【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第338話 光翼、夜闇を裂いて

 戦いは、一秒ごとに苛烈さを増している。

 地絃天星埜御霊というSランクの怪物に対して、二人のSランク探索者は互角に渡り合っていた。

 

「ミユメの言っていた通りだ。随分とこいつは戦いやすい」

 

 辺り一帯に湧き上がるように現れた焔は、空を駆ける地絃天星埜御霊へと向けて放たれた。

 放たれた焔の合間を縫うように、地絃天星埜御霊は飛翔する。

 が、突然その足に黒い蛇のような何かが巻きついた。

 

「……えへへチキン南蛮ー!」

 

 タタリは迷うことなく捕食を開始した。

 その足に大量の影がしがみつき、瞬く間に地絃天星埜御霊を齧り取っていく。

 

 対し地絃天星埜御霊は、その足を敢えて切り離し更に高く飛翔した。

 

「もぐもぐ……おいしー!」

「タタリ、戦いに集中しろ」

「ミズヒちゃん、この余ったお肉をあぶってくれませんか?」

「はぁ……」

 

 ミズヒはため息をつき指を鳴らす。

 すると、タタリの持っていた地絃天星埜御霊の片足がこんがりと焼け、辺りに良い匂いを漂わせ始めた。

 

 タタリは感動に目を潤ませながら、勢いよく頭を下げる。

 

「ありがとうございますー! ばっちりですー!」

「そうか」

「あ、食べますー?」

「いらん。それよりも、さっさとケリをつけるぞ。出来ることならヒカリ達に合流したい」

「ですねー」

 

 タタリは影の中に地絃天星埜御霊の足を放り込む。

 そして高く飛翔している地絃天星埜御霊を見て、困ったように眉を顰めた。

 

「でもでもー私って空を飛べないんですよー。ミズヒちゃんは瞬間移動できますけどー……うーん、あ。ミズヒちゃん、先に行っててくださいー」

「そうか。わかった」

 

 ミズヒはその場に火の粉を散らし、姿を消す。

 既に彼女は地絃天星埜御霊の頭上をとり、銃口を向けていた。

 

「さてさて、では私もー」

 

 タタリは何かを思い出したように影へと手を入れる。

 そして目当ての物を掴むと一気に引きずり出した。

 

「そぉい!」

「な、なんだ!?」

 

 影から頭を引きずり出されたカイは、タタリを見て、真っ赤に腫らした目を見開く。

 

「生徒会長生きていたのかぁ! もう駄目だと思ったんだぞ! 僕、もうどうしようかと思って……うぅっ……」

「あーはいはい、いい子ですねー」

「もうあんなこと言うなよ馬鹿ぁ!」

「……ふふ、今のカイは美味しそうですねー」

 

 捕食者の目でそう告げるタタリを見て、カイはゆっくりと自ら影の中に戻ろうとする。

 しかし、がっちりと頭を掴まれ、更に無理やり上空へと視線を向けさせられた。

 

「首がっ!?」

「カイ、アレが見えますかー? おたくの鳥だと思うんですけどー?」

「っ、まさかあれは地絃天星埜御霊!?」

「はいー、でどうにかできますー? 那滝家の鶏肉ですよね、あれ」

「食べ物じゃねえ! ……あれと戦っているのか?」

「はいー。助けてもらえませんかー?」

 

 タタリの言葉にカイは少し考えて頷く。

 

「わかった。天星織主を使え。それと、僕が奴を支配できるか試してみる」

「ありがとうございますー、では行きましょー!」

「ん? お、おいなんで僕がお姫様抱っこをされている? 普通は逆だろ!」

「こうして毎秒触れて、貴方の洗脳を捕食しないとー。これは必要な事ですよー」

「そ、そうなのか? なら……まあ、いいか」

 

 タタリの傍にいる時点で条件はクリアしているのだが、そんなことに気が付く様子もなくカイはその体勢を受け入れる。

 そして、自身の異能で作り上げた土人形を生贄に天星織主を呼び出した。

 

「よーし、下剋上だ天星織主!」

 

 カイが呼び出した天星織主を見て涎を流しながら、タタリはカイを抱えてその背に乗る。

 天星織主は二人を乗せると、一気に空へと飛び立った。

 

