【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第391話 7‐13 背徳の星、地を照らせ

 ケイの奪還という最大の目的は果たされた。

 故にここからは、彼女の独壇場である。

 

「ついに来た! アタシの見せ場だね! いやぁ、待ったよ待った! まさかマスターに呼び出されてからここまでおあずけされるとはねぇ。いいや、構わないさ、マスターなら別にそれくらい。お得意先でも上司でもない、そうアタシのマスターだからこそどんな要望も聞くし無理難題もこなしてあげるというものさ! ……なんだ六波羅、その顔は。いかにも早く戦って欲しそうだねえ。お前はそういう所も辛抱強くした方が「さっさと行けェ……殺すぞォ……」はぁ、アタシのありがたーい助言を無視するとはね。まあいいさ、今のアタシは気分が良い。これから臨時収入があるからね」

 

 ツグノはそう言って、絶望のソルシエラを見る。

 その目は、敵ではなくまるで落ちているお金でも見ているかのように俗物であった。

 絶望のソルシエラも気が付いたのか、不愉快そうに舌打ちをする。

 

「チッ、既に勝った気でいるのか。確かにお前は強い。……が、たった今、私もそこに至ったぞ」

 

 絶望のソルシエラに傅く大量の影。

 それら全てが絶望のソルシエラの力の象徴であり、経験そのものであった。

 

「……確かに、出会った時よりも魔力が跳ね上がってンなァ。おい詐欺師、追加でこいつも食え」

「詐欺師呼びはあまりにも失礼だが、そのチョコレートクレープに免じて許してあげよう。……うん、相変わらず美味いな。やっぱりアタシと手を組まないか? お菓子で天下を獲り、金をジャブジャブ使える程にガッポガッポ稼ごう」

『おぉ! リーダー!』

「無視しろ馬鹿」

 

 六波羅はそれだけ言って、一歩後ろに下がる。

 そしてツグノへと、戦うように顎で示した。

 

「また断られてしまった。……まあいいさ、アタシはアタシという価値を高めるだけだ。絶望のソルシエラ、君もそう思うだろう? ああ、言わなくてもいい! わかっているとも!」

「その無駄口、いつまで続けることが出来るか試すとしようか」

 

 絶望のソルシエラは、影へと手を伸ばす。

 そして、ソルシエラがやって見せたようにそれを巨大な剣へと変えた。

 

「さて、ここからが決戦だ」

 

 そう宣言し、絶望のソルシエラは跳躍した。

 山なりに美しい影の線を描きながら、ツグノへと迫る。

 影と魔力による二重の強化が為された収束斬撃が、二振りの大剣として襲い掛かってきた。

 

「おっと、これはこれは」

 

 ツグノは白衣のポケットに敢えて手を入れる。

 そしてガーデナーがこちらを見ていることを確認してから、大剣を見つめて言った。

 

「6番、防御」

 

 瞬間、白衣の裏側から蟹の鋏が飛び出し受け止める。

 ツグノは依然として何もしない。それどころか、わざとらしく欠伸をして見せた。

 

「これで至った? 冗談なら及第点はくれてやるが、本当にそう思っているのならアタシに随分と失礼じゃないかい?」

「まだまだこんなものではない。ここからだ」

 

 絶望のソルシエラは、攻撃を受け止められたというのに楽し気に笑みを浮かべる。

 まるで待ち望んだ玩具を貰った子供のように、大剣を次々とツグノに放った。

 ひらひらと舞い踊る様に軽々と大剣を振り回す絶望のソルシエラは、時折反撃してくる鋏を回避しながら、大剣を振るい続ける。

 

 ツグノを中心として、鋏と大剣が何度もぶつかり合い、火花を散らした。

 

「威力は良い。が、それだけだね。アタシの蒐集対象にはなれないよ」

「ハッ、ならば更にギアを上げるとしようか」

 

 一度飛びのいた絶望のソルシエラは、影シエラへと指を鳴らす。

 すると数体の影シエラが形を変え、絶望のソルシエラの腰あたりへと巻き付いた。

 

