【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第345話 2‐3 その愛は誰が為

 アイドルソルシエラには、警戒すべき存在がいた。

 そしてそれは、決してソルシエラ本人ではない。

 

「まさかあの一撃を防がれるとは思わなかった☆ やるね、抜け殻の癖に☆」

 

 ソルシエラが召喚した赫夜牟により、攻撃は防がれた。

 しかしそれは彼女にとって形勢が逆転したことを意味しない。

 端的に言うならば、ソルシエラは敵ではない。

 

「次はこっちの番だよ!」

 

 真に警戒するべきは、この鏡界に置いて実質的な支配者とも言える彼女であった。

 

 ガーデナー。

 理事会の最高機密として存在する幻のSランク探索者。

 この空間における彼女は、あの桜庭ラッカと同等以上の脅威となる。

 

「させないよ☆ 今日は私のライブなんだから☆!」

 

 アイドルソルシエラは、ガーデナーに攻撃の隙を与えまいと砲撃を放つ。

 が、それは横から飛んできたホイップクリームによって相殺された。

 

「っ☆!?」

「うちの大将の番だ。指くわえてみてろよ、三流アイドル」

「貴方もアイドルみたいな格好しているくせに☆!」

 

 叫ぶアイドルソルシエラは再び砲撃を放つ。

 今度は、六波羅による迎撃はなかった。

 

 銀色の砲撃は一切の障害もないままガーデナーへと飛んでいく。

 しかし、既に種子は芽を出していた。

 

「――また面倒事? 何度も呼ぶなよ、ウザイから」

 

 突如現れた龍により、砲撃がはじき返される。

 それは、校舎よりも一回り大きい三つ首の黒龍であった。

 見るだけで、人々を恐れさせ本能的に屈服してしまう威圧感を放つ龍の足元、パーカーのフードを深くかぶった少女が立っている。

 

「リュウコ、お願いね!」

「気安く名前で呼ぶなって言ってるだろ。……あんたらと馴れ合うつもりはないから」

 

 冷たい死の空気を纏うリュウコを見て、赫夜牟は警戒し、ソルシエラは驚き目を見開いた。

 

「……貴女、もしかして渡雷リュウコ?」

「だったら何? あんたとは初めましてだけど、どうでもいい。仲良しごっこをする気はないから話しかけるな」

 

 リュウコはそう言うと、アイドルソルシエラを見上げる。

 そして、顔を顰めた。

 

「私、ああいう『自分カワイイ!』って感じの奴大嫌い。殺していい? てか、殺す」

「できれば、加減をしてくれると……」

「は? 相変わらず甘い事言うんだね。使えない奴」

 

 リュウコは吐き捨てると、アイドルソルシエラを睨みつける。

 

「アジダハーカって知ってる? ……ああ、やっぱいいや。あんた頭悪そうだし、だからそんな馬鹿みたいな格好してるんでしょ」

「は☆?」

 

 アイドルソルシエラは笑顔のまま、しかし確実に怒っていた。

 

「アンチはお星さまにしてあげる☆」

「星になるのはお前だよ。バルティウス、ころ「ちょ、待って待って!」……なに?」

 

 ガーデナーに止められて、リュウコは不機嫌そうに振り返る。

 そして、何かを察したのか心底嫌そうな顔をした。

 

「……まさか、またアレをやるつもり?」

「そうそう! だって、この編成が一番火力出るんだから! そうだよね、レイちゃん!」

「そうだとも! 私様を忘れて貰っては困る!」

 

 頭上、バルティウスの頭から威勢の良い声が聞こえた。

 リュウコは見上げて、ついに現実を受け入れたのかため息をつく。

 

「レイかよ……」

「はっはっは、喜んでいるか! まあ無理もない!」

 

 レイはリュウコの前に降り立つ。

 そして、腰に手を当てて胸を張った。

 

「このSランクグラシエ生徒会長のお手製アイスをまた食べられるのだからな!」

 

 涼し気な青い水着に何故か半透明のエプロンを付けたレイに、ソルシエラはもはや言葉も出なかった。

 

「レイちゃん、あいつが敵だからいつものよろしく!」

「わかった! おい、六波羅!」

「あァ、準備は出来てる」

 

 頷いた六波羅は、リュウコへと駆け寄る。

 そして、レイと同時に何かを差し出した。

 

「六波羅式ガトーショコラだ」

「私様特製スペシャルデリシャスシャーベットだ」

「毎回これやるの勘弁してよ本当」

 

 リュウコは押し付けられる二つの皿を見て、毒づく。

 が、それぞれきちんと一口ずつ口に運んだ。

 

「……相変わらず、無駄に美味いのが腹立つな」

 

 その言葉に、六波羅とレイは不敵にほほ笑み顔も見ずに拳を突き合せる。

 そういう動作が、リュウコは嫌いだった。

 

「もう私は食べたし。バルティウス、残りはあげる」

 

 そう言ってリュウコが皿を放り投げる。

 するとバルティウスは、二つの首で皿を器用にキャッチして残った頭で丁寧にスイーツを舐めとった。

 

 空になった皿に、六波羅とレイが満足げに腕を組んで頷く。

 こういう所が、リュウコは本当に嫌いだった。

 

 が、その実力は本物であるという事も理解していた。

 二人のスイーツを口にした事で、リュウコの威圧感が増す。

 魔力は増幅され、彼女の限界を超えていた。

 

「……準備は出来た。ガーデナー、下がってて」

「オッケー!」

 

