【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

359 / 522
第351話 3‐4 星詠み達の輪舞

 各学園には必ず、最強の称号を持つ探索者がいる。

 稀代の天才、聖域の継承者、そしてSランク。

 いずれも、最強の名を持つに相応しい存在だ。

 

 で、あるならば。

 全学園の最強(トップ)とは。

 学園都市における絶対の存在とは何者か。

 

 その正解こそ――桜庭ラッカ。

 全ての探索者、その始まりの少女である。

 

「もっと頑張れよ規律ちゃん。私を相手にするならさ」

 

 規律のソルシエラとラッカの戦いは、確かに幕を開けた。

 しかしその戦いは過程を必要としない。

 

 何故ならば。

 

「……くっ、これが桜庭ラッカか!?」

 

 始まると同時に、勝敗は決したのだから。

 

 ラッカがしたことは、ただ槍を放り投げただけである。

 

 それだけで、規律のソルシエラの武器は破壊され、その体にはまるで長時間戦ったかのような傷が無数に生み出されていた。

 

「何を、私に何をしたッ!」

「憧憬の銘は、()()()()()()()()()()()()()()()()。自身ではなく他者にその在り方を定められた唯一の銘。生きるも死ぬも、私の手の中にはないんだよ」

 

 ラッカはそう言って、何かを握る動作をする。

 手の中に虚空から透明な槍が生み出された。

 

「曰く、ラッカは槍を片手に数多の戦場を駆けたという。故に、私は必ず槍を持つ」

「まだまだ! 武器が壊れようとも、心はまだ死んでいないぞ!」

 

 規律のソルシエラは立ち上がり、刃へと触れる。

 干渉の力が魔力を凝固し、再び鎖鎌を作り上げた。

 

「先手は譲った、だがまだ終わりではない!」

 

 規律のソルシエラは鎖鎌を振り回し、ラッカへと放つ。

 干渉の力を纏い、どんな防御ですら貫いてしまう凶刃が迫るも、ラッカは反応一つ示さない。

 

 間もなく、刃はラッカへと直撃し大きな爆発を巻き起こした。

 

「やったか!?」

「曰く、熾天使たちとの数えきれない決戦を乗り越えても生きているラッカは、不死身としか考えられない」

「ッ!?」

「故に、私は死を知らない」

「成程っ、この程度の攻撃では死なないか! 敵ながら素晴らしい! 私が規律で世界を支配したあかつきにはお前をスーパー治安維持委員長にしてあげよう!」

 

 規律のソルシエラは地面を叩きつける。

 その瞬間、大量の魔法陣がラッカの周りに現れ、銀の鎖を生み出した。

 意志を持つかのように胴をくねらせた鎖たちはラッカを縛り上げる。

 

 対して、ラッカがしたのは語り部であり続けることだけであった。

 

「曰く、ラッカは多くの組織に属しながら、何者にも縛られることはなかった。故に、ラッカは自由である」

 

 体を縛っていた鎖がひとりでに解け、地面へと落ちる。

 その機能を失っていない筈なのに、銀の鎖はラッカを縛ろうとはしなかった。

 

「こ、これが破滅のソルシエラの言っていた最要注意人物……!」

 

 成す術がない、規律のソルシエラはそう判断した。

 そしてすぐに転移魔方陣を起動させる。

 

「曰く、ラッカは出会った敵全てを殺したという。故に、私からは逃れられない」

「転移がっ……!?」

 

 魔法陣が砕け散る。

 ガラスのように魔法陣の破片が舞う中、規律のソルシエラは覚悟を決めたようにラッカを睨みつける。

 

「ならば、私の全身全霊をもってお前を倒すのみっ! 世界に正しき規律を!」

「さっきから、元気だなぁ。もう戦いは終わったっていうのに」

 

 ラッカはひょいと槍を構える。

 そして、無造作に放り投げた。

 まるで川べりから石ころでも放り投げるように、気楽に、そして無邪気に。

 

「曰く、桜庭ラッカは戦場で一度も負けたことがない」

「……見事」

「故に、私は最強である」

 

