【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第389話 7‐11 背徳の星、地を照らせ

 ブザーと共に客席の明かりが消える。

 ガーデナーの目の前に広がる小さな舞台が照らされた。

 

 舞台セットは日本家屋のようである。

 年季の入った古い屋敷の中心には、一メートル程の人形が自身が主役であることを訴えるように立っていた。

 

 古びた球体関節人形は、かつては真っ白だったであろうワンピースを身に纏っている。

 その顔は笑顔で固定されていた。

 少しの沈黙の後、人形はまるで生きているかのように動き出す。

 

「――私の名前はケイ!」

 

 人形は元気に飛び跳ねながらそう告げた。

 

「今日も大好きなパパとママ、綺麗で頼れるお兄ちゃん達に囲まれて幸せなの!」

 

 その言葉を証明するように人形の周りに同じ作りの人形が並べられる。

 ケイと名乗った人形はそれに抱き着いた。

 

「いつかママみたいに綺麗なお洋服を着て、お姫様になるのが夢。早くおっきくなりたいなー!」

 

 ケイはワンピースの裾を揺らしながら、まるで未来を夢想するように空を見上げる。

 

「ねえママ、どうしたら早く大きくなれるの?」

 

 これから先、自分には幸せな未来が待っていると確信した口調と共にケイは人形の一つへと振り返る。

 が、次の瞬間にはケイが見た人形がその場に崩れ落ちた。

 舞台のライトが真っ赤に変わる。

 

『――これが、私の始まり』

 

 今までとは違うどこか大人びた声が聞こえる。

 その声は人形に駆け寄るケイを憐れんでいるように聞こえた。

 

 真っ赤なライトに照らされて、ケイはその場で右往左往する。

 既に周りには他の人形はいなくなっていた。

 

『ケイという少女は存在しない。してはならない。喪失から、私という人間は生まれた』

「私……どうすればいいんだろう……お姫様になりたかったな……」

 

 ケイはその場に座り込む。

 

『声が聞こえ始めたのはこの頃だった。何か自分には為すべきことがあったのだと、そう訴える何かが自分の頭の中にいる。満たされていた時には聞こえなかった声が、何もない少女に残された最後の道標だった。その声曰く――』

 

 ライトが切り替わり、背後に星空が映し出される。

 その中心には大鎌の形をした影があった。

 

「星詠みの杖を手に入れろ」

 

 影がどんどん大きくなっていき、やがて星空を覆う。

 ケイは怯えながらも、影を真正面から受け止めるように見つめた。

 

『それから少女は声に導かれ多くの事を知った。世界に迫る危機に、少女は自らの純真さを捧げる。それはもう、必要のないものだったから』

 

 暗転し、場面が変わる。

 ケイはワンピースから紺色の制服へと変化していた。

 女の子らしさは消え、男子生徒用の制服を身に纏っている。

 

「俺の名前はケイ。この学園で一番悪い奴だ」

 

 先ほどまでの可愛らしい声で、しかしケイははっきりとそう告げる。

 そして周りにいた他の人形を次々と殴り飛ばす。

 まるで誰かに見せつけるように、無意味にそして惨たらしく人形を破壊していくケイに先ほどまでの純真さは感じない。

 

『今の少女は何者でもない。だからこそ、どんな役にでもなることが出来た。今の少女は悪役。正義の味方に倒される悪い人』

 

 やがて、ケイの前に一体の人形が躍り出る。

 他の人形よりも一回り大きな人形は、白く美しい刀を持っていた。

 

「俺に逆らうとは良い度胸だな! 掛かってこい!」

 

 ケイはわざとらしく剣士人形へと殴り掛かる。

 しかし、あっけなく剣士人形に斬り返され、ケイは大げさに舞台端まで転がった。

 人形の体に少し傷がつく。

 しかし、気にしていない風にケイは立ち上がる。

 

 そして舞台中心に立つ剣士人形を静かに眺めた。

 

『ここでの役目は終わり。弱虫だった剣士は、皆から頼りにされる英雄になった。そのための踏み台になれた事は、きっと今でも少女の誇り』

 

 再び暗転する。

 そして次にケイが身に纏っていたのは白い制服であった。

 

 彼女から少し離れた場所では、蒼、赤、黄の髪の人形が楽し気に談笑している。

 

「俺はケイ。ここには星詠みの杖を取りに来た! なるべく目立たないようにして、星詠みの杖だけを手に入れて消えるとしよう!」

 

