【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第376話 それを平穏と呼ぶならば

 窓から差し込む朝日と遠くから聞こえてくる小鳥の声で、ケイは目を覚ました。

 

「ふぁ……」

 

 起きてゆっくりと背伸びをする。

 寝起きの頭では上手く物事を考えられなかったようで、ケイは目をこすったままベッドから抜け出した。

 昨日の事が、まるで夢のように思える。

 

「お腹すいた」

 

 くぅ、と小さな音がお腹から鳴った。

 控えめで可愛らしい主張をするお腹を押さえながら、ケイは扉へと向かう。

 

「――どこに行くのかな?」

 

 声に振り返る。

 揺れるカーテンの向こう、窓際に腰を下ろした0号がいた。

 

 突然声を掛けられたケイは驚き振り返る。

 その時バランスを崩して、仰向けに倒れた。

 

「うわっ」

「おっと……大丈夫かい?」

「あっ、ありがとう」

 

 いつの間にか移動していた0号により抱き留められたケイは礼を言う。

 ふっと笑った0号は、ケイの前髪を整えて気遣うように立たせた。

 

「君の体はまだ完全に回復したわけではない。気を付けたまえ」

「ごめんなさい……」

「別に構わないさ。ただ、傍には常に私がいるという事を覚えておいて欲しいだけだ。君の望むものは全て私が用意しよう」

 

 まるで姫に傅く騎士のように片膝をついた0号は、そのまま流れるようなしぐさで手の甲に唇を落とす。

 ケイは一瞬何が起きたのかわかっていなかったようだが、ハッとすると同時に顔を真っ赤にする。

 

「な、ななななな……!?」

「どうかしたのかな?」

「い、今その……き、き」

「ん? いつもの事じゃないか。さて、お腹が空いているのだろう? 食堂に連れて行ってあげようねぇ」

 

 そう言うと0号はケイを抱きかかえる。

 ひょいとまるでぬいぐるみのように軽々と抱きかかえられたケイは、目をグルグルと回していた。

 

「さ、行こうか^^」

「は、はい……」

 

 朝からケイの心臓は高鳴り、大忙しであった。

 

 

 

 

 

 

 六波羅は朝早くからフェクトムへと顔を出していた。

 

 騎双学園の代表として、そして個人的にもフェクトムには改めて礼を言わなければならないと考えていたのだ。

 そう、今の彼は騎双学園の代表。

 執行官として恥ずかしくない振舞をしなければならない。

 のだが。

 

「これ、おかわりお願いしますぅ!」

「もう食うなてめェ」

 

 隣の奴が、礼節を欠きまくっていた。

 学園について第一声が「お腹空きましたねぇ!」であり、完全に飯をたかろうという魂胆が見え見えである。

 エイナの事を愛してはいるが、こういう所は普通に「ぶっ飛ばしたい」と六波羅は思っていた。

 

「ミロク生徒会長が来るまでここで待ってるってだけだろ。なんでてめェは口いっぱいに米を詰め込んでやがるんだ?」

「だってお腹空いたんですぅ……。まだ朝ごはん食べてないじゃないですか!」

「は? ここに来る前コンビニでおにぎり買ってやったろ。もう終わりだ。オイ、これ以上こいつに飯を運ばなくていいぞ。太るし図に乗る」

 

 厨房へと声を掛ける。

 すると、トレイの上に山盛りのパフェを乗せてヒカリがやってきた。

 

「はい! ではデザートですね!」

「うおおおおお!」

「はァ……感謝はする。ありがとうな。でも、あんまりこいつに飯を食わせないでくれ、マジで。調子に乗るからよォ……」

 

 疲れたように頭を押さえる六波羅へとヒカリはサムズアップをした。

 

「いえ、むしろ感謝したいのはこちらの方です! 美味しそうに食べてくれるだけで作った甲斐があるというものです。エイナちゃん、ぜひまた来てください!」

「ありがとうございますぅ!」

「では、私はクラムを起こしてきますので! 空いた皿はカウンターに置いておいてください!」

「はいぃ! いってらっしゃい!」

 

 パフェを前にキラキラとした笑顔を作ったエイナは、ヒカリを見送りながらパフェを食べ始めた。

 と、その時である。

 

「げぇっ、この気配……!?」

 

 エイナの手がぴたりと止まる。

 間もなく、食堂に見慣れた顔が入ってきた。

 

 0号と、お姫様抱っこをされたケイである。

 

「よォ、奇遇だな」

「モグモグモグモグ……!」

 

 片手を上げてあいさつする六波羅と、急いでパフェを食べるエイナを見つけた0号は「ああ」と大して驚きはなさそうな声を出す。

 

「入ってきたのは知っていたが、まさかここにいたとはねぇ。エイナ、朝からパフェなんて食べて随分と良いご身分だ」

「ひ、ひぇ……もぐ……」

「怖がるなら食うな」

 

 六波羅が言い終わる頃には、既にパフェはなくなっていた。

 

「相席、良いかな? 君の顔を見れば、この子も何か思いだすかもしれないからねぇ」

「……あァ、構わねえ」

 

 0号に降ろされたケイは、六波羅の対面にちょこんと座る。

 どこか緊張した様子の彼女は、そわそわと視線を彷徨わせていた。

 

「本当に、全部忘れちまったのか?」

「……っ、ご、ごめんなさい」

「別に謝って欲しいわけじゃねェ。ただ、確認がしたかっただけなんだ」

「そ、そうですか……」

 

 ケイは若干震える声でそう答える。

 その目には心なしか涙が溜まっていた。

 