「お待たせしましたー」

「僕が手を貸してやる!」

 

 ミズヒと地絃天星埜御霊に割り込むように、天星織主は飛び込む。

 そして、翼を広げて空へと吠えた。

 

 瞬間、空を覆っていた黄金の魔法陣が僅かだが瓦解を始める。

 地絃天星埜御霊の共鳴現象へと、天星織主が介入を開始したのだ。

 

「助力感謝する」

「油淋鶏」

「おい、僕に涎がかかってる! ちょ、話を聞け!」

 

 地絃天星埜御霊は、天星織主に乗っているカイを見る。

 一見して少女のようだが、青年である彼は、長時間影の中で触手にもみくちゃにされていたことにより、服ははだけ、髪も乱れていた。

 

 更に涎に濡れている彼を見て、感覚で判断したのだろうか。

 それが那滝家の血筋であると理解した地絃天星埜御霊は、今まで以上に昂った様子で翼を広げ空へと吠えた。

 

「っ、これは!?」

「きっと僕の天星織主に拒否反応を起こしているんだ!」

「親子丼……?」

「来るぞ!」

 

 襲い掛かってくる地絃天星埜御霊へと、三人は再び動き出した。

 

 

 

 

 

 

 杭の根元でも、同様に戦いが繰り広げられている。

 空よりもその戦いは激しさを増していた。

 

「ルトラ、二振り」

 

 世界が二度切断される。

 一度目、ソルシエラの視界が一瞬暗闇に包まれた。

 光が切断され、視覚が無力化されたのである。

 

 そして二度目、それは距離の切断。

 干渉により視界を取り戻したソルシエラの目の前には既にトウラクとヒカリはいなかった。

 

「0号!」

『ああ』

 

 背後から聞こえた声にソルシエラは咄嗟に振り返る。

 そこには、砲撃陣を展開したヒカリがいた。

 

 魔法陣が輝き砲撃が放たれる。

 が、目視で確認できるだけの時間があれば、ソルシエラには防御など造作もない。

 

「拙いわね、本当に星詠み?」

「そうだよ、今の彼女は星詠みだ」

 

 ソルシエラの頭上、太刀を構えたトウラクが落下と共に抜刀する。

 

「ルトラ、三振り」

 

 途端にソルシエラの足元が切り裂かれ、地面が砕け散る。

 バランスをわずかに崩したソルシエラへと、二振り分の斬撃が襲い掛かってきた。

 

 障壁が斬撃二つを受け止め、干渉により無力化していく。

 が、そのプロセスに割り込むようにヒカリの砲撃は放たれていた。

 

 ソルシエラの防御を読み、必要最低限の斬撃で押し込んだ上での砲撃は、その場で激しい爆発を起こす。

 

 黒煙の中に消えたソルシエラを見て、二人は警戒を解くことなく武器を構え直した。

 

「有効打ではないね。間違いなく、耐えられた」

「むぅ、確かに一撃いれたのですが」

「――あれが攻撃のつもりかしら」

 

 黒煙が分解され、魔力の粒子へと変わっていく。

 それはソルシエラの持つ大鎌へと全てが吸収されていった。

 

 ソルシエラは変わらず健在。

 その服の端すら汚すことなく、その場に立っている。

 

「退屈ね、貴方達」

「……前に僕と戦った時、余程手加減をしていたんだろうか」

『当たり前だ。あの子は優しいからねぇ。悪人以外にその力を全力で振るうことはない。まあ、今のあの子には私たちがその悪人に映っているのだろうが』

 

 大鎌から発せられた言葉は、場の緊張感を高めるには十分だった。

 

「本当に、浄化砲撃を当てることが出来るのか疑わしくなってきたよ」

「大丈夫です! 今の私は言わば新フォームお披露目状態ですから! 負けませんよぉ!」

『君だけ理論が謎なんだが』

「うおおおお!」

 

 ヒカリは叫び駆け出す。

 その身体能力は今や探索者を軽く凌駕している。

 

 一歩目で音を置き去りにする速度に達したヒカリは、大鎌を力任せにソルシエラへと振るった。

 しかしソルシエラはヒカリを見ようともしない。

 

「その程度? 弱いわね」

 

 干渉の障壁により、大鎌は停止する。

 トップスピードからの斬撃が受け止められ、ヒカリが呆けたその隙に辺りには砲撃陣と銀の鎖が現れた。

 

