【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第356話 4‐3 私の望み

 ソルシエランドの裏路地へと、小さなサソリは誘った。

 同じ顔の少女たちが闊歩するこの空間ではむしろ、ラッカやガーデナーの方が目立つようである。

 

「ねえ、本当にこっち? どんどん人気がない場所に誘導されているけど」

「これあれだよ先生。そろそろ、『馬鹿め、罠だよ!』って言ってくるやつ!」

 

 ガーデナーとラッカは緊張感などない様子でわざとらしくそう話し合う。

 しかし、ラッカの手には常に槍が、そしてガーデナーの左手はホルダーに添えてあった。

 何かあった時、すぐに動き出すためなのだろう。

 

 しかし、それでも警戒を表に出さないのは自分達より一歩前を進む少女の緊張を少しでも和らげようとしているからである。

 

「赫夜牟、何かあればすぐにあの玩具は壊しなさい」

「つまらぬのぉ、もっと破壊しがいのあるものであれば心が躍ったものを」

 

 この場に来てからソルシエラは常にどこか焦燥感に駆られている。

 それがガーデナーとラッカの共通見解であった。

 いや、あるいは目覚めたときから焦りを覚えていたが、それが今になって他人にもわかるほど表に出てきただけかもしれない。

 

「ソルちゃんソルちゃん、後で外の屋台でご飯買おうよ。ソルシエラアイスってやつ!」

「私は興味ないから、貴女だけで楽しみなさい」

「えー、そんなつれないこと言わないでよぉ。ねっ、一緒に食べよ?」

 

 ソルシエラは首を縦には振らなかった。

 それを見てラッカが加勢しようとしたその時、サソリが動きを止めたことで一行は足を止める。

 自然と会話が止まり、サソリに注目が集まった。

 

 サソリは振り返ると、ぴょんぴょん跳ねながら鋏を振り回す。

 まるで怒っているかのようだ。

 

「黙って聞いていれば随分と好き勝手言ってくれるね……。貴女達を罠にはめてもメリットなんてないのに」

「そんなのわからないよ。少なくとも、アイドルと規律はそうだった」

「アイドル……? ああ、恋慕か。あの二人は単純だから、戦えば勝てると思ったんだろうね。私は違うよ。そんなダルいことはしない」

 

 薄暗い路地に突然転移魔法陣が浮かび上がった。

 

「これに入って。私の領地唯一の出入り口だから」

「領地……?」

「ソルシエラバトルは戦争だから。自分の陣地を作るのは当然でしょ。じゃ、付いてきて。……ここまで来て疑うなんて面倒くさいからやめてよね」

 

 そう言うと、サソリは転移魔法陣の中に消えてしまった。

 ラッカとガーデナーが顔を見合わせ頷く。

 そして前を見れば、既にソルシエラが魔法陣の中へと続いて消えていった。

 

「ああっ、躊躇がない!」

「もぉ、危なっかしくて見てられないよ!」

 

 慌てて二人は後を追う。

 そんな光景を見て、赫夜牟もやがて魔法陣の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 ソルシエランドを抜けたら、ネオン輝く眠らない街に来ちゃったよ。

 

『ふむ、どうやら別の位相世界を映し出した影のようだねぇ。面白い空間だ』

 

 見たこともない程高いビルに、見覚えがあるのにシルエットの細部が異なる車、ネオンに輝く読めない文字と、どうやら別世界の大都会に来たようである。

 

 ちなみに交差点のど真ん中に出たのだが、誰一人としてこのミステリアス美少女に興味を示してこなかった。

 

『あくまで別の世界の影だ。あちらからは見えてないのだろう。それに、モブシエラの姿もない。どうやら、あのサソリはここを領地としているようだねぇ』

 

 こんなネオン輝く都市を領地にするソルシエラ……もしかして、高層マンションの最上階からバスローブでこっちを見下ろしてる?

 傲慢のソルシエラかな?

 

『そんなエッチな恰好で見下ろしちゃ駄目だろ!』

 

 なんで俺怒られたの?

