【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
いやぁ、兵士エラちゃんは強敵でしたね!
『所詮は可愛いだけの有象無象だねぇ。目を回して可愛いね♥ 後で相棒と一緒にまとめて頂いて……いや、この子たちにぐちゃトロにされる相棒を見るのも一興か?』
おっと、ここにもう一体倒さなきゃいけない奴がいたようだ。
『マイロード……ありがとう……この子たちを殺さないでいてくれて。本当にありがとう……』
『想像よりは手こずったが、勝てたのじゃ』
俺達の前には、目をグルグルに回して倒れる兵士エラ達の姿。
武器であるブラシやバケツは破壊され、力の源であった素材を抜き取られてへなへなになっているようだった。
「つ、強いよ」
「これが末日……」
「こうなる前に有給とっておけばよかったー」
「ごめん、イルカさん、サメさん。もうエサをあげられないよ……」
負けた姿もなんと可愛い事か。
俺も兵士エラ欲しいなぁ。
ミユメちゃんの発明品にうっかり触って、可愛い本音ばかり喋る兵士エラが召喚されるほのぼの日常回したいなぁ。
『可愛い本音でどうして正気度をチェックするんだい?』
『主殿の本音はその……』
カメさん!
『おぉ……マイロードよ、きっと貴女に似て可愛らしい兵士エラになるだろう』
これで2対2だな!
ぜってえ負けねえぞ!
「Aランクはあるかな。ま、私たち相手によくやった方だよ」
ラッカちゃんは槍の先でツンツンとつきながらそう言った。
横では一息ついたダラシエラがサソリの上で寝そべってジュースを飲んでいる。
そんなに無防備な恰好して……!
『あっちも良いなぁ^^』
ほら、ここにやばい奴いるんだから止めなさい!
「だらしないわよ、堕落のソルシエラ。まだ増援が来る可能性があるのだから警戒しなさい」
「オリジナルは真面目だなぁ。そういうの、ダルいから任せるよ」
堕落のソルシエラはそう言ってサソリの中から携帯ゲーム機を取り出し触り始めた。
そのすぐ傍では、恍惚とした笑みでガーデナーが素材を拡張領域に放り投げている。
「ヨシ! ヨシ! ヨオォォォシ! これで水着ミズヒちゃんを最終覚醒までもっていける!」
!?
「ミズヒ先輩……!?」
「ん? どうしたのソルソル」
思わず驚いてしまった俺を見て、ガーデナーが首を傾げる。
これを好機とみて、ソルシエラにしては珍しい後輩ムーブコンテンツを繰り出そうとしたその時だった。
「――やはり、こうなってしまいましたか」
落ち着き払った氷のような声が響く。
プールの奥、ショーで使われる白いステージの上に一人の少女が立っていた。
「あ、館長!」
「館長だ!」
「来てくれたんだ! 館長ー!」
倒れていた兵士エラ達が表情を明るくして顔を上げる。
その反応と呼び名から、少女の正体を考える必要もない。
水を機織りしたかのような青く優雅なフィッシュテールのドレスはまるで鑑賞魚のように美しい。
膝裏まで伸びたゆるくウェーブのかかった髪は本来のソルシエラよりも青く輝いていた。
そして何よりも目を引くのは、細やかな銀の刺繍が為された目隠しである。
俺よりも少しだけ成長した姿の彼女は、その目隠しも相まって今まで会ったソルシエラの中で最も姿がかけ離れているように見えた。
「あれが悲哀のソルシエラだよ」
堕落のソルシエラは顔を顰めてそう言った。
今しがた取り出したばかりのゲーム機をしまい込み、ため息をつく。
「1マッチくらいは出来ると思ってたけど、早い登場だね」
「堕落のソルシエラですか。前は客人として迎えましたが、どうやら今回は敵のようですね。……やはり、私たちは争う事しか出来ない」
悲哀のソルシエラは悲し気にそう言って首を横に振っていた。
はい、ちょっと集合。
『なんだいあの胸元が大きく空いたドレスは! アレが悲哀のソルシエラの能力か!? エッチな子だねぇ!』
『幼くない……』
『そこじゃないじゃろ、二人とも。主殿、警戒せよ。今までのソルシエラとは訳が違う。確かに強者じゃ。仮に全盛期の我でも油断すれば負けてしまうかもしれない』
今が全盛期だよ^^
『絶対に認めないのじゃ』
可愛いのじゃロリは一旦置いておいて、品評といこうか!
