【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
トアとミロクは、校舎の中を進んでいた。
いつもなら他愛もない話に花が咲き賑やかになるところだったが今は違う。
重い沈黙は決意の表れか、あるいは恐れか。
二人は、変わらぬ速度、変わらぬ距離で歩みを進めていた。
「……ねえ、ミロクちゃん」
「なんですか?」
「その、やっぱりソルシエラは殺すしかないのかな」
「はい。それが、私達が最後にあの子にしてあげられることですから」
「そっか……」
会話はあっけなく終わった。
トアは、先を行くミロクを見上げ、何かを言おうとして再び口を閉ざす。
会議を終えてから今に至るまで、似たやり取りの繰り返しであった。
「ミユメちゃんはどこに行ったの?」
「先に準備をしに行きました」
「ね、ねえ、ソルシエラを倒さなくても銀の黄昏を倒せばいいんじゃないのかな!」
「洗脳が誰かを倒して解決するという確証がありません。仮に、不可逆的な思考を植え付ける仕組みであった場合はどうなりますか? 今度はあの子が銀の黄昏の首領になりかねないです」
「そうかもしれないけど……けど……」
ミロクは答えない。
廊下を進む二人分の足音と、床のきしむ音が今日はやけに頭に響く気がした。
やがて、ミロクが足を止める。
それに続いて足を止めたトアは、周囲を見渡して困惑したように声を上げた。
「……え、ここって」
道は間違いなくミユメのラボへと向かっていた筈だった。
しかし、実際に辿り着いたのはミユメのラボではない。
割れた窓ガラスに、崩落して日の光が差し込む天井。
草木が侵食し、緑に覆われている灰色の柱や壁面。
それは、今はもう使われていない講堂であった。
「かつて、ここでは生徒会と企業連合の代表たちが定期的に会議をしていたそうです。生徒達に開放されることはなく、あくまで政治的なやり取りをするために設けられた場所。なので、こうなってしまった今は使い道がありません。物置にしようにも御覧の通り雨風をしのぐことすらできませんから」
「……どうしてここに連れてきたの、ミロクちゃん」
ミロクは、拡張領域から弾丸の入ったケースを取り出した。
そして、掌に載せてトアへと見せる。
「これ、今すぐにでも欲しいんじゃないですか?」
「え?」
「あの子を確実に殺せる手段を、こちらが持っているなんて看過できない」
ミロクは、いつも通り幼馴染へと向ける優しい微笑みと共にその名を呼んだ。
「そうでしょう、ネームレス」
■
「……そろそろか」
ミロク達が去った会議室で、ミズヒは静かにそう言って目を開いた。
その瞬間、彼女の影が泡立ちタタリが姿を現す。
「待ちくたびれましたよー」
「ええっ、タタリちゃん!? いつの間にいたんですか!」
驚いたヒカリに、タタリはピースサインをしながらミズヒの隣の席へと座った。
「びっくりしましたかー? 私はミズヒちゃんの影で待っていろ、しか言われなかったのでー。これから何が起こるのか楽しみですよー」
彼女の言葉で、0号は興味深そうに身を乗り出した。
「ほう、何かが起こるというのか」
「0号……じゅる」
「今は食うな、タタリ」
ミズヒは、タタリの前に焔を差し出す。
すると彼女はそれを満面の笑みと共に口の中に放り込んだ。
「ん~! 五臓六腑に染み渡りますー!」
「で、君達は何を企んでいるのかな? 私を出し抜いてまで何をしようとしているのか教えて欲しいのだが」
「それは」
タタリはミズヒへと目をやる。
「?」
ミズヒは首を傾げてヒカリへと目をやった。
「?」
ヒカリも首を傾げてタタリへと視線を向ける。
自分へと帰ってきた説明要求の視線に、タタリは呆れながら言った。
「もしかして誰も知らないんですかー?」
「私はこの場で機が来るまで待てと言われただけだ……」