 

「待ってよソルちゃん!」

「そうだよソル道者ちゃん!」

「どっちもその呼び方やめて」

 

 後からやってきた二人を睨みつける。

 しかし、二人はヘラヘラ笑うだけだった。

 いいねぇ^^

 

 それから数秒遅れて、赫夜牟君も姿を現す。

 

「おぉ……()()()輝く大都会か! 学園都市とは違うのじゃ。いやぁ、興味深い」

 

 出てくる際にしっかりのじゃロリムーブも出来ているようで何よりである。

 

『本当は別に興味ないのじゃ……』

 

 でも演技出来て偉いね♥

 あ、そう言えばソウゴ君の所に行ったら、初めて食べたパフェが好物になるからよろしくね。

 その演技も磨いておいてね。

 

『好物まで指定された……』

『おぉ……後で美味しいパフェをたくさん作ってあげよう……』

 

 今更だけど、俺達の中で一番料理美味いのが海洋生物ってどうなんだよ。

 

「ダルい展開にならなくて良かった。じゃあ、そのままついてきて。私のアジトに案内する」

 

 サソリは全員が来たのを確認すると、カサカサと歩き始めた。

 俺たちはまた後を追う。

 やがてサソリはネオン街から少し離れた場所にあるコンビニの前で止まった。

 

 明かりが最低限しか灯されていない薄暗いコンビニは、妙な威圧感と恐ろしさがある。

 

「こっち」

 

 サソリはレジ側へと入り込むと、そのまま関係者用の部屋へと向かってしまった。

 俺達はその後ろを警戒しつつ付いて行く。

 

「……なんか、悪いことしてる気分だね」

「私は数百年前のバイトの記憶が浮かんだよ。なつかしー」

 

 やっぱ警戒しているの俺だけかも。

 ミステリアス美少女の俺だけでも真面目にしないと。

 

『流石はマイロード! 偉いぞ!』

 

 カメ君の応援を背中に受けつつ、俺達はやがてその部屋へと足を踏み入れた。

 

「――やあ、初めまして」

 

 その部屋は、到底コンビニの内部とは思えなかった。

 

 上が物置になっている二段ベッドに、何着も同じパーカーが皺のまま垂れ下がっている。

 薄暗い部屋にはモニターが乱立しており、いつのかわからない空のカップ麵の容器が片方だけの割りばしと共に転がっていた。

 その部屋の中心にいたのは巨大なサソリだ。

 そしてその上には、やたらと光るヘッドホンを付けコントローラーを握る少女が体を預けてゲームをしている。

 

 モニターの一つにはFPSらしき画面が映し出されていた。

 

『赫夜牟よ、ああやって暗いところでゲームをするとおめめが悪くなるから駄目だぞ』

『わかったのじゃ』

 

 素直だなぁ。

 

「もう少し待ってて、今私のチームが優勢――あっ」

 

 サソリの尾が、モニターをぱたんと倒す。

 少女が悲し気な声を上げ、怒りを表す様にサソリを殴った。

 

 固い鉄の音が響き、すぐに少女の「うぐぅ」と言う痛みをこらえる声が聞こえた。

 

「はぁ……まあ、いいか。カジュアルマッチだし」

 

 少女はそう呟きサソリから起き上がる。

 そして足の踏み場を探しながら立ち上がった。

 

「改めて初めまして、オリジナルとその愉快な仲間達。私は堕落のソルシエラ。見ての通り、どこにでもいるちょっと陰気な美少女だよ」

「自分で美少女って言った!」

 

 ガーデナーちゃんの方を見て、ダラシエラはふふんと胸を張る。

 こうして見ると俺より若干幼いな。

 中学一年生くらいだろうか。

 

『おぉ……幼くはない……』

『あっそ^^』

 

 そっすか。

 

 それよりも見たまえよ、この姿を。

 ろくに梳いていないから所々跳ねている髪や、大胆に太ももを見せるパーカースタイル。目の下には隈があるし、とにかくだらしない。

 ……なのに、なんて美少女なんだ!

 コンテンツとして素晴らしいぞ。こういう子のルートがオイラの村ではご馳走なんだ!

 

『もはや因習村ですらないのじゃ』

『しかもエッチだねぇ! なんだい? ソルシエラっていうのは揃いも揃ってエッチな子しかいないのかい!? 不健康な白い太ももをあんなに見せびらかして……据え膳にも程があるねぇ!』

 

 星詠みの杖君、大喜びです。

 

 いやぁ、それにしても自堕落な美少女は身近にいなかったから新鮮だなぁ。

 一番近いのはエイナちゃんだけど、アレは自堕落よりはクズって感じだからなぁ。傍にお母さんみたいな人もいるし。

 

「それで、私たちを呼んだ理由について教えてよ」

 

 ラッカちゃんは既に槍を手にしている。

 怖いね。油断しない最強キャラってこうも怖いものなんだ。

 

「別に貴女を呼ぶつもりはなかったけどね。用があるのは、オリジナルとガーデナー」

「え、私も?」

「そうだよ、ガーデナー」

 

 ダラシエラはゴミが散乱した床を器用に歩きながらガーデナーの前に立つ。

 そして、白くほっそりとした手を出して言った。

 

「私を契約して雇ってよ。三食昼寝付き週休六日遅番出勤早番退勤で」

「労働なめてんのか」

 

 ラッカちゃんの怒りは、わりかしまともであった。

 

 

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