【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
今となっては昔の話。
大量の怪物を目覚めさせ、日本を蹂躙した怪物は赫夜牟と呼ばれていた。
探索者達のいるこの時代ならば、それは高ランクダンジョン主と認識されるだろう。
現代ならダンジョン主。
幻獣大戦時代なら災厄の王。
であれば、それよりも昔は果たして。
その答えは、この広がる荒廃した世界にあった。
崩れ落ちた鳥居や紙垂が、過去にこの赫夜牟という怪物をどの様に認識していたのかを物語っている。
荒神、そう呼ぶにふさわしいだろう。
そしてその力は今なお健在であった。
「――くだらぬのう」
赫夜牟はそう言って献身のソルシエラを見降ろしている。
小さな腕に抱えたソルシエラへと、異様に長い舌を伸ばしその頬を舐めた。
そして、その味を確かめるように目を瞑る。
「……ああ、涙の味じゃ。悲嘆が舌の上でとろけるようで癖になってしまう。本当に――不愉快じゃ」
開かれた目は、今までとは違っていた。
縦に割れた瞳孔は、まるで臓物を取り出したかのように赤黒い。
その姿は人ならざるものであることを見た者に強く印象付けた。
「献身のソルシエラ、貴様との戦いは面白い」
「……それはどうも」
「じゃが、越えてはならぬ一線を越えたな」
赫夜牟は立ち上がると、触手にソルシエラを巻き付けてガーデナーの傍へとゆっくり下ろした。
そして触手の先端で頬をひと撫でする。
その動作には確かに愛があった。
「我がこの小娘と共にいるのは、決して屈服したからではない。……小娘の夢が叶った先、絶望し堕ちゆく奴の身を喰ろうてやる為じゃ」
「言っている意味が分からないな。それに、いつまでもそこで見ていないで、僕と戦おうか!」
献身のソルシエラはナイフを投擲した。
同時にいつの間にか狙いを定めていた奉仕エラ達の砲撃が赫夜牟へと迫る。
赫夜牟はただその場で見下ろしたまま、吐き捨てるように言った。
「芸が尽きたか?」
ぴたりと、攻撃が静止する。
それは今までの戦いで何度も見た停滞の力であった。
「そんな馬鹿な。停滞の力は既に適応したはず……!」
「まさか、アレが我の力の全てだと思っているのか? 愚かじゃのう」
赫夜牟はくつくつと笑う。
「ラッカ、堕落。ここからは我の戦いじゃ。頼むから、水を差すような真似はするでないぞ。余計な屍を増やしたくはない」
「……ま、お手並み拝見だね」
「どうせ最後は私かさっちゃんが殺すことにはなるだろうけどね」
「それはどうかのぉ。案外、我一人で全てが完結してしまうかもしれないぞ?」
赫夜牟はそう言うと、手を叩いた。
瞬間、彼女の背後に巨大なムカデや甲虫が何匹も集まり、一つの建造物へと変化した。
それはまるで神社の本殿のようでもあり、巨大な蟲の口のようでもあった。
「貴様らにチャンスをくれてやる。我は、この場所から一歩も動かぬ。そのうえで、貴様らを殺してみせよう」
本殿中央に腰を下ろした赫夜牟は、胡坐を掻いた上で頬杖をつく。
そしておよそ人とは思えない笑みを浮かべた。
「さあ、献身の名の通りに我へ身を捧げよ。下郎共」
「随分と馬鹿にされたものだね。皆……ここからは全力ご奉仕タイムだ」
その言葉に奉仕エラ達は頷く。
すると間もなくその姿は献身のソルシエラに変化した。
「僕たちは全員が戦闘データを共有し、最適化されていく」
「これだけの数を相手に、君は勝利できるというんだね?」
「可哀そうなお嬢さん。所詮は時代遅れの怪物だというのに」
献身のソルシエラ達は、それぞれが別々の武器を構えて赫夜牟のいる本殿へと視線を向ける。
対して赫夜牟はその視線に返すことはなく、短くこう言った。
「くどいぞ」
「……っ、舐められたものだ。行くぞ皆!」
■
迫りくる献身のソルシエラ達は、ある者は停滞に阻まれ、またある者は攻撃が届く前に加速し得物が朽ちてしまう。
そしてある者は、使い魔の巨大な蟲を相手にしていた。
あの献身のソルシエラをただ一人で相手取るその姿こそ、やはりのじゃロリに相応しい。
千年の時を超えて現代に現れた怪物。
その名を――赫夜牟。
かっこいいぞー!
がんばえー!
『おぉ……アルバムを後で見返すのが楽しみだ』
『千年前は流石にいないのじゃ。というか、これ殺していいのじゃ? 我が殺しても意味ないのではなかったのか?』
その通り、赫夜牟が殺してもリスポーンするだけだ。
そう本来ならね。
『何か策があるのか主殿』
ふふふ……さあ星詠みの杖君! 教えてあげなさい!
『……^^』
星詠みの杖君?
