【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第372話 6‐5それを献身と呼ぶならば

 かつて日本で起きたダンジョン空間の同時発生。

 それは、現代において類を見ない程に都市を壊滅させ、魔力汚染により日本全土を不毛の大地へと変化させた災害であった。

 

 それは、一体のダンジョン主によって引き起こされた。

 名を、赫夜牟。

 幻獣大戦の元凶にして、他のダンジョン主を目覚めさせた最強最悪の怪物である。

 

 ならばこそ、目の前の光景は当然であった。

 

「ハハハッ、脆い! あまりにも脆弱で困るのじゃぁ!」

 

 小さな体躯の少女が駆ける。

 和服の裾が可愛らしく揺れ、下駄の音がからんと響く。

 

 しかし、彼女が通った後は想像もできない程に凄惨であった。

 奉仕エラたちであったものが、まるで使い飽きた玩具のように転がっている。

 白いメイド服は鮮血で染まり、その光景はガーデナーですら一瞬顔を顰めるほどであった。

 

「っ、随分と暴れん坊なお嬢さんだ。少しお仕置きしてあげよう」

 

 献身のソルシエラは指を鳴らす。

 すると、背後から奉仕エラたちが隊列を組み現れた。

 そして最初と同様に収束砲撃を放つ。

 

 ラッカと堕落のソルシエラは別の奉仕エラの相手をしており、今度は防がれることなく赫夜牟へと直線的に向かって行った。

 

「仕置き? 我にか? ……ッハハハハハハハハ!」

 

 からん、と下駄が鳴る。

 瞬間、時の流れが変化した。

 赫夜牟へと放たれた収束砲撃は、まるでスロー再生のようにその動きを緩慢なものへとする。

 対照的に、赫夜牟の速度は今までと比べ物にならない程に上昇していた。

 

「よもやここまでの阿呆だとは思わなかったのじゃ!」

 

 収束砲撃の動きは更に遅くなり、最後には赫夜牟の眼前で殆ど静止している状態に至った。

 赫夜牟へと到達するためには、果たしてどれだけの時を必要とするのか。

 少なくとも、数百年では到底足りないであろう。

 

「我を相手にするという事がどういう事か教えてやろう」

 

 赫夜牟の袖から触手が伸びる。

 それは砲撃へと自ら近づくと、先端を大きく裂いて口のように開いた。

 そして、その鋭利な牙を砲撃へと突き立てる。

 

「……っ、砲撃を食べている!?」

「何を驚く? 砲撃を吸収するなど、技とすら言えぬ当たり前の事だろう? 少なくとも、我を倒した奴にとってはそうじゃった」

 

 赫夜牟は笑う。

 生物としての原初の意味で、その笑みは献身のソルシエラへと向けられていた。

 

「さあ、もっと楽しませよ。宴じゃ」

 

 赫夜牟の動きはさらに加速する。

 瞬く間に砲撃隊である奉仕エラたちから血が噴き出し倒れ伏す。

 

 献身のソルシエラの眼前には赫夜牟が姿を現しており、その手には血に汚れた箒型の魔力砲が握られていた。

 当然、収束砲撃を放つためではない。

 その先端で、献身のソルシエラの端麗な顔を殴り潰すためである。

 

「ギヒッ……ハハハハハハハハハハ!」 

 

 歯をのぞかせ笑う赫夜牟は、魔力砲を振り上げる。

 献身のソルシエラは回避しようと即座に行動した、つもりであった。

 

「……っ!? 体が!」

「既にお主の時間は我の手の中じゃ。惨たらしく死に絶えよ、下郎」

 

 まるで泥の中を動いているかのように、献身のソルシエラの動きは遅い。

 防御や回避など出来るわけもなかった。

 

「ぐぁっ!?」

「まずは一撃。まだまだ死ぬなよ?」

 

 右肩があっけなく砕かれる。

 繊維がちぎれる音と共に、右腕の感覚が消えた。

 

 視線で攻撃の軌跡を追えば、既に二撃目が放たれようとしている。

 

「ほーれ、もう一度行くぞ」

 

