【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第342話 喪失の少女

 ソルシエラの奪還と杭の破壊の吉報に、フェクトムの誰もが安堵していた。

 学園都市も徐々に落ち着きを取り戻し、事態の収束は時間の問題のようである。

 

「ミロク、横になっていなくて大丈夫なのですか?」

「大丈夫ですよ、ナナちゃん」

 

 フェクトムのゲートの前で、ミロク達は待っていた。

 その目には希望の色が浮かんでいる。

 

「そうやって無理して今度はあんたが倒れたら意味ないでしょ。ほら、これに座って」

 

 ミロクの背後に、妙に装飾の凝った洋風の椅子が設置される。

 拡張領域からクラムが椅子を引っ張り出した光景を見て、首を傾げながらミロクは礼を言った。

 

「ありがとうございます、クラム。……で、なんですかこの椅子は」

「別に? 拡張領域が余ってたから入れただけ。安物だよ」

「――検索完了。この椅子は騎双学園で購入できる限定品です故。聖遺物を贅沢に使用し「ちょ、やめろ! ギフトカードあげるから!」……12000円分で手を打ちます故」

 

 クラムの華麗な交渉術により、シエルは口をわざとらしく手で押さえる。

 その光景を、ミロクはやや引き気味に見ていた。

 

 彼女達は知らない。クラムの持っていたその椅子は、とある少女ヘのプレゼントとして買ったが、渡せずに数か月経ったものであるという事を。

 

「この椅子に座って待っていたらおかしくないですかね?」

「生徒会長なんだから、一番偉いし良いんじゃない? ……実際、ソルシエラを救えたのもあんたのおかげなんだし」

「私は私に出来ることをしただけですよ。皆さんの協力があったからこそ、成し遂げたのです」

「私は協力してないけどねー! 誰かさんが教えてくれたら、もっと協力できたのになー!」

「クラムは表情に出やすいので謀には向きません。貴女を計画の協力者にすると、成功率が65%にまで低下します故」

「えっ」

 

 シエルに面と向かってそう告げられ、クラムは言い表せない傷を負った。

 

「ちなみにヒカリに言うパターンは問題ありません故」

「えぇ……」

 

 追撃で更に心に傷を負い、クラムは人吞み蛙で椅子を作りゆっくりと腰を下ろす。

 そして、項垂れた。

 

「どうしたのですかクラム。貴女も無理をしていたのですか?」

「ナナちゃん、もう少し人の心をお勉強しましょうね……」

「?」

 

 シエルは首を傾げる。

 その時、フェクトムのゲートが反応を示した。

 

「あ、来ましたよ!」

「ケイ! ヒカリ!」

 

 クラムは顔を上げ、その表情を一転させる。

 

 間もなく、ヒカリ達が姿を現した。

 全員、目立った傷もなく、ヒカリの抱きかかえた少女が何より作戦の成功を示している。

 

「ケイっ!」

 

 クラムは真っ先に駆け寄る。

 その後ろ、ミロクは彼女達の妙な表情に違和感を覚えていた。

 

 が、気持ちはクラムと変わらない。

 彼女はシエルに支えられながら立ち上がると、ゆっくりとヒカリ達の元へ向かって行く。

 

「お疲れ様です。こちらも、ネームレスの撃退に無事成功しました」

「……ああ」

 

 ミズヒは歯切れの悪い返事をする。

 ふと、嫌な予感がした。

 

「あ、あの……」

 

 ヒカリに抱きかかえられたケイが、声を上げる。

 恰好的には、ソルシエラであるがその様子はいつものミステリアスさの欠片もない。

 まるで捨てられた子猫のように不安げに、ミロクとクラムを見ていた。

 

「ケイ?」

「ケイ君?」

 

 妙に胸がざわつく。

 何故、ミズヒ達の表情が暗いのか。

 何故、ヒカリは暗い表情で一言も発さないのか。

 何故、ケイは自分達を未知の存在であるかのように見つめるのか。

 

 ミロクはその答えを導き出しそうになった思考を無理矢理止めて、ケイの言葉を待つ。

 きっと、無茶をして出て行った事を謝るのだ。

 あるいは、自分を助けてくれた事への感謝か。

 

 そう考え、言葉を待って。

 

「貴女達も、私を知っているんですか……?」

「……は?」

「あ、えっと、ごごめんなさいっ。その、私何もわかんなくて、それで……」

 

 ソルシエラはクラムの反応に慌てて言葉を紡ぐ。

 その間も、必死にクラムとミロクの顔色を伺い、恐る恐る言葉を選んでいるようだった。

 

「――那滝ケイは記憶を失った。そう言えば、嫌でも理解できるだろう」

 

 今まで黙っていた0号が、ついに真実を口にした。

 

「洗脳により必要以上に脳を酷使したんだ。記憶領域が酷く摩耗している。……何一つ、覚えていないよ」

「……嘘だ」

「嘘じゃない。クラム、私は嘘をつくなどという合理性の欠片もない行動はしない。これが事実だ。どうしようもない程にね」

 

