【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第4話 落ちている物を勝手に売っても美少女なら許される

ダンジョンを攻略する探索者は、必ずダイブギアという腕輪型の機械を装備する。

 

 これは、ダンジョンという略称で呼ばれている正式名称『別次元深層領域(べつじげんしんそうりょういき)』に対して装備者の存在を固定する為に絶対に必要な道具だ。

 ないと、そのダンジョンの怪物の一体になり果ててしまうらしい。怖いね。

 

 そして同時に、武装を召喚するための道具でもある。

 魔力を源に召喚される武器は、使い手によってまったく異なる。

 魔法のような効果が付与された武器も多い。

 那滝ケイもその例に漏れず、武器は特殊な効果持ちだ。

 

 その効果は、毒。

 小さな短刀の先から滴る毒は、相手を麻痺させる事が可能である。しょぼい。

 

 が、これで主人公を刺して、麻痺している所を蹴って遊んでいたのでかませ役としては百点の効果である。

 

「俺からすれば、こんなにリーチのカスな武器、使いづらくて仕方ないけどね!」

 

 初心者ダンジョンで、俺はふわふわ浮かんでいるだけの的を切り裂く。

 森を模したこの空間は、そこそこ広いようで遭難する危険性があると、初めにミズヒ先輩に教わった。

 

「そもそも仮想敵じゃ麻痺効かねえし。くっそ、俺も専用の武器欲しいなー」

 

 ダイブギア一つに付き、登録できる武器は一つ。

 これはもう那滝ケイ君がしょうもない武器を登録したので、これ以外の物は出せない。

 ちなみにダイブギアは、安価な物で百万をくだらない高級品なので気軽に買えるものではない。え、女装道具は買っただろうって? うるせぇよ。

 

「ダンジョン救援に入れるようになれば、もっと稼げるようになるんだろうけど。その為には強くならなきゃ」

 

 最終目標は、一年後のTSダンジョンの獲得だ。

 ダンジョンにいるボスを倒して、コアを入手すればそのダンジョンの所有権を得られる。

 

 その為にも俺は新たなダイブギアをまずは手に入れる必要がある。

 そして、先んじて実力が必要だった。

 

「この衣装、戦闘可能なゴスロリって売り文句だったけど本当に動きやすいな……。マスクは息苦しいだけだけど」

 

 短刀を振るたびに視界の端で衣装が舞って楽しい。スカートをひらひらさせて、華麗に戦う。うーん、これは美少女。

 

「あなた程度の雑魚に構っている暇はないの――ってかぁ!? くぅ~!」

 

 的を切り捨てて、俺はポーズを取りながら台詞を吐く。

 

 普段ですらこの体は中性的な声なのだから、喉を全力で絞めれば、それはそれは可愛らしい声になる。

 

 いや、少しダウナー気味な声の方がこの見た目にはあっているだろうか。

 うーん、こういう事を考えている時が一番生を実感する。

 

「今日はとことん戦える気がする。俺の魂が、過去一で輝いている!」

 

 探索者の力の源は魔力と呼ばれる不可視のエネルギーらしい。魂と深くかかわりがあるようで、今の俺はつまり魔力がドバドバだった。

 

 この世界には魔法などはなく、魔力は主に身体強化に使われるため、女装時はバフが掛かっているようなものだ。

 

 女装するだけでバフ掛かるなら安いものである。

 

「切って、切って、また切ってェ!」

 

 スパスパと、小気味よく的が切り落とされていく。

 もはや俺を止められるわけもない。

 かませ役として持て余していた肉体と、太陽もかくやという輝きを放つ魂。

 

 今ならボスだって倒せるかもしれない。

 

「ミズヒ先輩曰く、ダンジョンボスは図体がデカくてちょいキモイだけの()()の雑魚らしいからな。スパっと切って、倒しちまおう。そして、その亡骸を傍に美少女ごっこに興じよう、そうしよう」

 

 何もおかしいことは無い。

 

 

 そんなこんなでボスを探し始めた。

 手掛かりはでかい図体。

 そうなると、森の中にいればすぐ分かろうものだが、中々見つけられずにいた。

 

「いない……。夜はいないとかなのかな」

 

 様々な可能性を考慮し始めたその時、俺は視界の端に洞窟を捉えた。

 

 森の中に妙に岩肌を露出した箇所がある。その中央に、ぽっかりと大きな穴が開いてた。

 超天才の俺にはすぐにそれが何か分かった。

 

「ボスの住処だ……!」

 

 ダンジョン内の魔物は、魔力がないと生きていけない以外には基本的に普通の生き物と変わらない。

 なので、夜になれば寝る個体もいると教本に書いてあった。

 

 それに当て()めるのならば、今はボスはお眠の時間なのだろう。そのまま天国まで連れてってやるよ。

 

「寝首を掻けば一発だな。……いや、それじゃ練習にならないか?」

 

 短刀を構えながら、俺は洞窟の中へと足を踏みいれる。

 そして、十秒と立たずに壁の行き止まりへとぶち当たった。

 

「外れかよ。紛らわし……ん?」

 

 ここ、壁じゃなくて大きな扉だ。

 俺はダイブギアに搭載されたライトで扉を照らす。

 

 錆びと土汚れで変色しているが、機械仕掛けの両開きの巨大な扉である。

 