 六波羅はそれを見てハッとすると、少し離れた場所に行きエイナと0号を手招きした。

 

「エイナ、0号ちょっと来い」

「えっ、こんな所でキスを!?」

「ちげェよ馬鹿」

 

 浮かれたエイナの顔にアイアンクローをしながら、六波羅は二人に向かって小声で言った。

 

「……もしかして、あいつにビビられているのか?」

「そのようだねぇ」

「あはは! リーダーってば強面ですからねぇ! やーい、泣かしたー! いけないん――いだだだだだだ!?」

「顔掴まれてる状態でなんで煽れるんだてめェは」

 

 六波羅はそう言いながら、ため息をつく。

 その背中はどう見ても落ち込んでいた。

 

「……まさか、あいつにあんな顔される日が来るとはな」

 

 六波羅にとってケイは唯一無二の存在であった。

 仲間でもあり競い合う敵でもある。

 余計なものに絆されず、戦場では遠慮なしに互いの力をぶつけ合える。

 

 そんな相手はケイ、つまりはソルシエラしかいなかったのだ。

 

「どうやら、本当に忘れちまったみてェだな」

「リーダー……」

「これから朝飯食うんだろ? 邪魔したなァ。行くぞ、エイナ」

 

 これ以上、ケイを怖がらせる必要はない。

 六波羅は静かにその場を去ろうとする。

 

「まっ、待ってくださいぃ!」

 

 しかし、彼の相棒は図々しかった。

 

「怖がらせないとっておきの方法がありますよぉ!」

「いや、別にいい。それに朝飯の邪魔になるだろォが」

「大丈夫ですぅ! さきっちょ、さきっちょだけですからぁ!」

 

 エイナはそう言いながら、一度食堂の出口まで六波羅を引き摺って行った。

 その光景を不思議そうに見つめるケイを見て、0号は隣に座る。

 そして、こう言った。

 

「彼は、騎双学園にいる執行官の六波羅だ。……君の友人だった男だ」

「あの人が……?」

「そうだよ。君と彼は、何度も戦った。勿論、勝ったのは私達だがね」

「そ、そうなの? 私、強かったんだ……」

 

 手に視線を落とし、ケイは実感のなさそうな声でそう言った。

 その時、エイナの威勢の良い声が響く。

 

『お待たせしましたぁ!』

 

 声がする方を見れば、そこには見覚えのない可愛らしい少女が立っていた。

 

『さあ見てくださいぃ――これが萌え袖ブレザーミニスカえちえちギャルリーダーですぅ!』

「お前らァ、後で覚えとけェ……!」

 

 その口調などから察して、ケイは驚き震える声で問う。

 

「こ、これが騎双学園の執行官ですか……!?」

「違ェ!」

『そうです!』

 

 六波羅が手に持っていた弓は一度光ると、エイナへと変化した。

 それも本来は驚くことなのだが、目の前のギャル六波羅の方に視線がいって仕方がなかった。

 

「ほぉ、随分と可愛らしい姿になったじゃないか」

「黙れェ……」

 

 やや大きめの紺色ブレザーに赤のネクタイと、チェック柄の短いスカート。

 そしてローファーと、まるで学生の優良サンプルのような姿である。

 

「はっはっは、そんなに顔を真っ赤にして睨まれても怖くないねぇ」

「ポイントはこのおそろいのリストバンドと、赤いチョーカーですぅ! タイツと悩みましたが、リーダーは足がきれいなのでぜひとも大胆に見せてアピールして欲しいと思いました!」

「六波羅の事になると饒舌になるねぇ」

 

 0号は玩具を見つけたかのように意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「ケイ、実は六波羅は女の子なんだ(大嘘) 普段は、周りに舐められないようにああやって魔法で姿を変えている」

「はァ!?」

「そ、そうなんだ……」

 

 ケイは六波羅を見ながら、納得したように頷いた。

 すぐに否定しようとした六波羅だったが、ケイがホッとしているのを見てすぐに言葉を飲み込む。

 

 そして椅子に座ると、頬杖をついてこう言った。

 

「騙して悪ィな。執行官として舐められちゃいけねェからよ。普段はああやって男のフリをしてんだ」

 

 任務は必ず遂行する、それが六波羅である。

 今の彼、いや彼女は完全に仕事時のスイッチが入っていた。

 

「リーダー……なんとお労しいぃ……」

「誰のせいだと思ってんだ」

 

 普段の彼なら強力で悶絶してしまうチョップも、萌え袖ギャルでは威力は半分以下にまで落ちる。

 エイナはそれを顔面で受け止め、幸せそうにしていた。

 

「それじゃあ、改めてお話でもしようか^^ ケイ、いいかな?」

「う、うん。その……エイナちゃんと六波羅ちゃんさえ良ければ」

「ブフォッ! ……リーダー、六波羅ちゃんですって!」

「あっ、何か変でしたか!? ご、ごめんなさい!」

 

 六波羅は一度息を吸い込むと、何とか笑顔を作った。

 

「別に呼び方は好きにして良い。敬語もいらねェ」

 

 プライドを捨てても役目を全うするその姿は、まさにSランク執行官と呼ぶ他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えっちっちっちっちっち! ギャル波羅さんがこんな所で見れるなんて! しかも制服を若干着崩すだけで少しのお清楚が残ってるのも素晴らしい!』

『エイナも良い子を捕まえたものだ^^ 無垢シエラとギャル波羅の組み合わせなんて――もうこれだけで百合ラノベ書けるだろ』

『おぉ……しかし何故幼くないのだ?』

『戦いの次にギャルを見せられて頭おかしくなりそうなのじゃ』

 

 

 

 

 

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