【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第380話 7‐2 背徳の星、地を照らせ

 ソルシエランドには多くの施設が存在する。

 その中には、モブシエラ達の悩みを解決するために建てられたソルソル教会もあった。

 

 都市を離れ数キロ程進んだ先にある森、ホシヨミウッドの中にひっそりとたたずむ木造の小さな建造物はまるで童話の中に出てきそうな雰囲気がある。

 そう、いつも通りならば。

 

「ここが次のソルシエラのハウスだね」

「ダラちゃん本当にここ? 地図読むの下手なんじゃない?」

 

 ガーデナーの不安げな声に堕落のソルシエラはムッとしてサソリの尾に取り付けた地図を指さした。

 本人はゲームをしている最中である。

 

「手紙にはこのルートが記載されてた。それに、移動したのはさっちゃんだから仮に間違っていてもそれは私ではなくさっちゃんのミス」

 

 堕落のソルシエラの言葉を聞いて、サソリは不満げに体を小刻みに揺らしながら鋏を何度もカチカチする。

 その上でゲームをしていた堕落のソルシエラにとっては大ダメージだった。

 

「ああっ、ちょっと動かないでさっちゃん! ごめん、謝るから! 今、ランクマしてるからぁ!」

「こんな時にランクマに潜るなよ」

「この場にソルソルがいたらゲーム没収されてそう」

「おい、ゲームやめろ」

 

 ラッカの言葉を華麗に無視して、堕落のソルシエラはゲームを続けながら視線も向けずに言葉を返す。

 

「とにかく、場所はここで合ってるよ。戦いのせいで、少しだけ周りの森が荒れているけど」

「少しだけ……? 森がなくなってるのに?」

 

 ソルソル教会の周辺はおろか、森であった筈の全ての場所が荒野と化していた。

 木々が焼けこげた跡と地面が割れ、めくれ上がった残骸だけが存在するその場所はまさに死の大地と呼ぶにふさわしいだろう。

 そんな中、ボロボロではあるが確かに存在しているソルソル教会はいささか奇妙に見えた。

 

「……まあ、これだけの規模の戦いでも残ってるって事は勝者は考えなくとも良さそうだね」

「お手紙には仲良くお話って書いてたけど……先生、これはどう考えても果たし状では?」

「堕落のソルシエラ、何か情報はないの?」

「私はいつから便利な解説キャラになったの? ……背徳のソルシエラは兵士エラ達を持たない特殊なソルシエラだよ。全てのリソースを自身につぎ込んだ、個人最強の武闘派。彼女の持つ権能はわからない。でもこの様子を見るに、相当な力を持っていることは確かだね。やっぱ帰って良い?」

「「駄目」」

「ダルい……」

 

 項垂れる堕落のソルシエラを宥めるようにガーデナーは頭を撫でる。

 それを横目に、ラッカは手を出して言った。

 

「なんか喉渇いたなぁ。お茶」

「はいなのじゃ」

 

 すぐにその手にお茶の入った湯呑が置かれる。

 置いたのは、装いが違う赫夜牟であった。

 

「ありがとねぇ……赫夜牟ちゃん」

「う、うぐぅ……覚えておれ……!」

「駄目だよぉ、ご主人様にそんな言葉使っちゃ。今の赫夜牟ちゃんは私のメ・イ

・ドなんだからさぁ!」

「うぅ……小娘、はよ目覚めんかぁ……!」

 

 今の赫夜牟はその特徴的な黒い和服ではなく、メイドの恰好をしていた。

 奉仕エラ達の服を借りて、クラシカルメイドスタイルになった彼女は、今だけはラッカの従者である。

 

「そもそも卑怯なのじゃ! お主、絶対にズルしたじゃろ!」

「はぁ? 言いがかりつけないでくれますぅ? お前の舌がおこちゃまだっただけ(笑)」

「のじゃー!」

「落ち着いて赫夜牟ちゃん!」

 

