【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「な、なんでこんな目にあってるのー!?」
トアは心からそう叫んだ。
今、パイプ椅子に紐でグルグル巻きにされた彼女の周りをミズヒとミロク、そしてクラムが囲んでいた。
気が付いたらフェクトムに立っていた彼女は、何故か血相を変えてきたミズヒに何故か捕獲。そして一番ボロボロの廃教室に何故か連行されていた。
初めは自分の知らないところで生まれた悪ふざけだと思い困惑しながらも成り行きを見守っていたトアだったが、血走った目で駆け付けたクラムを見てただならぬ事態に巻き込まれたのだと悟ったのである。
「わ、私何かしたかな……?」
「へぇ、随分と面白い事言うねえ。マーちゃんズの威力を知らないわけじゃないでしょ?」
「ひ、ひええええ!?」
「こっちはアイお義兄さんの貴重なお話を拝聴していたというのに……! ケイの幼少期第3章6節までしか聞いてないのに……!」
私情をふんだんに込めて、クラムは人吞み蛙を召喚する。
可愛らしい動作でトアの体をよじ登っていくそれは、紛れもない爆弾であった。
「アイお義兄さんの分まで私が尋問するって約束したんだ。だから、仲良くしようね、オラ早く吐けよ」
震えるトアの両肩に乗った人吞み蛙が喉を鳴らす。
それだけの行動が、まるで時限爆弾のカウントに思えてトアは目にいっぱいの涙を溜めて叫んだ。
「ごめんなさーい! クラムちゃんのイチゴタルト勝手に食べたの謝るからぁ!」
「あっ、それもお前かぁ! 楽しみにとっておいたのに!」
クラムは胸倉をつかんでガタガタと揺らす。
その目は号泣と疲労と睡眠不足のせいで魔眼のごとく血走っていた。
「だずげでー!ミロクちゃーん! ミズヒちゃーん!」
「「はぁ……」」
暫くクラムとのやり取りを観察していた二人だったが、ため息をつく。
ミロクはそれからポケットから小瓶を一つ取り出した。
「な、なにそれ?」
「ミユメちゃんが作った『覚醒! エントロピークver1.02』です。早い話が私がよく使ってる注射の改良版です。0号の助けもあって、より安全に、かつ美味しく仕上がりました」
キャップを外しながらそう言ったミロクは、仄かにメロンの香りが漂う小瓶に口を付ける。
そして一気に飲み干した。
「……あ、結構おいしい」
ミロクは小さく呟くと、翡翠色の拳銃を懐から取り出す。
それを見て、トアは首を傾げた。
「え? ミロクちゃん、いつの間に武装を変えたの?」
「ナナちゃん、お願いします」
『わかりました故』
翡翠色の銃がそう答える。
瞬間、引き金が自動で引かれ一発の銃弾が飛び出した。
それはダンジョンのコアによく似た役割を果たし、辺りをあっという間に別の景色に変える。
ボロボロの教室は、気が付けば灼熱の砂漠と化していた。
『星蝕、形態移行完了です故』
「え、ええぇぇぇぇ!? なんで!? その声ナナちゃんだよね!? どうしてミロクちゃんが!? というか、ここはどこ!? 暑いんだけど!」
「ここは私とナナちゃんのための世界です。ナナちゃん、お願いします」
『前提規則。月宮トアは嘘をついてはならない』
ミロクは一人ビーチパラソルの中でほほ笑んでいる。
指を鳴らした瞬間、目の前にブルーハワイのかき氷が現れた。
それをトアに見せつけるようにして、ミロクは口に運ぶ。
「んー、味の再現も中々ですね」
「……な、なんでこんな惨いことを」
「お前がいつまで経ってもしらを切ろうとするからだ。ネームレス」
「ミズヒちゃん、それってどういう事……?」
突き付けられた銃口と言葉にトアは首を傾げる。
「ネームレスの正体ってわからないんじゃないの?」
「……トア、お前のここ最近の行動を説明してみろ」
「え、えっと……フェクトム以外が大変な事になったから、リュウコちゃん達と協力して……頑張った?」
あまりにも大雑把な説明に、暫し沈黙が流れる。
彼女の背後では、呆れた様子でクラムが人吞み蛙の群れに寄りかかり、紫色のかき氷を食べ始めていた。
「ソルシエラについて、お前が知っていることを全て話せ」
「知っている事……? 強くて、凄くて……あ、後は実は優しいんじゃないかなって思うんだ。何度も私達を助けてくれたし!」
「……そうか」
ミズヒは思考した後、引き金に指を掛ける。
そして、縛り上げている紐へと銃口を向けて引いた。
