【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第371話 6‐4それを献身と呼ぶならば

 ソルシエラ水族館が騒がしくなり始める。

 凄まじい揺れの後の館内は、兵士エラ達が慌ただしく右往左往していた。

 

「戦闘係さんはこっちー! お掃除係さん達はこっちに逃げてー!」

 

 拡声器を使って、一人の兵士エラが館内の兵士エラ達へと命令をする。

 逃げる兵士エラの中の一人は立ち止まると、不安そうに答えた。

 

「戦闘係さんは、さっきガーデナーさんに全員負けて弱くなっちゃったよー!」

「……じゃあ全員、こっちに逃げてー! 館長たちの所に走ってー!」

「「「わー!」」」

 

 わたわたと兵士エラ達が逃げ出す。

 

 その時だった。

 来場者用のゲートが無理やりこじ開けられ、水族館内へと赤いカーペットが伸びる。

 そして、一人のソルシエラを筆頭として奉仕エラ達が中へと入ってきた。

 

「ご奉仕の時間だ。ご主人様共」

「ほ、奉仕エラ……!? まずいよ、献身のソルシエラのカチコミだー!」

「は、早く館長に知らせないと! 皆急いで逃げてー!」

 

 蜘蛛の子を散らす様に奥へと駆けていく兵士エラ達だったが、逃げ遅れた数名はあっという間に奉仕エラ達に捕まってしまった。

 

「は、離せ―!」

「素材さえ奪われていなければー!」

 

 奉仕エラ達に抱きかかえられた兵士エラ達は足をばたつかせるが、もはや無力な子供である彼女達には拘束を振りほどくことなど出来なかった。

 

「これはこれは、随分と小さくてかわいい従業員さんだ」

 

 献身のソルシエラは兵士エラ達へと近づくと、その顔を覗き込み頭を撫でる。

 兵士エラ達は目に涙を溜めてキッと睨みつけるが、恐ろしさは微塵も感じない。

 

 それどころか、その姿を見て献身のソルシエラは思わず笑みをこぼした。

 

「ふっ、安心してくれ。僕たちのご奉仕は老若男女を問わずに捧げるものだ。当然、君達にもその権利がある。では――ご奉仕執行」

 

 パチン、と指を鳴らした瞬間兵士エラ達は突然現れたふかふかの椅子へと座らされる。

 そして各々の好物を差し出され、マッサージをされ始めた。

 

「て、てんごく……」

「なぜ私達にこんなことを……ケーキおいしー!」

「ふふっ、君達に聞きたいのは堕落のソルシエラが如何にして悲哀のソルシエラを討ち取ったか。出来れば弱点なんかも教えてくれると助かるね」

 

 マッサージをされながら好物を口に運ばれる姿はまるで兵士エラ達が奉仕されているように見える。

 が、その本質は限りなく拷問に近いと兵士エラ達は理解していた。

 

「言わないよ!」

「館長たちに迷惑はかけられない!」

「殊勝な心掛けだ。けれど、その強がりがいつまで持つかな? 僕たちのご奉仕を受けたが最後、君達は自ら情報を差し出すことになるだろう」

「「くっ……」」

「これを見るといい。僕が自ら腕によりをかけて作ったデラックスお星さまパフェだ」

 

 奉仕エラ達によって運ばれてきたのは、大きな皿にのせられた巨大なパフェであった。

 色とりどりの瑞々しいフルーツに、たっぷりのクリームが乗ったパフェは一瞬にして兵士エラ達の目を奪う。

 

「うわぁ……!」

「美味しそう!」

「極上のご奉仕を受けながら、食べたくはないかな? 本来であれば高貴エラでも一年前に予約しなければ食べることが出来ない超最高級スイーツ。味は献身の名で保証しよう」

「わ、私たちは……!」

「うぐ……た、食べたい……!」

 

 兵士エラ達は必死に我慢をしようとするが、既にその体は陥落寸前であった。

 差し出されるのはキラキラとしたパフェ。

 

 それは兵士エラ達にとっては地獄の拷問に等しい。

 

「う、うぅ……」

「ごめんなさい館長……」

 

 間もなく、二人の心が折れる。

 そしてご奉仕に身を任せようとしたその時だった。

 

「――丁度、甘味を欲していたのじゃ」

「っ!?」

 

 幼くも獰猛な声の後、奉仕達の持っていた皿ごとパフェが消える。

 そしてその場に一人の少女が降り立った。

 袖から這い出た触手が、器用にパフェを受け止めている。

 

「ハッ、この程度の加速にもついてこれないとは奉仕の名が泣くのぉ」

「あ、赫夜牟ちゃんだ!」

「助けて赫夜牟ちゃーん!」

「ちゃんは付けるでない。威厳が無くなるであろう」

 

