【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第387話 7‐9 背徳の星、地を照らせ

 この戦いにおける目標は二つ。

 一つは絶望のソルシエラの討伐。

 そしてもう一つは、オリジナルの説得であった。

 

「求道者! 私の話を聞いて!」

「うるさいッ!」

 

 そう、説得である。

 ソルシエラが暴走した理由を探り、その心に寄り添う。

 言葉にしてみればそれだけの事が、今は到底成し遂げることが出来ない偉業のように思えた。

 

「ソルソル!」

 

 名を呼んだガーデナーの目の前に、警告のように砲撃が堕ちる。

 

「黙れ! 私は奴を殺す!」

 

 叫び絶望のソルシエラへと飛び掛かろうとする姿はまさに獣。

 およそ言葉が通じる状態ではない。

 

 戦いが始まって既に10分が経過していた。

 そう、10分である。

 

 桜庭ラッカという事実上の最強とガーデナーという学園都市でも特異なSランクが二人掛かりで10分も決着をつけることが出来ずに戦い続けているのだ。

 それも事態が一つも進展しないままである。

 

「まずいですね、影の侵食速度が上がっています。きっと彼女の感情に反応しているんです! ラッカちゃん、ここはやっぱり無理やりにでもオリジナルの意識を奪いましょう!」

「簡単に言ってくれるね!」

 

 背徳のソルシエラの言葉にラッカはやけくそ気味に返事をする。

 そして槍を向けた。

 

「曰く、桜庭ラッカは槍を投擲して一度も外したことがないっ!」

 

 逸話により補正が掛けられた槍が、亜音速で投擲される。

 ソルシエラは、それを見た上で手を伸ばした。

 彼女の漆黒の装甲から触手のような影が伸び、槍を絡めとる。

 まるで蛇のように次々と槍に巻き付いていき、とうとうソルシエラの目の前で槍は落ちた。

 

 それからソルシエラはすぐに絶望のソルシエラへと視線を移して駆け出す。

 

「その影ズルだろ! くそっ、背徳、手伝って! アイツを絶望のソルシエラに近づけちゃ駄目だ! 赫夜牟もこっちに来い!」

「はい」

「仕方ない。手伝ってやるのじゃ」

 

 影シエラをついでとばかりに数体蹴散らした赫夜牟は、ソルシエラの前へと移動する。

 その横で、背徳のソルシエラは両手をしっかりと合わせ、願うように目を瞑った。

 

 瞬間、ソルシエラの動きが突然停止しその場に崩れ落ちる。

 

「休みたくない。だから、今貴女は休んでしまう」

 

 それは背徳の持つ権能であった。

 絶対に殺さなければならないという思考が、その体を縛り付ける呪いへと変化する。

 本来のソルシエラであれば、その権能を意識して立ち回っていただろう。

 しかし、今の彼女にそんな余裕はなかった。

 

「……こ、れは……!」

「今は、その倦怠感に身を預けても良いのですよ、オリジナル」

「誰がそんな事……!」

 

 ソルシエラはその権能に対して力づくの干渉を開始した。

 彼女の体を更に漆黒が覆っていく。

 

 やがて倒れ伏した彼女の体から闇があふれ出し、蜘蛛の脚のような物を生み出すと無理矢理立ち上がろうとした。

 

 が、そこに赫夜牟が追い打ちをかけるように停滞の力を行使する。

 

「止まれ、小娘。それ以上醜態をさらすと流石の我も見て居られん」

「赫夜牟ッ……!」

「やれやれ。ラッカ、さっさと意識を奪うが良い」

「わかった」

 

 ラッカが手を伸ばすと新たな槍が、手の中に生成される。

 それをソルシエラへと向けて放とうとしたその時だった。

 

「邪魔をするなと言っているのにッ!」

 

 感情をむき出しにした叫びと共に、ソルシエラの体からより強い魔力が波のように放たれる。

 干渉の力が乗ったそれは、魔力のみで十分すぎる殺傷能力を秘めていた。

 

「くっ、相変わらずの魔力じゃな」

「背徳の権能が無理やり剥がされた……!?」

 

 魔力波が、停滞と背徳をあっけなく壊す。

 それでもなお止まらない魔力波は辺りの影シエラを軒並み破壊して広がっていった。

 

「っ、ガーデナーちゃん!」

 

