【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第360話 5‐1 悲哀の彼岸

 素晴らしい曇らせコンテンツが完成しつつあるぞ……!

 自分の虚無感を埋めるために記憶を取り戻そうとする那滝ケイ、そしてそんな彼女がもう戦わなくて良いようにと止めようとする愉快な仲間達(脳焼きウェルダン)。

 

 お互いの事を思い合っている筈なのにすれ違う。

 クラムちゃん、特に君には期待をしているよ^^

 

『それよりもトアが現れたぞ。さっさと簀巻きにしてしまおう』

 

 だから落ち着けって星詠みの杖君。

 ネームレスもまたコンテンツの一部。

 あの子も確かにミステリアス美少女ではあるが、記憶喪失と純真を属性として加えた俺の方が一枚上手だ。

 彼女がどんなコンテンツを用意していたとしても絶対に負けないよ。

 

『別にコンテンツで戦おうとしているわけじゃないと思うのじゃ』

『おぉ……だが、このままネームレスを放置しておくのも愚策だぞマイロード』

 

 くっ、しかしまだ0号とケイの深夜の悲しさと優しさの螺旋トークがまだ……。

 俺はどっちを選択すればいいんだ……!?

 

『決まってるじゃろ』

『当然螺旋トーク優先だねぇ』

『おぉ、お話が好きならそれもまた良いだろう』

『どうしてわかりきった二択で全員間違えるのじゃ……?』

 

 仕方がない、星詠みの杖君。

 今から君にはクールにケイを眠らせて貰う。

 ノートはわざとらしく見せてから、拡張領域に入れるんだ^^

 

『任せたまえよ』

 

 ネームレスの方は、正直俺がこっちにいる時点でどうにもならないです。

 なので、六波羅さんかミズヒ先輩に泣きつこうね。勝てないからね。

 

『は? 舐めんなし』

『おぉ……私は人類を滅ぼすだけの力を持った天使であるぞマイロード』

 

 でも、これから堕落のソルシエラのコンテンツが始まりますよ?

 そんな中、ネームレスと戦えるんですか? 美少女マルチタスク、出来ますか?

 

『無理^^』

『おぉ……私たちは無力だ……』

『……一度、通信を切断してカメ先生たちはネームレスに集中すればいいのではないのか?』

『新入りお前、言っていい事と悪いことあるからな? キャラ属性盛られてるからって調子乗んなよ?^^』

『え?』

『赫夜牟、お前をそんな子に育てた覚えはないぞ! 人の苦しみを理解し、喜びは分かち合う。そう教えたではないか!』

『え、え?』

 

 赫夜牟君……それは酷いよ……。

 折角ここまで一緒にソシャゲコンテンツをじゅるじゅるしてきたのに、急に星詠みの杖君とカメ君だけ仕事にいかせるなんて……。

 やっぱ思考も怪物なんだね……。

 

『何故我が責められているのじゃ! 絶対におかしいのじゃ!』

 

 という訳で、ネームレスは静観です。

 ミユメちゃんとミズヒ先輩、そしてたまたまアイ兄さんとシヤクがいる。

 これだけの戦力があれば、問題はないだろう。

 

 まあ、万が一のために用意だけはしておくか。

 星詠みの杖君、美少女が傷つきそうになった時全部有耶無耶に出来る滅茶苦茶な兵器ない?

 0号が、自身の存在を代価に使うようなやつ!

 

『発注書がクソすぎ^^』

『おぉ……確か戸棚の奥にエックスギアをしまっておいたな……』

 

 おせんべいみたいな扱いなんだ、エックスギア。

 

『確かにアレは演算能力自体はエクスギアに相当する。あれで適当に武器でも作って出撃準備だけしておくか^^』

『? そこまでするなら、やっぱりネームレスを捕まえに……いや、ごめんなさいなのじゃ。我が悪かったからそんなに意識内で圧を掛けないで欲しいのじゃ……』

『おぉ、星詠みの杖許してやってくれ。赫夜牟はまだ勉強中なのだ』

『ケッ、これだから田舎育ちは』

 

 まあまあそんなに怒らないでよ星詠みの杖君。

 これからソシャゲコンテンツの方を皆で楽しむんだから。

 

 堕落のソルシエラが仲間になった今、きっと素晴らしいコンテンツが俺達を待っているぞ!

