【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第367話 観測者たちの此岸

 ネームレスを捕まえたと聞いたから、水族館ロリ館長から視点を変えてみれば……トアちゃんじゃないか!

 この美少女の輝き、間違いない。彼女は本物のトアちゃんです!

 

『相変わらず狂った目をしているねぇ』

『おぉ……私だけあっちに居ても良いか……? 悲哀のソルシエラが泣いているので、カメさんグッズで笑顔にしなければ……』

 

 カメさん、私といっしょにいてー!

 いっしょじゃなきゃ、いやだー! 

 

『わかった。ここで一緒に見ていよう』

『こいつチョロいな』

『カメ先生……』

 

 皆の心はいつも一つ!

 

 今は、のこのこ帰ってきたトアちゃんを受け入れる番だ。

 しかしこうなると、更に混乱するな……。

 トアちゃん=ネームレスじゃないのか?

 

『ははは、相棒。君は一つ重要なコンテンツを忘れているのではないかな?』

 

 な、なんだと……?

 

『二重人格』

 

 !?

 確かに、普段の温厚食いしん坊キャラとネームレスのようなミステリアス性悪美少女との性格の組み合わせはコンテンツ的に美しい!

 一理どころか百理あるだろ。

 

『ないのじゃ……』

 

 あるって言え。

 

『あるのじゃ』

『しかし、帰ってきた意図がわからないねぇ』

 

 星詠みの杖君、まずは0号としてクールに情報収集をするんだ。

 

『おっけ^^ ギャン泣きさせる^^』

 

 絶対駄目です!

 動くな! 美少女コンテンツ国際警察だッ!

 トア虐は美少女コンテンツ国際法によって禁じられている!

 

『こんな奴に法の力を持たせた奴誰だよ』

 

 トアちゃんは笑顔でごはんを食べてればいいの。

 もうそれ以上は望まないんだ。

 

 戦いに疲弊したソルシエラにとって、トアちゃんは日常の象徴のような存在なんだよ。

 だからこそ、裏切られたソルシエラの心は容易く壊れてしまったんだねぇ!

 

 記憶喪失のソルシエラを見て、トアちゃんはどう思うのかな?

 あ、もうソルシエラであったという記憶すらないから、今は空っぽの那滝ケイだね^^

 君との思い出ももうないね^^

 

『やっぱりヴィランじゃないか』

 

 無理やり泣かせるのは駄目だよ。

 でもトアちゃんが記憶喪失のソルシエラを見て曇るのは法的に何も問題ないです。

 

『コンテンツ三店方式?』

 

 さあ、俺の代わりにトアちゃんとコンテンツを生み出せ。

 ソルシエラが記憶喪失であると伝えるんだ!

 もしかしたら、ネームレスの人格がビックリして出てくるかもしれない。

 

『そもそも本当に二重人格なのかわからないのじゃ。我たちのように、中に誰かいた可能性もあるのじゃ』

 

 二重人格の方が美味しいから二重人格だよ。

 

『えぇ……』

 

 0号はトアちゃんを観察するように鋭い視線を向け、やがて鼻で笑った。

 

「ふん、よくもここに姿を現せたものだねぇ。余程自分の腕に覚えがあるのか、あるいは大馬鹿者か」

「え、えっと……ソルシエラ?」

 

 トアちゃんは恐る恐るそう問いかけ首を傾げた。

 すっとぼけにしても無理があるだろ。

 

「……成程、まだ人を馬鹿にする余裕があるようだ。安心するといい。生を自ら手放したくなるほどの苦痛を味わわせてやる」

「ひっ……」

 

 泣かせるなって言ってんだろ!

 

『どうしろってんだ』

『……というか、この様子だと本当に知らないのではないか? 主殿、この者は本当に怯えているのじゃ』

 

 うーん、確かに怯えてプルプルしてるなぁ……。

 

「待ってください0号!」

「蒼星ミロク、貴様は下がっていろ。邪魔だ」

 

 0号はミロクを見下す様な視線を向ける。

 と、その時彼女の持っている翡翠色の銃が突然輝きだした。

 うおっ、眩し。

 

『この波動は……幼き命の波動!』

 

 カメ君の言葉を証明するように、光はナナちゃんへと変化した。

 な、なんだこれ……何がどうなっている……?