 それを見たラッカはすぐにガーデナーの傍に駆け寄ろうとする。が、そこには既に氷の盾が召喚されており、魔力波を防いでいた。

 

 盾の裏からガーデナーと、エプロン姿のレイが現れる。

 

「ガーデナーはワタシ様に任せるが良い! ついでに、そこの我儘なお嬢さんの機嫌を直すために美味しいシャーベットも作ってやろう!」

「サンキュー、レイ! じゃあ、頼んだよ!」

「うむ!」

 

 再び暴れ出そうとしているソルシエラへと向かって行くラッカを見送って、レイはガーデナーを見た。

 

「で、この茶番はいつまで続くのだ? 説得などにこだわらず、力強くで抑え込んでしまえば良いだろうに」

「そんなことしても何の解決にもならないよ。きっと、あの子があそこまで感情的になるなんて滅多にない事なんだ。だから、私達が受け止めてあげないと」

 

 そう、これはあくまで対話を前提としている。

 どれだけ槍や魔力砲が飛び交おうとも、それは間違いなく言葉と言葉の応酬なのだ。

 

「相変わらずの人助けか。悪くないな! 流石はワタシ様が認めた味見代理補佐長だ! 後で新作のシャーベットをくれてやろう!」

「ありがとう。ソルソルと一緒に食べることにするよ」

 

 ガーデナーは氷の盾の裏に隠れつつも、いつでも言葉を届けるチャンスを窺っていた。

 

「その意気は評価するが、なるべく早く頼むぞ。ソルシエラだけでなく、絶望とも戦っているのだ」

「わかってるよ。そのために、レイちゃん達とツグノちゃんを呼んだんだから。そっちは長期戦も想定している」

「ワタシ様が心配しているのはお前の体だ、この馬鹿者が! まったく、無茶する奴が無茶する奴を説得できるのか……?」

「出来るよ」

 

 ガーデナーは確信と共に強い口調でそう返す。

 

「私だから、出来ることなんだ」

 

 その時が来る事を信じて、ガーデナーは待っていた。

 

 

 

 

 

 

 それは、絶望のソルシエラの知識の中には存在しない最強であった。

 学園都市にはSランクが何人も存在する。

 が、目の前の白衣の少女はその誰とも合致しない。

 

「三ヶ嶋ツグノと言ったか? 面白い」

「そりゃどーも。気に入ってくれたなら名刺を渡そうか? アタシはご新規さんも大歓迎さ」

 

 二人の周囲にはいくつものクレーターが生まれ、壁にはいくつも大穴が空いていた。

 影シエラ達ですら近づけない程に激しい戦いが、その場では繰り広げられている。

 

 そしてガーデナー達と同様、決着がすぐにはつきそうもなかった。

 が、その理由はあくまで純粋に実力が拮抗しているからである。

 

「お前を強者であると認めよう、三ヶ嶋ツグノ」

 

 戦いが始まってすぐに、絶望のソルシエラは目の前の少女を強者であると認識していた。

 その顔には、オリジナルを前にした時よりも楽しそうな笑みが浮かんでいる。

 

「最強の肩書は、もう間に合っているんだけどねぇ。質屋に入れても二束三文にすらなりゃしない」

 

 ツグノの背後から影シエラが襲い掛かる。

 しかし、白衣の下から現れた生物的な何かが影シエラを喰らうとあっという間に白衣の下に消えて行った。

 

 ツグノは変わらず笑顔で手の中に琥珀色のナイフを遊んでいる。

 

「いやぁ、殺していいんだったらさっさと殺すんだけどねぇ。ほら、クライアントの意向には沿わなきゃだろう? アタシは強くて綺麗で頭も良いけど、雇われの身でね。中々に自由が利かないんだ」

 

 彼女の周りには影シエラ達がまた集まってくるが、それは六波羅と堕落のソルシエラがそれぞれ蹴散らす。

 

 その動きに焦りはなく、むしろこなれた様子すらあった。

 

「凄い。やっぱり最強チートキャラが仲間にいるとダルくないな。あ、ツグノ、さっきも言ったけど本当にそいつ殺しちゃ駄目だからね。同じソルシエラしか殺せないし、仮に殺したとしてもオリジナルに力を吸収されちゃ困る」