 献身のソルシエラとの戦いで見せた気迫はどこへ消えたのか。

 今はガーデナーに抱きかかえられて、必死に腕をぶんぶんと振り回すメイド幼女になり果てていた。

 

「離すのじゃ!」

「いいけど、絶対に先生に立ち向かわないでね? 今の赫夜牟ちゃんだとたぶん木っ端微塵だよ?」

 

 赫夜牟はペットのようにそっとおろされる。

 すぐにラッカを睨みつけたが、やがて暴力を諦めたのか鼻を鳴らした。

 

「フン! 別にいいのじゃ、今日くらい!」

「曰く、桜庭ラッカとの賭け事は拘束力を持つ。……これ、後だし出来るの強いよねぇ!」

「おま、お前ぇ……!」

 

 赫夜牟は悔しそうに叫ぶが、攻撃を加えることはできなかった。

 今の赫夜牟は『ラッカ、あるいはガーデナーが認めた相手にしか攻撃を加えることが出来ないお茶くみ新人メイド』という屈辱的な呪いを掛けられていた。

 

「絶対にいつか倒してやるのじゃ……!」

「ははは、お前みたいな雑魚、何体も葬ってきたっての。ほら、中に入ろう、お茶くみのじゃロリメイドちゃん」

「属性が増えて良かったね。後で六波羅パイセンと属性バトルでもする?」

「変な勝負ごとに我を巻き込むでない!」

「こいつ一気にオーラなくなったなぁ」

 

 三人に散々な言われようの赫夜牟は、涙目になりながらラッカに新たなお茶を渡す。

 せめてもの抵抗にアチアチのお茶にしているのだが、ラッカはアチアチのお茶が大好きだった。

 

「じゃ、行こうか」

 

 お茶を飲み干したラッカを先頭に、一行はソルソル教会の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 ソルソル教会は非常にシンプルな作りをしていた。

 左にこじんまりとした居住スペース、そして右には小さな懺悔室。

 この教会のスペースの大半を占めるのは、祈りをささげるための間であった。

 

 半ば砕けているソルシエラ像の下、祈りを捧げる姿勢のソルシエラが一人。

 それこそが、背徳のソルシエラであった。

 

「あら、来たのですね。お待ちしており「赫夜牟、やれ」……あら?」

 

 ラッカの許可を得て、赫夜牟の能力が解放される。

 馴れないメイド服を揺らしながら背徳のソルシエラに近づいた赫夜牟は、その動きを停滞させて距離を詰めた。

 まだ背徳のソルシエラは振り返りきれてすらいない。

 彼女の動きは途中で停止し、不思議そうに「あらら?」と疑問を漏らすしかなかった。

 

「献身との戦いで理解したのじゃ。手足をちぎって堕落がとどめを刺せばよい」

 

 獰猛に笑い、スカートの中から出した鋭い触腕を背徳のソルシエラの腕へと狙いを定める。

 そして躊躇なく突き刺そうとした瞬間だった。

 

「……のじゃぁ」

 

 赫夜牟は突然脱力しその場に崩れ落ちる。

 

「赫夜牟!?」

「かませ化RTA……運営の修正早すぎでしょ……」

「元気の良いお嬢さんですね。ダンジョン主の昇華体でしょうか?」

「き、貴様、我に何をした」

 

 背徳のソルシエラは唇に人差し指を当て、蠱惑的な笑みを浮かべた。

 

「内緒です」

「堕落、合わせな」

「ダル……」

 

 ラッカと堕落のソルシエラは同時に動き出した。

 前方からサソリに乗った堕落のソルシエラが攻め、転移に近い速度で背後を取ったラッカがその手足を刎ねるために槍を向ける。

 

 しかし、堕落のソルシエラの攻撃は途中で停止し、ラッカの攻撃はメイスによって防がれた。

 

「なっ、堕落も!?」

「だ、ダルい……なんか急に滅茶苦茶ダルく……」

「どうして皆さん、急に攻撃をしてくるのですか? もしかして、お手紙届きませんでした……?」

「うるさい! 今まで戦ったソルシエラが連続で搦め手使う奴だったから、初手で殺すって決めてたんだよぉ!」

 

 ラッカはそう言って攻撃を仕掛けるが、その攻撃は全てメイスによって弾かれてしまう。

 一つ一つを丁寧に処理され、ラッカはすぐに違和感に気が付いた。

 

(こいつの防御が上手いんじゃない……! 私が防ぎやすい攻撃を選んでいるんだ!)