「ルトラ、一振り」

 

 ヒカリの姿がその場から消え、砲撃と銀の鎖が空振りに終わる。

 しかしソルシエラはそれを予想していたのだろう。

 顔色一つ変えずに、ずっとトウラクを見たままだった。

 

「この戦い、貴方が基盤ね」

「さて、どうだろうね。試してみるかい?」

 

 両者、動き出したのは同時だった。

 姿が消え、次の瞬間には別の場所で刃と砲撃が交差する。

 かと思えば、既にその場に二人の姿はなかった。

 

「良くついて来れるわね。評価してあげる」

「それはどうも……っ、ルトラ一振り!」

 

 杭の周りで火花と爆発が次々と巻き起こる。

 常に転移をしての高速戦闘は、この二人だからこそ可能な異次元の戦闘であった。

 

「でも、その子に命令しなきゃいけない時点で私には届かない」

 

 ルトラへの命令を介するトウラクと魔法一つですぐにその場から消えるソルシエラではわずかに差が生まれる。

 その差を絶対の壁とするだけの実力をソルシエラは持ち合わせていた。

 

 現に、トウラクはなんとか食らいついているが有効打は与えていない。

 

「っ、ルトラ二振り!」

 

 斬撃がソルシエラへと襲い掛かる。

 しかし、彼女はそれを片手間の間に干渉で無効化し、逆にトウラクへと銀の鎖を放った。

 

「こんな物っ……」

 

 切ろうとするトウラクの周囲には、砲撃陣。

 すぐさま斬撃指定を自身の座標に変更し、トウラクはその場から脱出を図る。

 

 が、移動した先には既にソルシエラがいた。

 

「なっ」

「つまらない」

 

 大鎌に魔力が収束し、トウラクへと放たれる。

 移動後の一秒にも満たない硬直時間を狙って放たれた斬撃をトウラクは見ていることしか出来ない。

 

 その手は太刀に掛かっているが、間に合わないと長年の経験が訴えていた。

 

「うおぉぉぉぉぉ根性おぉぉぉぉぉ!」 

 

 叫びと共にトウラクの前に光速でヒカリが割り込む。

 そして真正面から、大鎌の柄で刃を受け止めた。

 

「ギリギリセーフですっ!」

「……まだいたのね、紛い物」

「違います! 今の私はソルシエラです!」

 

 その言葉にソルシエラは顔を顰めて更に魔力を込める。

 拮抗していた力のバランスが一気に傾き、ヒカリは徐々に押し込められていった。

 

「なっ……負けませんよぉ!」

「不愉快……」

 

 吐き捨てるような言葉と共に、地面に砲撃陣が浮かびあがる。

 そして瞬く間に辺りを巻き込んで激しい爆発を引き起こした。

 

 その場所から少し離れて、トウラクとヒカリは姿を現す。

 二人とも、体には小さいが確かに傷がついていた。

 

「大丈夫?」

「はい、ありがとうございます!」

「気を抜かないで、ここは戦場よ」

 

 礼を言って武器を構えようとしたヒカリの目の前には既にソルシエラがいた。

 転移ではない。星詠みの身体能力を駆使してただ移動をしただけである。

 

「貴女は星詠みではないわ。私が認めない」

 

 わざとらしく、まるで格の違いを示す様にソルシエラは大鎌と砲撃によりヒカリへの攻撃を開始した。

 

「0号!」

『障壁は展開した』

 

 多くの攻撃は障壁により停止、あるいは霧散する。

 しかし、魔力を収束させ干渉の権能が込められた一撃は回避をしなければいけなかった。

 

「くっ」

 

 ヒカリは馴れない大鎌を必死に振り回し、攻撃を受け流していく。

 しかし、ソルシエラの攻撃は更に激しさを増していった。

 

「マズイ、ルトラ一振「貴方の相手は後で」――っ!?」

 

 ヒカリを転移させようとしたトウラクへと銀の鎖が放たれる。

 彼は咄嗟に切断を防御に使いその場を凌ぐが、次々と襲い掛かる砲撃がヒカリへのサポートを許さなかった。

 

「トウラク君! 大丈夫ですか!?」

「自分の心配をしたらどうかしら」

「ぐぁっ!」

『ヒカリ!』

 

