【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第354話 4‐1 私の望み

 規律のソルシエラを倒したラッカ達は学園内へと戻っていた。

 紛い物とは言え、ソルシエラに快勝したのだから空気は幾分か明るい、その筈だったが。

 

「――思い出せないかあぁぁぁ! はあぁぁぁ……」

 

 ラッカはその場に両手両膝をつき、大きなため息をつく。

 見栄えを意識し、かっこよく決めてみせたラッカの中には、ソルシエラが求道者としての記憶を取り戻すという確信があったのだ。

 

 しかし現実は違った。

 

「こんなことなら、記憶に関する憧憬も作っておくんだった。桜庭ラッカは記憶を取り戻せる、みたいな」

「そんなピンポイントなもの無理でしょー」

 

 ガーデナーはヘラヘラと笑う。

 そんな彼女は今、ソルシエラの髪を櫛で梳かしていた。

 

 ソルシエラは最初こそ抵抗していたが、どうやら折れたようである。 

 そしてその横では、物珍しそうにタブレット端末を観察する赫夜牟の姿があった。

 

「なんでガーデナーちゃんはそんなに緊張感がないんだよぉ!」

「そんなに焦ってもソルちゃんの記憶が戻る訳じゃないからね」

「ソルちゃんは止めなさい」

「ハッ、良いではないか小娘。その様に呼ばれる姿は実に滑稽で面白いのじゃ」

「えー、ソルちゃん可愛いじゃん。ねえねえ、その服は自分で買ったの? フリフリが好きなの? 可愛いねぇ!」

「桜庭ラッカ、こいつを別室に連れて行きなさい」

 

 ソルシエラはガーデナーを睨もうと後ろを見る。

 すると、それを読んでいたかのようにガーデナーがひょいと移動して、また「ソルちゃん」と呼ぶ。

 それを見て、赫夜牟が意地悪そうな笑みと共にソルシエラを見る。

 

 その姿は、まるで飼い主に揶揄われる猫のようだ、ラッカは他人事のようにそう思った。

 

 ソルシエラはいい加減この空気を変えたかったのか、咳ばらいをしてこう切り出す。

 

「それで、博愛のソルシエラとは一体何者なのかしら。教えて頂戴」

「ああ、確かに途中じゃった! おい、我を楽しませるのじゃ」

「別にお前の為じゃないんだけどね……まあ、説明しようかな」

 

 ラッカは三人を見て語り始める。

 

「博愛のソルシエラは、私たちの文明で生まれた銘を持つ者だよ。当然、その銘は博愛。千年の間、一人で天使から人類を守り続けてきた、まさに英雄ってやつ。少なくとも、私の周りでその名を知らない人はいなかった」

「その銘が、教授達の銘の元になったと?」

 

 ラッカは首肯する。

 

「ある時、博愛のソルシエラは自身の力を七つに、肉体を兵器に分ける計画を立てた。彼女が何を考えていたのか、私にはわからない。わかっているのは、銀の黄昏が生まれると同時に彼女は死んだって事。七つの銘を残してね」

「それが、小娘の理想とお前の憧憬か」

「そうそう。他には――信奉、探求、調和、智慧、狂楽って感じかな」

 

 思い出す様に指を一つずつ立てていくラッカの顔はどこか懐かしそうで、楽し気だ。

 しかし、すぐに何かを思い出したのか顔を顰めてベッドに体を投げ出した。

 

「まあ、今は残り五つ全部銀の黄昏にあるんだけどね! 私たちの味方だった指揮者と講師の銘も奪われてるし。正直、まずいなーとは思ってたんだ」

「指揮者と講師……? あんな性格が最低な奴らが……?」

 

 ラッカはきょとんとする。

 が、察したように声を上げて笑った。

 

「あははっ、違う違う。初代、指揮者と講師だよ。私たちの名前は、銘を持つ証みたいなものだしね。きっと、貴女が会ったっていう子たちは、教授に銘を与えられたか、その資格があった子たちなんじゃないかな」

「……あれに資格があるなら、その辺の小悪党でもありそうね」

 

 吐き捨てるようにソルシエラは言う。

 その表情と声色は底冷えするほどに冷たいものだったが、ガーデナーが背後から頬をムニムニしているので台無しであった。

 

「貴女、ずっと何をしているのかしら。余程死にたいようね……!」

「うわーん、助けて先生!」

「ガーデナーちゃんを虐めるなぁ! 昔の求道者は、草木を愛する優しい子だったじゃないかぁ!」

 

 頭を抱え、大げさに助けを求めるガーデナーの前に移動したラッカは両手を広げる。

 その目には、嘘の大粒涙がたまっていた。

 

