【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ミロクの体は既に限界に近かった。
度重なるシエルの権能の使用と、空間の維持。
星詠みの封印に用いるため、短期使用が前提とされているこの力を長時間使えるのは偏にアンプルがあったからだろう。
皮肉なことに、プロフェッサーにより与えられた薬がこの場で大いに役立っていた。
「……まだ、やりますか?」
「本当に怖いね、ミロクちゃんは。……あの時も、それだけ強かったら良かったのに」
「トアちゃん……?」
「なんでもないよ!」
砲撃が放たれる。
しかし、それが通らないことは両者理解していた。
『前提規則。蒼星ミロクに砲撃を放ってはならない』
「規則違反です」
砲撃が反転し、ネームレスへと向かって行く。
ネームレスは剣を握ると、真正面から切り裂いた。
「おかしいなぁ、本当に制限時間とか、体力の限界とかないの?」
「ふふふ、私はもっとトアちゃんと遊んでもいいんですよ?」
「いやいや……こっちはそれじゃあ困るんだよねぇ」
ミロクの笑みに、ネームレスは完全に騙されていた。
時折、調子を測るように攻撃を仕掛けるがそれ以上はしてこない。
完全な膠着状態。しかし、それはミロクの無茶によって成り立っている。
『ミロク、これ以上は……。すぐにミユメに救難信号を飛ばし、バトンタッチしましょう。キリカや九重もいます故』
『……もう少しだけ、頑張れます』
『ミロク!』
『ナナちゃん、お願いします。これが今の私に出来ることなんです』
笑顔の裏には、地獄と表現するのも生ぬるい苦痛があった。
飛びそうになる意識を、シエルのサポートで無理矢理維持しているに過ぎない。
「さ、まだまだ行きますよ」
それでも、ミロクは余裕そうにほほ笑む。
そして机に頬杖をついた。
ミロクが立つことすらままならない状態であることに、ネームレスは気づいていない。
「っ、本当に強い。嫌になるほどに……!」
現状に歯噛みをするネームレスを、ミロクは見つめる。
と、その時ミロクのダイブギアが二度アラームを鳴らした。
「……そうですか」
ミロクはその音に、天を仰ぐ。
そして、ゆっくりと噛み締めるように息を吐き出した。
その瞬間、辺りの景色が切り替わり、元の古びた講堂へと戻り始める。
ミロクは何とか立ち上がろうとしたが、支えにしていた机が消えたことによりその場に座り込んでしまった。
「どうしたのミロクちゃん。降参かな?」
「いえ、私たちが勝利したようなので」
「何言ってるのさ」
嫌な予感を振り払い、ネームレスは問いかける。
対して、ミロクは今までとは違う本心からの安堵の笑みを浮かべた。
「ソルシエラを取り戻しました。当然、杭の破壊も完了しています」
「………………は?」
ネームレスの思考が、一時的に停止する。
それは絶対にありえない事であった。
「冗談でしょ、無理に決まってんじゃん!」
叫ぶネームレスに、ミロクは静かに「事実です」と告げる。
「ソルシエラに勝ったの!? どうやって!」
「真正面から、戦いを挑みました」
「嘘つき! あの子に勝つなんて無理だ!」
信じられないのか、ネームレスは首を大きく横に振る。
まるで駄々を捏ねる子供のように叫ぶネームレスへと、ミロクは諭すように声を掛けた。
「もう、いいんじゃないですか?」
「何がだよ……!」
「正体もバレて、ソルシエラも奪われた。次は、トアちゃんの番ですよ」
ミロクは手を差し出す。
その意味を理解したネームレスは、目を見開き絞り出すように言った。
「お前らの仲間になれと……!?」
「少し違いますね。元から仲間でしたから、ここは……うん、きっとこの言葉の方がしっくりきますね。――帰ってきてください、トアちゃん」
優しく、いつもの幼馴染に接するように。
ミロクは最大限の善意をもってそう告げた。
しかし、その思いは届かない。
「……私の帰りたかった場所は、もうないんだよ……!」
憎々し気に吐き捨てるその目は、憎悪に満ちていた。
「トアちゃん……!?」
「お前がその名で呼ぶな! 私はトアじゃない! あんな使えない臆病者じゃないんだ! ネームレスって呼べよ!」
「……なにが、貴女をそうさせるんですか」
「言ってもわからないよ。わかってほしくない」
明確な拒絶であった。
今までの飄々とした彼女とは違う、どこか弱弱しく痛々しい姿にミロクは立ち上がろうとする。
