【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第375話 それを始まりと呼ぶならば

 要塞都市アトラスティアは、今や大陸でもっとも栄えている都市となっている。

 最果ての地で、対天使用に作られた軍事基地であるはずのそれは皮肉なことに今や多くの人間が住む安寧の地となっていた。

 

 そこは本来、荒波と年中吹き荒れる暴風雨に晒される海域である。

 しかし天使の権能を利用した新技術により、人々は平和を享受していた。

 

 人工太陽により調整された暖かい気候に、広がる青々とした緑。

 都市の中をめぐる川は人工物であるにも関わらず、多くの生物が生息していた。

 

 そんな都市を一望できる塔の上がルシエラは一番のお気に入りであった。

 心地の良い風に乗り、子供たちの笑い声が聞こえる。

 数年前まで自分もその中に混じっていたという事実に、ルシエラは妙に感慨にふけってしまう。

 

 ここ最近の彼女は、塔に上ると決まって自身の成長とこれからの事について考えるようになっていた。

 

「――おや、今日も先客がいたようだ」

 

 背後から聞こえた声に、ルシエラは振り返る。

 見れば、そこには星の光を集めたかのように輝く極彩色の髪を持つ少女が立っていた。

 あまりにも完成された端正な顔立ちと落ち着きのある佇まいが、大して自分と身長が変わらないその少女に対して大きな壁のようなものを感じさせる。

 

 事実、ルシエラとその少女の前には大きな壁があった。

 実力と名声、そして使命という壁が。

 

「今日は厄災を退けた事を祝ってセレモニーの筈では? 貴女は主役でしょう? 博愛のソルシエラ様」

 

 名を呼ばれたソルシエラは肩をすくめ、おどけるように言った。

 

「世界を救うだけで何度も同じことをされてはかなわないよ。もう千回以上は開かれているセレモニーに今更何の意味があるんだい?」

「少なくとも、この世界の人にとっては明日の配給以上の意味があるでしょうね」

 

 ルシエラはそう言って柵に体を預ける。

 風に乗り踊る黒い髪は、目の前の少女と比べてみるとまるで星の消えてしまった夜空のようだ。

 鬱陶しそうに髪を押さえ、乱雑にまとめようとするルシエラを見て、ソルシエラは穏やかにほほ笑むと近づく。

 そして、手の中に生み出した光の輪でルシエラの髪を一つにまとめた。

 

「綺麗な髪なのだから、大事にしないとねぇ」

「貴女に言われると嫌味にしか聞こえないです」

「本心だとも。君の髪はとても綺麗だ。見ていると、夜空に包まれているようで気が安らぐ」

「そうですか」

「あ、その顔は信じていないね? まったく、昔はあんなに素直で可愛かったというのに。まあ、これはこれで良いのだが。昨日の天使殲滅作戦、君が先頭で指揮を執ったらしいじゃないか。もう一人前の戦士だねぇ」

 

 撫でようとする手を避けて、ルシエラは仏頂面で返す。

 それは彼女が照れ隠しをするときの癖であり、ソルシエラはそれをよく知っていた。

 

「誰もやらなかったから、私がやっただけです」

「人類の生存圏を取り返せたのは実に50年ぶりの事だ。……あのように絶望的な戦場から、よく無事に帰ってきたね」

「当然でしょう。私の考案した収束砲撃の術式は従来の魔法とは一線を画します。初運用で死んでいたら元も子もないですよ」

「……ははっ、それもそうか」

 

 何か言いたげながらも笑みを浮かべたソルシエラは、封筒を一つルシエラへと渡した。

 それを見て、ルシエラの表情は硬くなり、自然と背筋が伸びる。

 その封筒はこの都市の防衛組織が指令を下す時に用いている封筒であったからだ。

 

「ルシエラ、これまでの君の功績と実力が本物であると信じている。故に、とある部隊を率いて貰いたい」

「部隊……?」

「ああ。厄災はここからが本番だ。六体の大天使と、滅びの具現。それらを殺しきるために、7人の精鋭を集めた特殊部隊を設立することを決定したんだ。上を納得させるのには時間がかかったよ。いやぁ、皆私に頼りすぎで困るねぇ」

「7人? まさか大天使を相手に7人で戦うのですか?」

「そのまさかさ。期待しているよ。……あ、そうだった。一人は私から推薦させて貰おうと思っているんだ。戦闘狂ではあるが、中々に腕が立つ槍使いを見つけてねぇ」

「ちょ、ちょっと待ってください。まだ受けるとは一言も――」

「受けるさ」

 

 ソルシエラの声にルシエラは思わず停止する。

 いつもの穏やかさの中に、諦観と願望そして疲労が見えた気がしたからだ。

 

「君が、君たちがいないと人類は滅んでしまう」

「……わかりました」

 

 ルシエラは一歩前に踏み出し、ソルシエラを真正面から見つめ返す。

 

「貴女と共に戦うに相応しい組織を作り上げてみせましょう」

「…………それは楽しみだ。じゃあ、そろそろ都市長の長いスピーチも終わったころだし、美味しいものでも食べてくるとしようねぇ」

 

 ソルシエラは手をひらひらと振って、その場から去っていった。

 彼女が去った後、しばらくルシエラは都市を眺めていたがやがて封筒へと視線を落とす。

 そしてその中にあった一枚の紙を見た。

 

「……うわ、まだ名前しか決まってないとは聞いてない」

 

 どこか騙された気分ながらも、ルシエラの胸は妙に高鳴っていた。

 

 千年もの間、世界を守り続ける英雄――博愛のソルシエラ。

 人類最後の希望である彼女と共に戦う未来がすぐそこまで迫っている。

 

 世界を救う英雄譚、その始まりを予感してルシエラはその組織の名を口にした。

 

「――銀の黄昏」

 

 

 

 

 

 

 長い間感じていなかった倦怠感と共に、ルシエラはゆっくりと目を開いた。

 神殿のような本拠地は、相も変わらず多くの配線やモニターでその風景を台無しにしている。

 

 ルシエラはすぐ傍で仮想キーボードをせわしなく叩いている博士に声を掛けた。

 

「……どれくらい眠っていたかな」

「10分だ。久方ぶりの睡眠の味はどうだ? 偽りの銘から解放されたことで、脳が再調整を行っているのだろう」

「成程、道理でらしくもない夢を見た訳だ。夢幻の杖の方はどうかな」

「問題ない。5つも銘が揃っているなら、後はこの世界のデータで補える。それにトリムの起動データもあるからな。必要なものは全て揃っているんだ」

「そうか。それはよかった」

 

 ルシエラの視線の先には巨大な機械があった。

 今なお多くの博士たちにより作られているそれを、誰が棺であると気が付けるだろうか。

 

 ――夢を見たんだ、そう言おうとしてルシエラは口を閉ざす。

 そして、今更感慨にふける自分に対して自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「始まりが私なら、終わりも私が用意しなければいけないね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルシエラが目覚めた頃、ところ変わってフェクトム総合学園では。

 

『さあ見てくださいぃ――これが萌え袖ブレザーミニスカえちえちギャルリーダーですぅ!』

「お前らァ、後で覚えとけェ……!」

 

 震える六波羅(ギャルのすがた)の前で、ケイは驚き震える声で問う。

 

「こ、これが騎双学園の執行官ですか……!?」

「違ェ!」

『そうです!』

 

 記憶喪失の少女を前に、珍事が発生していた。

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