焔は他の物は燃やさずに、紐だけを灰に変える。
自由の身になったトアは安堵の息を吐きながら、椅子に深く体を預けた。
そんな彼女の前に、黄色のシロップが掛けられたかき氷が差し出される。
「あっ、ありがとう!」
笑顔と共にそれを受け取ったトアは、迷わず口にした。
「……食べましたね?」
「え?」
「ミユメちゃん、予定通り食べましたよ」
「わかったっすー!」
「え? え?」
困惑するトアをおいて、世界が再び書き換わる。
そこは見覚えのあるミユメのラボであった。
「な……え? どういう事???」
「最初から、私たちはミユメちゃんのラボにいたんですよ。そして、トアちゃんが今食べたのは……ミユメちゃんが作った『心飛び越えおくちアンロック』です。何でも正直に話してしまうお薬ですよ」
「…………え、こ、こんなに美味しいのに!?」
「もうこの答えでトアちゃんでしかない気がするっす」
ミユメはそう言いながら、ソファの影からひょっこりと顔を出した。
その目は幾何学模様が浮かび上がり、輝いている。
真理の魔眼が発動していることは、誰の目に見ても明らかだ。
「うーん、脳に細工をされているっすね。それに魂にも妙な痕跡がある。ソルシエラの干渉によく似た魔法式っすけど――」
トアを見つめながら、ミユメはブツブツと呟く。
気まずそうに目を逸らした先で、たまたまミズヒと目が合った。
ミズヒは何も言わずじっとトアを見つめ返す。それが気まずくて真反対へと視線を移すと、血走った目と視線があった。
「ひえ」
「私のケイに傷をつけた罪は重い」
「な、なんで急にケイ君の話を……? と、というか別にクラムちゃんのじゃないし! わっ、私も好きだし!」
「おー、薬の効果が効いているっすねー」
満足そうなミユメとは対照的に、クラムの顔からは完全に感情が抜け落ちていた。
「は?」
自分でも驚くくらいに低い声を出したクラムに、ミロクは笑顔のまま声を掛ける。
「そうですね。それは後で皆で
「上等だよやってやるよ」
ミロクとクラムは互いに笑顔のまま頷く。
完全に私情を持ち込んでいる二人を他所に、トアを観察し終えたミユメは頷く。
「うん。やっぱり今のトアちゃんはただのトアちゃんっすね! ネームレスでもなんでもないっす!」
「最初からそう言ってるのにー!」
「ただ、魂におかしな痕跡があるのも事実っす。誰かがこの体を無理矢理乗っ取っていたと考えるのが自然っすね」
「……ヒカリとプロフェッサーみたいなものか」
クラムの言葉にミユメは首肯する。
対して、トアは不安そうに全員の表情を伺っていた。
「こ、これで私の疑いは晴れたの……? そもそもどうして私がネームレスだと疑われたのかすらわからないよぉ……。お腹空いた……眠い……新しいお洋服が欲しい……お腹空いた……」
「薬のせいで、滅茶苦茶わがままで空気読めない奴になったな」
お腹の音も、心なしか大きかった。
「兎も角、まだ細工があるかもしれないので暫くはミズヒさんか私が常に傍にいた方が良いかもしれないっすねー。戦闘になった時、対応できるようにしないと」
「あら、私は仲間外れですか?」
「ミロクさんは無理しすぎっす。今だって、星蝕を躊躇なく使用して……ドクターストップっす!」
腕を大きく振って怒りを表しながらミユメはそう告げる。
と、その時だった。
「――おやおや、これは嬉しいサプライズだねぇ。生け捕りに出来たとは」
弛緩していた空気が、再び張り詰める。
まだトアに疑いをもっているミロクですら、彼女を庇うように立った。
そうでもしないと、この声の主は今すぐ彼女を殺してしまいかねないからだ。
「……0号にはケイちゃんの警護をお願いしていた筈ですが?」
ミロクは冷静にそう言いながら、ミズヒに目配せをする。
それに気が付いたミズヒは、焔による転移をいつでも行うために銃口をトアへと向けた。
0号は、それを見て敢えて笑顔を作る。
「私の
そう、彼女は笑っていた。
その目の奥に狂気と憤怒を押し込め、それでも笑顔を作り上げている。
「少し、私とお話をしようか。月宮トア」
その言葉に、トアは頷くことしか出来なかった。
『ロリの次はこっちを泣かせるか^^』
『やめろ、どう見てもネームレスじゃなくてトアちゃんじゃん。美少女の輝きがそう言っている』
『我には主殿の言っている意味が分からないのじゃ……』
『おぉ……正直、こっちよりもあっちを見ていたいぞマイロード』