【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第373話 6‐6それを献身と呼ぶならば

 51体。

 それは、今まで葬ってきた献身のソルシエラの数である。

 

 彼女の持つ特異な能力の絡繰りは理解している。

 しかし、この状況を打開するには至っていない。

 

「こいつらめっちゃしつこい! 私たちの時の第四の天使みたい!」

 

 ラッカはうんざりしたように叫びながら奉仕エラを蹴り飛ばす。

 しかしそれも、殺さないようにと気を使った上での浅い打撃にとどまった。

 

 ソルシエラ以外の人間が命を奪えないという規則において、全ての奉仕エラが献身のソルシエラであるという現状はラッカとあまりにも相性が悪かった。

 それは同時に、ガーデナーという鏡界最強の切り札を失う事を意味している。

 ガーデナーに出来ることは、ソルシエラの傍に寄り添い堕落のソルシエラへと出来るだけ魔力を送る事だった。

 

「その第四の天使とやらの時はどうしたの? ダルいから勿体付けないでさっさと教えて欲しいんだけど」

 

 サソリの尾で奉仕エラを貫きながら堕落のソルシエラは問いかける。

 するとラッカは奉仕エラの首根っこを掴んで堕落のソルシエラへと放り投げながら言った。

 

「指揮者が調和の力で天使の全個体を繋げて、私と教授で二つの国ごと消し飛ばした!」

「そっか。聞いた私がバカだった」

 

 投げられた奉仕エラの胴体をサソリの尾が貫いた。

 

「故郷を失った子供に泣きつかれたりして大変だったなぁ……いやマジで。なんかテンション下がってきた……銀の黄昏の存在意義を考えて眠れない日もあったっけ……」

「勝手に落ち込まないでよ。お前のメンタルケアなんてしている暇はないからね」

「ダラちゃんは厳しいなぁ」

「赫夜牟を見習ったら? この状況を、あいつはきっとボーナスステージとしか思っていないよ。無双ゲーじゃないっての」

 

 堕落のソルシエラの視線の向こうでは、今まさに献身のソルシエラが触手により拘束されたところであった。

 

「っ、この僕も理想の奉仕には至らなかったか」

「ハハハ、そう落ち込むな。我の道楽としては充分に役立っているではないか」

 

 そう言って赫夜牟は近づくと、その首を掴んだ。

 彼女は迷いなく力を籠めると、その体内へ極めて細い触手を侵入させていく。

 

「……ぁが!?」

「貴様らの死の境界は理解した。頑丈な体も考え物じゃのう。こうして神経を少しずつ削り取られても死ねないのじゃから」

「……ぁ、っぎあ、えうい…ぉあ…!?」

「もう喋ることすら出来ないのか? ふむ、では次はこれで人形遊びでも出来るように調節するかの。おい堕落、これはもう壊して良いのじゃ」

 

 赫夜牟はそう言って、痙攣する献身のソルシエラを地面に転がす。

 両目をぐるんとそれぞれ正反対の方向に回した献身のソルシエラは、口から涎を流してその場で震えている。

 堕落のソルシエラは、それを見て顔を顰めながらとどめを刺した。

 

 同時に、再びレッドカーペットの向こうから献身のソルシエラが姿を現す。

 

「ふむ、まだまだ献身のソルシエラとして努力をする必要があるね」

「努力か。弱者の思考じゃのう」

 

 赫夜牟は舌なめずりをする。

 そして触手を振り回しながら一気に加速した。

 

 対して献身のソルシエラは槍を取り出すと、触手による背後からの一撃を死角であるにも関わらず防いだ。

 そして続く二撃目も軽い跳躍でいなす。

 

「それは12人目が死んだ時と同じだね」

「ハハハハハ、いいのう。やっぱりお前は面白いのじゃ」

 

 牙を見せて獰猛に笑う赫夜牟に微笑み返して、献身のソルシエラは槍を肩に担いでソルシエラの方を見る。

 

「オリジナルはずっと見ているだけなのかな? ……ああ、それもそうか。君にとってはそれが願望だったね」

「我を前によそ見か?」

 

 献身のソルシエラの体が停滞の力により拘束される。

 しかしそれは、すぐさま打ち破られた。

 加速による攻撃も躱しながら、献身のソルシエラの目はまっすぐにソルシエラを見据えている。

 

「ソルシエラ、君にとっての献身とは責任の押し付け……そうだよね?」

 

 ゆっくりと、確かめるように脳に刻むように献身のソルシエラは問いかける。

 ソルシエラは睨みつけながら大鎌を構えた。 

 

