【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第361話 5‐2 悲哀の彼岸

「このソルシエラバトルは、何かがおかしい」

 

 堕落のソルシエラは周囲を警戒しながら、そっとガーデナーにそう告げた。

 その真剣な表情に釣られて背筋を伸ばしたガーデナーは頷く。

 

「そもそもソルシエラバトルがおかしいからね。主催者の正気を疑うよ」

「……それはそう」

 

 元も子もない事を言うガーデナーに堕落のソルシエラは頷くことしか出来なかった。

 

「じゃあさ、ダラちゃんは自分が本当は何者かを知ることが目標だったりする訳だ」

「それは違う。私は自分が何者かなんてどうでもいい。きっと、私以外のソルシエラもそう思っている筈。欲望を満たせればそれでいいから。でも」

 

 堕落のソルシエラはソルシエラ達のいる部屋の扉を見てこう続ける。

 

「オリジナルは違う」

「ソルソルが気になるの?」

「当たり前でしょ。本当の私たちが何者であれ、あの子の欲望が混じっていることに変わりはない。……私が気にしているのは、オリジナルのコンディションだよ」

「コンディション……確かに、体調悪そうだったしね」

 

 出会ってから今に至るまで、快調とは言い難い状態である。

 それでも毅然と振る舞えてはいるが、限界が近い事も事実だろう。

 

「ソルシエラ達の欲望がオリジナルだけの物でないとしたら、全てを吸収し終えたときむしろ彼女を苦しめてしまう可能性がある」

「確かに。私たちはあの光がソルソルに必要なものだと思ってた。けど、もしも違うなら――」

 

 それは毒を体に流し込む行為と変わらない。

 自身の欲望を否定し、自らを殺す力を吸収する。

 果たして、これほど残酷な事があるだろうか。

 

「実際、冷酷と堕落の光を吸収した後オリジナルの様子がおかしくなっている時があった。会話に反応できていなかったり、まるで別の物でも見えているかのように目の焦点が合っていなかったり。体に力が馴染むまでの副作用とも考えられるし、そもそも拒否反応を示しているとも考えられる」

「ソルソル、そういうの我慢しちゃう子だから絶対に自分からは言わないよね……」

「うん。すごくダルい。集めていた力が実は悪いものでバッドエンドでした、なんて今時流行らないよ。SNSで三流脚本へのお気持ち表明が溢れちゃう」

 

 堕落のソルシエラはそう言ってサソリの尾へ手を伸ばす。

 そこは尾の一部に搭載された格納場所であった。

 そこから一つの小箱を取り出すとガーデナーへと差し出す。気軽に日常的な動作で渡されたその小箱を受け取ったガーデナーは首を傾げる。

 

 彼女が疑問を口にするよりも早く、堕落のソルシエラはその箱を指さした。

 

「その中には、堕落のソルシエラ抹殺スイッチが入っている」

「へえ、ダラちゃん抹殺スイッチかぁ……えぇ!? 抹殺スイッチぃ!?」

 

 ガーデナーは慌てて小箱をレジに置き、ゆっくりと箱を開ける。

 すると、ガラスカバーに覆われた真っ赤なボタンがそこにはあった。

 ご丁寧にガラスカバーに「押すな!」と書いている。

 

「こ、これ本当に死ぬの……?」

「死ぬ。だからこそ、貴女に預ける意味があるんだ」

 

 それは自身の命を渡す行為に等しい。

 しかし堕落のソルシエラはそれを感じさせない風に笑う。

 

「もしも、集めているソルシエラパワーが良くないものだとわかったら私がオリジナルから奪い返す。そして私が代わりに戦う。私は力を受け入れられる風に作られているからね。何も問題はない」

 

 ガーデナーは答えない。

 それを肯定と捉え、堕落のソルシエラは言葉を続けた。

 

「そのスイッチは保険だと思ってくれていい。もしも私が裏切ったら迷わず押すんだ」

「そんな事っ……」

「あ、信用できない? なら一度押してみてよ。ガーデナーに従属している今の私ならきっと死んでも蘇ることが出来るでしょ?」

 

 まるでゲームについて話すかのように軽い調子を崩さず堕落のソルシエラは続ける。

 

「ガーデナーの異能はこういう時便利だね。ささ、景気よくポチっと」

「……出来ないよ」

「別に完全に消えるわけじゃない。安心して押してよ」

 

 ボタンを押す様に催促する堕落のソルシエラとガーデナーの目が合う。

 そして、不思議とガーデナーは喋るのやめていた。

 