 胴の半分をえぐり取られ、規律のソルシエラは一言残して倒れ伏す。

 間もなく、その体は光の粒子となりソルシエラの方へと流れ始めた。

 

「……また、干渉の力が」

「良かったね、で思い出したかな」

 

 ラッカは振り返り笑う。

 

「桜庭ラッカ――つまりは、先生(わたし)の事を」

 

 戦いの後だというのに、その佇まいはあまりにも自然であった。

 

 

 

 

 

 

 はわわ……。

 

『はわわ……』

『はわわ……』

『はわわ……』

 

 おいどうすんだよこれ。

 なんかソルシエラよりかなり強そうなやつ出てきちゃったよぉ……。

 

『しかも、君より過去の君に詳しいときた。知識でも負けているねぇ。……それにしても銘か、興味深い。それに異常なまでに親近感が湧く』

『マイロード、魂の純真さなら負けてないぞ!』

『それが一番相棒に足りないものでは?』

『わっ、我は帰らせてもらうのじゃ! こんな化け物と一緒の場所にはいられないのじゃ!』

『駄目^^』

『のじゃっ!? 何故、思念だけであるはずのお主が我を掴めるのじゃ! はーなーすーのーじゃー!』

『赫夜牟よ、今マイロードの傍にいるのはお前だけだ。お前だけがマイロードを守護ることが出来る……その責務を果たすのだ』

『カメ先生がそう言うなら……』

『どうしてカメには従順なんだよこいつ』

 

 きっとそれだけの英才教育を受けたのだろうね。

 

 それにしても憧憬の銘か……なんか、すっげえつええな!

 俺の理想とどっちが強いか銘バトルしようぜ!

 

 行くぜっ、シルバリオ・ドラグ理想ーン!

 

『ホビー漫画始まった?』

『愛機の名前キモイのじゃ』

 

 という訳で、どうすればラッカちゃんを上回れるか考えて貰います。

 

『急に冷静になるな。……というか、軍服シエラッ……。せめて私がえちえち拷問にかけて快楽に堕とすべきだった! なんと勿体ない……規律を重んじる彼女だからこそ、快楽に堕ちる姿が美しいというのに……!』

 

 これからソルシエラをたくさん殺すんだから、慣れておこうね。

 

『……マイロード、先程軍服シエラを殺した際に体に吸収された光は何だ?』

 

 わかんない。

 ただ、これがあると力が湧いてくるんだよね。

 

 アイドルソルシエラを倒した時は、収束砲撃がもっとうまく使えるようになった。

 そして今は、あの銀の鎖を発射できる気がする。

 

『成程、彼女達を倒すことでソルシエラとしての力を手に入れているのか』

『……それはおかしいねぇ、私はここにいる。そもそも力が奪われたのではなく、引き離されただけだ。鏡界で合流すれば、すぐにでも相棒はソルシエラとして復活するはずだ』

『じゃあ戻れば良いのではないか? 我だけに守護らせるより安心じゃ』

『こっちはこっちで忙しいんだよ。このコンテンツを相棒にお届けしないと』

 

 そうだよ、赫夜牟君。

 星詠みの杖君達は今、記憶喪失になった俺と愉快な仲間達のイベントシーンを保存している最中なんだ。

 

『記憶喪失? 主殿は記憶があるのではないか』

 

 俺は記憶喪失中だよ。

 正確には、俺の肉体がね。

 

『????????』

『ちなみに勝手に自律稼働しているねぇ』

『!?!?!?!?』

『あと幼き命だ』

 

 嘘混ぜんな。

 

『うーむ、けれど相棒の吸収している力は確かにソルシエラの物だ』

『どうして普通の会話に戻れるのじゃ……』

『マイロードの痛みが鏡界で変化したとしか思えない。それも、痛みを核にソルシエラにより近い形で進化したのだ』

 

 成程……じゃあ、今はソルシエラの力が鏡界とそっちに二個あるってこと?

 

『そうなるねぇ』

 

 じゃあこっちのソルシエラ吸収して、二倍強いソルシエラになろうぜ!

 そうして、ラッカちゃんのいる最強議論スレに殴り込みじゃ!