「黙りなさい、不愉快よ」

「事実だからだろう。僕が生まれたのは、君のその鬱屈とした願望が原因なのだから」

「随分とお喋りじゃのう?」

「ぐぁっ……!?」

 

 地面から突き出した触手が献身のソルシエラを縛り上げ、全身の骨を砕く。

 堕落のソルシエラはそれを見て即座にサソリの尾で、触手ごと献身のソルシエラを貫いた。

 

「おい、我まで貫くことはないだろう」

「ゴメン、手が滑ったー」

 

 短い会話の後に、二人は再び戦闘に戻る。

 奉仕エラ達を各々適切に処理していく様を、ソルシエラはただ見つめていた。 

 

「ソルソル大丈夫?」

「……別に平気よ」

 

 ならば、なぜ戦いに出ないのか。

 その疑問の答えは、ガーデナーの視線の先にあった。

 

 大鎌を持つ手が震えている。

 まるで何か恐ろしいものと対峙したかのように。

 

「心を人に知られるのが恐ろしいのかい? 臆病なお嬢さん」

 

 声と共に新たな献身のソルシエラが現れる。

 彼女が姿を現した瞬間、赫夜牟と堕落のソルシエラは同時に動いた。

 

 奉仕エラ達の処理をラッカ一人に任せ、二人掛かりで倒しに行った理由はただ一つ。

 これ以上、彼女の言葉をソルシエラに聞かせないためである。

 

「こいつ精神攻撃にシフトしやがった! マジダルい!」

「抑えたからさっさと殺すのじゃ」

 

 触手に叩き潰された献身のソルシエラを、サソリの鋏が両断する。

 死んだ献身のソルシエラを見つめながら、新たな献身のソルシエラは笑っていた。

 

「ふふっ、僕を止めることは出来ないよ。さあオリジナル、お話の続きをしよう。君は星詠みの使命を誰かに押し付けたいと考えているね。身を捧げるのは崇高な理念や高潔な精神があるからじゃない。弱い君にはそうすることでしか、自身を正当化し守ることが出来ないんだ」

「黙りなさい」

「僕が黙ったところで、君の心が問いかけるだろう。それに、僕は君のことを思ってこうしてお話してあげているんだよ? ガーデナー達に知っておいてもらった方が、より円滑に人間関係を――」

 

 言葉の続きを言う前に、献身のソルシエラの体はサソリの尾で貫かれた。

 その瞬間、新たに献身のソルシエラが現れる。

 言葉は止まらない。

 

「自分はここまで頑張りました。誰か後はお願いします。自分はこれだけ傷つきました。誰か私を助けてください。私は正しく星詠みでした。誰か後を継いでください。私を解放して下さい」

「お前ッ……。ふふっ、いいわ。絶対に殺してあげる!」

 

 ソルシエラは武器を構えて走り出す。

 その顔は、普段の彼女からは考えられない程に醜い感情に溢れている。

 それを見て献身のソルシエラは自らの頭にナイフを突き立てた。

 一つの個体が死に、新たな個体が生成される。

 

 それはソルシエラの真横にいた奉仕エラであった。

 普段の彼女であれば、絶対に見逃すことはなかったであろう。

 目の前の相手を感情的に倒すことはせず、局面を冷静に分析し勝利を盤石なものにした筈だ。

 しかし、今の彼女にはそれはあまりにも不可能に近い芸当だった。

 

 何故ならば、今の彼女はもはや星詠み(ソルシエラ)ではなく少女(ケイ)であるのだから。

 

「っ!?」

 

 虚を突かれ、ソルシエラは驚く。

 短刀を握った献身のソルシエラは、その鋭い刃をソルシエラへと突き出していた。

 

「間に合えっ!」

 

 ガーデナーはすぐさま種子をその場に投げようとした。

 が、それよりも早く深紅の怪物が動き出している。

 

「つまらぬ事ばかりしよるな」

 

 吐き捨てられた言葉と共に短刀が小さな手により受け止められる。

 赤い血を流しながら、赫夜牟はその刃を掌で受け止めていた。

 

「まさか間に合うとはね。どうやらこの僕も理想の奉仕には届かな――」

 

 足に触手が巻き付き、壁へと放り投げられる。

 砂煙の上がったその場所を一瞥して、赫夜牟はソルシエラの方を向いた。

 

「大丈夫!? 赫夜牟ちゃん!」

「下がっていろガーデナー。邪魔じゃ。今の我は気が立っておる」

 