「二本で駄目なら三本。それでも駄目なら四本だ」

 

 腰から数本の影が、尻尾のように伸びる。

 その先端は鋭く尖り、まるで剣のようになっていた。

 

「行くぞ、三ヶ嶋ツグノ」

「ああ、お好きにどうぞ」

 

 一瞬の静寂の後、絶望のソルシエラは大量の影シエラ達と共に駆け出した。

 戦争と言っても信じてしまいそうな程に大量の兵隊が、ツグノへと向かって行く。

 

 しかし、その光景を見ても六波羅やレイをはじめ、誰一人動こうとはしなかった。

 理由はただ一つ、ツグノという少女があまりにも規格外だからである。

 

「19番、35番、78番」

 

 数字という名の無機質な名前で呼ばれたナニカがツグノの白衣から這い出して来る。

 白衣の中に収まっていたとは思えないそれは、蛸の足、蜘蛛の糸、そして冷気を纏った焔の手であった。

 

 見るだけで、どこか本能的嫌悪感を抱くそれらが影シエラ達を無造作に葬り去っていく。

 

「雑魚の相手は任せるよ。ああ、当然本命をやるのはアタシだからね? 真打が出てこそだろ、決戦というものは」

「はははっ、いいぞ! そうだ、もっと私を絶望させろ! どうしようもない死という現実をぶつけてこい! それだけが私を強くする!」

「随分な思想をお持ちのようで」

 

 倒れる影シエラ達の間を縫って、ついに絶望のソルシエラはツグノの前にたどり着いた。

 その両手に二本、尾に三本の剣を携え、絶望のソルシエラは絶え間ない連撃を放つ。

 

 人体以上の速度と手数で繰り出される剣撃を前に、しばらく防いでいた鋏だったが、やがてその甲殻にひびが入り始めた。

 

「おや、まさかこの子が負けるとはね」

「まだまだ、こんなものではない」

 

 その言葉の示す通り、鋏は遂に砕け散った。

 ツグノと絶望のソルシエラを遮るものは何もなくなる。

 ツグノの白衣の裏から飛び出してきたもの達は、周囲の影シエラ達の対処ですぐには防御に戻れない。

 完全な無防備になったその時、初めてツグノはポケットから手を出した。

 

「そろそろ頃合いだろう」

 

 その言葉と共に、絶望のソルシエラの攻撃が全て停止する。

 防いだわけではない。

 絶望のソルシエラ本人が自らの手で止めたのだ。

 

「……なんだ、この感覚は」

「根源的な恐怖だよ」

 

 ツグノの手には、変わらず琥珀色のナイフが握られている。

 脈打ち、生きているかのように胎動している琥珀は先ほどよりも透き通って美しく見えた。

 そこでようやく絶望のソルシエラは理解する。

 

 それはナイフではない。本体は、ナイフの形をした琥珀に覆われた――。

 

「鍵」

「そう、良くわかったね。世界に一点しかない、貴重品さ」

 

 ツグノはそう言って、ナイフをかざす。

 ただそれだけで、絶望のソルシエラは一歩後ずさった。

 

「……っ!? 今、私が恐怖したというのか?」

「そうだよ、実に滑稽だ。君はただ、このナイフに怯えて後ずさったんだ。あれだけ偉そうなことを言っておいて、まるで新兵のように恐怖に屈した」

 

 ツグノはそう言いながら、懐から小さなメモ用紙を取り出す。

 そして何やら書き込んだ。

 

「この敵相手なら……うん、これくらいが妥当だろう。マスター、いつも通り支払いは現金ではなく素材で頼むよ。鏡界の素材は高値で取引できるからね」

 

 ガーデナーは渋い顔をしながらも、両手で大きな丸を作る。

 それを見てツグノは「よし」と満足げに頷いた。

 

 そして、警戒し大剣を構える絶望のソルシエラへとナイフをかざした。

 

「さあ、お前はここに何を見る? 何を恐れて何に怯える? ああ、答えなくていい。全て、()()には見えているから」

「……っ、体の震えが……強制的に恐怖の感情を生み出しているのか……!?」

「何も驚くことじゃない。私達は人間だ。どんな超人でも笑うし泣くし怒るし恐れる。私はそんな感情の引き金を引いているだけだ。……こうやってね」

「ひっ!?」

 