 腹部に重い一撃が当たる。

 込みあがる吐き気と脳にまで響く鈍痛と共に献身のソルシエラは一瞬吹き飛ばされた。

 が、その動きは停滞し、ついに彼女の体は空中で浮かぶように無防備なものとなった。

 

「が……ぁ……っ」

 

 献身のソルシエラは飛びそうになる意識を繋ぎとめることに精一杯であった。

 最初の頃の余裕そうな表情は消え去っており、その顔は苦痛と本能的な恐怖による涙が浮かび上がって歪んでいる。

 

 それを見下ろして、赫夜牟は恍惚の表情で舌なめずりをした。

 

「あぁ……良いぞ……。その表情とても美しいぞ。あの頃の我ならとっくの昔に喰ろうていたのじゃ」

 

 触手がゆっくりと献身のソルシエラの身を包んでいく。

 それはまるで、これから彼女の身に死が訪れることをわざと知らせているようだ。

 

「さて、仕上げといこうか。ちと育ちすぎてはいるが、それでも貴様も主の分身なのであろう? なら、その味は極上の物であろう」

「……い、いや……!」

「ハハハ、愛い奴め」

 

 四肢を触手に縛り上げられ、献身のソルシエラは完全に捕獲された。

 その右肩は既に表皮だけで繋がっている状態であり、腹部は普通の人間であれば絶命している程に内臓がかき混ぜられている。

 戦闘が始まって5分。

 赫夜牟はなんの小細工もせず、真正面から献身のソルシエラを倒してみせた。

 

「おい、堕落。捕まえたからさっさと殺すのじゃ。一番、愉快なところを譲ってやる」

 

 触手で縛り上げた献身のソルシエラを見せつけるように掲げながら、赫夜牟は堕落のソルシエラの方へと向かった。

 彼女が歩くだけで周囲の奉仕エラ達の動きは緩慢なものになっていく。

 

 堕落のソルシエラは赫夜牟に近づくと、嫌な顔を隠そうとはせずに視線を向けた。

 

「これじゃあどっちが悪役かわからないね」

「? 勝った者が正しいのが世の常であろう。故に、今の我は正義の味方じゃ」

 

 赫夜牟はそう言って献身のソルシエラを差し出す。

 そして献身のソルシエラの顔を触手で固定して、小さな手で指さした。

 

「顔をその蠍で潰してしまえ。それで事足りる」

「……私と同じ顔なんだけど」

「だからこそ、滅多にできない貴重な体験じゃろうて」

「……」

 

 堕落のソルシエラは献身のソルシエラを見る。

 その口は停滞の中でついに声すら発せなくなっていたが、目は懇願するようであった。

 

「……大丈夫。痛みはないから安心すると良い」

 

 堕落のソルシエラはそう言うと、触手の合間を縫って腹部へとサソリの尾を打ち込んだ。

 尾から干渉による体の崩壊が始まり、触手の中でゆっくりと献身のソルシエラが消えて行く。

 それを感じ取って、赫夜牟はつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「フン、情けを掛けるか。甘い奴め」

「そりゃどーも」

 

 適当な返事と共に堕落のソルシエラは、サソリへと乗り込む。

 そして深いため息と共に体を尾に預けた。

 

 

 

 

 

 

 戦いの終わりを見届けたガーデナーは、いつの間にか喉が渇いていたことに気が付いた。

 手にはじっとりと汗が浮かんでいる。

 

「終わった……?」

「そうみたいね。勝ち方としてはあまりスマートではないけれど」

 

 ソルシエラはその光景に慣れているのか、終始冷たい表情のままであった。

 

「赫夜牟ちゃんって結構……その……バイオレンスなんだね」

「元々は幼子を贄として求めていた最悪の怪物よ。私が作り替えた後でも、その残虐性までは完全に変えられなかった」

「作り替えた!? ソルソル、もしかしてアレと戦って勝ったの?」

「当たり前でしょう。でないと、ああやって使い魔に出来ないじゃない」

 

 当然のことのようにソルシエラは答える。

 

「ソルソルって強いんだね」

「今更わかり切った事を言わないで頂戴」

 

