【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第392話 暁の赫耀、月を照らせ

 トアが目を覚ます頃には日がすっかり昇りきっていた。

 夜遅くまで、ミロク達にネームレスとの関係を尋問されていたせいか、体はまだ重く頭は上手く働かない。

 しかし、それはそれとしてお腹はかなり空いていた。

 

「うぅ……お腹減った」

 

 トアはふらふらと立ち上がり、壁に貼り付けたご飯当番表を確認する。

 そこにはヒカリの名前が記され、二重丸を付けられていた。

 

「ヒカリちゃんのご飯だ。行かなきゃ」

 

 シリアルを出すクラムや、未だに何故かモヤシ料理を出すミズヒとは違い、ヒカリの料理は朝から凝っており美味いとトアの中では評判である。

 

 ヒカリが朝当番の日は、その日一日調子が良い程だ。

 

 トアはせっせとパジャマから制服に着替える。

 そして扉を開けた。

 

「――そんなに急いで、特訓か?」

「うわぁっ」

 

 そこには壁に寄りかかった姿勢のミズヒがいた。

 彼女は銃を丹念に磨きながら、トアへと視線を向ける。

 

「随分と遅くまで寝ていたようだが、これはまた特訓が必要か?」

「い、いや、大丈夫。大丈夫だから」

 

 トアは後ずさりながら、ミズヒから距離を取ろうとする。

 しかし、ミズヒが逃がすわけもなかった。

 

「私も同行しよう」

「え?」

「お前の事だ、どうせ朝食を食べに行くのだろう? まあ、時間的にはもう昼だが」

 

 幼馴染には、トアの空腹などお見通しだったようだ。

 トアは顔を赤らめ照れ笑いしながら頷く。

 

「え、えへへ……うん。そうなんだ」

「だったら行くとしようか」

 

 そう言ってミズヒは歩き始める。

 トアはその後ろを慌てて追いかけた。

 

 追いついたトアは、ミズヒをちらりと見上げて思案する。

 そして、恐る恐る口を開いた。

 

「きょ、今日はとってもいい天気だね」

「ああ、そうだな。おかげで訓練日和だ」

 

 ミズヒは訓練を強調するように言った。

 しかし、そんなことはトアにはもうどうでも良い事だった。

 

「ああ、そう言えば一昨日書庫で先生の「ね、ねえミズヒちゃん!」……どうした?」

「監視……してるの?」

 

 幼馴染故に相手の事がわかるのは、トアも同じであった。

 普段とはどこか違う空気を纏ったミズヒに、トアは気が付いている。

 最初はそれに気が付かないふりをしようとした彼女だったが、原因をおおよそ理解しているために自ら切り出したのだ。

 

「私がネームレスだったから?」

「……お前は賢いな。流石だ」

 

 ミズヒは顔色一つ変えずに言った。

 その間も足を止めることはなく、止まって話をしたいトアを放ってずんずんと食堂へと向かっている。

 そのため、トアはその後ろをついて行かざるを得なかった。

 

「やっぱり……私は疑われているのかな。ミロクちゃんの案でしょ?」

「ああ、そうだ」

 

 ミズヒは躊躇うことなく頷く。

 顔色は一つも変わっていなかった。

 

「そっか、私……まだ信じて貰えていないんだ……」

 

 あの夜の恐ろしい光景はよく覚えている。

 全員の疑いと敵意の籠った目が自分一人に向けられている光景は、気分が良いものではない。

 

「どうすれば、信じて貰えるかな」

 

 トアは縋り付く様にミズヒの手を握る。

 それでようやく足を止めたミズヒは、その赤い目でトアを見つめ返した。

 

「確かに私はトアの監視をミロクから頼まれたが、その目的はお前を守るためだ」

「え?」

「0号に隙を突かれて襲われるかもしれない。それに、お前の記憶を消した者たちが今度は命を奪いに来る可能性だってある。だから、私が守ることにした」

 

 ミズヒは自信満々な笑みと共に銃を構えて笑みを浮かべる。

 

「安心しろ、少なくとも私はお前を信じている。幼馴染だからな。ミロクだってそうだ。けれどこの学園の長という立場上、色々と考えなければいけない事が多い。だから私のように素直には動けないのだろう」

「そっか……ありがとう……」

「構わない。これで安心できたか?」

「うん」

 

 ミズヒはトアの安堵した表情を見て満足したのか、再び歩き始める。

 その足取りは先ほどと全く変わらなかった。

 

「私、ケイ君とお話できるかな……?」

「出来る。それと、ケイは女の子だからケイちゃんが正しい。……最初見たときは男だと思ったのだがな」

「ね! 私もびっくりだよ!」

「もっと驚いたのが、私以外の殆どがケイが女だと割と早い段階で知っていたことだ」

 

