【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
堕落のソルシエラの提案はその場の全員にとって予想外の物であった。
「……私と契約?」
「そう。別におかしな話しじゃないでしょ」
「いいや、おかしいだろ」
堕落のソルシエラによって支配されかけていた空気を破り、異を唱えたのはラッカであった。
「一方的な提案が過ぎるんじゃないかな? 私には罠にしか見えないけど」
「私もそう思うわ。手を組むより、殺してしまった方が早い」
ソルシエラはラッカに同調するように、わざとらしく大鎌を見せる。
それを見てため息をついた堕落のソルシエラは、呆れた様子で首を横に振った。
「オリジナル様は随分と血気盛んだね。いや、責任感が強いのか。大変だ」
そう言って堕落のソルシエラは三本の指を立てた。
「私と契約するメリットは三つある」
自分を指さして、堕落のソルシエラは言葉を続ける。
「一つは、私という戦力の補充。ソルシエラバトルはソルシエラでの戦闘が唯一勝敗を決定する。オリジナルの他にトドメを有効化できる存在はいた方がいい」
「私一人で充分よ」
「ふーん、私を前によく言うよ」
堕落のソルシエラはオリジナルへと、憐れむような目を向ける。
それからすぐにガーデナーへと視線を戻した。
「二つ目は堕落のソルシエラと冷酷のソルシエラの力の譲渡。私は今、破滅のソルシエラから埋め込まれた堕落の権能に依存する形で存在している。だから、もっと安定した依存先が欲しい」
「それが私なんだ」
「貴女達にとっても悪くないと思うよ。戦わずに堕落と冷酷の権能が手に入るのだから」
「その冷酷というのは、もしかして貴女が殺したのかしら?」
ソルシエラの問いに首肯が返ってくる。
ついでに「面倒くさいが仕方がなかったんだ」という言葉が付け足された。
「無駄な争いは避けられるし、手ごまも増える」
「で、三つめは?」
「急かさないでよ」
堕落のソルシエラは、足元に転がっていた半分だけ水が入ったペットボトルを拾い上げる。
そして、それをまじまじと観察してから蓋を開け一気に飲み干した。
「ぷはぁっ……ああ、ごめん。こんなに喋ったのは久しぶりだからさ」
「それ、その辺に転がってなかった……?」
「大丈夫大丈夫」
そう言って、堕落のソルシエラは空になったペットボトルをゴミ箱へと放り投げる。
いびつな放物線を描いたペットボトルは、ゴミ箱の手前で落下した。が、堕落のソルシエラは気にしていないようで、ガーデナーへと話を続けた。
「それで、三つ目だけど」
堕落のソルシエラは今までとは違いどこか得意げな笑みを浮かべる。
「私は、他ソルシエラの領地に直通のルートを全て保有している。私と組むこと自体、ソルシエラバトルの近道になるよ。当然、破滅のソルシエラの場所へも行ける」
「ワープ機能!? めっちゃ便利じゃん!」
「少し都合が良すぎるな。信用できるの?」
「別に貴女達のために用意していたわけではないよ。私の目的はただ一つ。ソルシエラとしての責任を放棄した状態で生き残る事なんだ」
堕落のソルシエラがゆっくりと倒れる。
それを読んでいたかのように移動していたサソリは、胴で彼女を受け止めた。
「私はそもそも生まれたくなかった。そうすれば、堕落する必要すらないのだから。でも生まれてしまった。なら、死にたくないのも当然でしょ。だから有利になった陣営に媚びを売れるように準備をしていたんだ」
「それ、ふんぞり返って言う事か?」
「いいだろう、賢いだろう」
ラッカの言葉に、堕落のソルシエラは更に胸を張る。
「今いるソルシエラ達はそれぞれ領地に己の使役する下僕シエラを兵として配置してる。だから、直通で移動できる私の価値が高まってるって訳。どうかな、ガーデナー。実は私、貴女に最初から目を付けていたんだ」
「私? なんか、照れちゃうね……」
「破滅のソルシエラの言っていた要注意人物のひとりであり、私を安全に確実に存在させることが出来る唯一の異能を持っている」
堕落のソルシエラはサソリの背中に寝ころんだままガーデナーを見上げる。
その目は相変わらず、どこか淀んでいた。
「どうかな、ここまで聞いても私と契約する気にはなれない?」
「仮に断ったらどうなるのかな」
ラッカはそう言って槍を突きつける。
すると、堕落のソルシエラはめんどくさそうにため息をついた。
「今すぐ自爆して、別の場所で蘇るよ。そして、絶望あたりに媚びでも売る。次に出会う頃には、かなり強くなった絶望のソルシエラを相手にすることになるだろうね。まいったか」
