【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
結論から言うと、トアの悩みは杞憂であった。
そもそもヒカリがいる時点で、どう転んでも暗い雰囲気になりようがない。
幼馴染に引っ張られるようにして今はクラムも明るかった。
元々のトアという人間の善性を知っていたこともあったのだろう。
無事、トアはケイ達のいるテーブルへと合流出来ていた。
「改めて、月宮トアです。ケイ君……あ、ケイちゃん、よろしくね」
「那滝ケイです。その、こちらこそよろしく……」
二人はどこか遠慮がちにおずおずと握手をする。
そして照れ笑いをしながら顔を見合わせた。
「なんか照れちゃうね」
「そうですね。えっと、私は今までは貴女の事をなんて呼んでいたんですか?」
「トアちゃんって、呼んでたよ。だから今まで通り呼んで欲しいな。それに、敬語じゃなかった。私達、数少ない同級生だし!」
「そうなんだ。……うん、分かったよ、トアちゃん」
それから二人の間には沈黙が流れる。
お互い、受け身の少女であり、何度かちらりと目を合わせるも、照れて目を逸らす。
何故か甘酸っぱい空気が流れているその光景を、クラムは隣で頬杖をつきながら見ていた。
その顔は、何故か不服そうである。
「「えっと」」
二人は同時に声を上げ、ハッとして互いに譲り始めた。
「先にいいよ、ケイちゃん」
「わ、私なんかよりトアちゃんの方が先でいいよ」
「そんなぁっ、いいよケイちゃん!」
「え、でもやっぱりトアちゃんの方が」
「やめろやめろ、無限ループ見せられるこっちの身にもなってよ」
クラムは制止する。
その顔には明らかな私情が見て取れた。
「取り敢えずトアは朝ご飯でも食べたら? まだ、頭回ってないでしょ」
「うん、そうだね」
「ケイも、まだ慣れないなら私を通してもいいからさ。そんなに緊張することないよ」
そう言って、クラムはケイのすぐ隣にしれっと座る。
ケイはそんな彼女へと、尊敬の眼差しを向けていた。
「ありがとう、クラムちゃん」
今までの彼女とは違う、心からの感謝と柔らかい笑顔がクラムの心に直撃する。
「~~っ! まっかせてよ! 私、ケイの理解者だからさ!」
クラムはそう言って胸を張る。
ケイはその自信満々な態度に感動したのか、胸の前で小さく拍手をしていた。
そんな二人をニコニコ見守るトアの前に、クソデカトレイを光翼に乗せたヒカリが現れる。
彼女は、トアの前に次々と料理を並べていった。
まるでこれからパーティでも始まるかのような量。
しかし、それは全てトアの為に用意されたものであった。
「わぁ!」
「どうぞ!!!!!」
これ以上の言葉は不要であった。
それから数十分、トアにとっての大切な時間が始まった。
「――ふぅ、食べた」
トアの前には空になった皿がいくつも並んでいる。
およそ5人前はありそうな皿の量は、フェクトムの少女達にとっては見慣れたものだった。
唯一、ケイを除いて。
「す、すごく食べるんだね」
「え? そうかな」
トアは不思議そうに首を傾げる。
朝ご飯を摂取したことで、トアの思考能力は向上していた。
彼女は改めてケイを見る。
(やっぱり、今までのケイちゃんとは違う)
沢山食べたトアを、驚きの表情で観察する彼女はどこかおどおどしているように見える。
その姿に、彼女は親近感を覚えていた。
寝間着であろう薄手の黒いワンピースも、今まで男のふりをしていた彼女からは考えられない。
それに髪も随分と長くなっており、誰かにいじられたのかハーフツインの可愛らしい髪型をしていた。
(うん、やっぱりハーフツインも似合うね。……あれ? やっぱり? 私、なんでそんな事を――)
そこに好感はあっても驚愕はなかった。
当然のように受け入れた自分に疑問を抱き、トアはその理由を探ろうとする。
と、その時トアの目の前にパフェが置かれた。
顔を上げれば、ヒカリが笑顔を向けている。
「どうぞ!」
「おぉ! ありがとうヒカリちゃん!」
「なんか、私が食べたやつより三倍くらい大きくない?」
「こっ、これ食べるの……?」
クラムとケイは、驚愕を通り越してドン引きだった。
そもそも5人前をあっという間に平らげている。
そこに追加で巨大パフェを食べようとしているのだから、驚くなと言う方が無理である。
特に、ケイはもはや怯える域に至っていた。
「いつもこれくらい食べてるの?」
「うん。ケイちゃんも食べる?」
「い、いや私はいいよ……」
「そっか」
トアは笑顔でパフェを食べ始める。
(全部食べていいなんて、やっぱりケイちゃんは優しいなぁ)
そんな理由での発言でない事に気が付かないまま、トアはパフェを頬張る。
その光景を見ながら、クラムは何かに気が付いたように声を上げた。
「あれ、0号は?」
「少し席を外すと言って、出て行ったよ」
「気が付かなかった……あいつから目を離すとか一番駄目なのに」
ケイの言葉にクラムは項垂れる。
トアは彼女達のやり取りなどお構いなしに、山盛りパフェをモリモリ食べていた。
そんな彼女達のいる食堂の天井を這いまわる一人の影。
「^^」
0号は、華麗に監視中であった。
■
遂に無垢なる記憶喪失美少女と、食いしん坊記憶喪失美少女が出会ったぞ!