 先ほどは毅然とした態度だった筈のミズヒだったが、今は少しだけ落ち込んでいるようだった。

 その様子にトアは小さく笑う。

 

 事態は複雑で、全てが解決したわけではないがこの空気はかつてのフェクトムと同じ穏やかなものだったから。

 

「今日のご飯、何かなー」

「玉子焼きと鮭の塩焼き、おひたしと味噌汁だ」

「相変わらず、朝から凄いなヒカリちゃん……!」

「食後にやたらとでかいパフェを出された」

「ヒカリちゃん……!!!!!」

 

 トアの感情に呼応するようにお腹が鳴る。

 廊下に響くその音に、トアはミズヒと顔を見合わせ照れくさそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 やがて食堂へとたどり着いた時、丁度トア達と入れ替わるように見知った顔が出てきた。

 

 トウラクやルトラ、それにエイナと――。

 

「それでさー、次はケイと一緒に騎双学園の自治区でショッピングでもしようかなって話しててさ。良かったらトウラク達もどうかな☆彡」

「あ、えっと……六波羅さん、もういいんじゃ……」

「どうかな☆彡」

「う」

「ミハヤも連れて一緒に行こう。ね、トウラク」

「アッハイ」

 

 見たことのないゆるふわ赤ギャルが、そこにいた。

 

「誰……?」

「むっ、この気配は六波羅か」

 

 ミズヒはすぐにその正体を察して声を掛けようとする。

 その時、赤ギャルも気が付いたのかミズヒ達を見た。

 彼女の顔は、この世の絶望を全て込めたような恐ろしい表情であった。

 

 しかし、すぐに明るい笑顔に戻り手を可愛らしく胸の前でひらひらと振る。

 

「わぁ! ミズヒちゃん、トアちゃん、おはよう☆彡」

「ブフォッ!」

 

 背後で噴き出したエイナの首に流れる動作で腕を回して締めながら、六波羅は笑顔で近づいてくる。

 その姿は可愛らしいはずなのに、妙な違和感があった。

 

「ひえっ」

「どうしたのかなトアちゃん。あっ、わかった。お腹減ったんでしょ? トアちゃんったら食いしん坊なんだからー!」

 

 はしゃぐ推定六波羅を見ながらミズヒは悲し気に目を伏せる。

 

「六波羅……どうしてしまったんだ。ついに激務で気が……」

「やめろォ……そんな目をすんじゃねェ……」

「六波羅! 良かった正気だったのか!」

「今すぐ正気を失いたいけどなァ……!」

 

 六波羅はそのままミズヒとトアにそっと耳打ちをする。

 

「いつもの俺だと、ケイが怖がるんだよ。だからこうして出来るだけ怖がらせないようにしたんだ」

「なるほど……ありがとう六波羅。そんなカワイイ恰好をしてまで付き合ってくれて。服、良く似合ってるぞ」

「良かったですねぇ! リーダー! ……ち、ちょ、首……絞まって……」

「じゃあ、私達はミロクちゃんとお話するから、生徒会室に行くね☆彡 行こう、トウラク、ルトラちゃん! それとエイナ(殺意)」

「アッハイ」

「ぎ、ぎぶです、リーダー……」

「六波羅、騎双学園の美味しい食べ物について詳しく教えて欲しい」

「いいよ、えっとね――」

 

 四人は騒がしくその場を後にする。

 それからミズヒとトアは互いに視線を送り頷く。

 

 ――今日の事は、六波羅の尊厳を守るために無かったことにしよう。

 

 幼馴染による以心伝心であった。

 

「入るぞ、トア。私達は何も見てない」

 

 やがて二人が食堂へ入ると、そこには談笑するクラムやヒカリ、そしてほわほわとした笑顔を浮かべているケイの姿があった。

 三人はこちらにはまだ気が付いていないようである。

 

「……」

 

 トアは思わず足を止めた。

 幼馴染は受け入れてくれた。

 

 しかし、クラムやヒカリはどうだろうか。

 そして、記憶を失ったというケイは……?

 

 そう考えると、不安に思わずこの場から立ち去りそうになった。

 ミズヒはそんなトアの思考を読んだかのように頭を撫でる。

 

「大丈夫だ、私がいる」

「……うん、ありがとう」

 

 トアは一度息を大きく吸い、笑顔を作った。

 第一声はいつも通りに。

 

「おはよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『来た! これで記憶喪失コンテンツが完成する……!』

『ああ、六波羅達が行ってしまったねぇ。……後でエイナに、あの形態を一方的に維持する方法を教えてあげるとするか^^』

『おぉ……ならばついでに幼い姿に固定する方法も頼む』

『その、あんまり人の容姿を一方的に変える力を与えない方が良いと思うのじゃ。当人もきっと困るのじゃ(経験談)』

 

 

 

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