 

『おぉ……赫夜牟よ、あれがシエルだ。気軽にナナちゃんと呼ぶと良い。お前のお友達だ』

『な、仲良くなれるのか不安じゃ』

 

 後で紹介してあげるからね。

 現世のゲームに心奪われる赫夜牟ちゃんというコンテンツを生み出そうね。生み出せ。

 

『我の未来、確定しすぎじゃ』

 

 将来安泰じゃないか。

 

「姉上、お待ちください」

「シエル、お前まで私に逆らうのか? 人間に絆されたのかい?」

「私たちは既に星蝕を使用しました。今のトアが何も知らないことは証明済みです故」

「星蝕を使っただと……?」

「はい。更に、ミユメの発明した自白剤により今のトアは嘘をつけません。多くの尋問を実施しましたが、今のトアは記憶喪失の状態にあると思われます故」

 

 データが!

 データがないよ!

 

 色々とデータが無いよ!

 

『星蝕ってそんな気軽に使えるものではない筈なんだがねぇ。使用者の命と引き換えに私を封印凍結するための最終手段なんだが』

 

 だがミロク先輩という美少女と契約していたのなら……?

 

『死すらも跳ねのけるだろう^^』

 

 やはり美少女エネルギー!

 美少女エネルギーは全てを解決する……!

 

 それはそれとして、トアちゃんが記憶喪失なのはどうして?

 記憶喪失と記憶喪失でコンテンツが鉢合わせになっちゃったよぉ><

 

「姉上、プロフェッサーの事を覚えているでしょうか。奴のように、ネームレスはトアの体を乗っ取っていた可能性があります故」

「その言葉を信じろと?」

「私が姉上に嘘をつく理由はありません」

 

 ナナちゃんは0号を見上げて淡々と告げる。

 その後ろではトアちゃんが涙目でプルプルと震えていた。

 

 ど、どうしよう。

 一旦退却ソル!

 態勢を整えて、記憶喪失コンテンツの楽しみ方を考えるソルよ!

 

『おぉ……シエル。流石の論理的幼き思考。後でギフトカードを贈らねば……』

 

 それ教育に悪いから止めろってミロク先輩が言ってたよ。

 

 星詠みの杖君、早く退却するんだ!

 記憶喪失の奴相手に尋問プレイしてもしょうがねえ!

 

 次なるコンテンツ『記憶喪失のソルシエラとトアちゃんのどこか遠慮した距離感と会話』のチャート制作に移るんだ!

 

『忙しいねぇ』

 

 

 

 

 

 0号は暫しの沈黙の後、不機嫌であることを隠そうともせずに頷いた。

 

「わかった、いいだろう。可愛い妹の言葉だ、信じてやるとしよう」

「ありがとうございます」

「ただし――」

 

 誰も反応すらできなかった。

 気が付けば0号は大鎌の切っ先を、トアの喉元へと突き付けている。

 その目は冷たく無機質であり、トアを殺す対象としか捉えていないようだった。

 

「私は必要であればすぐにでもこいつを殺す。私はマスターと違ってお人好しではないからねぇ」

「っ、ご、ごめんな、さ、い……」

「謝るのか? 君は記憶がないのだろう? その謝罪は保身の為か? 愚かな」

「0号、それ以上は止めろ」

 

 ミズヒの銃口は既に0号へと向いていた。

 迸る焔は切っ掛けさえあればすぐにでも0号に放たれるだろう。

 暫く、辺りを沈黙が支配する。

 

 やがて声を上げたのは、0号だった。

 

「……つまらない。せっかく殺せると思ったのにねぇ」

 

 大鎌を消失させ、0号は踵を返す。

 