 

『わくわく^^』

『赫夜牟の教育に悪いので、せめて部屋は片付けたいぞ。なんだこの乱れた部屋は……』

『我の住処もこんな感じじゃったぞ。木の葉とか蟲とか』

 

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋を照らす唯一の光源となっているモニターに、一人の少女が映し出される。

 この事件で何度も見たその顔は、しかしまったく違う印象を見る者に与えた。

 

 下がった目じりに、頬に残る涙の痕。

 フィッシュテールの蒼いドレスに、銀色の髪を片側にまとめた姿はまるで悲劇の物語のヒロインのようである。

 

「――悲哀のソルシエラ。彼女の攻略を私からは提案するよ」

 

 堕落のソルシエラは小さなカップ麵を片手にそう呟く。

 そして箸でモニターを指しながら言葉を続けた。

 

「兵士エラの数もそこまで多くはないし、このまま戦いが続けば最初に脱落するのは彼女だろうね。だったら、その力は私達でもらっておいた方が良い」

「ほえー、綺麗な子。……ねえ、ソルソルとダラちゃんもおめかししたらこうなるの? 二人で変装して潜入とかは出来ないのかな?」

「ソルソルはやめて」

「ははっ、いいじゃんオリジナル。私はダラちゃん気に入ったよ? ちなみに、私たちは全員ソルシエラではあるけど、願望によって少しずつ体は違う。だからバレるだろうね。特に私はちっこいし」

「そっかぁ」

「……ちなみに、背徳はでっかいよ。色々と」

「そっかぁ!」

 

 ガーデナーはなぜかキラキラとした目で再度頷いた。

 ソルシエラはそんな二人のやり取りを複雑そうに見つめながら、パイプ椅子に腰を下ろす。

 その隣では、ラッカと赫夜牟がカップ麵を無断で食べようとしていた。

 

「あ、私のご飯!」

「いいじゃん。後で星木の学園きたら美味しいものを食べさせてあげるからさ。……六波羅が」

「おぉ、なんと良い匂いじゃ! こんな匂い、嗅いだことないぞ! ま、まだか!? 人間、まだ完成しないのか!?」

 

 赫夜牟はカップ麵から漂う匂いに拳を握って小さく跳ねる。

 その子供のような姿に堕落のソルシエラは不思議そうに顎に手を当てた。

 

「……あのチビは何シエラ?」

「チビじゃと!? 我はかの幻獣大戦の王にして最強最悪の怪物! 聞いて驚け、そして恐れ慄くがいい! 我こそが、赫夜牟じゃ!」

「のじゃシエラ?」

「か・く・よ・む! 主はソルシエラではあるが、成り立ちはお前と違う!」

「ふーん、私のさっちゃんと同じ使い魔でもないと」

 

 カップ麵の汁を飲み干して、堕落のソルシエラはゴミ箱へと放り投げる。

 しかし、縁にあたった容器は再び近くに転がった。

 

「……」

 

 ソルシエラは顔を顰めるとそれを無言でゴミ箱へと入れた。

 その事に気が付いていないのか、堕落のソルシエラは赫夜牟を観察し続けている。

 

「ガーデナー、ちょっと二人で話でもいいかな」

「えっ、いきなりそんな熱烈な……」

「ラッカ、この子ってずっとこうなの?」

「うん」

「そっか……だるい……」

 

 項垂れる堕落のソルシエラを乗せたサソリは部屋を後にする。

 それに続く形でガーデナーも部屋を去った。

 

 残された三人の間で沈黙が流れる。

 

「……カップ麵が出来るまでの間に、片付けでもしちゃう?」

「そうね」

「我はそんな下僕みたいな事したくないのじゃ」

 

 

 

 

 

 

 部屋を出て少し離れた場所でサソリは足を止める。

 堕落のソルシエラはひょっこりと顔を覗かせて、こう言った。

 

「赫夜牟について、私は一切記憶にない」

「そうなんだ。赫夜牟ちゃんって、ソルシエラの愉快な仲間なんでしょ?」

 

 堕落のソルシエラは「たぶん」と言って頷く。 

 

「そもそも、私はソルシエラとして生まれたけど、その記憶に決定的な欠落が存在している。堕落を願う原点もソルシエラとしてのこれまでの記憶もまるで霞みがかったようなんだ」

「何も覚えていないの?」

 

 堕落のソルシエラは首を横に振る。

 そして、自身の頭を小突いた。

 

「覚えていることはあるよ。けどそれは表面上というか、まるで夢の出来事を思い出す様な感じで気持ちが悪い。まるで……誰か別の人間の願望を無理矢理ソルシエラの型にはめたかのような、ね」

 

 それから少しの間、堕落のソルシエラは何かを考えるように黙り込む。

 それは言葉を選んでいるように見えた。

 

「ガーデナー、貴女には念の為に伝えておきたい事がある」

 

 堕落のソルシエラはそう前置きをして言葉を続けた。

 

「私達ソルシエラは、あのソルシエラの願望の皮をかぶったナニカかもしれない」

 

 

 

 

 

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