 

 無意識下に行われていた、最も防ぎやすい攻撃の選択。

 つまりは、手加減である。

 

「チッ、やっぱ搦め手じゃん!」

 

 ラッカは顔を顰めながら後方に跳び距離を取る。

 そして、種子を蒔こうとしているガーデナーを手で制した。

 

「駄目だガーデナーちゃん! 何が起こるかわからないからストップ!」

「え?」

 

 困惑するガーデナーに答えることなく、ラッカはすぐに己に対策を施した。

 

「曰く、桜庭ラッカの精神は他者に左右されない」

 

 呟いてから、ラッカは槍を握る自身の握力を確かめる。

 そして背徳のソルシエラを見た。

 

(うん、次は殺せる。イメージも出来る)

 

 確かな感覚と共に、ラッカは槍を構えたまま背徳のソルシエラを睨みつけた。

 

「お前、私たちに精神干渉しただろ」

「えっ、いつの間に……!?」

「あら、そんな怖い顔しないでください。私はただ、お話しできる場を作りたかっただけなんです」

 

 背徳のソルシエラはそう言って辺りを見渡す。

 そして首を傾げた。

 

「オリジナルはどこですか?」

「あの子なら今頃ふかふかベッドでおねんねしてるよ」

「そうですか……できればお話しておきたかったのですが、ラッカちゃんがいるなら貴女に伝言をお願いするとしましょう」

「気安く呼ぶなよ」

「ふふふ、ごめんなさいラッカちゃん。あ、私としたことがオレンジソルトティーの用意がまだでしたね。今用意しますから」

「……は?」

 

 ラッカはその言葉に固まり、背徳のソルシエラを見る。

 彼女は視線に気が付いていないのか、ラッカ達の間を無防備に通り過ぎていった。

 

「適当に座っておいてください。と言っても、今のソルソル教会はボロボロですけれど」

 

 そう言って居住スペースに向かう背徳のソルシエラの背中を見ながら、ガーデナーは近くの椅子に座った。

 

「とりあえず、座ろっか先生。……先生?」

「…………ああ、わかった。おら、起きろのじゃロリメイド! イキっててそのザマか!」

「の、じゃ……体に力が入らないのじゃ……。お、起こして……」

「ダルい……ランクマしなきゃいけないのに、シーズン最終日なのにカジュアルに潜っちゃう……! どうして……!」

「ダラちゃんのそれはどういう精神干渉なの?」

 

 背徳のソルシエラとの初戦。

 勇んで来たというのに、四人の空気は完全に弛緩しきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、張り詰めた空気の空間が一つ。

 

『おい、あのソルシエラはなんだ? どうしてあんなに無駄にセクシーにした? 誰が作ってくれと頼んだ?』

『久々に怒っているねぇ』

『おぉ……赫夜牟よ、その服もふりふりで可愛いぞ……! お仕事を頑張ったら後でカメさんパフェを作ってやるから頑張るのだ……。それと、流石に対話を要求している者の手足を初手でもぎもぎしようとするのはどうかと思うぞ……』

『早く終わらせて、この地獄から解放されたかったのじゃ……。恐らくアイツ、かなり強いのじゃ。このふざけた精神干渉がなくとも、殺せなかったかもしれぬ』

『で、なんでせっかくの聖シエラを巨乳のお姉さんにしたの? 本当に俺から分かれた存在なら、背徳のシスターは――』

 

 

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