「シエル、きちんと見張っているように。お前まで私を失望させるなよ?」

「……はい、姉上。心得ております故」

「なら良い」

 

 0号は転移魔法陣を展開すると、その場から姿を消した。

 それから数秒して、ようやく世界が動き出す。

 

「……相変わらずアイツ怖いわ。まあ、ケイの番犬としては優秀すぎるけど」

 

 クラムはソファに座り込んでそう呟く。

 取り敢えずの危機が去って安堵していた面々だが、トアだけは違った。

 

「ね、ねえミロクちゃん。わたっ、わたし、何かしたの……?」

 

 震える声で、トアは問いかける。

 その顔は真っ青であり、今にも倒れそうだった。

 

 ミロクはすぐさま笑みを作って、トアをいつもの様に撫でる。

 

「いいえ、疑いは殆ど晴れました。安心してください。ほんの些細な行き違いだったんです」

「そ、そうなのかな……? それに0号ってソルシエラにそっくりだった……」

「……それも覚えてないの?」

「ご、ごめんなさい」

 

 クラムの問いにトアは頭を下げる。

 

「謝らなくていい。0号はソルシエラと契約したデモンズギアだ。少し気難しいが、悪い奴ではない」

「こ、怖い人だったよ……。もう会いたくない……」

 

 トアは正直にそう答えた。

 ミズヒの言う『悪い奴ではない』という評は、先ほどの恐ろしい姿が脳裏に焼き付いたトアにはにわかに信じがたい話である。

 

「それとソルシエラの正体はケイだ。これは覚えているか?」

「…………え?」

 

 今までの不安や恐怖が吹き飛ぶ程の事実に頭を殴られたトアは目を丸くしてミズヒを見る。

 

「ソルシエラがケイ君……!?」

「そうだ」

「そんな……、そ、れって……」

「やはりそれも忘れていたんですね……。ソルシエラとネームレスに関する記憶が意図的に抜かれていると考えるのが自然でしょうか……」

「殺されてはいないけれど、実質口封じっすねコレ」

 

 話し合う彼女達へと、トアは震える声でこう言った。

 

「ソルシエラって、男の子なのにあんな恰好してたって事……!?」

「逆だよ逆。というか泣きながらそんな事聞くな。情緒どうなってんだ」

「自白剤のせいでトアちゃんおかしくなってるっすねー。いいサンプルっすよ」

「ん? やはりケイは男だったのか?」

「アンタまで勘違いするな。ややこしくなる」

 

 トアを囲んで話すミズヒ達を、ミロクは一歩引いた位置で見つめていた。

 その傍らで彼女の顔を見上げていたシエルは、ミロクにしか聞こえないように呟く。

 

「良かったですねミロク。こんな形ではありますが、全員がフェクトムに戻ってきました。にぎやかなこの空気は私も好きです故」

「……ええ。あの時、トアちゃんの手を取れなかった事は後悔していましたから」

 

 まだ疑いが完全に晴れた訳ではない。

 そう自分に言い聞かせながらも、安堵と共に力が抜けていくのが分かった。

 トアが帰ってきた、その事実はミロクの心を充分に軽くさせる。

 

(これがすぐに崩れ去る脆い幻想だとはわかっています。けれど……少しは浸っても良いのでしょうか)

 

 問題は山積みである。

 それでも今は、この仮初の幸せに夢を見ていたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな少女たちを見ている存在が屋根裏に一人、体の中には大勢。

 

『トアちゃんを泣かせた責任を取って、俺とリュウコちゃんで腹を切って詫びます』

『あぁ~^^ ああいう子を泣かせると心が躍るねぇ!』

『ちょっとわかるのじゃ』

『赫夜牟! そんな酷い子に育てた覚えはないぞ!』

『ヨシ! こっちは一旦置いておいて、ソルシエランドに戻ろう。フェクトムとソルシエランドの摂取でだんだん整ってきたな!』

『イカれた交互浴』

 

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