『赫夜牟、お前さっき相棒の涙舐めただろ』
『えっ』
『殺すぞお前』
星詠みの杖君!?
『の、のじゃ……そうしろって主殿が……』
『なんでも相棒の言う通りにするのか貴様は! 良い子ちゃんも過ぎればクソガキだねぇ! 相棒の涙は私にとっては貴重な塩分なんだよ!』
すごくキモいなぁ(感心)
『ご、ごめんなさいなのじゃ。けれど、逆らったらそれはそれで怖いのじゃ……』
『は? 貴様、相棒の言葉に逆らう気でいるのか? 新参者が謀反とか偉くなったものだねぇ』
『ど、どうすればいいのじゃ……カメ先生……たすけて……』
『おぉ、星詠みの杖。落ち着くのだ。赫夜牟は自分の仕事を全うしただけ。許してやってはくれないか』
そうだよ星詠みの杖君!
ここは俺に免じて許して欲しい!
『……なら私も涙をペロペロしたい』
うーん……まあ、別にそれくらいならいいや。
わかったよ星詠みの杖君。
その代わり赫夜牟君を許してあげてね。
『本当かい!? 今確かに『0号により発情状態にされて疼く体を弄ばれてもなんとか必死に耐えようとしたときに目にたまった涙』をペロペロさせてくれるって言ったね!?』
言ってないねぇ。
『赫夜牟、お前を殺す』
『主殿ぉ!』
言ったわ。
『赫夜牟、マジお前良い後輩^^ 何かわからないことあったら私に聞くと良いねぇ』
『ホッ……』
『おぉ……また自身の身を捧げて誰かを守ったのか。なんと気高き心だマイロード』
カメさん、後で守ってね。
『勿論だ』
『ぜってえ負けねえ^^ 後で決戦といこうぜ^^』
俺の涙をめぐって天使とデモンズギアがアホな決戦の約束してる……。
って、そんな事よりも星詠みの杖君。
頼んでいた例の物は出来ているんだよね。
『勿論^^ へいお待ちぃっ! 『献身のソルシエラを絶対殺す毒』でいっ!』
『なんとピンポイントな毒なんじゃ』
『この毒は魔法で出来ている。今から式を教えるからその通りに作るんだ』
『わかったのじゃ! これでこれから出てくるソルシエラ達も倒すのじゃ!』
?
いや、この毒を使うのは献身のソルシエラだけだよ?
もー赫夜牟君ったら。『献身のソルシエラを絶対に殺す毒』って言ってるじゃん。
『じゃが、これが作れるなら他のソルシエラに効果がある毒も作れるのじゃろう?』
作れるよ。
でもね、それじゃあコンテンツにならないでしょ。
この限定解放した空間で、かつ何度も献身のソルシエラを殺して体を解析したからこそ、献身のソルシエラに対してのみ有効な毒を作れたんだ。そういう設定なんだ。
『わかったのじゃ(諦め) 我が間違っていたのじゃ(敗北宣言)頑張るのじゃ(思考放棄)』
よし、それじゃあ赫夜牟君頼んだよ!
ソルシエラに対して怪物特有の歪んだ愛情をぶつけながら、獰猛にそしてカッコよく勝利してくれ。
『了解なのじゃ(傀儡)』
■
雨のように降り注ぐ攻撃を前に欠伸を一つ。
「ふぁ。……退屈じゃの」
どんな武器も砲撃も、彼女へと近づくことは決して許されない。
何故ならば、この世界の支配者は赫夜牟なのだから。
「……一体どんな規則がこのダンジョン空間に存在しているんだ。僕たちが全員で攻撃を仕掛けているのに誰も適応しないなんて」
献身のソルシエラは歯噛みをする。
あの時直感した敗北が、すぐ傍まで迫っている気がした。
「――焦っているのか?」
赫夜牟は心を見透かす様に、問いかける。
その姿が余計に恐ろしく見えて、献身のソルシエラは不安を振り払うように砲撃を放つ。
しかし、当然のようにそれは赫夜牟の前で停止した。
やがてそれは大量の蟲により捕食される。
「規則、だと言ったな」
小さなムカデを指先で遊びながら、赫夜牟は言葉を続ける。
「我の力が、この空間による何らかの法則により機能していると。貴様はそう思っているのじゃな?」
「ああ、そうだよ。これだけの力、間違い無く規則が働いている。遠距離攻撃が無効になっているか、魔力を込めた攻撃は不可能なのか。いや、あるいは敵意を持った時点で――」
「凡百じゃな」
赫夜牟は献身のソルシエラの語りをそう切り捨てた。
そして表情一つ変えずに告げる。
「我に規則は存在しない。なぜならそれは、弱者の理屈だからじゃ」
「……は?」
言っている意味が分からなかった。
強さには必ず理屈がある。
勝利には必ず理由がある。
その理に適応するからこそ、献身のソルシエラはこのソルシエラバトルでここまで生き残っていた。紛れもない強者であるはずだった。
しかし、それは真実であろうか。
「強くないから自身に有利な規則を作り出す。至らないから戦略なんて物を練る。じゃが、我は違う。そんな小細工は通用せん」
