。
「マスターは私のものだ」
「私のだ!」
二人は、力強い叫びと共に飛び出した。
『きゃっ、ネームレスの熱烈な愛に照れちゃうよぉ~><』
『アイツ、私の事を雑魚って言ってた^^ 人間風情が舐めやがって、殺したい^^』
『おぉ……渡雷リュウコが出していたあのカメのような怪物は、私とキャラがかぶっていないだろうか……。幼き命があっちに行ってしまわないか不安だ……』
『杞憂』
『キャラとか気にしてたんだカメ君……』