【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
渡雷リュウコは、今一つ周りの空気についていけていなかった。
「しゅぱしゅぱで、くるっとしてて……うーん」
クローマの生徒たちに襲われたから逃げてフェクトムまで来たというのに、なぜ自分が戦っているのか。
大きな事が起きている。
それ自体は理解していた。
六波羅やトウラクなど、自分と同等以上に強い探索者たちが大けがを負う程の大事件である。
それでも、自分を抜きにして解決すると余裕をぶっこいていたのだ。
今更詳しい事情を聞けるわけもない。
結果、彼女は得意の空気読みでそれとない返事を繰り返していた結果、六波羅に無茶ぶりをされていた。
(そもそもソルシエラを助けるとか言っているけど……もしかして皆正体を知ってたりする……? 私だけ置いてけぼり……い、いや、トアちゃん辺りは絶対知らないよ! だって、食べ物の事しか頭にないもん!)
友人へとあまりにも失礼すぎる決めつけと共に、リュウコは頷く。
その表情だけは一丁前であった。
「そっち行ったぞリュウコォ!」
「ひえっ、バルティウス! 守って守って!」
雨のように降り注ぐ砲撃から、バルティウスが八本の尾でリュウコを守る。
安全圏で膝を抱えながら、彼女は安堵の息を吐いた。
「ふぅ」
『お前ぇ! さぼっているんじゃないだろうなぁ!』
「さぼってないよ! そっちの無茶ぶりに合わせるのがどれだけ大変だと思ってんだぁ!」
『リーダーがやれって言うんだからやるんだよぉ!』
「なんでお前が偉そうなんだおい!」
『そりゃあ……私はぁ? リーダーのフィアンセですしぃ?』
「あいつ……真っ直ぐにむかつく……!」
リュウコは地団太を踏みながら地絃天星埜御霊へと視線をやった。
巨大な黒鳥は、変わらず大空を我が物顔で飛び続けている。
「ええい、もう観察はやめだぁ! だいたい、目の前にいるんだから実際に戦うのが早いっての! 足りない分は、本物で補う!」
「へェ……お前にしては積極的だなァ」
「無茶ぶりがすぎるんだよぉ! 漫画家にヒットが確約された作品の単行本一冊分を一時間で描けって言っているようなものだからね!? だから――」
リュウコはバルティウスの頭部の一つに立つと、額に汗を浮かばせながら言った。
「これからは私も混ぜてよ。お菓子食べすぎたから、少しダイエットしようかなって思っていたんだ」
彼女の意思に応えるように、バルティウスの尾が動き出す。
そして、先端が束ねられリュウコの前へと差し出された。
まるで、神へと供物をささげるように丁寧な動作で差し出された尾へと、リュウコは手を入れる。
「やっぱ、戦うなら剣だよね」
腕を引き抜いた彼女が持っていたのは黒々とした直剣であった。
彼女が持つには少しばかり大きいそれを、しかし軽々と担いで笑う。
「草薙剣VS地絃天星埜御霊。昔の日本神話と現代の日本神話どっちが強いか試そうじゃん?」
瞬間、空を覆っていた黄金が陰りを見せ始める。
瞬く間にリュウコの周囲には雨が降り注ぎ始め、雷鳴が轟いた。
それが、合図であった。
「――ッ」
リュウコがバルティウスを蹴り、一気に跳躍する。
そして地絃天星埜御霊へと肉薄した。
ソルシエラを栄養源として加速を続けている地絃天星埜御霊でさえ、その速度に驚愕する他ない。
「一太刀」
魔力を帯びた剣が、地絃天星埜御霊の胴へと突き刺さる。
今まで一度も傷がつかなかった肉体が、ここでようやく血しぶきを上げた。
「神話を練り上げた剣をぶっ刺してようやく血が出ただけか。堅いな」
リュウコはそれを有効打ではないと即座に判断。
自分をキャッチするために伸びたバルティウスの尾へと手を伸ばすと、着地と同時にその尾へと手を入れた。
「なら二本目」
剣を持ってリュウコは尾を駆ける。