 ケイは身振り手振りと共にそう伝える。

 やがて、彼女の目の前には赤い棺が現れた。

 

「これが、星詠みの杖……」

 

 伸ばした手を一度躊躇うように引いたケイだったが、すぐに決心し頷くと赤い棺へと触れる。

 その瞬間、思わず耳を塞いでしまうほどに不愉快な雑音が辺りに響き渡った。

 

 金属同士を無理矢理こすり合わせたような、あるいは誰かが叫ぶ金切り声のようなそんな音が響き、ケイはその場に倒れ込みそうになる。

 

『それは想像を絶する苦しみだった。何年もかけて己を鍛えてきた少女でも挫けてしまいそうになるほどの苦しみ。だけど、少女は耐えた。それが自分の役割だったから』

 

 雑音がぱたりと止み、ケイは棺を開く。

 そして、中から一振りの大鎌を取り出した。

 

 ケイは、観客席へと大鎌を見せつけながら胸を張る。

 

「今日から私は星詠み!」

 

 その声にはどこか高揚感があった。

 まるで無くしていた物を見つけたような無邪気な声は、幼さを残している。

 

「この星詠みの杖で、銀の黄昏と天使から皆を守る!」

 

 その言葉と共に舞台の明かりが消える。

 

『少女はお姫様にはなれなかった。でも勇者にはなることが出来た。皆を守る強い勇者。それが彼女に最後に残された役割』

 

 舞台が照らされると、ケイは黒と白のフリルが付いた衣装を身に纏っていた。

 彼女の周りを様々な形の敵が囲む。

 

 しかしそれも今の彼女にとっては敵ではなかった。

 人形とは思えない程に素早い動きで敵を切り裂いた彼女は、その屍の上に立つ。

 

「どんな敵も私が倒すよ!」

 

 幼子がごっこ遊びをするような声だったが、彼女の周りに散らばる人形だったものがその光景が現実にあったものだと証明していた。

 

『少女は学園都市に潜む組織や天使、時にはダンジョン主を倒していた。けれどある日、少女は知ってしまった』

 

 ケイの周りに、白い制服を身に纏った人形が集まる。

 最初に見た三色の髪の他にもいくつかの髪色が混じって、全員が親し気にケイを囲んでいた。

 

「私が星詠みになってから色々な人とお友達になれた! 私、何も取り柄がないし、要領も悪いけど、星詠みの杖のおかげで皆と話が出来るようになったよ!」

 

 ケイは大鎌を手に、舞台の上を他の人形たちと共に踊る。

 

『星詠みが役割である筈の少女は、いつの間にか違う役割を自分自身に作ろうとしていた。そんな事が許される訳もないのに』

 

 愉快で無邪気な曲と共に踊り続ける彼女と人形達。

 時々、人形へと木組みの怪物が迫れば、ケイは自ら大鎌を手に戦い追い払う。

 

『勇者である筈の少女は、いつしか自分の大切な物を守るために戦い始めた』

 

 ケイは人形達を守り、次々と怪物を倒していく。

 最初こそ軽快であったが、次第に怪物に反撃されるようになっていき、その体には次々と傷がつき始めていた。

 

『役割は全うしてこそ意味がある。力とは適切に振るわれることに意義がある。なら、役割よりも自分を優先して、力を私利私欲に使う少女は果たして勇者と呼べるのか』

 

 ケイは人形を守り続けている。

 その体は既に殆どが壊れており、衣装も破れ、天井から糸で釣られるように歪にしか立つことが出来なくなっていた。

 

 その時、ケイの前に今までとは違う巨大な木組みの獅子が現れる。

 宇宙のような美しい鬣の黒獅子は、ケイを睨みつけた。

 

 ケイは今まで通りに人形達を守るように先頭に立ち、大鎌を構える。

 彼女が守る者の中には、少し前に見た白い太刀を持つ人形も混じっていた。

 

「私は星詠み! 今回も、皆を守る!」

 

 ケイはそう叫び、ボロボロの球体関節を無理矢理動かして黒獅子へと迫る。

 そして大鎌を振り下ろそうとしたその時――。

 

「……あっ」

 

 短い言葉と共に人形は黒獅子の前脚で払われる。

 人形は地面に激しくぶつかり、ついに部品が外れその場にバラバラになって転がった。

 

「ま、まけない……」

 