 ソルシエラはそう言って、献身のソルシエラから流れ出た光の粒子へと手を伸ばした。

 その光はソルシエラの中へと消えて行く。

 今までと同じ光景である。

 が、ソルシエラは手のひらを開閉し首を傾げた。

 

「おかしい。……力が足りないわ」

「え?」

「今までのように枷が外れる感じがしない。力は得た。けれど、本当に微々たるものよ」

 

 その言葉に、ガーデナーはハッとして叫んだ。

 

「皆気を付けて! さっきのは偽者だ! ヒアちゃんと同じだよ!」

「成程ね。道理でこいつらはやる気な訳だ」

 

 ラッカは今まさに奉仕エラの攻撃を防ぎながら言った。

 と、その時カーペットの上を歩き新たな人影が姿を現す。

 

「偽者だなんて失礼だな。僕は常に本物だよ。奉仕の場に偽者なんて存在して良いわけがないだろう?」

 

 それは、今しがた倒したはずの献身のソルシエラであった。

 戦いなど無かったかのように、その姿は綺麗なままである。

 

「……おかしいのぉ。あれは幻覚などではなく、確かに実在していた筈じゃが」

 

 献身のソルシエラは赫夜牟を見て、余裕そうに笑みを浮かべる。

 

()()()()恐怖に負け停滞の力に完全に敗北する弱者だった。だが、今の僕はどうかな?」

「……気を付けて、赫夜牟、ラッカ。さっきの献身よりもこいつは強い」

「流石は堕落のソルシエラだ。目敏いね。まだ理解していないようだから、教えてあげよう。献身の名が持つ意味を」

 

 瞬間、献身のソルシエラの姿が消えた。

 

「何を――」

「後ろだよ、可愛いお嬢さん」

「っ!?」

 

 いつの間にか、赫夜牟の背後には献身のソルシエラがいた。

 その手にはトンファーが装着されている。

 

「背後を取ったくらいでいい気になるな!」

「きゃんきゃんと吠えて、まるで子犬だね」

 

 停滞の力が再び献身のソルシエラを襲う。

 しかし、その動きは止まることがなかった。

 

 トンファーによる鋭い一撃が赫夜牟の胴へと迫る。

 寸前で触手を滑り込ませた赫夜牟は、防御と共に攻撃の勢いで敢えて後方まで飛んだ。

 赫夜牟は初めて警戒しながら構えを取る。

 

「どういう絡繰りじゃ」

「簡単な事だよ。献身の意味とはその身を理想に捧げることにある。あの僕は理想的な僕ではなかった。だから、この身を新たに捧げ理想の献身のソルシエラへと昇華した」

「何を世迷い事を……」

「わからないかな?」

 

 献身のソルシエラは両手を広げる。

 その背後には多くの奉仕エラがいた。

 

「僕たちは全員が本物だ。個ではなく、群によるソルシエラの形成。それこそが献身のソルシエラなんだよ」

 

 献身のソルシエラはそう言って笑う。

 同時に、その場にいた全員が理解した。

 戦いはまだ始まったばかりであるという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……食べ放題プランって事? 流石はご奉仕メイドさん、至れり尽くせりだねぇ^^ それに赫夜牟、いい働きだ。本物には出来ないが、ああやって苦痛の中で死んでいくソルシエラもえっちだからねぇ。これからも頑張りたまえ』

『楽しいのじゃ! 命を奪って尊厳を踏みにじるの楽しいのじゃ! なんか、昔を思い出してき『おぉ……修正しよう』……のじゃ? 急にテンションが下がってきたのじゃ……。我、流石にやりすぎたかもしれないのじゃ……』

『おいカメ、でしゃばるな^^ 赫夜牟というのじゃロリは残虐性を残しているから良いんだろ』

『おぉ……限度というものがあるだろう……』

『うーん、俺としては今は残虐だけど、ソウゴ君達との交流で命の温かさについて触れて、ようやく人間性を得て欲しいかな。まあ、あんまりグロテスクな殺し方はNGだけど』

『今まで自由に戦っている感じがして解放感があったのに……それすらも掌の上な気がして悲しくなってきたのじゃ……』

『最初からお前に自由はないよ^^』

『ひえ……』

 

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