そう言って、赫夜牟は献身のソルシエラへと指を向ける。
まるで照準を合わせるようなしぐさの後に、献身のソルシエラの体を赤黒い触手が貫いた。
「……っ、僕をソルシエラ以外が殺す事はルールにっ」
「言っただろう。そんな小細工は通用せんと」
冷たい視線の中、献身のソルシエラの体はまるで灰のように末端から崩れ去っていく。
ルールによる再生ではない。
それは間違いなく、死であった。
「な、何で!? い、嫌だ――」
触手に薙ぎ払われ、灰になった体が空中に舞う。
その光景を見ていた別の献身のソルシエラが目を見開いた。
「あ、あり得ない……!? だって、ソルシエラしかソルシエラを殺せない筈!」
「いつまで過去の話をしておるのじゃ? あれだけの数貴様らを葬れば、その体の有り様など理解しているに決まっているじゃろう? どうやれば殺せるか、既に理解しておる」
「そんな事はあり得な――」
言い終わる前にまた一人、灰になった。
「ソルシエラでなければソルシエラを殺せない。それは弱者の理屈。どうして我がそれに従う必要があるのじゃ?」
「っ、皆距離をとれ!」
号令に一斉に献身のソルシエラ達はその場から逃げ出す。
しかし、行く手を阻むように大量の蟲達がいたるところからあふれ出してきた。
「くっ、これは……」
「この場所に来たのは規則を適用させるためじゃない……!」
「僕たちが逃げないように、まとめて殺すためだったんだ!」
一人、また首が堕ちる。
体は灰になって消えて行った。
「こう見えて、我は久しぶりに腸が煮えくり返っておる。何故だかわかるか?」
逃げ惑う献身のソルシエラ達を見ながら、赫夜牟は笑って問いかける。
答える余裕がある者はいなかった。
「小娘はの、あれで夢想家なんじゃ。平和や美しい世界があると信じてその身を捧げる。それを献身と呼ぶならば、確かにお主らに似ているのぉ。じゃが、一つ違うのはその旅の終わりが絶望であることじゃ」
赫夜牟は朗々と語り続ける。
また一つ、灰が風に流れて消えた。
「我はこの世界が腐っていると知っている。人間は我が身可愛さに醜くなれる。贄に選ばれた女が、泣きながら自らの子供を差し出してきたことがあった。村の長が女と子供を全て捧げる代わりに自分だけは助けて欲しいと懇願してきたことがあった。多くの人間の内を、我は見てきた。だからこそ断言できる。――小娘の理想は実現しない」
牙を見せ、赫夜牟は笑う。
まるで極上の料理を想像しているかのように、舌なめずりをした。
「我は小娘と一つ賭けをした。旅の終わりに世界へ絶望したならば、その涙も歪んだ心も朽ちる寸前の体も我が喰らう。もしもそれでも理想を掲げることが出来れば、未来永劫、この身を人の世の礎にする。まあ、結果などわかり切っているがの」
辺りには灰の山が積みあがっていた。
その上で、足を取られながら必死に逃げようとする献身のソルシエラは、既にただ一人。
「だからこそ、今絶望されてしまっては勿体ないではないか。我が丹精込めて絶望の花を育てているというのに。悪い蟲じゃ」
赫夜牟の触手が遂に最後の献身のソルシエラに巻き付いた。
もがき泣き叫ぶ献身のソルシエラを自身の目の前まで引きずった赫夜牟はその顔を覗き込む。
「なんと醜く歪んだ顔じゃ。小娘もこんな顔をするのかのぉ? それとも……ああ、楽しみで仕方がない」
「たっ」
「ん?」
「たす、けてくださ――」
言葉の半ばで、その体は灰となって破裂した。
灰の中から蟲達があふれ出す。
赫夜牟はその灰を掬うと風に流しながら、ふぅと息を吐いた。
恍惚とした笑みと共にまるで酔いしれるかのようにこう呟く。
「……久方ぶりに良い宴じゃった」
ソルシエラバトル、第四戦目。
献身のソルシエラとの戦いは、こうして幕を閉じた。
『いいぞー! 赫夜牟君、よく頑張った!』
『おぉ……おぉ……! いっぱいの台詞を頑張って言えてえらいぞ!』
『緊張したのじゃ……途中で嚙んだらどうしようって思ったのじゃ……』
『絶望に歪む様はとても美しいねぇ! でも、少し勿体ないな^^ その場に私がいたら、奉仕エラを持って帰っているのに。そして■■■にしたり■■して相棒と一緒に■■にして■■を刻んで部屋に飾るのにねぇ^^』
『赫夜牟がいる前でなんてことを言うんだ星詠みの杖! 教育に悪いだろ!』
『のじゃ、別に我はそういうのは平気なのじゃ』
『成程、少年を揶揄い優位に立てるタイプののじゃロリなら当然だね。ナイスコンテンツ!』
『いや……別にそういうつもりで言った訳ではないのじゃ……』