迫る彼女を迎撃せんと放たれた黄金の光は、リュウコの背後からの赤い矢によって相殺された。
「ありがとう六波羅さん!」
「きちんと残しておけよ? 俺も殺し足りねェんだ」
「流石に殺せないって。――でも、翼くらいは貰っちゃおうかな」
その言葉と同時に、リュウコの足元にいたバルティウスがその巨体を消した。
跡形もなく、その場から剣を残して消え去ったのである。
そしてようやく、地絃天星埜御霊は自身の認識の過ちに気が付いた。
バルティウスと彼女は別の存在ではない。
彼女こそがその力の根源であり、真に怪物である。
「聖域解放」
更に、リュウコの魔力が爆発的に増す。
剣へと込められた魔力は存在するだけで空間を歪め、鏡界内でしか観測出来ない筈の極彩色の輝きを放っていた。
地絃天星埜御霊は回避も迎撃も捨て、防御と再生能力の強化へと魔力を回す。
しかし、一手遅かった。
「くらえ! スペシャル女子高生アターック!」
『うわだっさぁ……』
両断されたのは、地絃天星埜御霊の右翼であった。
何重にも障壁が張られ、強靭な肉体と驚異的な再生能力を持っていた翼がただの魔力量に無理矢理切り落とされたのである。
「よっし! バルティウス、食べて!」
リュウコの胴体から飛び出した銀色のスライムは、地絃天星埜御霊の翼を飲み込む。
そして咀嚼するように何度か伸び縮みした後、合図を出す様に震えた。
「よし、じゃあやるよ!」
リュウコは静かに目を閉じて、世界に刻み込むようにその名を告げた。
「龍位継承――地絃天星埜御霊」
その変化は劇的であった。
バルティウスの体は瞬く間に巨大化し、一体の黒鳥へと変化したのである。
その背でリュウコを受け止めると、バルティウスは大空へと羽ばたいた。
「どーよ六波羅さん!」
「やっぱお前いると任務が楽でいいなァ! そのまま杭に行け、リュウコォ!」
バルティウスへと飛び乗った六波羅はそう叫んだ。
珍しく褒められたリュウコはご満悦である。
「よっしゃー! 今日の私、なんか輝いてるー!」
『……チッ、褒められたからって調子に乗らないで欲しいですねぇ』
「今、味方が舌打ちした……?」
耳を澄ましても、二度目は聞こえてこなかった。
聞き間違いかと思うリュウコの目の前に、杭が迫る。
そしてその根元で戦うネームレスと0号の姿が見えてきた。
「よし、そのまま真っすぐだ」
六波羅の指示通りにバルティウスは進んでいく。
そして0号がバルティウスの姿を見たと同時に叫んだ。
「こいつに向かって砲撃を撃てェ!」
「は?」
「了解した^^」
「は? は? ちょ、嘘でしょ――」
ネームレスの攻撃を回避した0号は、バルティウスへと砲撃を放つ。
銀色の閃光が迫るその光景を見て、リュウコは悲鳴を上げながらバルティウスの頭を叩いた。
「ふ、防いで! 本物がやってたやつやって! ピカーってやつ!」
曖昧な指示だが、バルティウスは十分に理解したようだ。
翼を広げると、黄金の魔法陣を空に展開する。
そして、胴で0号の砲撃を受け止めた。
「これやるなら先に言ってー!」
「言ったら逃げるだろお前」
「……それは確かに」
緊張感のない相槌をするリュウコとは対照的に、バルティウスは着々と準備をこなしていた。
地に堕ちた本物から空の支配権を奪い、共鳴現象が行われる。
干渉の力はバルティウスの内部で増幅すると、魔力と交わり強大な一つの力へと変化した。
「うおっ、なんだこの力……! 六波羅さん、こーれまずいです! 爆発、バルティウス爆発しちゃう! 次、どうすればいいの!?」
焦るリュウコを見て、六波羅は獰猛な笑みを浮かべながら立ち上がる。
そして、こう言った。
「エイナ……挙式は和式と洋式どっち派だァ」
「は?」
『洋式ですうぅぅぅぅ!』
「なに見せられてんの? 爆発するって言ってんだけど?」
一見して、付き合いたてのカップルの知能指数の低い会話でしかない。