「何度も言わなくてもわかってるさ」

「二度、殺そうとしてなかった?」

「アレはほんのパフォーマンスだよ。実演販売だと思ってくれ。いくら天才だと謳われていようが、それが尾ひれがついた噂だってこともある。実は私はか弱い美少女で、戦う力なんて微塵もない!……そんな風に思われたら心外だからね。いつでも殺せるのだという事を、示しておかないと! 私はよく切れる包丁だし、汚れが付かないフライパンだし、安眠出来る羽毛布団なんだ」

「このお喋りが無ければもっとダルくないのに……」

 

 ツグノの言葉にうんざりしながら、堕落のソルシエラはサソリの上で伸びをする。

 この戦いの目的は、絶望のソルシエラの足止めただ一つ。

 

 そしてその目的はツグノによって完璧に果たされていた。

 

「実に良い。久しぶりの絶望だ……!」

 

 絶望のソルシエラは歓喜に打ち震えながら、丁度自分に襲い掛かってきた影シエラを殺す。

 その瞬間、絶望のソルシエラの威圧感が増した。

 

「今は同等。しかし、すぐに追い越してやろう」

 

 まるで目標でも見つけたかのように絶望のソルシエラの目が輝く。

 そしてその言葉の通り、絶望のソルシエラの力はこの戦いが始まってすさまじい勢いで増していた。

 

「一度目は楽勝。二度目も快勝。けど……三度目はほんの少し手こずりそうだ」

 

 ツグノはそう言いつつも、恐れてはいない様子で六波羅特製のガトーショコラを食べ始める。

 

「まさかこの私が挑戦者になれる日が来るとは! 感謝するぞ、三ヶ嶋ツグノ!」

「構わないよ。ああでも、感謝の気持ちがあるなら多少色を付けて礼をしてくれるとありがたいね。アタシは目利きも出来るから、すこーしこの城を見させてもらえればそれ相応の物を礼として頂戴しよう」

 

 スイーツに舌鼓を打つツグノの周囲を絶望のソルシエラが駆け回る。

 そして、死角をついて一気に踏み込んだ。

 

 しかし、白衣の下に潜んでいた何かが飛び出し、絶望のソルシエラの攻撃を受け止める。

 そしてお返しと言わんばかりに、固く鋭い何かを突き出した。

 

「……見えた」

 

 絶望のソルシエラはそれを上昇した動体視力で確認し、後方に跳ぶ。

 そして、白衣を指さして言った。

 

「お前、白衣の中に蟹を飼っているな?」

「おや見えたかい? いいねぇ、こいつは縁起物なんだ。きっと今日はお前にとって忘れられない一日になるだろうさ」

 

 ツグノはそう言って白衣を広げる。

 するとそこには、青い甲殻を持った蟹がいた。

 白衣の内側は異空間が広がっており、蟹はそこから目と鋏だけを出している。

 

「時に絶望のソルシエラ、君は幻獣大戦を知っているかな?」

「ああ、知識にはある。七体のダンジョン主による戦争だ」

「七体……成程、そっちでは()()()()()か」

 

 ツグノは白衣をはためかせ、得意げにポーズをとる。

 謎の風が吹き荒れ、より大きくひろがった白衣の内側には無数の目が覗いていた。

 

「私の世界で、幻獣大戦はこうも呼ばれている。――八百万大戦。意味は当然、分かるだろう」

 

 両腕を広げ、自身が主役であるとアピールするかのようにツグノは語りだす。

 それを見ていた六波羅は、うんざりした様子でため息をついた。

 

「さあさあ絶望のソルシエラ! ここから先はお前の挑戦だ! アタシのフェーズをどれだけ引き出せる? ああ、いいとも答えなくて。言葉よりも雄弁に、その戦いぶりが教えてくれるだろう。どうか、派手に戦ってくれ! そっちの方が、私の苦労が演出されて報酬が上乗せされる!」

「すぐに、その期待に応えてやるとしよう」

 

 絶望のソルシエラとツグノは、同時に駆けだし再び激突する。

 この戦いもまた、決着はつきそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、あっちの美少女の戦いも見たいんだけど! 俺のデータにないぞ! 白衣の内側どうなってんだあれ!』

『おそらくは拡張領域と結合しているねぇ。その中に大量のダンジョン主を内包しているのだろう』

『おぉ……幼くなる力を持ったダンジョン主はいないのか?』

『カメ先生……』

『教え子にドン引きされてら^^』

 

 

 

 

 

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