「私はミロクちゃんの話に合わせるようにと言われただけです!」
「私はミズヒちゃんの影の中にいて欲しいと言われただけですねー」
「えぇ……人類、やはり愚かなのか……?」
困惑する0号を見て焦ったように視線を彷徨わせたミズヒは、思い出したかのように指を鳴らした。
瞬間、焔が空席に迸り、一人の姿を作り出す。
それは、少し前に会議室を飛び出したクラムであった。
「うわっ、な、なに!?」
「クラム、お前は何か知っているのだろう。だから、さっきこの場から「知るかぁ!」……そうか」
ミズヒは困ったように眉を顰めた。
今まで泣いていたであろうクラムは、目を真っ赤にしながら机をたたく。
「何か策があったなら! 私に! 言えよ!」
「クラムは意外と嘘が下手なので事前に教えては駄目だと思ったんでしょうね」
幼馴染からの率直な意見に、クラムは納得できないと首を振る。
「話している途中で何かおかしいとは思ったよ。ミロク、真顔で嘘ついてたし。空気もおかしかった」
「なら何故出て行ったのだ?」
「……から」
「え?」
「感情がぐっちゃぐちゃになったから! こっちは何とか覚悟決めようとしてんのに、それすら利用してミロクは何かしようとしているし。ヒカリとかミユメの様子を見るに、こいつらは知ってたし。もう、なんか悲しいよ……! 私、理解者なのに……。役に立てるのに……!」
「あー、はいはい。よしよしいい子ですねー」
ヒカリはクラムを抱き寄せると、雑に頭を撫で始めた。
その流れ作業たるや、どれだけ彼女がこうしてきたかがわかる。
すすり泣くクラムと、あやすヒカリ。
誰も詳しい事情を知らずに項垂れるミズヒと、彼女から焔を貰って笑顔のタタリ。
どう見ても始まる前に作戦が失敗した光景を見て、0号は恐る恐る問いかけた。
「……結局これから何が起こるんだ?」
「わからない……」
「わかんないです!」
「右に同じくー」
「うえっ、ぐすっ、ぐすっ、わだじも」
「――私がお答えするっす!」
最後に聞こえてきた頼もしい声に、その場にいた全員が反応する。
声の主――ミユメは、いつもよりも一層頼もしく見えた。
「知っているのかミユメ!」
「はいっす。ミロクさんから今回の作戦に関する全権限を譲渡されているっす!」
「おぉ……!」
ミズヒはぱぁっと表情を明るくして安堵した様子であった。
「ではこれより、真の作戦についてお話しするっすよー」
「待ってください! トアちゃんがミロクちゃんに付いて行ってしまったのでいません!」
ヒカリが手を上げてそう告げる。
すると、ミズヒとクラムは僅かに反応を示した。
ミズヒはクラムと目を合わせると、頷いて口を開く。
「……トアがおそらくネームレスだ」
「え……ええええ!?」
「ミロクが彼女を連れて行ったという事はそういう事なのだろう。私にはよくわからない。が、こういう時のミロクの考えは昔から間違ったことがない」
それは、長年隣でミロクを見てきたミズヒだからこそ断言できることであった。
彼女の言葉に驚いたヒカリは、胸元で泣いているクラムを見る。
「……私も、フェクトムにネームレスがいる可能性が高いってミロクに言われた」
「そ、そんな事があったんですね……!」
驚き固まるヒカリを他所に、ミユメは拡張領域からホワイトボードを取り出すと勢いよく叩いた。
「では、今から作戦を説明するっすよー!」
「ま、待ってください! ネームレスと一緒って……ミロクちゃんは大丈夫なんですか!?」
ヒカリは大慌てでそう言った。
対してミズヒは、至極冷静に頷く。
「大丈夫だ。今のアイツには、頼もしい相棒がいる」
『トアちゃんがネームレス??????』
『私のデータにないぞ??????』
『シエルは一体どこへ??????』
0号の頭の中は、冷静ぶっている様子とは裏腹に大混乱中であった。