「どうして他人を武器にそこまで強気なんだ……っていうか、今更どんなソルシエラが来ても怖くないよ。どうせ、規律と同程度だろ?」
「それは違うよ」
ラッカの言葉を短く否定した堕落のソルシエラは、一つのモニターを足で移動させラッカ達に見えるようにした。
そこには、漆黒の花嫁衣装を身に纏ったソルシエラが映りこんでいる。
「これは……」
「絶望のソルシエラ。多分、破滅のソルシエラの次に強いね。ねえオリジナル、私たちの強さってどう決まると思う?」
「……くだらない、考える気もないわね」
「考えたくない、じゃなくて?」
堕落のソルシエラは光の無い目でソルシエラを射抜く。
失望とも諦観ともとれる目であった。
「きっともう勘づいているだろうけどさ、私たちは貴女の中に眠る本心や願望なんだ。そして、その思いが強ければ強い程、ソルシエラとしての格が上がる」
「本心……」
「認めなよ、オリジナル。君は世界に絶望していたんでしょ。戦う中で、どこか世界に対して諦めに近い感情を抱いていた。それが絶望のソルシエラが優勝候補と言われるほどに強くなった理由だ」
ソルシエラは何も答えない。
ただ俯いて、必死に言葉を探しているようだった。
「既に死んだのは恋慕と規律と冷酷……ああ、後は逃避と空想か。残っているのは堕落である私と、絶望、勇猛、加虐、背徳、献身、悲哀、そして破滅だ。どいつもこいつも厄介な奴らだよ」
吐き捨てるように堕落のソルシエラは告げる。
それは、ソルシエラを責め立てているようにも見えた。
「さて、もう一度質問だ。ガーデナー、私と契約しないかな? 情報も戦力も手に入る。これってアドバンテージとしては破格だと思うんだけど」
その場の全員の視線がガーデナーに集まる。
誰もが、彼女の答えを待っていた。
ガーデナーは考えるように目を閉じ、そして一つの答えと共に目を開いた。
「私は――その契約を受けようと思う」
「ありがとう。ガーデナー」
堕落のソルシエラは安堵した様子で息を吐く。
そして、サソリに乗ったまま近づくと手を伸ばした。
「さあ、どうか私を自由にして」
「うん」
ガーデナーは握っていた手を開く。
すると、そこに真っ白な種子が生まれた。
「私に力を貸すイメージをして」
「ん」
言われるがままに堕落のソルシエラは目を閉じイメージを開始したようだ。
それに合わせるように、手のひらの種子が金色の光を放ち始める。
「金か。まあまあだね」
ラッカはその輝きを見て小さく呟く。
それから間もなく光は収まり、種子は淡い紫色へと染まっていた。
「終わったよ、これで契約は完了した」
ガーデナーの言葉で堕落のソルシエラはゆっくりと目を開く。
そして何かを確信した様子で手の開閉を繰り返した。
「うん、確実に体の在り方が変わった。これなら、私の力を手放しても大丈夫そうだ」
堕落のソルシエラはそう言って、ソルシエラへと手を向ける。
すると、彩度の違う二色の紫色の粒子がソルシエラへと放たれた。
光はまるで吸い込まれるようにソルシエラの中へと消えて行く。
アイドルソルシエラや規律のソルシエラとの戦いで目にした光景と同じだ。
「これで二人分。オリジナルは強くなった。おめー」
「……ありがとう」
「礼なんていらないよ」
堕落のソルシエラは大きく伸びをして、力の抜けた笑顔を浮かべた。
それはまるで、大きな事を成し遂げたかのように解放感に溢れている。
「これからよろしくね」
ガーデナーは手を差し出す。
堕落のソルシエラはそれに気だるげに応えた。
「じゃあ、改めて――堕落のソルシエラだよ、よろしく。長い自己紹介はダルいからパスで」
堕落のソルシエラが手を握ると、ガーデナーはモジモジしながら顔を赤らめる。
「えっ……そんないきなり手を……きゃっ……」
「やっぱダルいかも……」
ほんの少しの後悔が、堕落のソルシエラの中に生まれた瞬間だった。
彼女はまだ知らない。
ガーデナーとの契約により調整された自身の力が、素材集めという地獄の苦行に最適であるということを。
結果、堕落とは程遠い生活が待っていることを。
今はただ、自由な堕落が待っているという確証の無い希望だけが目の前にあった。
『あれぇ!? 俺、あれやって貰ってないんだけど、もしかして配布って俺じゃなくてダラシエラなの!? じゃあ俺は何!?』
『お試し限定キャラ枠じゃないかい?』
『おぉ……それはシエルを狂わせたという魔の言葉ではないか……』
『サソリが入荷したなら、いよいよ我はいらないと思うのじゃ。帰りたいのじゃ』
『『『駄目』』』
『何故じゃぁ……』