 ついに凶刃がヒカリを捉えた。

 魔力を込めた一撃が肩を切り裂き、ヒカリの動きを止める。

 その隙をついて、追撃と言わんばかりにソルシエラはヒカリの腹部へと蹴撃を放った。

 

 地面を転がり、ヒカリはその場に倒れ伏す。

 武器こそ握ったままだが、肩から流れ出した血が止まらない。

 

「くぁっ……い、痛くない……! あと、少しなんです……!」

『無理をするな! 今、干渉の権能で治す!』

 

 ゆっくりとだが、ヒカリの肉体が再生を始める。

 痛みが和らぎ、ようやく立ち上がれるようになったヒカリが顔を上げると、そこには既にソルシエラがいた。

 

「最後は楽に殺してあげる」

 

 冷たい目で見下ろし、ソルシエラはそう告げた。

 大鎌に魔力を収束させ、まるで処刑人のようにヒカリの首に刃をあてがう。

 

 そしてゆっくりと振り上げ、ヒカリの首めがけて一気に振り下ろす。

 

「っ!」

 

 ヒカリは咄嗟に手で防御をしようとするが、それよりも早くその刃は不自然に停止した。

 ヒカリの前で止まった刃は、震えている。

 

「……は、やく、私を……ころし、て」

「っ!? ソルシエラ、意識があるんですか!」

 

 苦悶の表情を浮かべるソルシエラは、何かを抑え込むように息を吐く。

 そして、目に涙を溜めて絞り出すように言った。

 

「誰も傷つけたく、ないの……だから……」

 

 手の震えが止まり、再び大鎌が振り上げられる。

 既に体は冷酷な処刑人へと戻っているようだった。

 

「おね、がい」

 

 消え入りそうな声を最後に、ソルシエラの表情が冷たいものに切り替わる。

 流れ落ちる涙すら自分の物ではないと言わんばかりに冷酷な視線で、ソルシエラは二度目の攻撃を放った。

 

 その時、ヒカリの懐から一匹の人吞み蛙が飛び出してきた。

 人吞み蛙は自ら刃に当たり、ソルシエラの視界を覆うように激しい爆発を引き起こす。

 

 瞬間、ヒカリは叫んだ。

 

「0号!」

『ああ』

 

 輝く羽が舞い、その場からヒカリの姿が消える。

 彼女が次に現れたのは、トウラクの傍だった。

 

「トウラク君、お待たせしました! ようやく、体が馴染みました!」

 

 すぐさま大鎌を振るうと、辺りの砲撃陣が崩壊する。

 ヒカリは大鎌を地面に突き立て、ニッと笑いソルシエラを指さした。

 

「貴女は殺しません! 助け出します! 貴女の帰りを待っている人がたくさんいるんです! 帰る場所があるんですよ!」

「そんなものはないわ」

「あります。私が証明します」

 

 拡張領域からヒカリは一つの弾丸型カートリッジを取り出す。

 そして、大鎌の持ち手にあるスロットへと迷いなく装填した。

 

「何かしら、それは」

「今までの私はいわば星詠みの蛹でした。すぐに星詠みになると、肉体が追い付かない。だから、こうしてその時を待っていたんです」

 

 マフラーを靡かせ、ヒカリは大鎌のトリガーを引いた。

 

「星詠みは――ここに覚醒する!」

 

 足元に魔法陣が浮かび上がり、ヒカリの体を包み込む。

 フェクトムの制服が分解され、新たな衣装へと再構築されていった。

 

 ソルシエラとよく似たゴシック調の衣装。

 だが、ヒカリの活発性を主張するような黒のショートパンツや、より長くなったマフラーなど、細部は異なっていた。

 

「その姿は……知らない。私の記憶には存在しない……!」

 

 それは、ただの星詠みに非ず。

 この戦いの為だけに作られた、本来は存在しないソルシエラの新形態。

 

 名を、ソルシエラ・ブライト群星形態。

 

 これこそが、ミユメがこの作戦のために用意した星詠みの真の姿であった。

 

「0号、制限時間は」

『30秒』

「充分です!」

 

 ヒカリの背から、四対の紫色の光翼が展開される。

 それは周囲の魔力を収束し、更に輝きを増して爆発的な加速力を生んだ。

 

