【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
献身のソルシエラを討伐したというのに、ガーデナー達の空気は最悪であった。
戦いを始める前よりも張り詰めた空気はまるで戦場のようだ。
「……わっ、私従業員の事を見てきます。残った奉仕エラ達も従業員にしてあげないと」
「後でいいでしょ」
悲哀のソルシエラは自室であるにもかかわらず耐えきれずに部屋から出ようとする。
が、すぐにサソリに捕まってベッドに放り投げられていた。
着地したベッドの上では、未だに意識を取り戻さないソルシエラが死んだように目を瞑っている。
「――随分と威勢が良いのう」
部屋の隅でパフェを頬張りながら、赫夜牟はそう言ってあざ笑った。
その背中には、半透明の槍が突き付けられている。
「我の事はもっと崇め奉った方が身のためだぞ人間。あの戦いにおける『えむぶいぴぃ』とやらではないのか? それとも、我に出番を奪われたのがそんなに不満か?」
「別に。倒したことは感謝してる。でも、それとこれとは話が別だよ。お前は危険だ」
「危険か……。確かに、その気になればこの場の全員を殺す事くらい造作もない」
「そうか。ならやっぱり殺すわ。もう用済みだし」
「いいのか?」
赫夜牟は空になったパフェの器をバリバリとかみ砕きながらラッカへと首だけ振り返る。
その顔には笑みが浮かんでいた。
「我と小娘は魂による契りを交わしている。いわば共存関係だ。だというのに我が死ねば……今の小娘はどうなるのかのう?」
「チッ」
「キヒヒヒッ、安心するのじゃ。我は今回は敵ではない。安心すると良い。そんなに怯えるな、愛い奴よのぉ」
「は? ビビッてねえし。マジお前やっぱ殺すわ。曰く、桜庭ラッカは――」
「ちょ、先生ストップー!」
ガーデナーは慌てて間に入ると、ラッカの腰にしがみつく。
一秒遅れていれば、ここは戦場になっていただろう。
「まあまあ二人とも落ち着いて。今考えるべきは、今後どのソルシエラから倒すのか、でしょ? 残っているのは勇猛、加虐、背徳、そして絶望。どいつもこいつも曲者揃いだ。こんな所で言い争いをして何になるの? 私、そういうストーリー後半の仲間割れ展開嫌いなんだよね。ダルいし」
「別にこんなクソガキ仲間じゃないし」
「は? 我は子供ではないが?」
「喧嘩しないでって……。はい、パフェ半分に分けたから仲良く食べてよ」
そう言って堕落のソルシエラは別容器に取り分けた真っ赤なパフェを二人に差し出した。
赫夜牟はそれを見て刹那の間に泣きそうな顔になったが誰も気が付かなかった。
「ほぉ、この赤さ。さっき食べたイチゴパフェより赤いぞ! なんの果実じゃ?」
「秘密。まあ、食べてみればわかるよ」
「そうかそうか。では頂くとしよう」
「あれ、この匂い」
ラッカは口に入れる直前で動きを止める。
そして堕落を睨みつけようとした。が、既に彼女はサソリごと気配遮断により姿を消していた。
隣を見れば、今まさに赫夜牟が頬張るところである。
ラッカは意地の悪い笑みと共に小声でつぶやいた。
「……曰く、桜庭ラッカはどんなものでも美味しく頂ける。いただきまーす」
二人は同時にパフェを食べる。
そして両者違う反応を示した。
「のじゃああぁぁぁぁぁぁ!?」
「うーん、おいしー!」
パフェを一口食べた赫夜牟は、器を放り投げその場を転がる。
口元を押さえ、涙目になっている赫夜牟には、先ほどの怪物のような気配はなかった。
「あれあれぇ? どうしたのかなぁ? 赫夜牟ちゃんったらもしかしてお子様だから舌がクソザコだったのかなぁ?」
宙を舞うパフェを華麗にキャッチしながら、ラッカは更に頬張る。
舌を焼き焦がすような、もはや拷問ともいえるパフェは調和を破壊しつくしとても美味であった。
「な、なんじゃこれ!? 人の食い物ではなかろう!? 食べ物で悪ふざけをする奴は許せないのじゃ!」
「別に悪ふざけはしてないでしょ。これ、美味しいし。……やっぱり、舌がおこちゃまなんだね。ザッコ(笑)」