見てくれ、あの着せ替え衣装で後に実装されそうなやや露出度の高めなドレス。
背中が見えないけど、あの感じきっと大胆に開いてるぜ!
『目隠し! 目隠し! おとなびた雰囲気の彼女と掛け合わさるとどこかインモラルで素直にエッチだ^^ ドレスなのに、どうしてそんなに品のないエチエチな子になるんだい?』
『幼くない……』
それにあの水色のオペラグローブを見てくれよ!
くっ、品とえっちっちが同居していやがる!
あんなに露出度が高いドレスなのに胸が決して大きすぎるわけではないのも評価したいぞ!
成長はしているが、控えめなのも素晴らしい。拍手と共にこの『コンテンツ星詠み勲章』を授けたい。
中々のコンテンツ力だ。
総評、えっちなソシャゲのえっちなお姉さんになっちゃったシエラです。
『ふざけた評価。絶対今する必要ないのじゃ』
『もう涎ジュルジュルです^^』
『戦いに集中して欲しいのじゃ』
『幼くない……』
『いい加減切り替えるのじゃカメ先生』
こんなコンテンツ力の化け物に、俺は対抗できるのか……!?
くっ。
『くっ』
■
空気が変わった。
誰も口にはしないが、明確にそう感じていた。
少女からは物悲しい雰囲気が感じ取れる。
これから戦う相手、つまりは敵を前にしているのに胸を締め付けるような苦しみがそこにはあった。
悲哀という名にこちらが連想しているのか、あるいは少女の口元が常に悲し気に歪んでいるのが原因か。
まるで身を捧げる寸前のような彼女は、確かに悲哀のソルシエラと呼ぶにふさわしい。
「貴女がオリジナルですか」
悲哀のソルシエラは見えているかのようにソルシエラへと顔を向ける。
「だったら何かしら。ああ、命乞いなら無駄よ。既にこっちはだらしのない子を一人抱えているから、貴女を受け入れる余裕はないの」
「ママ~! ……いや、ごめん。そんな顔しないでよオリジナル。ちょっと空気変えようとしただけじゃん」
二人のやり取りを完全に無視して、悲哀のソルシエラは首を横にふった。
「死は必ず訪れるもの。生まれから歪な私たちにとっては身近なものとすら言えます。何を恐れることがあるのでしょうか、ただ死ぬ時が来たというだけなのに」
「そうか、ならさっさと私達に殺されてくれると助かる。同じソルシエラのよしみじゃないか。力を寄こしてくたばってくれよ」
堕落のソルシエラの言葉に賛同するように、サソリは鋏をカチカチと鳴らす。
戦いが避けらないことは明白であった。
「死は必ず訪れる。ならば――」
悲哀のソルシエラは武器となるタクトを取り出した。
その瞬間、何もいなかったはずの巨大なプールが波打ち、半透明のイルカが飛び跳ねる。
周囲には色とりどりのクラゲが宙を舞い、遠くでクジラの鳴く声が響いていた。
「自ら死を迎えに行く必要はないでしょう。末日にも日和がある。そうは思いませんか? 堕落のソルシエラ、オリジナル」
「思わないね。絶好の死に日和なんてあってたまるか」
「くだらない。まるで老人のような考えで嫌になるわ」
悲哀のソルシエラは悲しそうにクラゲへと体を預ける。
「やはり、ソルシエラ同士でもわかり合えないのですね。それでは、最後の一幕を始めましょうか」
「ガーデナー、来るよ!」
「うん、行くよダラちゃん!」
各々が得物を構える。
悲哀のソルシエラとの戦いの幕は、今上がった。
『死を本当は誰よりも恐れているソルシエラにとってはきっと悲哀のソルシエラは色々と辛い敵になるだろうね!』
『客観視が出来ていて偉いぞマイロード!』
『これはたぶん客観視とは違うのじゃ』
『あー、死よりも快楽に目覚めさせたいねぇ^^』