 それが自分の口から漏れ出た悲鳴だと、絶望のソルシエラは最初気が付かなかった。

 ナイフに反射し映ったのは自分ではなく、名状しがたい泥のようなものである。

 その奥に浮かぶ腫瘍のような目がこちらを見ているとわかった途端、彼女は心から恐怖していたのだ。

 

「ば、馬鹿な、あり得ない。絶望の名を冠する私が、純粋な恐怖に屈服する……!?」

「ほお、お前はそれを視たか。いいねぇ、レア物で縁起が良い」

「っ、来るな!」

 

 絶望のソルシエラはとうとう叫んだ。

 今までの堂々とした態度はどこかへ消え、ナイフ一つに怯え震える足で距離をとろうと後ずさっている。

 しかし、その目は何故かナイフから離すことが出来なかった。

 

「な、なんだこの力は。こんなものに、私は……!」

「そういうものだよ、人生ってのは。想像もしなかったものに突然遭遇して、今までの暮らしが一変する。アタシの世界じゃよくある事さ」

 

 ツグノの白衣の中へと、蛸の足たちが戻っていく。

 あれだけいた影シエラ達は、全員が跡形もなく消え去っていた。

 残っているのは、粘液まみれの天井や、壁に張り付いた蜘蛛の巣、砕け凍った床だけだ。

 

「さて、マスターのご注文通りの無力化だ。後は好きにするといい」

 

 これこそが、ツグノが選ばれた理由であった。

 感情を持つ者への一方的な特攻性能は、唯一彼女が有するものである。

 

 唯一の欠点があるとすれば、それは恐怖した者の心が二度と再起できない事だろう。

 

「あ、……あ、あ……ああ!」

 

 絶望のソルシエラは目に涙を溜めて、恐怖に声を漏らす。

 しかしそれでもなお、そのナイフから視線を外すことはできずにいた。

 

 やがて、彼女は更に一歩後ずさり――。

 

「……あ」

 

 その胸を鋭い何かがゆっくりと貫いた。

 貫いた先から姿を現したそれは、堕落のソルシエラの使役するサソリである。

 

「ソルシエラでしかソルシエラは倒せない。いやぁ、面倒な依頼だったよ」

 

 自身の胸を貫く針を見てなお、絶望のソルシエラはナイフから目を離せない。

 目を離せば、何かが一瞬で自分を連れて行くと彼女は確信していたからだ。

 

「く、来る……や、やだ! やめろっ、私は、絶望になど……!」

 

 果たして何が見えているのか。

 絶望のソルシエラは、何かを払いのけるように手で何度も空を切りながら叫ぶ。

 やがてその体が光の粒子となり消え去るまで、彼女は最後まで何かに怯え発狂したままだった。

 

「ふう、一丁上がり」

 

 ツグノはナイフをポケットにしまい込み、ガーデナーへと振り返る。

 そして、俗物的な笑顔で笑った。

 

「さて、お給金を貰おうか」

「……私、せっかくパワーアップしたのにお披露目できなかった。ダルくないけど、なんか嫌だな……」

 

 決戦を終えたとは思えない二人の言葉にガーデナーは苦笑いをする。

 その腕中で眠るソルシエラの小さな寝息と共に、絶望のソルシエラとの戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ツグノちゃん絶対やばいって! あれ美少女だけど美少女じゃない何か混じってるよ!』

『ほぅ、君でも恐怖するんだねぇ』

『いや興奮した』

『こいつ無敵か……?』

『おぉ、赫夜牟よ今回もよく頑張った。特別にカメさんシールを三つあげよう』

『三つも……!? いいのじゃ!?』

『うんうん、赫夜牟君も嬉しそうで何よりだ。いっぱい頑張ってたもんね。さて、そうこうしている内に、無垢シエラとトアちゃんが遭遇しそうですよ……?』

『わぁい^^』

 

 

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