【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
言葉の意味をラッカは理解できなかった。
いや、したくなかったと言った方が正しいだろうか。
理屈や道理がわかっていても、それを認めることだけはしたくなかったのだ。
「どうしましたか、ラッカちゃん。ほら、ここを槍で貫いて下さい」
自身の胸の辺りを指さして背徳のソルシエラは近づいてくる。
浮かんだ笑みは、死を望む人間とは思えない程に穏やかであった。
「大丈夫ですよ。私は求道者の記憶を持っているだけの存在。私を殺したところで、貴女が求道者を殺した事にはなりません」
「そういう事じゃないだろ」
「もしかして、私が復活する事を懸念しているのですか? ……それは確かに証明が難しいですね」
「そうじゃないって言ってるだろ! 死ぬ事をそんな簡単に決めるなよ!」
ラッカは遂に槍を手放し、背徳のソルシエラへと駆け寄る。そして両肩を掴んで顔を覗き込み叫んだ。
「求道者じゃないって言うなら、そんなクソみたいな自己犠牲は止めろ! そういうのはもう間に合ってんだよ!」
叫びと共にフラッシュバックするのは、最後まで自分と共に戦っていた少女の姿であった。
『――ごめんラッカちゃん。後はよろしくね』
鼓膜の奥に刻み込まれた声は、光景は、今でもはっきりと思い出せる。
彼女の笑みと、希望を信じた声、そして崩壊していく体。
一つの希望が崩れ去るその瞬間を、ラッカは未来永劫忘れることはないだろう。
そして当然、二度も同じことを許すわけがない。
「一つ宣言してやる」
ラッカは背徳のソルシエラを見つめ告げる。
それは自身に対する誓いでもあった。
「私はお前を殺さない。そんな事しなくても、私は私のまま最強になれる。いや、既に最強なんだ。教授にだって勝ってやる」
「ですが、ソルシエラバトルを終わらせるには逸話が必要です」
「……成程。背徳のソルシエラ、お前は確かに求道者の記憶を持っているけど一つだけ違う事があるね」
得意げに笑みを浮かべ、ラッカは背徳のソルシエラの後ろを見た。
「あの子は最後まで仲間を信じていた」
「……仲間、ですか」
「そうだよ。そして今の私には、頼れるクソ強い仲間がいるんだよ」
視線に気が付き背徳のソルシエラが振り返る。
するとそこには、こちらへと駆けてくるガーデナー達の姿があった。
手を振りながら駆けてくる彼女達を迎えるようにラッカは歩き出す。
背徳のソルシエラは手を引かれ、つられて進む。
「……あ、後もう一つ」
ラッカは思い出したように声を上げる。
そして振り返ることなく、ピースサインだけを見せながら言った。
「今の私、『さくらば』じゃなくて『さくらにわ』だから。ヨロシク」
「…………そうですか、覚えておきます」
背徳のソルシエラは諦めたように笑ってそう言った。
「どうしたのガーデナーちゃん。私たちが恋しくなった? 大丈夫だよ、私強いし」
ラッカは自分たちの元へと来た理由が、心配によるものだと想定してそう答える。
彼女の頭の中では、安堵するガーデナーが浮かんでいた。
が、しかし現実は違う。
「やばいよ! 先生!」
「どうしたのさ、そんなに慌てて」
先ほど『頼れるクソ強い仲間』と言ったばかりの少女は、汗で頬に髪を張り付かせながら目を見開いて必死な形相で言った。
「ソルソルが一人で絶望のとこに喧嘩売りに行った!」
「…………」
ラッカの思考が一時的に停止する。
そしてゆっくりと空を見上げ、鮮やかな極彩色を瞳いっぱいに映して叫んだ。
「何やってんだ、あいつー!」
■
ハッ、今美少女の叫びが聞こえた気がする!
『変な電波拾ってないでまっすぐ行きたまえ』
『主殿、既にガーデナー達にはバレたのじゃ。今、全員で絶望のソルシエラに向かう算段を立てておる』
成程……!
なら俺がするべきことは一つだな!
『絶望のソルシエラを倒すのじゃな! がんばるのじゃ!』
ガーデナーちゃん達が到着するタイミングで丁度良く絶望のソルシエラを倒してそのまま破滅のソルシエラへと向かう事だ!
