【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「以上が作戦。トウラク、理解できた?」
「うん、わかった」
予備の制服に着替えながら、トウラクは頷く。
それを見て、ルトラは首を傾げた。
「……落ち込んでる?」
「いや、別にそんなことは」
「嘘、自分のせいでソルシエラが洗脳されたと思っている」
トウラクはそれを肯定も否定もしなかった。
上手い事取り繕うとはしたのだが、言葉が出てこなかったのである。
「アレは完全に想定外。貴方の責任ではない」
「……わかってるよ。だから、次は必ず勝たないと」
彼は手のひらを見つめ、ただ何かを思案している様子である。
ルトラはすぐに察して首を横に振った。
「星斬りの強化形態はまだ完成していない。だから、アレは今回の作戦も使用禁止。ミユメが急ピッチで完成を急いでいるけれどそれでも間に合わない」
「僕は……あの時、星斬りのその先を見た気がした」
「星斬り・神は失敗だった」
「いいや、あの感覚を経験できたことは大きいよ」
トウラクは首を横に振る。
そして確信を持って言った。
「アレが僕の剣の果てにあるものなら今後絶対に必要になる」
トウラクの脳裏に浮かぶのは、あの時の高揚感と全能感。
そして、ある筈のない世界の光景だった。
オーロラのような極彩色の何かが無限に連なり、地上と空を鏡合わせにする世界。
星のような輝きが無数に存在するその場所を、トウラクは確かに見たのだ。
「……もしかすると、アレが鏡界なのかもしれない」
残されたのは、繋がった感覚だけ。
しかし、それは確かにトウラクの中に刻まれていた。
「トウラク、大丈夫?」
「大丈夫、少し作戦を脳内でシミュレーションしていただけだよ」
「そう、なら良い。トウラクは、たまに抱え込むことがあるから。ミハヤがいないと、トウラクはよく暴走する」
「ははは……否定は出来ないな……」
トウラクは困ったように笑みを浮かべる。
そして、医務室の窓から外を見た。
「でも、本当に僕は大丈夫。今回は、サポートに徹するよ」
「干渉同士の戦いに介入できるのは私達くらい。シエルはさっき話した通り忙しいし、エイナは添い寝してて使えない。だから、私達しかいない」
ルトラは冷たい目で、ベッドに寝そべるエイナを見た。
彼女は、自ら六波羅に抱きしめられるような姿勢でぐっすり眠っている。
時折「うへへ……」という品のない笑い声と涎をこぼしながら、夢の中だった。
「六波羅さん達は僕の分も頑張ってくれた。ここからは僕たちの番だ。あとはヒカリちゃんが彼女を説得できるかどうか……」
窓の向こうに見える庭園には、二人の少女の姿がある。
金の髪と蒼銀の髪は、陽光に照らされまるで太陽と星のようであった。
「出来なきゃ世界が終わるだけ」
ルトラは緊張の面持ちでこう続けた。
「事実上、二人の星詠みを同時に存在させる作戦。作戦の成功も失敗も、全てあの二人次第」
■
トウラクが目覚める少し前、ミユメは最後にホワイトボードに『勝とう!』とでかでかと書いて作戦説明を終えた。
「以上っす! これが、私とミロクさんで考えた作戦。名付けて『星詠み奪還作戦』っす!」
「そのままの作戦名だな」
「私は『にこにこ! シャイニングでスマイル作戦』が良かったっすけど、ミロクさんに反対されたっす……」
「そりゃ反対するでしょ……」
呆れた様子のクラムは、机に頬杖を突く。
幼馴染の胸の中で存分によしよしされた彼女は、メンタルを充分に回復させていた。
「で、作戦は理解できたけど――本当に可能なの?」
「理論上は、出来るっす」
ミユメはそう言って、ヒカリと0号を見た。
「ヒカリちゃんは0号と契約が可能である、私はそう結論を出したっす。その体にはソルシエラの魔力が流れている。それを起点として、一時的にですが星詠みになれるっすよ」
「……ヒカリ、あんたはどう思う」
「私が星詠み……!」
ヒカリは驚き、自分のぶら下げたペンダントを握りしめた。
そして、ぎゅっと目を瞑る。
「私、いつかあの人に恩返しがしたいと思ってました。二度と会えないと思ってたクラムに会えた、美味しいご飯もまた食べられるようになった。だから」
目を開く。
黄金のように輝く目は、強い覚悟を示していた。
「私、戦います。今度は私がソルシエラを助ける番です!」