「っ!?」

「はははっ、ようやく驚いてくれましたねソルシエラ!」

 

 一気に距離を詰め、ソルシエラへと大鎌を振るう。

 驚いた様子のソルシエラだったが、その動きは冷静に防御を選択していた。

 

 大鎌が今までと同じように防がれる。

 しかし、彼女の持つ光翼は違った。

 

「0号!」

『抽出完了:疑似再現――星穿ち』

 

 光翼が不自然な軌道を描き、ソルシエラの障壁の合間を縫って進行する。

 そしてソルシエラの手足へと巻き付いた。

 

「そぉい!」

 

 光翼に掴まれたソルシエラは上空へと投げ出される。

 

「っ、小手先の技程度……!」

 

 ソルシエラは転移の魔法陣を展開する。

 が、それはどこかから響いた切断音と共に両断された。

 

 そして、自分よりはるか上空には煌々と輝く一つの星。

 

「今、私は生きています! ご飯を食べて、朝起きて、友達とお話して! 全て、あの日貴女が救ってくれたからです! 貴女が救ってくれたから、私はここにいる!」

 

 ヒカリの中に湧き上がる感情が、エネルギーへと変化していく。

 魔力ではなく、感情をエネルギーへと変え収束するそのプロセスは、偶然にも本来の収束砲撃とよく似ていた。

 

「その意味をッ感謝をッ貴女に伝えます!」

 

 ヒカリの光翼が、全て大鎌へと接続される。

 爆発的なエネルギーを吸収した大鎌は、蒸気を噴き上げ警告音を鳴らしながら、柄の先端の銃口を展開した。

 

「0号。必殺技、いきます!」

『浄化砲撃、充填完了。照準ロック完了。……後はトリガーを引くだけだ』

 

 少しの間をおいて0号は、こう続けた。

 

『救ってくれ、あの子を』

「勿論です!」

 

 力強い頷きと共に、トリガーが引かれる。

 瞬間、赤と紫が入り混じった閃光が放たれた。

 

「……っ」

 

 ソルシエラは空を見上げ、転移を始めようとする。

 しかし、その度に遠くから聞こえる音が転移魔方陣を切断していった。

 

「星詠みは私よ……!」

 

 意を決したように、ソルシエラは空へと大鎌を構える。

 そして、辺りの魔力を集め、収束砲撃を放った。

 

 空中で二つの砲撃が激突し、辺りを大きく揺らす。

 

「こんな所で負けるわけにはいかない。私にはここを守る使命があるの!」

「そんなものおぉぉぉぉぉ!」

 

 拮抗は、ほんの僅かな時間だけであった。

 すぐにヒカリの砲撃は銀の砲撃を飲み込み、ソルシエラの待つ地上へと堕ちていく。

 

「……あぁ」

 

 既に防御も回避も意味をなさない。

 そう理解した途端に、その輝きがソルシエラには美しく見えた。 

 

 大鎌を手から落とし、ソルシエラは子供のようにその輝きへと手を伸ばす。

 間もなく、光がソルシエラを飲み込んだ。

 滝のような轟音を辺りに響かせ、光が満ちていく。

 

 砲撃である筈なのに、それは妙な心地よさをソルシエラへと与えていた。

 目を閉じ、満たされる感覚と共にソルシエラの表情が和らいでいく。

 

 やがて、ソルシエラは静かにこう言った。

 

「ありが、と……う」

 

 砲撃が終わりを迎えると、辺りはしんと静まり返っていた。

 遠くの空で聞こえていたミズヒ達の戦いの音もいつの間にか止んでいる。

 

「……」

 

 手を伸ばしたまま、ソルシエラは膝から崩れ落ちる。

 そして地面に倒れようとした所を、舞い降りたヒカリがその手を掴み取った。

 

「ソルシエラっ!」

 

 抱き寄せ、ソルシエラの存在を確かめるように強くハグをする。

 辺りには光翼から散った羽が静かに舞っていた。

 

「……作戦は成功、だね」

 

 すぐにトウラクはその場に駆け寄り、緊張した面持ちで口を開いた。

 

 ヒカリはゆっくりと振り返る。

 そして、パッと花が咲いたような笑みでピースサインを掲げた。

 

 

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