【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第362話 5‐3 悲哀の彼岸

 転移魔法陣を抜けた先でガーデナーの目に映ったのは、青白いクラゲであった。

 まるで夜明け前の空のような紫がかった青いライトに照らされた水槽の中をクラゲが自由に泳ぎ回っている。

 

「……水族館?」

 

 辺りを見渡してラッカがそう呟く。

 周囲は薄暗く、大小様々な水槽の中には多くの海洋生物が泳ぎ回っていた。

 

「ここが悲哀のソルシエラの領地だよ。既に敵地だから油断はしないようにね」

 

 堕落のソルシエラの言葉に各々が頷く。

 そして歩みを進めようとしたその時だった。

 

「――あ、お客さんだ!」

「っ!?」

 

 声のする方を振り返れば、そこにはやや幼いソルシエラが立っていた。

 オーバーオールの作業着はサイズが大きいのか、随分と隙間がある。

 被っている帽子もやや大きく、彼女の目を殆ど隠していた。

 銀の髪を帽子の中にまとめたそのソルシエラは、バケツを片手にガーデナーたちへと駆け寄る。

 

「あの今日はもう閉館です。 早く帰らないと、クラゲになっちゃいますよー!」

「……ああ、そうだね。出口はどっちだったかな。ここ、広くて迷っちゃったんだ」

 

 堕落のソルシエラの言葉にそのソルシエラは納得したように頷く。

 そして「付いてきてください」と言って先陣を切って歩き始めた。

 

「とりあえず、付いて行こう」

 

 堕落のソルシエラの言葉にガーデナー達は頷き、ソルシエラの後を追う。

 バケツを揺らし歩くソルシエラを見ながら堕落のソルシエラはそっと耳打ちした。

 

「アレは悲哀のソルシエラの眷属。兵士エラだ。見た目が幼い奴ほど警戒した方がいいよ。その分のエネルギーを戦闘に割り振っているだろうから」

「……もしかして兵士エラって全員小さいの?」

「だいたいはそう。私達13人のソルシエラとは違って、兵士エラみたいな子は与えられるエネルギーの上限が決まっているから。兵士の役割があるなら身長や知能に盛るより、戦闘にスキルポイントを割り振った方がいいでしょ? だから遠慮なく戦って。下手したらこっちが負けるよ」

「成程……ちなみにダラちゃんの兵士エラは?」

「これ」

 

 堕落のソルシエラはサソリの機械を小突く。

 

「私は全員まとめてこいつにした。有象無象を増やすと管理が面倒くさいからね」

「なぜ美少女にしなかったの!?」

「安易な美少女化はダルい、嫌い、芸がない」

 

 ガーデナーの言葉をそう切り捨てた堕落のソルシエラは兵士エラの後を追っていく。

 頬を膨らませたガーデナーは、ソルシエラへと体を寄せ囁いた。

 

「ソルソル、どう思う? あのサソリも美少女にした方がいいよね?」

「わざわざそれを言うために来たの? どうかしているわよ貴女」

 

 ソルシエラもそう言って突き放すと堕落のソルシエラの後ろを付いて行った。

 赫夜牟は項垂れるガーデナーを見て鼻で笑い通り過ぎる。

 

「そんな……きっと素敵な長身無口メイドソルシエラになるのに……」

 

 落ち込むガーデナーの肩を、ラッカが叩く。

 そして力強く頷いた。

 

「私は良いと思うよ……!」

「先生……!」

 

 ガーデナーはラッカと力強い抱擁を交わす。

 そしてそのまま堕落のソルシエラ達の後を追い始めた。

 

「何あのダルいやりとり。というか、抱き合ったまま歩くとかどういう事?」

「放っておきなさい。巻き込まれるわよ」

「そんなこと言って、ソルソルも混ざりたいんでしょー!」

「求道者って昔から寂しがりやだったもんねー!」

「……チッ」

 

 ソルシエラは舌打ちをして睨みつける。

 すると二人は肩をすくめて後ろに下がった。反省は当然していない。

 

「み、皆さん仲がいいんですね」

 

 兵士エラは後ろを見て笑顔を浮かべながらそう言うが、どうにも取り繕っている様子だ。

 その視線は、どう見てもラッカとガーデナーに注がれていた。

 

「こんな良い場所に来たのは初めてだから、テンションが上がっているんだと思う。ダルいよね、ごめん」

「いえいえ、楽しんでもらえたのなら何よりです。離れ離れになる前に、たくさん素敵な思い出を作ってください」

「……離れ離れ?」

「はい」

 

 兵士エラは頷く。

 

「人はいつか死にます。例外はありません。全ての終わりには悲しみが待っていると、館長は言っていました。だから、末日の眠りに見る夢を集めるのだと。それが生きるということであると……実は私達兵士エラはあんまりよくわかってないんですけどね」

 