「なにこれ」

 

 俺はためしに扉を押してみる。

 まあ、開くわけないのだが――

 

「あ、開いた」

 

 扉は俺が触れた箇所から、ボロボロと崩れ落ちていき、最後には俺一人なら余裕で通れるくらいの穴が出来た。

 これは開いたというよりも壊れた、だな。

 

「し、失礼しますー」

 

 俺は穴を潜って中に入る。

 この時点でここにボスがいないことはわかっていたのだが、明らかに隠し部屋的で興味が沸いたのだ。

 

 中は、半円状のスペースが広々と確保されていた。

 自然光を取り入れるためだろうか、天井部は窓ガラスのようなもので覆われており、星々が見える。

 その部屋の中央、ダンジョン内の空に浮かぶ月に照らされるようにして何かがあった。

 

 黒々としてどこか生物的な雰囲気のある大鎌。

 

 俺の背丈ほどはあるであろう巨大な鎌が、台座に収められていた。

 

「なんだこれ……原作でも見たことない」

 

 部屋の四方から台座へと繋げられている無数の管を避けながら鎌へと進む。

 どう考えても、普通の状態ではない。

 

「一応は聖遺物だよな、これ」

 

 ダンジョン内には、魔力が実体を持った聖遺物というお宝が生まれる場合がある。それは千差万別様々な種類があり、原作主人公のトウラク君も反則的な聖遺物を手にしたりするのだが……うーん、これは本当に知識にない。

 

「武器型って、相当なレア物だった筈だけど……初心者ダンジョンにあるものか普通」

 

 すぐにそれがフェクトム総合学園にとって特別な物である可能性に思い至ったが、同時に否定もした。

 

 アレだけお金に困っているフェクトム総合学園が、こんな見るからに高値が付きそうな聖遺物を放っておく訳がない。

 扉の劣化をみると、長い間放置されていたようだし誰も存在を知らないのだろう。

 

 知らないのであれば。

 

「売っちゃえ☆」

 

 良い値段付くだろうし、ミズヒ先輩達も喜ぶだろうなぁ。

 あの人たち、基本はモヤシしか食ってないし。

 

 TSの為だけに入った学園だけど、存外あの三人が良い人なので余裕があれば助けたりはできたらいいと思っている。

 それで俺が女になった暁には仲間に入れてほしい。

 TS百合は存在するぞ(過激派)

 

「というわけで、早速いただきましょうかねぇ」

 

 手をスリスリしながら鎌に近づく。

 素手で触るのが嫌なので、ゴスロリ衣装セットの黒いレース付き手袋で失礼します。

 

「明日はお肉でも食べたいね~っと」

 

 俺が鎌を手に取ったその時だ。

 

 感じたことのない激痛が、突如として体を駆け抜けた。

 

「ぐぁっ!? な、なんだ、これ……!」

 

 内臓が奥から裏返されるような本能的な不快感と痛みが、絶え間なく押し寄せてくる。

 

 トラックに轢かれるのよりも0.5倍痛い!!!!

 ……じゃあ、耐えられるわ。

 

「ふんっ! ぐぬぬぬぬぬぬぬ!!!!!!」

 

 まるで鎌が拒否反応を示しているかのような痛みの波が、体を支配する。

 が、この手を離すわけがなかった。

 

 俺はこれを売る! 売って金にして、先輩達に誉められて、後に百合パーティに入るんだ!

 

 気高き覚悟が伝わったのか、それとも普通に時間切れか。

 突然、痛みはふっと消えた。

 

 よしよし。いい子だ。きちんと手入れして売り払ってやるからな。

 

「よぉし! レアアイテムゲット!」

 

 俺は台座から鎌を引き抜き掲げる。嬉しい。

 

「さて、ボスはここにいなさそうだしさっさと戻ろうか……ん?」

 

 まだ奥へと続いている。

 それも、扉が付いていない廊下がぽっかりと口を開けて俺を待っている。

 

「……行くかぁ!」

 

 もっと聖遺物があるかもしれない。

 俺は奥へと進むことにした。

 

 その為に鎌を肩に担いだその瞬間だ。

 肩にのしかかった重量が消失する。

 

「いたっ」

 

 突然、左腕に痛みが走った。

 強めのデコピンみたいな痛みが、左手首に尾を引いて残っている。

 

 気が付けば、鎌は消失し左手首に赤黒い腕輪が装着されていた。

 

「えぇ……」

 

 腕輪を暫く見ていると、まるで吸い込まれるように手首の中に消えていった。

 

「えぇ!?」

 

 (わず)かに赤く痕が残っているだけで、もはや腕輪も鎌もどこにもない。

 

「な、なくなった!? たっ、食べちゃった!?」

 

 そんなわけないが、実際体に取り込まれるように無くなった。

 左手首を振っても摘まんでも出てこないので、俺にはどうしようもない。そんな……先輩方すみません。

 

「それじゃ、ますますこの奥で聖遺物ゲットしないと」

 

 金目の物を一度失った体験が、俺をさらに奥へと駆り立てる。

 放置された病室の廊下のような場所を進もうと、いざ一歩踏み出したその時だった。

 

「――なっ!?」

 

 地面が崩れ落ちる感覚。

 ああ、廊下が劣化していたんだね、と頭の中の何処か冷静な自分が分析していた。

 

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