現場の星詠みの杖君ー!
『はーい^^ 現地は快晴で、美少女エネルギーをよく観測できます。記憶喪失美少女同士の掛け合いに、しれっと理解者アピールをするクラムと、今年の夏も見所が沢山のイベントになりそうです。ぜひ、親子でいらしてくださーい!』
『親子共々壊す気なのじゃ……?』
『おぉ……幼き命にはカメさん遊泳コーナーもあるぞ』
『カメ先生までそっちに行かないで欲しいのじゃ……』
赫夜牟君もほら、一緒に楽しんで。
記憶喪失美少女同士の掛け合いなんて滅多に見られないんだから。
流星群や日食なんて比にならない程貴重なんだよ?
『わ、我は遠慮するのじゃ……』
はっはっは、赫夜牟君は引っ込み思案だなぁ!
『危機管理能力が高いと言って欲しいのじゃ』
『何も危ない事はないよ。それを証明するためにも、早速トアの方を詳しく調べるとしようかねぇ。前に拷問しようとしたら邪魔が入ったからねぇ』
星詠みの杖君、今度は安全に、そして害のない方法で探るんだ!
俺達はあくまで美少女コンテンツの観測者であることを忘れちゃぁいけない。
『勿論だとも^^ さあ、この0号アイでトアを徹底解剖していこうねぇ』
記憶喪失には必ず理由がある。
理由にはコンテンツの種がある。
コンテンツの種はやがて美少女という大輪を咲かせる。
俺達の仕事は、コンテンツの種を拾い上げ、芽吹かせることだ。
そうして美少女コンテンツでこの星を再生させる……!
『なんて壮大な夢なんだ。うーん、これは正論率100%^^』
『星詠みの杖は、主殿だけにはやたら優しいのじゃ』
『あ? なんだお前^^ 今すぐ疑似相棒にして、ぐちゃトロの実験台にしてもいいんだぞ?』
『ひえ』
『私の教え子に手を出すな!』
『カメ先生……! 怖かったのじゃぁ!』
『おぉ、よしよし……』
『この海洋生物も大概甘い気がするけどねぇ』
うんうん、それもまたコンテンツだね。
赫夜牟君、まずは美少女コンテンツを受け入れることだよ。そこから全ては始まる。
『自殺教唆……?』
美少女コンテンツの事、何だと思ってんだ。
まったく、星詠みの杖君と一緒に手本を見せてあげないとね。
『どれどれそろそろ、解析が済みそうだ。頭を掴んで良いのならもう少し早く解析できるんだけどねぇ』
そんなことしたらトアちゃんが泣いちゃうだろ!
それにトアちゃんはいっぱい食べてる姿が可愛いんだから邪魔するわけにはいかないだろ!
『わかってるさ^^ ……さて、おやおやこれはこれは』
何かわかったのかい?
『どうやら、トリムの不干渉により記憶領域を一部封印されているみたいだねぇ。ここまで凝視しないとわからないとは、中々に巧妙だ^^』
トリム……?
俺がまだ見ぬ美少女か。
デモンズギア最終号。赤い髪のロリっ娘だったと記憶しているぞ。
『!? おぉ……遂に!』
カメ君がアップを始めました。
『やれやれ、これは随分と面倒くさい相手に記憶を封じられたものだ』
星詠みの杖君でも難しいの?
『今の私なら余裕^^ 舐めんな^^』
流石星詠みの杖君だぜ!
そうと決まれば、無垢シエラとトアちゃんが仲良くなったタイミングで、すこーしずつ記憶の封印を解いてあげよう。
そうして徐々に変化を楽しむんだ^^
『さっきまでトアという少女の事は虐めないと言っていなかったのじゃ……?』
これはコンテンツだからセーフ。
『判断基準が人間じゃないのじゃ……』
なんてこと言うんだ。
こんなにハートフルな人間はいないだろ。
じゃあ、早速始めるぞ星詠みの杖君!
作戦名『思い……出した!』を始める!
『応っ!』
『赫夜牟、あっちで一緒にトリムという幼き命に送るプレゼントでも作っていよう。仲良くなるためには第一印象が大切だ』
『わかったのじゃ』