 赫夜牟は自身の身長程あるパフェを空中に放り投げる。

 そして、一瞬自身を異形の姿に変えると容器ごとパフェを飲み込んだ。

 

 ガラスが砕けちる音を口内に響かせながら、赫夜牟は満足そうに頷く。

 

「うむ。幼子の次には美味であった。褒めてやろう」

「……君は、誰かな。オリジナルでもソルシエラでもないようだが」

「これから無様に死ぬ存在が、我の事を知る必要などないじゃろうて」

「……少し、わがままが過ぎるご主人様のようだ。砲撃奉仕部隊、前へ」

 

 献身のソルシエラは手を叩く。

 すると、彼女の前に綺麗に整列した五人の奉仕エラが現れた。

 箒型の魔力砲を手にした彼女達は、その銃口を赫夜牟へと向ける。

 

 献身のソルシエラは、赫夜牟を指さして言った。

 

「ご奉仕執行」

 

 銀の光が赫夜牟へと放たれる。

 それを前に赫夜牟は腕を組んだまま、微動だにしなかった。

 そして何かに気が付いたのかつまらなそうにつぶやく。

 

「別に我一人でも良かったのじゃが」

「そんなこと言わないでよ、一応私が最年長なんだから」

 

 風が巻き起こり、光をあっという間に散らす。

 槍を構えたラッカは赫夜牟へと振り返ると、ニッと笑って見せた。

 

 それに続いて、転移魔法陣が展開しガーデナー達が姿を現す。

 兵士エラ達は、それを見て表情を明るくさせた。

 

「館長ー! ガーデナーさん!」

「お待たせ! 行こう、ダラちゃん、ソルソル!」

 

 既に戦闘態勢だったソルシエラと堕落のソルシエラは前へと出る。

 献身のソルシエラはそれを見ると、深い笑みと共に礼をした。

 

「初めまして、オリジナル。私は献身のソルシエラ。貴女の最も醜い感情が生み出したソルシエラです」

「くだらない問答ならする気が無いわ。すぐに殺してあげる」

 

 ソルシエラは吐き捨て、大鎌を献身のソルシエラへと向ける。

 どうやら、ソルシエラには会話をする気がないようだ。

 

「堕落、さっさとあいつを殺すわよ」

「……少しは自分を殺すことに躊躇とかしたら?」

「そんなものは必要ないわ」

 

 吐き捨ててソルシエラは献身のソルシエラを見る。

 その目は、如何に彼女を効率的に殺すかのみを考えているようであった。

 

「こんなバカげた争い、さっさと終わらせるわよ」

 

 そうしてソルシエラが駆け出そうとしたその時だ。

 

「つまらぬのぉ」

 

 突然、触手が目の前に突き出され、ソルシエラは停止を余儀なくされる。

 非難を込めて視線を送れば、そこには口周りに付いたクリームを指先で拭い舐めている赫夜牟の姿があった。

 

「……なんの真似かしら」

「つまらぬと、そう言ったのじゃ。何度も同じことを言わせるでないわ」

 

 赫夜牟の袖口から這い出る触手が数を増やす。

 その先端は刃物のように鋭利であった。

 

「せっかくの祭り、何故我は暴れられぬ? トドメをソルシエラが刺せばよいのじゃろう? なら、戦い自体は我が楽しんでも問題あるまい」

「……この戦いは遊びではないのよ」

「貴様の為にある訳でもあるまい。下がっていろ、青二才。今一度、我が何故幻獣大戦の王と呼ばれていたのかを教えてやる」

 

 ソルシエラを手で制し、赫夜牟はラッカと堕落のソルシエラに並び立つ。

 

「結構いいやつだね、クソガキの癖に」

「ハッ、身長は大して変わらぬであろう。それに、我は自身を良い奴と評するほど自惚れてはおらぬ。ただ、そうじゃなぁ……」

 

 赫夜牟は小さな手を広げ、献身のソルシエラへと向ける。

 そしてその顔を握りつぶすような動作と共に笑った。

 

「ああいう、余裕綽々な小童を泣かせるのが趣味なだけじゃ」

「どうやら、あの子にはより素晴らしいご奉仕が必要なようだね」

「我に奉仕をするなら、赤子の一つや二つ持参する事じゃな。では――蹂躙といこうかの」

 

 赫夜牟は頬が裂けんばかりの笑みを浮かべる。

 怪物のような笑みが、この戦いの始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カッコイイぞー! 流石は私の教え子だぞー! おぉ……! 赫夜牟ー!』

『うるせえな、授業参観や運動会じゃないんだがねぇ』

『ふむ……ソルシエラご奉仕概念か……クラムちゃん脳焼きキットに加える価値があるな』

『パフェ、すんごく美味しかったのじゃ! おまけに殺しまで出来るなんて幸せなのじゃ! 頭をねじ切って脊髄を取り出すのじゃー!』

『やはり根はヴィランなんだねぇ』

 

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