ここぞとばかりにラッカは責め立てる。
その顔は、赫夜牟にも引けを取らない程意地の悪いものだった。
「き、貴様ぁ! わ、我がこの程度のパフェに負けると言ったのか!?」
「そうだよクソガキ」
「負けるわけなかろう! 我には少し刺激が足りないくらいじゃ!」
「……へえ。じゃあさ、もし私より食べるのが遅かったらどうする?」
赫夜牟にパフェを差し出しながらラッカは笑う。
努力して威勢の良い笑みを作った赫夜牟は、パフェをひったくった。
「どうもこうもあるかぁ! そんなことはありえん!」
「なら、クソガキの方が遅かったら私の言う事なんでも一つ聞いてね」
「……そ、それは何故? どこから賭け事が湧いてきたのじゃ……?」
「私が遅かったら私に何でも言う事聞かせていいよ。土下座でも何でもする。……あれれ、もしかしてビビッてんの?」
「うぐっ……」
赫夜牟は眉間に皺を寄せて腕を組む
そして考え事をするように暫し唸った。
間もなく、赫夜牟は目を見開き叫ぶ。
「良かろう! 我の方が遅かったら何でも言う事を聞いてやるわぁ!」
「そっかぁ!」
ラッカの目は獲物を前にした肉食動物のように輝いていた。
二人の事を少し下がった場所で見ながら、ガーデナーはホッと胸を撫でおろす。
「良かった……喧嘩が安全な即堕ち2コマになった……」
「その表現はどうなのさ」
「あ、ダラちゃん。ナイスー!」
後ろからひょっこり顔を出した堕落のソルシエラは、してやったり顔でピースサインを作った。
「ガーデナー、開始の合図を!」
「そしてこの槍女が不正しないように見張っておけ!」
「はいはーい。じゃあ、ヨーイドン!」
勝敗の決まりきった戦いが、今幕を上げた。
■
廃屋と化した教会は、差し込む陽光により暖かく照らされている。
その下、一人のシスターがボロボロのソルシエラ像へと祈りを捧げていた。
深い黒のヴェールが静かに肩を覆い、彼女の背に落ちる布は、まるで夜の帳のように沈黙をまとう。
胸元には鮮やかな青い宝石がペンダントとして吊るされており、まるで信仰そのものを象徴するかのような厳かな存在感を放っている。
全体はシンプルでありながらも隙なく整えられており、装飾のないその姿は、かえって見る者の心に敬意と畏れを芽生えさせることだろう。
その異常なまでのスリットと、豊満な胸部さえなければ。
「ふぅ」
少女は吐息をこぼす。
それだけである筈なのに、妙な色香を放っていた。
彼女の名を、背徳のソルシエラ。
勇猛と加虐との三つ巴の戦いを勝利した強者である。
荒れ果てた廃屋には多くの戦いの跡が見られる。
しかしそれも背徳のソルシエラにとっては些末事であった。
「ちゃんと、招待状は受け取ってくれたでしょうか――ラッカちゃん達は」
友人の来訪を待つ少女のように、あるいは娘の帰りを待つ母のように背徳のソルシエラは笑う。
ただ一人、彼女はその時を待ち続けていた。
■
「館長、大変です! お手紙係さんがこんなものを――」
扉が勢いよく開かれ、兵士エラが入ってくる。
その手にはリップマークの付いた黒い封筒が握られていた。
兵士エラはそれを悲哀のソルシエラに渡そうとしたが、すぐに中の光景を見て動きを止める。
「勝ったァ!」
「の、のじゃ……、お、お水……」
空の容器を天に掲げるラッカと、彼女に拍手を送る悲哀のソルシエラと堕落のソルシエラ。
そしてその横ではまだ半分残っているパフェを涙目で見つめながらガーデナーから水を貰おうとしている赫夜牟の姿があった。
『なんでこんな負け戦をやらせたのじゃ! わからせってなんなのじゃ主殿!』
『赫夜牟君、よかったよ』
『いいねぇ^^』
『私がその場にいたらよしよししながらカメさん甘々ジュースを渡したというのに……! こうなれば、またシェフシエラに天啓としてジュースのレシピを送っておこう……』
『うぅ……お口が痛いのじゃ……。甘いショートケーキか、柔らかい赤子の肉が食べたいのじゃ……』