【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
牙塔トウラクは震えていた。
それは、己の根源から来る恐怖である。
今、彼は三人で一つのテーブルを囲んでいた。
それを遠巻きに見つめるエイナや0号と目が合う。が、すぐに意地の悪い笑みだけを返される。肝心の相棒は目の前のパフェに夢中で気が付いてすらいなかった。
トウラクは改めて意識を隣に向ける。
(この僕がまだ恐怖に震えることがあったとは……!)
隣の少女を見るだけで、トウラクの頬を汗が伝った。
「トウラクとはもう会った? この子も、ケイとお友達だったんだよ☆」
「そうなんだ……! あ、あの、あの時は忘れちゃっててごめんなさいっ……あ、で、でも今も別に思い出した訳じゃないんですけど……」
斜め向かいに座るケイにそう言われ、トウラクは何とか会釈で返す。
ケイが記憶を失っていることは知っている。それは、ソルシエラとの戦いの後、現地で確認した。
問題は隣の彼女である。
「そんなに畏まらないでよー。なんだか、お見合いしているみたいじゃん」
「おっおおおお見合い!? そ、そんなつもりじゃ……」
「冗談だって、ごめんごめん。ケイったら、反応が良くってさ」
長い髪の先を指で遊びながら、少女は笑う。
その横顔を観察しながらトウラクは恐る恐る話しかけた。
「あ、あの……六波羅さん?」
「六波羅ちゃん」
「え?」
「いつもみたいに六波羅ちゃんって呼んで☆」
「!?!?!?!?」
トウラクは思わず椅子から立ち上がる。
警戒度は既にMAXになっていた。
(天使? あるいは精神干渉系の異能!? とにかく、一度距離を取って星斬を――)
ルトラを武器に変えようと手を伸ばす。
が、その手は凄まじい速度で六波羅によって握られた。
「どうしたの、トウラク。あ、もしかしてケイを相手に緊張しているの? もー、駄目だよ。トウラクにはミハヤがいるじゃん。浮気になっちゃうよー?」
ぶかぶかの袖の中から見える白く細い手から考えられないイカれた力で掴んだ六波羅は、そのままトウラクを無理矢理再び席に座らせる。
トウラクは必死に抵抗したが、エイナの感情エネルギーバフにより超人と化した六波羅の手を振りほどけるわけがなかった。
ケイはその事に気が付いていない様子で、むしろ六波羅の言葉の方に興味を示していた。
「もしかして、トウラク君って……彼女がいるの?」
「ちっちっち、それどころかお嫁さんがいるんだよ……!」
「ええっ! ……もしかして、その子も私の知り合い?」
「そうなんだよー。ミハヤちゃんって言うんだけど、しっかり者で頼れる探索者なんだ。ね、トウラク」
「アッハイ」
「そうなんだぁ」
「……あ、もしかして自分も彼氏欲しいとか思ってるの?」
「ち、ちがうよぉっ」
「じゃあ彼女とか?」
「そっ、そそういうのはまだ早いよぉ!」
「あははっ、その割には顔真っ赤ー! ねー、トウラク見てよ。ケイったら慌てちゃって」
「ソッスネ」
トウラクは何とか返事をする。
正直隣の存在がいろんな意味でSランクなので今はそれどころではない。
「あ、トウラク肩に糸くずついてるよー。取ってあげるー」
「え?」
不意に、六波羅が顔を近づける。そして囁くように言った。
「真面目にやれ殺すぞォ。こっちはケイ怖がらせないために気張ってんだからよォ……!」
低くドスの利いた声。
清涼感のある川のせせらぎみたいな声のせいで怖さはだいぶ軽減されているが、それでもその言葉は間違いなく自分の師匠である六波羅の物だった。
(六波羅さん……! 良かった、正気ではあったんだ……! いや、この手段を取っている時点で結構正気ではないけど)
トウラクは安堵して息を吐く。
思考はクリアに、そして視界も広がっていた。
(つまり、今はケイの為に道化を演じているという事か。確かにいつもの六波羅さんでは今の彼女を怖がらせてしまうかもしれないしね)