「ハハハッ、愉快で滑稽で面白いのじゃぁ!」

「……チッ」

 

 手を叩き喜ぶ赫夜牟の隣で舌打ちが響いた。

 

「だってソルソル、目覚めてからずっとぼんやり暗いんだもん。もっとリラックスして、ほら笑って笑って」

「ソルソル……」

 

 ソルシエラは唖然とする。

 ガーデナーはそんな彼女を見て、ニッコリ笑った。

 

「迷った時や辛いときは笑うんだよ。そうすれば、なんとかなる……筈!」

「流石私の教え子、いい事言うなぁ……」

 

 腕を組んだラッカが適当に頷く。

 そんな二人を見て、ソルシエラは何かを言いかけたが、諦めたように息を吐いた。

 

「そうね、少なくとも貴女を前にしているときに考え事をしても無駄だという事はわかったわ。思考が乱れるもの」

「それって恋……?」

「は?」

「ひえっ、助けて先生!」

「ガーデナーちゃんを虐めるなぁ!」

 

 つい先ほどまったく同じやり取りを見た気がした。

 

「はぁ、もういいわ」

「ねえねえ、それでソルちゃんは何を考えていたの? 悩みがあるなら教えてよ」

「……破滅のソルシエラの事よ。規律のソルシエラは、奴が私に救済を与えると言っていた。それが全ての始まりの存在なら、原因は何かしら」

「――貴女が望んだからですよ」

 

 新たな声が、部屋に一つ響く。

 瞬間、ソルシエラはガーデナーを庇い大鎌を召喚し、赫夜牟はその背後で異形に変化、ラッカは声の主の喉元に槍を突き立てていた。

 

「……どっから入った、この不審者」

「おやおや、失礼しました。正門が開いていたもので」

「小娘、我に奴を殺せと命じよ。それだけで良い」

 

 いつ戦いが始まってもおかしくない空気の中、ガーデナーが何かに気が付いたように声を上げた。

 

「あれ……その姿もしかして、ソルシエラ?」

「はい、そうです」

 

 ソルシエラと呼ばれた少女は恭しく礼をした。

 フリルがあしらわれた黒い目隠しをして、髪を短く切りそろえた彼女は燕尾服を身に纏っている。

 凛として乱れぬ姿勢を維持している彼女は、まるで執事のように見えた。

 

「私は妄信のソルシエラ。ソルシエラバトルの管理者でございます」

 

 そう言って妄信のソルシエラは自身の胸に手を当てる。

 見るからに質の良さそうな白い手袋を嵌めていた。

 

「ソルシエラバトルの管理者って事はラスボス!?」

「赫夜牟」

「任せるのじゃ」

 

 百足の怪物へと変化した赫夜牟が妄信のソルシエラを睨みつける。

 途端に彼女の体からきしむ音が聞こえ、動きが完全に止まった。

 

「おや」

 

 妄信のソルシエラは、慌てることはなかった。

 ただ、来た時と変わらない様子で口を開く。

 

「私は役割を与えられただけ。全ての権限を持つ者は破滅のソルシエラのみです。私を殺したところで、なにも意味はありませんよ?」

「なら、何をしに来たのかな? 返答次第では槍でブスッといっちゃうけど」

「今回お邪魔したのは他でもありません、ソルシエラバトルへの正式な招待状を差し上げに来たのです」

「招待状……いいわ、話を聞いてあげる」

「ありがとうございます」

 

 妄信のソルシエラはもう一度礼をする。

 そして拡張領域から一通の手紙を取り出した。

 封蝋印までなされたそれは、まるで差出人が中世貴族であるように見える。

 

「恋慕と規律を倒し、なおも自身を覆い隠し否定するその姿、破滅のソルシエラは貴女を自罰のソルシエラと名付けました。これにより、貴女にはソルシエラとして生き残るチャンスが与えられます」

 

 そう言うと、妄信のソルシエラは指をぱちんと鳴らした。

 瞬間、彼女の背後に巨大な転移魔法陣が浮かび上がる。

 

「これは……!?」

「ガーデナーちゃん、一応リュウコ達を呼べるようにしといて」

 

 身構える三人の前で、魔法陣の横に移動した妄信のソルシエラは口元だけ笑みを作り上げ言った。

 

「では、ソルシエラバトル第二ステージ、ソルシエランドへと参りましょう」

「「「……は?」」」

 

 新たな戦いが、予想外の形で始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

『ソ ル シ エ ラ ン ド 開 園 』

『これもう食べ放題のお店だろ^^』

『おぉ……お弁当を持っていくぞ……』

『別に遊びに行くわけじゃないのじゃ』

 

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