今すぐに近づいて、抱きしめてあげたいと思ったからだ。
けれど、そんなミロクの思いを知っているかのようにネームレスは一歩下がる。
そして、転移魔方陣を展開した。
「もういい、帰る。後は好きにしたら? 私もそうするし」
「待ってください!」
「ミロクちゃん」
ネームレスは転移魔方陣を潜り抜ける直前、振り返って力ない笑顔を浮かべた。
「元気でね」
「……っ!? 待ってくださ――」
その場からネームレスは姿を消す。
辺りには沈黙が広がった。
『……反応はありません。本当に撤退したようです故』
「そう、ですか」
ミロクの手の中にあった銃が輝き、少女の姿へと戻っていく。
そして、ミロクを支えるように傍に寄り添った。
「大丈夫ですか、ミロク」
「……ナナちゃん、作戦は成功したんですよね?」
「はい、ソルシエラは救われました。先ほどの二回のアラームはその知らせで間違いないです故」
「なら、きっと私はここで喜ぶべきなんです」
ミロクはそう言ってシエルを抱きしめた。
震える彼女にシエルは困惑する。
言葉とは裏腹に、抱き着いてくる瞬間の彼女が泣いているように見えたからだ。
「私には人間の細かな感情というものはわかりません。けれど、こういう時くらいは我慢せずに泣いても良いと思います。……今は、私しか傍にいません故」
まだ人間の感情の機微には疎いシエルだが、ミロクの悲しみだけは理解できた。
自分に出来る精一杯だと、シエルは抱きしめ返す。
「……ケイ君が助かって良かった! でもっ、でもトアちゃんが……! ずっと私の答えが間違っていたら良かったと思っていたのに……!」
「……それでも、戦う事を選んだ。私はその選択をした貴女を誇りに思います」
シエルの言葉にミロクは答えない。
静かな講堂に響くすすり泣く声が、一つの戦いの終わりを告げていた。
■
今世紀最大のヒカゼロが君を待っている!
劇場でヒカリちゃん達の戦いを応援しよう!
『なんと気高く素晴らしい幼き命だろうか……! それに、初めてとは思えないあの戦い方。間違いなく天賦の才を持っているだろう』
『衣装間に合って良かったねぇ^^』
俺が肩を切った時はどうしようかと思ったよ。
星詠みの杖君、ちゃんと治したんだよね?
『傷跡一つ残しちゃいないさ。君にだったらいくらでも残したいんだけどね^^』
怖い事言ってる……。
とにかく、ソルシエラは救われた。
杭も破壊され、地絃天星埜御霊も無事倒された。
めでたしめでたし……とはいかないんですねぇ^^
『どうしてだろうねぇ^^』
何故なら、ソルシエラはこの戦いを理由に記憶をなくすからでーす!
脳に負荷がかかったせいで、記憶領域が破壊されましたー!
『わぁい^^』
『おぉ……普通に戻れば良いと思うのだが……』
やっとの思いで助けることが出来たソルシエラが、記憶をなくしていた。
きっと、素晴らしいコンテンツになるぞぉ……!
『脳を焼く! 私たちの戦いは、まだまだこれからだっ!』
最後には、素敵な奇跡が起きて記憶は戻るから安心してね♥
『アフターケアも完璧^^』
という訳で、ソルシエラを目覚めさせようね。
『ん? 君はまだここにいるのかい?』
まだいるよ。
俺が記憶を失ったら誰がこのコンテンツで涎ジュルジュルするんだよ。
『私^^』
『私はちょっと……』
ずるいぞ、独り占めだなんて!
って訳で、これからあの体に俺が丹精込めて刻み込んだ『記憶を失って弱弱しくなったソルシエラ』を自律稼働させます^^
何度も同じ練習を繰り返したスポーツ選手は、試合で無意識にその動作を繰り出すことが出来る。
理屈はそれと同じだ。
『同じじゃないよ。やってることが人間じゃない……』
ってわけで、記憶を失ったソルシエラを0号の体の中で楽しむとしようかね。
頃合いを見て、戻るとするよ。
『記憶じゃなくて失ってるのは人間性では?』
ははは、ナイスジョーク。
『ジョークじゃないんだけどねぇ……』
さて、ではでは楽しんでいくと――ん?
『どうしたんだい、相棒』
『……む、空間の乱れを感じるぞ』
な、なんか引っ張られる感じがする。
頭のてっぺんが、ちょんってされてる!
『相棒?』
『どうしたのだマイロード!』
……あっ、これきっと何かに吸い込まれているんだ!
エマージェンシー! エマージェンシー!
急に何かが、俺の事を――。
『相棒!? ……おい、どうしたんだ相棒!』
『マイロードの幼き命の波動が……消えた……!?』