しかし、感情をエネルギーに変えるそのデモンズギアにとって、それは言葉以上の意味を持っていた。
『エネルギーラブラブMAXですうぅぅぅ!』
「っしゃァ! ぶっつけ本番行くぞエイナァ!」
大弓が折られ、双剣へと形を変える。
六波羅はそれを肩に担ぐと、リュウコへと言った。
「俺に向かって、溜めたエネルギーを撃て。まとめて杭をぶん殴る」
「えぇ……」
「頼んだぜェ!」
六波羅はわざとバルティウスの目の前に跳んだ。
リュウコは一瞬悩んだが「まあ、本人が言っているし……」と納得して、指をさした。
「あれに撃って、バルティウス!」
瞬間、バルティウスの翼の魔法陣が歯車のように噛み合い、回転を始める。
そして大きく開かれた口へとエネルギーを収束させ、放った。
黄金の光が辺りを眩く照らす。
ただの一度で千界学園を焼き尽くしたそのエネルギーを前に、六波羅は――。
「来いオラァ!」
防御すらせず背中で受け止めた。
無敵の力により傷もないまま、六波羅は一直線に杭へと進む。
そして、その双剣へと黄金の力を纏わせた。
「無敵ってのは、器に最適だなァ! こんな風に、力ごと包んじまえるんだからよォ!」
『やだ、私のリーダーかっこよすぎ……』
「エイナ、ソルシエラと杭を繋いでいる箇所はどこだ」
『あ、こことここですね』
感知によりソルシエラを拘束する力の根源を理解したエイナの視界が共有される。
六波羅は、狙いを定めると無敵の力で包んだ干渉そのものを思い切り杭へとたたきつけた。
「目ェ覚ませ、ソルシエラァ!」
衝撃で、杭が震えた。
空に張る根が崩壊を始め、ソルシエラを縛り上げていた触手がボロボロと崩れ始める。
間もなく辺りは黄金の光で包まれ、ここに勝敗は決した。
「――星詠みは、ここに覚醒する」
かに思えた。
■
銀の黄昏の本拠地で、ルシエラは微笑を携えながら紅茶を飲んでいた。
「美味しい。やはり、自分の体で飲む紅茶が一番だね」
「おい、ネームレスの管理する杭が不安定だ! 間違いなく、Sランクが邪魔をしに来ている。早く助けに行くぞ!」
博士の言葉を受けても、ルシエラは優雅にティータイムを楽しんでいる様子だ。
その姿にため息をついて、博士は駆け寄る。
「おい、聞こえているのか!?」
「大丈夫だよ、博士。あそこには、頼もしい守護者がいる」
「ネームレスと地絃天星埜御霊じゃ、負ける可能性もある。悔しいが、それは僕が行っても同じだ。ここは、君に頼むしか……」
「安心してくれ、博士」
ルシエラは崩落した天井から覗く空を眺めて、ふっとほほ笑んだ。
「ネームレスと地絃天星埜御霊の事は、彼女が助ける。私は――
■
杭の崩落が止まる。
空が黄金の色を取り戻し、地絃天星埜御霊の翼が修復されていく。
まるで、映像を逆回ししたかのように全ての事象がなかったことになっていく。
作戦は成功した。
地絃天星埜御霊を完全にコピーすることで、共鳴現象を起こし干渉の力を増幅。
無敵でそれを包み込み、杭を破壊しながらソルシエラへとエネルギーを与える。
六波羅の作戦は、全てがアドリブでありながら完璧であったと言えるだろう。
しかし、彼らの表情は依然として険しいものだった。
「……オイオイ、サプライズかァ?」
『ひぇ』
「やっぱ敵じゃん!やっぱ敵じゃん!」
騒ぐリュウコと怯えるエイナを無視して、六波羅は杭の前の少女を注視する。
目を逸らせば、死ぬ予感があった。
「――私は星詠み」
黒いドレスに、蒼銀の髪を靡かせてその少女は六波羅達を見下ろしている。
それはまるで、死神のようでもあり女神のようでもあった。
「貴方達に裁きを与える者」
星詠み――ソルシエラ。
その力が、今彼らに牙をむこうとしていた。
『体の制御権失いました……』
『私抜きで強化形態に……!? そんなの、データにないねぇ!』
『あれは幼き命の波動を感じない。よってロリではない』