 そう言って赫夜牟はソルシエラの前に立つと、顔を見上げて胸倉へと手を伸ばした。

 ソルシエラの服が赫夜牟の血に染まっていく。

 普段の彼女であれば文句の一つでもいいそうだが、今は何も言わずただ胸倉をつかまれて顔を引き寄せられていた。

 

「何故殺さなかったのじゃ」

 

 簡潔な問いには怒りが込められていた。

 

「……油断していた。完全に隙を突かれたわ」

「隙? あの程度、いつもの小娘ならどうとでも出来ただろうに。腑抜けたか? それとも……ああまで言われて自身を殺すのが怖くなったか?」

「…………別に」

 

 ソルシエラは赫夜牟から目を逸らす。

 それが答えであった。

 

 赫夜牟はそれを見て目を見開くと、何か言いたげに口を開く。

 しかし、息を吸い込んで一拍間を置くとその手を離した。

 

「もう良い。少し休んでいろ」

「でも、私は……」

「選べ」

 

 赫夜牟はそう言って、血にまみれた自身の小さな手を差し出す。

 

「くだらん世迷い事に流されて、仲間を巻き添えにして死ぬか。それとも、この戦場を我に預けるか。赤ん坊でもわかる単純な二択だ」

「……」

「これ以上、我を失望させるな。我の主なのだろう?」

 

 血のように真っ赤な目がソルシエラを見つめる。

 その目は、狩りの時を待ち望む猟犬のようであった。

 

「一秒で良い。我を解放せよ。それだけで全てが終わる」

「……私は」

 

 ソルシエラは躊躇うようにガーデナーへと視線を向ける。

 彼女の不安そうな顔を見てすぐに目を逸らしたソルシエラは、大鎌の刃へと指先を這わした。

 白い指先に、血の線が滲む。

 

「賢い子じゃ」

 

 赫夜牟はようやく獰猛な笑みを取り戻す。

 彼女の小さな手のひらに、赤く刺々しい魔法陣が展開される。

 その中央へと、ソルシエラは一滴の魔力を絞り出して落とした。

 

 血と混ざり合い凝縮された魔力が、魔法陣に落ち溶けるように消えて行く。

 

 その瞬間、何かが壊れる音が響いた。

 

「――ギヒッ」

 

 

 

 

 

 

 怪物のような笑い声を最後に、世界が一変する。

 水族館であった筈の場所は、荒廃した岩山へと変化していた。

 どこまでも広がる暗雲と地の果てまで続く灰色の大地には命が存在しない。

 

 所々、岩山の一部が赤黒く変色している。

 他にも、崩れ落ちた鳥居の残骸のようなものが辺り一面に転がっていた。

 岩肌に張り付いた紙垂は破け、神聖さの欠片も感じさせない。

 

 過去、何かを祀ろうとして何度も失敗した結果だけがそこに大量に転がっていた。

 

「ここは……まさか、ダンジョン空間? チッ、ソルシップとの連絡が取れない……!」

 

 献身のソルシエラは岩山の上にいる少女を睨みつける。

 否、それはこの場においては神であった。

 尤も、悪神ではあるのだが。

 

「――久しぶりじゃのう。この景色を目にするのは」

 

 両腕に、気を失ったソルシエラを抱きかかえながら赫夜牟は献身のソルシエラ達を見下ろして笑っている。

 

「さて、では手早く済ませよう。主と約束しているからな。解放は一秒だけであると。そうは言っても――」

 

 赤い触手が、今までと比べ物にならない程に這い出ていた。

 周囲から異形の蟲達が湯水のように湧きだす。

 

「我にとってこの一秒は、無限に等しいがの」

 

 神が、個を認識し見下ろす。

 その行為に献身のソルシエラは自身の敗北を直感した。

 

 

 

 

 

 

 

『いいぞ赫夜牟君がんばえー! ソルシエラは気を失っているから力になれないけど、このムカデさんペンライトを振って応援しているよ!』

『★★★:残虐にソルシエラを殺していて非常に見ごたえがあった^^ リピ確定です^^』

『おぉ! 頑張れ赫夜牟! 世界の構築公式は私と星詠みの杖が作るから、お前は自身をのびのびと表現すればいいんだ!』

『見たこともない空間を懐かしいって言うの、結構しんどいのじゃ。我、こんな何もない所に住まないのじゃ。そもそも祀られた経験ないのじゃ。でも……頑張るのじゃー!』

『『うおおおおお! がんばえー!』』

『不定期で残虐皆殺しイベントも開催されているので、ソルシエラの苦しむ姿が見たい人にはお勧めです^^ 料金設定もこれだけのサービスがありながら非常にお手頃で――』

『一人だけレビュー書き込んでる奴いない?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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