 

『頭の悪い計画』

『マイロードが二人……!? 来るぞ、赫夜牟ッ』

『な、なにが来るのじゃ……!?』

 

 来ないよ。

 

 

 

 

 

 

 鏡界は、多くの世界を意味のない景色として内包している。

 それは熱気に満たされた砂漠であったり、うっそうと茂る森であったり様々だ。

 

 この夜のネオンに輝く大都市も、その一つであった。

 往来する人々も行き交う車も、路地裏で丸くなる猫ですら現実世界を映し出した虚像でしかない。

 

「っ……はぁっ、はぁっ」

 

 ボロボロの姿で一人の少女が都市の中を駆けていた。

 人々に少女の姿は見えていないようで、傷だらけの姿に何も反応を示さない。

 

「もう……いやだ」

 

 元は美しい少女だったのだろう。

 雑に肩あたりで切られた蒼銀の髪は、ぼさぼさで手入れがされていないことがわかる。

 随分とサイズが大きいぶかぶかの白いパーカーは、しばらく洗っていないのか薄汚れていた。

 何より、輝きを失った蒼い目とその下に大きく伸びる隈。

 とてもではないが、健康的とは言えない。

 

「私は、寝ていたいだけなのにぃ……」

 

 少女は駆ける。

 パーカーの下から大きく露出した太ももは、小さな傷がたくさんできていた。

 安価なサンダルもボロボロで今にも壊れそうである。

 

 そんな少女の頭上、ビルとビルの合間から一つの影が降り立った。

 

「もう隠れることはできません。さっさと私に殺されることですね」

「うわっ」

 

 目の前に、銀の砲撃が堕ちる。

 思わず足を止め、バランスを崩して尻もちをついた少女の前に一つの影が降り立った。

 

 それは黒のスーツに身を包み、蒼銀の髪を合理性だけで一つに結んだ少女である。

 まるで仕事人のように冷酷な雰囲気を纏う彼女は、這って逃げようとする少女を見て再び逃げる先に砲撃を放った。

 

「も、もう狙わないでよぉ……私は皆とは戦いたくないんだからぁ!」

「知りません。この戦いでは誰もが平等ですから。ねえ、堕落のソルシエラ」

「わっ、私はぐーたらしたいだけ……。だから、た、戦うのはやめよう? 冷酷のソルシエラ」

「お断りです」

 

 冷酷のソルシエラはそう言ってハンドガンを取り出した。

 見た目こそ銃ではあるが、その機能が星詠みの杖と変わりない事はここまでの逃走劇で知っている。

 

 照準は既に堕落のソルシエラの眉間に定まっていた。

 

「これで一人減りましたね」

 

 勝利の確信と共に冷酷のソルシエラはトリガーに指を掛ける。

 その時だった。

 

「――ガァッ!?」

 

 冷酷のソルシエラの腹部に走る衝撃と熱。

 見れば、腹部に大きな針が突き刺さっていた。

 

「……こ、これは」

「面倒くさい……戦いたくなんてなかったのに」

 

 堕落のソルシエラは指を鳴らす。

 すると、冷酷のソルシエラの背後の空間が歪み、機械仕掛けのサソリが姿を現した。

 その尾が腹部を貫いているのだ。

 

「ずっと、近くに潜伏していたのか……っ!?」

「貴女が帰ってくれればこんな事しなくて済んだのに……」

「くっ……私は、絶対生き延びて·……!」

 

 もがく冷酷のソルシエラをサソリは尾で持ち上げ、ビルの側面へと叩きつける。

 それがトドメとなった。

 冷酷のソルシエラの体から力は抜け落ち、手足はだらんと垂れ下がった。

 

 間もなく、その四肢から光の粒子へと変換されていき、堕落のソルシエラへと流れていく。

 堕落のソルシエラは興味がないのか、パーカーの砂埃を払うと立ち上がった。

 

「帰ろう、さっちゃん」

 

 サソリの上に体を預けた堕落のソルシエラは疲れ切った声で呟く。

 主の命令で、サソリは人混みの中へと歩き出した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。