【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ソルシエランドって……なんだ……?
『薄い本に都合の良い世界では?』
『きっと幼き命が溢れる楽園だろう』
『破滅のソルシエラの作り出した空間なら、何かしらの規則が存在する可能性が高いのじゃ。用心せよ主殿』
一人だけ真面目な奴いたな。
「では、私に付いてきてください」
「行くと思ってんの?」
ラッカちゃんの問いに答えることなく、妄信のソルシエラは転移魔法陣を潜り抜けて消えた。
少し間をおいて、ラッカちゃんが俺達に目配せをする。
そして転移魔法陣の中へと踏み込んだ。
「私達も行きましょうか」
「愉快な場所だと良いのう。そうさな、自由に殺戮が出来ると嬉しいのじゃ」
赫夜牟君は幼い少女の姿に戻ってそう言った。
口内が人外なのやっぱりちょっとエッチすぎない?
健全な世界なのにふざけんなよ。
『理不尽すぎるのじゃ』
よーし、行くぞー!
転移魔法陣を潜り抜けると、そこは遊園地だった。
中世ヨーロッパを思わせる建造物たちに交じって、ジェットコースターや観覧車などが見える。
シャボン玉らしきものが辺りに広がり浮かんでいる光景はまるで夢のようだ。
ここがソルシエランドか。
年パスって買ったっけ?
『むむっ、見たまえ相棒! 遊園地を行き交う人々を』
その言葉に誘導され、丁度目の前を通り過ぎた少女を見る。
蒼銀の髪に、青い目。ふわふわの髪をショートで切りそろえた少女は、自身のアイデンティティらしき、銀のカチューシャを装着していた。
恰好が変わってもすぐに分かる。
「わ、私……!?」
「次のソルシエラ!?」
俺とガーデナーちゃんは警戒態勢をとる。
しかし、そのソルシエラは俺達を見ても首を傾げるだけで行ってしまった。
抱えたポップコーンバケツに手を突っ込みながら歩き去るその姿は一般人にしか見えない。
「……どうなってるの?」
俺達よりも一足早く向かったラッカちゃんも困惑している様子であった。
周囲にも、同じように一般人のようなソルシエラが存在している。
否、ソルシエラしか存在していなかった。
どうなってんだコレ!
『ソルシエラがいっぱいだぁ!』
『おぉ……幼き命もいるぞ……。しかし、どうにも波動が不安定だ……』
確かに、言われてみればこれだけのミステリアス美少女に囲まれているというのに、美少女の輝きが小さ過ぎる気がする。
まるで、一つの輝きを分けたような……。
「皆様、無事に辿り着いたようですね」
声のする方を見れば、妄信のソルシエラが風船を持って立っていた。
「ここはソルシエラ最後の安寧の地。ソルシエランド。ソルシエラバトルの勝者が受け継ぐことが出来る楽園です」
「これが楽園? キマッたダンジョン空間にしか見えないけど」
ラッカちゃんの言葉に、妄信のソルシエラは首を横に振る。
「それは本質とは言えませんね。自罰のソルシエラ、貴女は心のどこかで楽になりたいと思ったことはないですか? 恋に生きてみたい、規則の中で安寧を享受したい、何も考えず誰かに従いたい、自分を傷つけるものを何もかも壊してしまいたい。そんな願望を叶えるのがこの世界なのです。だからこそ、ソルシエラにとってはこの世界は楽園なのですよ」
「へぇ」
ラッカちゃんは適当な返事をしながら、槍を握る動作をした。
「曰く、桜庭ラッカは大陸を一つ消し飛ばした事がある。故に都市一つ消し飛ばすことなど容易い」
初手にしては奥義すぎでは!?
なんてもったいない事を!
『あいつヤバ^^』
『おぉっ、逃げるのだ幼き命達よ! くっここからでは間に合わない!』
『主らはどっちの味方なのじゃ』
半透明の槍に力が収束していく。
それを見ても、妄信のソルシエラは慌てる事なく「それと」と冷静に口を開いた。
「下手に破壊すれば、自罰のソルシエラが死に至るでしょう。この世界は、破滅と自罰の力で構成されています。力づくでの解決はお勧めしません」
「……チッ」
ラッカちゃんの槍が霧散する。
どうやらやめてくれたようだ。
ホッ。
『ホッ』
『ホッ』
『確かに、主殿が死んではいけな……いや、主殿なら別に死んでも蘇るのでは?』
恐ろしい人外の発想。
人の心とかないんですか!?