 兵士エラはどこか恥ずかし気にそう言った。

 そこには自分たちが理解できない程の崇高な理念を掲げる者への誇らしさも見え隠れしている。

 

「間もなく出口です」

 

 薄暗い階段を兵士エラに続いて昇っていく。

 やがて出た先は、どうやら普段ショーを行っている場所のようだった。

 半円上に取り付けられた長椅子は、全て中央の巨大なプールへと向けられている。

 

 その場所は、今まさに多くの兵士エラによって清掃をされている最中だった。

 

「ごみは一つ残らず拾えー!」

「水垢を許すなー!」

「イルカさんに気持ちよく泳いでもらえー!」

 

 デッキブラシを持つ者、背負った籠にごみを入れて行く者、様々な兵士エラが己の役割を全うしている。

 やがてその中の一人がガーデナー達を見つけると、興味を示して駆け寄ってきた。

 

「お客さん!? もう今日はおしまいなのに!?」

「指令係さん、どうやらこのお客さん達迷っていたみたい。だから、私が案内して出口まで連れてくことにしたの」

「そっか!」

 

 指令係と呼ばれた兵士エラは納得したように頷く。

 オーバーオールの端に、クラゲのバッジが証のように付いていた。

 

「じゃあ安全に送ってあげ……」

 

 が、すぐにソルシエラを見て動きを止めた。

 

「……ん?」

「どうしたの、指令係さん」

「見回り係さん、こっちのソルシエラ達はモブシエラ?」

「違うの? 私たちと似た見た目だよ?」

「見回り係さん。もしかしてこの二人……」

 

 指令係がソルシエラをじっと見つめる。

 そして、ハッとして叫んだ。

 

「オリジナルと堕落だ! カチコミに来たんだー!」

 

 胸元にぶら下げていたホイッスルを手に取り、指令係は思い切り息を吸い込んで鳴らした。

 けたたましい音が辺りに響く。

 作業をしていた兵士エラたちは手を止め、全員が指令係へと視線をやった。

 

「何々?」

「急にびっくりした」

「今のって緊急事態ホイッスルの音だよね?」

「また戦争? 前に空想のソルシエラを倒したばっかりじゃん」

 

 小さな兵士エラ達はあっという間にガーデナー達を囲む。

 幼い体躯とは裏腹に、恐ろしいまでの重圧感を放っていた。

 

「……一体一体がAランク探索者相当か。こうしてみると、厄介だね」

「気を付けて。中には鏡界に転がっていた物を吸収して強くなっている個体もいる」

「転がってた物……!?」

 

 ガーデナーは兵士エラ達を観察する。

 その目はやや血走っていた。

 

「それって葉っぱとか羽根とか鉱石とか!?」

「……そ、そうだけど。え、どうしたのガーデナー」

 

 突然様子が変わったガーデナーに、堕落のソルシエラは若干引き気味に問いかける。

 

「ここかぁ……新しい周回場所は……」

「あ、スイッチはいった。この子はこうなると止まらないよ」

「なんでもいいけれど、無駄話の時間はなさそうよ。さっさと構えなさい」

 

 ソルシエラは大鎌を召喚し構える。

 周りは兵士エラに包囲されていた。

 

「兵士エラの皆、フォーメーション、パシフィエラ!」

「やれー!」

「大海に流せー!」

「丁度サメさんのエサが欲しかった」

「細切れにしろー!」

「サソリってうちで飼育できるかな?」

「館長に後で聞いてみよ」

「武器がないよ! 誰か頂戴ー!」

 

 まるで波が小舟を飲み込むが如く勢いで兵士エラ達は増えていく。

 その様子を見て堕落のソルシエラはサソリに座り直した。

 

「外の警備をしている奴らも呼ばれたら厄介だ。ここにいる奴らをさっさと片付けるよ。戦闘は必要最低限で」

「赫夜牟、暴れて良いわよ」

「ハッ、準備運動にもならぬわぁ!」

 

 ガーデナーへと目をやって、堕落のソルシエラは不敵に笑う。

 

「チュートリアルとしては十分すぎるでしょ。私を使いこなしてよ、ガーデナー」

「任せて。それじゃあ皆、いこう!」

 

 ガーデナーの号令の元、戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

『おぉ……お ぉ !』

『水族館だし幼いソルシエラ多いし、ここカメの家だろ』

『幼き波動を感じる……。一つ一つは弱いが、集まり大きな波動となっている!素晴らしい! 後でカメさんクッキーをお土産として販売できないか打診しなければ』

『どっちの味方だお前』

『主殿、本当にこいつらも殺さないのか?』

『絶対ダメ! こんなに可愛くて仕事熱心な子たちを殺せません! 素材を抜き取って、戦う力を奪うだけにしてくれ! 本当は悲哀のソルシエラだって殺したくないんだから!』

『オーダーが面倒くさいねぇ』

『お ぉ ! 他の場所の兵士エラもこんな姿なのだろうか!』

『黙ってろ海洋生物』

 

 

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