トウラクはその場で最適な選択肢を組み立てていく。
その思考速度は、戦闘中に匹敵していた。
(なら僕も、今は彼女のために出来ることを――)
トウラクはわざと情けない笑顔を作りながら、少しだけケイと六波羅に顔を寄せる。
そして、わざと周囲を警戒するようなふりをしてから告げた。
「……じゃ、じゃあ折角だからミハヤの事を僕から説明しようかな」
「とか言って、惚気るつもりでしょー?」
「も、もう六波羅ちゃん揶揄わないでよっ」
六波羅とトウラクの二人は完全にスイッチを入れていた。
目的はただ一つ、ケイを怯えさせたり不安にさせない事である。
■
少し離れた席で全てを見ていたエイナは、それはそれは満足そうであった。
「ふひっ、いいですねぇ! リーダーがあんな風に必死にギャルのふりをしているなんて……えっちですねぇ!」
「君、そのうち彼に殺されるのでは?」
「リーダーは私が大好きだから殺さないですよぉ、お姉様ぁ。そ・し・て、私もリーダーが大好きですぅ」
「それは聞いてないっての」
「は? 蛙は黙っててくださいぃ。それとも、私たちが羨ましいんですかぁ? 彼氏いないですもんねぇ」
「……別に、彼氏はいなくていいし」
「ははは、強がりぃ」
不貞腐れてなすの煮びたしを食べるクラムを見ながら、エイナは笑う。
その言葉の真意を知る0号は、静かに笑みを浮かべた。
「話してばっかでそれ食べないなら貰うね」
「あっ、ルトラぁ! 私のパフェ食べないでくださいぃ!」
「ざまあないね、いい気味だわ」
すぐに罰が当たったエイナを見ながら、今度はクラムが微笑む。
と、その時エイナの前に新たなパフェが置かれた。
「いっぱい食べると一日がいっぱい幸せになります。だから、遠慮しないでください!」
「ヒカリ様ぁ……!」
「ヒカリ、私も」
「任せてください! それとクラム、人の不幸を笑ってはいけませんよ! ほら、貴女もこれを食べて一緒に笑顔になってください!」
「いや私は別にいらな……でかっ。ねえこれ他の人よりでかくない……?」
ヒカリはニッと笑ってピースサインを作る。
「試作のパフェです! 幼馴染特権で特別にあげますっ!」
「……まあ、たまにはいいか」
エイナとルトラからの羨望の眼差しに気持ちよくなったクラムはそれを素直に受け取った。
当然、理由はそれだけではない。
ベリーソースをふんだんに使ったクラムカラーのパフェは、すぐに完成するものではない。
試作といいながら、クラムの好物だけで構成されたパフェは間違いなく元気づけるためにヒカリがわざわざ作った物であることは明白であった。
幼馴染であるクラムがそれをわからない訳がない。
(……本当に、いっつも私は励まされてばっかりだ)
クラムはヒカリを改めて見る。
不思議そうに首を傾げるヒカリに、クラムはほんのり顔を朱に染めつつ言った。
「ありがと」
「……! はい、腕によりをかけて作ったので、ぜひ味わってくださいね!」
ヒカリはパタパタと厨房に戻っていく。
その足音は、来るときよりも少しだけはしゃいでいるようだった。
二つのテーブルで、少女たち(異物他込み)の楽し気な会話は続く。
今日という一日が、少しだけ明るくそして騒がしくなりそうな予感がした。
『もう無理じゃ! 背中! 背中に槍が突きつけられておる! 我もう無理! カメ先生助けて! のじゃロリ過去問やってる場合じゃないのじゃぁ!』
『おぉ……マイロード、そろそろ戻ってやってはくれないか。このままでは赫夜牟の背中に大きな穴が……!』
『チッ、これからいろんなカプを摂取しようって時に邪魔しやがって^^ ラッカぐらい、自分で何とかしたらいいのにねぇ』
『まあまあそんなこと言わずに戻ろう。どっちの美少女コンテンツも生産、摂取しなきゃいけねえとは。やっぱり星詠みは忙しいぜ!』
『星詠みにそんな役目はない』
『ツンってされてるのじゃ! 背中をツンってされてるのじゃ!』