 それでも立ち上がろうとしたケイを見て、黒獅子が吠える。

 するとその体は天井から降りてきた糸に縛られ、無理やり形を整えられた。

 再び元の形に戻ったケイだったが、しかし次の瞬間には黒獅子に従うように人形達の方を向く。

 

 そして、人形達へと襲い掛かった。

 

『少女は罰を受けなければならない』

 

 声が無情にそう告げる。

 

 人形達は最初こそ逃げ惑っていたが、やがて覚悟を決めたように一人、また一人とケイに立ち向かう。

 そして最後には、白い太刀を持った人形と翼の生えた人形にその体を破壊された。

 

 瞬間、どこからともなく拍手が巻き起こる。

 それはまるでケイを倒した事を祝福しているようであった。

 

 ケイだった人形は今度こそバラバラになり、何も言わない。

 静かに、勝利を喜ぶ人形達を見つめていた。

 

『少女が守るべきだったのは世界。けれど、自分の大切なものを守ろうとした。その時点で、少女の背から勇者の肩書は消え去っている。少女は最後までそれに気が付くことが出来なかった』

 

 まるでハッピーエンドだとでも言いたげに、明るい曲と共に幕が下りる。

 その最後まで、人形達は踊り、ケイだった人形は誰にも拾い上げられずに舞台端に落ちていた。

 

 一瞬の沈黙が訪れる。

 全てが終わったかに思えたその時、再び声が聞こえた。

 

『少女は罰を受けなければならない』

 

 先ほども聞こえた無情な声。

 それは見た者に刻み込むように言葉を続ける。

 

『こんなものでは足りない。だから、少女はまた目覚めた。今までとは違う場所で。役割を捨てさり、欲望に耽る自身に罰を与えるために。そして今度こそ罰を受けるために』

 

 天井から聞こえていた筈の声が、いつの間にか隣から聞こえる。

 

『「ねえ――」』

 

 横を見れば、ボロボロの服を着た幼い少女が、傷だらけの顔で笑って首を傾げていた。

 

(あの子)にはどんな罰が相応しいと思う?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『完璧に決まった……! これでガーデナーちゃんも曇らせて一撃って寸法ソル! 光堕ちのプロセスもこっちで用意しているから、安心するソルよ~!』

『おぉ……演出とは言え幼き命にあんな痛ましい格好をさせてしまった……。これも全て天上の意志が原因だ……。おのれ天上の意志……!』

『人形遊びは得意なのじゃ! よく、余った骨で遊んでいたからの!』

『これでガーデナーも曇らせることができ……ん? なんだあの目に宿った輝きは――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女の問いかけに対する答えは既に決まっていた。

 ガーデナーは、怯むことも憐れむこともなく、真っ直ぐに少女を見据えて口を開く。

 

「罰なんていらない。貴女は、最後まで正しかったんだよ」

 

 酷く凄惨で鬱屈とした始まりを見た。

 少女の中に生まれた歪んでしまった自己顕示欲を見た。

 目を背けてしまいたくなる程にあっけなく哀れな最期を見た。

 

 が、それでもガーデナーには関係ない。

 彼女の目の前にいるのは、今にも泣きそうになりながら無理矢理笑っている傷ついた少女。

 そんな少女へと言葉を届けるために来たのだから。

 

「ソルシエラ……いや、ケイ」

 

 ガーデナーは少女の本当の名を呼ぶ。

 

「私とお話をしよう。気の済むまで、ずっと一緒にいてあげるから」

 

 まずは第一歩。

 ケイという少女をこの悲惨な御伽噺から救い出すために、ガーデナーは手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひ、光が強いソル~! 悲惨な過去に曇って一度は折れかけたガーデナーちゃんが『それでも!』って何とか立ち上がってソルシエラを救うシナリオが崩れるソル! このままだとソルシエラが普通にヒロインとして救われてお終いソル!』

『ポッと出のソシャゲ主人公に救われるとか、これもうクラムに対するNTRだねぇ^^ どうすんだよクラムの理解者ポジション。もう理解者(笑)じゃないか^^……哀れでいいねぇ!』

『おぉ……対天上の意志に向けて新形態を制作する。鏡界回路による演算を開始――』

『か、カメ先生落ち着くのじゃ……!』

『勝手に八つ当たりして謀反起こされるとか流石に天上の意志も可哀そうソル。後で天上の意志も美少女にしてあげるソルよ』

『は、犯行予告じゃ……!』

 

 

 

 

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