「ダラちゃん、最初に一つ訂正するよ」

「あれ、何か間違えてた?」

 

 ガーデナーはボタンを箱に仕舞い、堕落のソルシエラへと差し出して言った。

 

「貴女と私は従属の関係じゃない。手を取り合って一緒にこの世界を生き残る仲間なんだ」

 

 その言葉は堕落のソルシエラにとってまったくの予想外だった。

 目の前の少女の事はまだよく理解していないが、こんな冗談を言う人間でないという事はわかっている。

 

「確かに今のダラちゃんは死んでも生き返るよ。私の魔力が続く限りね。でも、死ぬのは痛くて苦しい。それは変わらないんだ。私は仲間にそんな思いはして欲しくない」

「……意外と、青臭い事を言うんだね」

「これもダルいかな?」

「……別に。少し、羨ましいと思っただけだよ」

 

 堕落のソルシエラはガーデナーから箱を受け取る。

 そしてサソリの中へと再び収納した。

 

「貴女の考えはわかったよ。けど、常に最悪の可能性は考えておいて。一番最悪のシナリオはオリジナルが死ぬことだ。これを避けるために、いつでも私はその力を吸収するつもり。その時は手伝って欲しい」

「手伝うってどうするの?」

「オリジナルを倒して力を奪う。当然、ダメージは最低限で。ガーデナーなら出来るでしょ?」

 

 それは目の前の少女がソルシエラを倒すことが可能であるという絶対的な確信からくる言葉だった。

 事実ガーデナーは、少し考えた後に頷いた。

 

「私が思いつく中で何個か無力化できる編成がある」

「流石、期待しているよ。オリジナルは結構無茶するタイプみたいだから、私たちが見張ってないと。自分一人が犠牲になるとか、本当にダルいからさ」

 

 堕落のソルシエラは満足げにそう言った。

 ガーデナーはそんな彼女をどこか温かい目で見つめる。

 それに気が付いた堕落のソルシエラは訝し気に首を傾げた。

 

「何?」

「いやぁ、自ら犠牲になりに行くところはソルソルもダラちゃんも変わらないんだなぁって」

「……別に、私は死んでも蘇れるという利点を理解して行動しているだけ。オリジナルの無茶とは訳が違う。わかってる? おい、その笑顔はなんだよ!」

「ダラちゃんも、きちんとソルソルエキスが入っているんだね!」

「気持ち悪い言い方するな! チッ、やっぱダルいよガーデナーは」

「はいはい」

 

 堕落のソルシエラは用が済んだとでも言いたげにわざとらしく鼻を鳴らしてサソリに乗って部屋へと戻っていく。

 その背中をガーデナーは笑みを携えて追った。

 

 

 

 

 

 

 堕落のソルシエラ達が戻った時、部屋は少しだけ綺麗になっていた。

 

「お、掃除してくれたの? ありがと」

「次からは自分でやりなさい。堕落にも品格が必要よ」

「流石オリジナル、言う事がダルいなぁ」

 

 ソルシエラはまだ何か言いたげだったが、ラッカがその肩に手を置いて静かに首を横に振ったことで諦めた。

 部屋にあったゴミはいくつかのゴミ袋にまとめられている。

 少しだけ広くなった部屋の中心に来た堕落のソルシエラは、自分に注目を集めるように咳払いをした。

 

「えー、ではでは皆の準備が出来ているなら悲哀のソルシエラを倒しに行きましょう」

「おー! ほら、求道者も!」

「やらないわよ、面倒くさい」

 

 ラッカに不用意に絡まれるのが嫌なのかソルシエラは赫夜牟を間に挟んで距離を取る。

 しかし、離れた先にはガーデナーがいた。

 

「ソルソル、次のソルシエラはどんなお洋服なんだろうね。悲哀だから……悲シエラだね!」

「緊張感というものが無いのかしら」

 

 ソルシエラの呟きを無視して、部屋の中央から転移魔法陣が展開される。

 

「それじゃ、行こうか」

 

 堕落のソルシエラはそう言ってサソリの尾に体を預けた。

 その瞬間、ソルシエラ達の姿は部屋から消える。

 

 残されたモニターの明かりだけが、部屋を寂しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ソールソルソル! 悲哀のソルシエラ、今度はどんなコンテンツが待っているのか楽しみソルねぇ!』

『よだれが止まらねえや^^』

『おぉ……赫夜牟よ、はぐれないように手はしっかり握っておくのだ』

『はい、カメ先生!』

 

 

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