「……ヒカリ、もしかしたら死ぬかもしれないよ?」
「死にません! 折角貰った二度目の命、そう簡単には手放しませんよ!」
ヒカリはそう言ってクラムを抱きしめた。
「心配してくれているんですよね、大丈夫です。私、すっごく頑張るので!」
「ヒカリ……わかった、私はもう何も言わない」
そう言って、クラムは息を吐き出す。
その光景を見て、ミユメは頭を下げた。
「ありがとうっす、ヒカリちゃん。本当なら、私も前線に出たいっすけど……まだまだ作らなきゃいけないものがあるので」
「任せてください!」
ヒカリは自分の胸を叩いてそう言った。
が、すぐに何かを思い出したのか不安そうな顔になる。
「あっ……名前、どうしましょう。ポーズとか……」
「それは知らん。好きにしたら?」
生まれつき、緊張とは無縁だったのだろう。
ヒカリはすぐに、他愛もない話をクラムとし始めた。
「では、ミズヒさんとタタリさんは地絃天星埜御霊の相手をお願いするっす」
「ああ、露払いは任せて貰おう」
「からあげ」
強い意志と食欲から、それぞれは頷く。
そうして、作戦会議は終了――したかに思えた。
「誰が、君達に協力すると言った?」
全員の視線が一人に集中する。
0号は嘲笑うような目で全員を見ると、椅子に深く体を預けた。
「黙って聞いていれば、随分と好き勝手に品のない作戦を立てたものだ」
「……でも、これならソルシエラを救えるっす」
「救う? あの子はそれを望んでいないのに?」
0号は呆れた様子で首を横に振る。
大げさな動作は、まるでここにいる全員を馬鹿にしているかのようだった。
「第一、こんな小娘と私が契約するはずがないだろう? 馬鹿にするのも大概にしてくれ。私は星の祖であり、絶対的な処刑人だ。お前たちに付き合う義理はない」
「貴女は既に一人では戦えない筈っす。これは、合理的な作戦だと思うっすけど」
「合理性を求めるならば、あの銀の弾丸を使えば良いだろう? 何を始めるかと思えば、こんな程度の低い浅知恵だったとは……落胆した」
吐き捨てるような声色だった。
今の彼女はかつてのような力を行使することはできない。
それでも、この場の全員に警戒させるだけの威圧感を放つくらいなら造作もない。
「有象無象の人間に任せたのが失敗だった。私一人であの弾丸を打ち込む。それであの子の物語は終わりだ」
「どうして契約しているあんたが、そこまであの子を殺したがるんだよ!」
「それが合理的で美しく、そしてあの子の尊厳を守れるからだ。……これ以上の話は無駄だね。私はここで失礼するよ」
0号はそう言って立ち上がる。
そしてゆっくりとした足取りで、部屋を後にした。
それをじっと見つめていたミユメは顔を顰める。
「……やっぱり、0号さんはもう一人で戦えないっすよ。今視たっすけど、体の構築式が崩れ始めて、崩壊を始めているっす」
「でも、あんなこと言っている奴に協力なんてさせられるわけないじゃん」
クラムの言葉を聞いて、ヒカリが決心したように立ち上がる。
そして力強く頷いて言った。
「私、行ってきます」
「え、ちょっと待って今行ってもアイツを説得なんて」
「ソルシエラを思っている気持ちは一緒なんです! だから、きっと力を合わせることはできます! 待っててください!」
それだけ言うと、返事を待たずにヒカリは部屋を後にした。
部屋に残された少女たちは顔を見合わせる。
「今はあの真正面馬鹿が合理性馬鹿を説得してくれることを願うしかないか……」
「とりあえず、私たちは準備を進めるっすか」
ミユメの言葉に、それぞれ動き始める。
「そうだな、タタリ少し付き合え。ウォーミングアップがしたい」
「棒棒鶏」
ミズヒとタタリはその場から焔となって姿を消した。
「クラムちゃん、私の準備に少し付き合って欲しいっす」
「わかった……あ、その前に」
クラムは人吞み蛙を一体召喚すると、廊下を指さした。
「ヒカリを追って。一応、監視したいから」
人吞み蛙は、主に一度大きく跳ねて見せると廊下へと向かっていった。
『ちょ、いったん皆から離れて整理しよう! 脳みそが、俺の脳みそが……ネームレス??? ヒカリちゃん???? 一体何がどうなってる?????』
『契約するのか……? 君以外の奴と……?』
『既に天上の意思幼き命支部はヒカリを幼き命と認定している。ぜひ、契約して欲しい。嫌なら、私がしよう』