 バルティウスの後ろへとガーデナーは退避する。

 リュウコは首を鳴らし、右手を銃のように構えた。

 

 それに呼応するように、バルティウスは翼を広げ三つの首をアイドルソルシエラへと向ける。

 

「待たせたね、じゃあ死ねよ」

「一人だけあんな美味しそうなの食べてズルーい☆」

 

 アイドルソルシエラは既に収束を完了していた。

 脈動する巨大な魔法陣に繋がれた大鎌が、魔力により淡く発光を始めている。

 

「じゃあ、星にしてあげるよ☆」

 

 そう言ってアイドルソルシエラはトリガーを引いた。

 

「……あれ、なんで何も起きないの?」

 

 カチ、カチと乾いた音が響くだけで砲撃は放たれることはない。

 それどころか、気が付けば体が重く思うように動かなくなっていた。

 

「これは……☆!?」

「ふふ、私の事も見なきゃ駄目よ。自称アイドルさん」

 

 バルティウスの背後、とぐろを巻いた赫夜牟の目がアイドルソルシエラを捉えている。

 時間の停滞による拘束は、収束砲撃の発射プロセスを無限に等しい時間へと引き延ばしていた。

 

「今よ渡雷リュウコ」

「あーはいはい、どうも」

 

 リュウコは気だるげにアイドルソルシエラへと指先で照準を合わせる。

 

「くたばれ」

 

 その言葉と同時に、バルティウスの口が全て開き漆黒の焔が吐き出された。

 辺りの魔力を焼き尽くし、空間を歪ませ進む漆黒の焔にアイドルソルシエラは初めてその表情を崩す。

 

「や、やめて! 私はただ皆に愛されたかっただけなのに!」

「こんな事する奴が愛される訳ないだろ」

「嫌だ! 私が本物に――」

 

 それは彼女の最後の意地であった。

 小さく粗末な障壁が展開される。

 

 停滞の中で生み出された脆弱な障壁は、抵抗すら出来ずに焔に飲み込まれた。

 

「私は、一番星に……」

 

 その言葉を最後に、アイドルソルシエラは漆黒の焔に焼き尽くされる。

 四肢の末端から崩壊を始めた彼女は、悲し気に笑い目を閉じた。

 

 そして、全身が光となって霧散してしまった。

 

「はいお終い」

「殺すなって言ったのに!」

「そんな甘い事言うなよ、ガーデナー。生きるか死ぬかの世界で情けなんてかけるだけ無駄……ん?」

 

 何かに気がついたリュウコが空を見る。

 先ほどまでアイドルソルシエラがいた場所にピンク色の光の球体のようなものが浮かんでいた。

 

「なにあれ」

「とりあえず、貰っとくか。バルティウス、回収して」

 

 リュウコの指示でバルティウスが長い首で球体を確保しようとしたその瞬間、球体は突然動き出す。

 そして、ソルシエラへと飛び込んできた。

 

「っ!?」

 

 ソルシエラは咄嗟に障壁を展開するが、それをすり抜け球体は彼女の中へと入っていく。

 一度体を震わせたソルシエラは、ガーデナーを見て何かを言おうと口を開く。 

 

「……ぁ」

「ソルちゃん!」

 

 瞳が閉じられ、ゆっくりとその体が傾き始める。

 ガーデナーはすぐに手を伸ばすが、それよりも先にソルシエラを抱きとめた者がいた。

 

「――まったく、この程度で気を失うとは情けないのじゃ」

 

 突然現れた幼子に、その場の全員がガーデナーを見る。

 が、ガーデナーはすぐに首を横に振り、自分の仕業ではないと否定した。

 

 黒い和服に、赤い長髪、そして獣の耳を模したムカデの胴体を頭部につけた幼子など、ガーデナーは知らない。

 

「なんじゃその顔。小娘、まさか我の姿に驚いておるのか?」

「あ、えっと……」

 

 幼子は笑うと、その袖口からムカデの胴体を出してみせる。

 その真っ赤な甲殻を見て、ガーデナーはハッとしてバルティウスの背後へと目をやった。

 そこには、今まで存在感を放っていた赤いムカデの姿がない。

 

「まさか、あのでっかいムカデ!?」

「もう良い、その反応は。もう何百年も同じことをされて見飽きたのじゃ」

 

 幼子はソルシエラを愛おしそうに抱きかかえながら、ガーデナーを見て笑う。

 

「どうやら、久方ぶりの祭りのようじゃの。どれ、我にも一つ事の次第を話してみせろ」

 

 その笑みは、およそ人とは言い難い恐ろしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの……これでいいのじゃ……?』

『いいよぉ! 初めての演技も上手だね♥』

『カメ先生から叩き込まれたからの……。それより、どうして倒れてしまったのじゃ。やはり体に何かあったのか!?』

『自分の体に何かが入ってきたら、一旦倒れるものだよ^^ それに、ソルシエラは無理をして戦っている(虚偽の申告)からね。きっと赫夜牟を召喚した負担もあったのだろう』

『我は無理やり引き摺りだされただけじゃ……それに、負担はかからない筈』

『俺がそう決めた。そっちの方がコンテンツとして優秀だからね』

『言っている意味がわからないのじゃ……』

『という訳で、今から君には人外特有の倫理観を遺憾なく発揮したのじゃロリをやって貰います』

『本当にやらねばならぬのか?』

『やれ』

『はい……』

 

 

 

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