『変なこだわりが垣間見えたのじゃ』
変なものか。
想像してご覧。必死の思いで絶望のソルシエラの元まで来たガーデナーちゃん達。
辺りは激しい争いの後こそあるものの、静まり返っている。
そのまま奥に進むと、血塗れで佇むソルシエラ……つまりは俺。
光を失った目でガーデナーちゃん達を一瞥すると、そのまま破滅のソルシエラの元へと向かおうとするんだ……!
そのまま行かせるわけにはいかない! ソルシエラを止めてくれガーデナー!
『どの立場なのじゃ』
『おぉ、マイロードよ今の状態で絶望のソルシエラに勝てるのか? 奴は強いと聞く。ここは一つ、カメさんエマージェンシートルネードを使ってみてはどうだろうか』
初めて聞いたぞそれ。
『ついにカメさんエマージェンシートルネードが……!』
『赫夜牟は知ってんのかよ^^』
『私よりも階級が下の天使を全員支配下に置いて遠隔でサポートする。それがカメさんエマージェンシートルネードだ。元々は厄災において、我々6体の大天使が666億の下級天使を率いて現世に降臨する時の力だな』
『凄い事言ってない?』
『しかし使ったが最後、天上の意志に位置を特定され即座に厄災が起きる』
絶対使うなそんなもの。
俺の為に世界を気安く差し出すなよ、地球の幼き命どうなるんだよそれ。
『私が必ず守護るッ!』
『決意だけは一丁前^^』
とにかく、そういうのは駄目です。
名前で一瞬油断するけど、それ実質終末到来システムじゃねえか。
そんな事は出来ないし、今後もやらないよ!
『……主殿、そう言えば一番最初のアイドルソルシエラは天使を使役していなかったか? あの力を使えば、天使を戦力として補充できるのではないか?』
赫夜牟君……なんて賢いんだ!
流石だよ期待の新星! ヨッ、赤いランドセル! ちっちゃなおてて! 供物は人間!
『のじゃ、そんなに褒められると照れるのじゃ』
確かに、絶望のソルシエラを倒した後に天使を従えて破滅のソルシエラに戦いを挑みに行ったら熱いな!
よーし、その辺の天使をゲットしちゃうぞ~!
『……? あの、我は絶望のソルシエラへの対抗策として提案したのじゃが』
ははは、絶望のソルシエラなんざ余裕だよ。
勝利は決まっている。大事なのは、どのように勝利するかだ。
普段の彼女からは考えられない泥臭い勝利なのか、いつもよりも非情に徹した戦い方で勝利するのか。
ソルシエラが染まるのは己の血か、相手の血か。
それこそが重要なんだよ。
『……じゃ、じゃが絶望のソルシエラはまだ権能すらわかっていない。流石に危険じゃ!』
『まだわかってないのか新入り^^ こいつ狂ってるからもう止まんないよ^^』
『そうだ。正直、危ないので帰ってお家でカメさんクッキーでも食べていて欲しいのだが、そうはいかないのだろう。丁度良い機会だ、見ておくと良い赫夜牟。私達を統べる真の幼き女王――マイロードの強さを』
『前に嫌と言うほど見たのじゃ』
あと幼くないからね。
■
それは絶望のソルシエラにとっては予想外の来客だった。
険しい岩山に立つ、小さな城の中へと流れ星が一つ堕ちる。
「……これは予想外だな。私の元に来るのは背徳かガーデナーだと思っていたが」
大きな漆黒のマントに黒いセーラー服を身に纏った彼女こそ、この城の主である絶望のソルシエラだ。
「――あら、サプライズは苦手かしら」
相対するは、絶望のソルシエラの根源であり鏡写しの少女――ソルシエラ。
「随分とゆったりとした曲調で飽きちゃったの。ここからは私好みの曲調で踊りましょうか」
「……面白い。破滅への手土産に丁度良いな、オリジナルの首は」
城内部のいたるところから、影のようにシルエットだけのソルシエラ――影シエラが現れる。
それらを従え、絶望のソルシエラは大剣を召喚した。
「決戦前の肩慣らしと行こうか。楽しませてくれよ、オリジナル」
鏡界のどこか、戦いの幕は切って落とされた。