『祠の化け物はいっつもそうだねぇ! 人間の事を何だと思っているんだ!』
『マイロードが泣いてしまったらどうするのだ……』
『え、ええっと……ごめんなさいなのじゃ』
何故か釈然としていなさそうに謝罪をする赫夜牟君。
どうして君が頭のおかしな奴に合わせているみたいな感じなんだ……?
「私の力で構成って……どういうこと?」
「言葉の通りです。貴女はこの世界に来た瞬間に、全ての権能をはく奪されました。その半分がそれぞれの願望を宿したソルシエラに、もう半分が都市と民衆へと変わりました。破滅のソルシエラ曰く、ソルシエランドとモブシエラです」
「あ、そのネーミングセンスって破滅のソルシエラ由来なんだ。……ねえねえソルソル、ちょっとこの石ころに名前つけてみてよ~」
「……貴女、私のネーミングセンスもおかしいって言いたいの?」
石ころ片手にニヤニヤ近づいてくるガーデナーちゃんをキッと睨みつける。
しかし、ガーデナーちゃんはそれを見ても満足げにニヤニヤしているだけだ。
くっ、ソシャゲ主人公に弄ばれるの気持ちがいいねぇ!
『ガデソルか……それも味わい深いねぇ……』
また受けにされてる……。
「貴女が本来の力を取り戻すには、貴女がソルシエラバトルに勝ち抜かなければなりません。そうして力を吸収するのです」
「待てよ。規律は私が殺したけど求道者の中に戻ったよ。代理人でも戦えるって事?」
「残念ながらそれはもう不可能です。あれはゲームで言う裏技のようなものでしたから」
これからは俺が戦わないといけないというのか……!
戦いの中で押し殺してきた願望を相手にするなんて、自らを否定するようなものだぞ……くっ……!
『何故嬉しそうなのじゃ』
「ソルシエランドでのソルシエラバトルは、ソルシエラにのみ有効となります。故に、彼女以外の誰かがソルシエラを殺しても力は吸収されずに巡り、元に戻るだけでございます。貴女達はゲストとして、自罰の戦闘サポートに徹したほうがよろしいかと」
「成程、完全にそっちのルールの上に誘導されたって訳だ」
「そもそも、自罰のソルシエラにはソルシエラバトルへの参加権などありませんでした。これは貴女への最後のチャンスだとお考え下さい。倒すべきソルシエラは残り八人。どうか、頑張ってください。……それでは、失礼」
妄信のソルシエラは背を向けると、風船を持ったまま立ち去ってしまった。
くっ、これからは辛い戦いになりそうだぜ……!
『自身の願望を否定する戦いか。ギャグイベントに見せかけた鬱イベントなのでは?』
『おぉ……幼年のソルシエラはいないのだろうか?』
まあ、とりあえず観光しようぜ!
『わぁい^^』
『おぉ……』
『情報収集は必要じゃな』
俺は一瞬辛そうな顔を見せ、それからいつも通りに笑って歩き出す。
「行きましょうか。ここでじっとしていてもしょうがないわ」
「ソルソル……」
「そうだね、行こうか。なんならちょっと観光してもいいかも!」
ラッカちゃんはわざと明るく言った。
また自分で抱え込もうとしていた俺を気遣ってくれているんだねぇ。
「遊びに来たわけじゃないのよ」
俺は形式上、釘を刺す。
まあ、遊ぶ気満々なのだが。
「――ようやく見つけたよ、オリジナル」
「っ!?」
「早速かぁ!」
声のする方を俺達は見る。
目の前に、十センチほどの機械仕掛けのサソリがいた。
ナニアレ、カッコいいー!
「これがソルシエラ? ちっちゃいね」
ガーデナーちゃんが木の枝で突こうとすると、サソリはヒョイと避けた。
「そんな訳ないでしょ。はぁ……面倒くさいなこのやりとりも」
サソリからミステリアス美少女の声が響いている。
どうやら遠隔で操作しているようだ。
「貴女、ソルシエラバトルの参加者だね?」
ラッカちゃんの言葉に、サソリの尾が頷くように揺れる。
「くだらない腹の探り合いは面倒くさいから、単刀直入に言う」
サソリはぴょんぴょんと跳ねながら言葉を続けた。
「私と協力して、ソルシエラバトルを破壊しよう」