 0号はそう言ってケイの頭を撫でようと手を伸ばす。

 しかし、頭に手が触れた瞬間ケイが肩を震わせたのに気が付いて、手を引いて肩をすくめた。

 

「いずれにせよ、今のこの子には休息が必要だ。当然、君達にもね」

 

 0号はそう言うと、先陣を切るように歩き出す。

 が、誰一人として追従しようとしない。

 出来るわけがなかった。

 

「嘘だよ……そんなの」

 

 クラムは震える声でその事実を否定する。

 そして、ケイの目を見て言った。

 

「私だよ、クラムだよ。覚えてない? ……あ、浄化ちゃんって言えばわかるかな? 今となっては恥ずかしい名前なんだけどね!」

「クラム」

「最初に会った時は髪も染めてたから、あっちの姿なら思い出すかな? そうだ、マーちゃんズも見る?」

「クラム!」

 

 ミロクが名を呼ぶ。

 しかし、彼女は何も答えない。

 ただ、怯えるケイを見て、必死に言葉を探して口を開閉させて。

 そして、どうしようもない現実を何度も何度も実感した。

 

「……っ」

 

 その場から走り去っていくクラムを、誰も止めることはできない。

 一人分の感情的な足音が去って、やがて沈黙が訪れた。

 

「――あの、ご、ごめん……なさい」

 

 やがて、ケイが恐る恐るそう謝罪した。

 不安げで、今にも泣きそうなその姿は、ケイやソルシエラとはかけ離れている。

 

「っ……大丈夫ですよ、貴女が悪いわけではないです」

 

 込み上げてくる胃液を無理矢理押しとどめ、眩暈を振り切ってミロクは笑う。

 そして、ケイの髪を撫でてそっと整えた。

 

「私は蒼星ミロク。貴女の先輩だったんです。一緒に遊園地に行ったこともあるんですよ?」

 

 少しでもケイを安心させるように、ミロクは優しい笑顔でそう語りかける。

 その手が小さく震えていることに気が付いたのはただ一人、ミズヒだけであった。

 

「0号の言う通り、とりあえず中で休憩しましょうか。色々と確認もしなければいけませんし」

「……ああ、わかった。ヒカリはミロクに報告を頼む。ケイは私がミユメの所に連れていく。トウラク、ルトラ、タタリ、お前らも来い」

 

 ミズヒの言葉に、面々は頷き行動を開始する。

 

「……わかりました」

「はーい」

「行こうルトラ」

 

 

 ヒカリからケイを受け取ったミズヒは、トウラク達と共に校舎へと向かっていった。

 残されたヒカリは、ミロクを見て今にも泣きそうな顔で口を開く。

 

「皆が力を貸してくれたのに、私はケイ君を助けられませんでした! ごめ――」

 

 頭を下げようとした瞬間、ミロクがヒカリを抱きしめる。

 そして「ありがとうございます」と落ち着いた声で言った。

 

「貴女のおかげで、ケイ君は生きています。これがどれだけの奇跡と想いの上に成り立っている事でしょうか。……ヒカリちゃん、私たちは最良ではなくともあの子の未来を勝ち取ったのです」

「ミロクちゃん……」

 

 抱きしめられて、改めて理解する。

 ミロクという少女の強さと、その内に秘めた危うさを。

 

 それは、ヒカリが顔を上げるには十分すぎる理由だった。

 

「……私、思い上がっていました!」

 

 ミロクから一歩離れ、見せるように自分の頬を両手でたたく。

 

「ヒカリちゃん!?」

 

 驚くミロクの前で、ヒカリは敢えて笑顔を浮かべた。

 

「星詠みになったら全てが上手くいって大団円になる。そんな根拠もないハッピーエンドに囚われていたようです! でも、現実はそうじゃない。だったら、これからも変わらず私に出来ることをするまでです!」

 

 それは、自身に対する宣言でもあった。

 どうしようもない現実を前にしても、足を止めず歩き続けることが出来る。

 それが、八束ヒカリという少女の持つ強さの根源であった。

 

「まずは、私たちの戦いの全てを報告します。それから、ミユメちゃんを中心に記憶領域に対するアプローチがないか探りましょう!」

「……ヒカリちゃん、ありがとうございます」

「礼を言うのは私です。貴女は、私よりも辛い筈なのに皆のお姉さんであろうとしている。なら、私も及ばずながら力を貸します」

 

 折れそうになる心を支え、奮起して少女たちは前を向く。

 まだ、星の輝きは消えてはいない。

 そう信じて顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『寂しいねぇ! 気が狂う程に寂しいねぇ! もう砂シエラで疑似相棒を作るしか……』

『おぉ……マイロード……。お腹を空かせて泣いてはいないだろうか……』

 

  一方、変態達はもう駄目そうであった。

 

 

 

 

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