【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第397話 8‐2 始まりの星を詠う君へ

 近くで聞こえる瑞々しい何かを貪る咀嚼音でソルシエラは目を覚ました。

 

「……んぅ」

 

 重い瞼を開ければ、そこにはリンゴの早食い対決をするガーデナーと赫夜牟の姿があった。

 

「うおおおおおおおお! シャクシャクシャクシャク――」

「ハッ。この程度、丸のみじゃぁ!」

 

 げっ歯類のようにリンゴを削り食べるガーデナーと、口を首までバックリ開き怪物の姿を曝け出してリンゴを丸呑みする赫夜牟。

 その光景を見て、ソルシエラは自身がまだ夢の中にいるのかと錯覚した。それも、随分な悪夢である。

 

「え、ええっと……これは……」

「あっ、求道者! 起きたんだねー!」

 

 リンゴを食べている二人を出し抜いて、ラッカが真っ先に気が付きソルシエラへ覆いかぶさるように抱きしめる。

 

「ら、ラッカ……そんな、急に何。やめてちょうだい」

「やめないよぉ! 無茶しやがってー! もう仲間を失うのはごめんだよコノヤロー!」

「く、苦しい……」

 

 ソルシエラに抱き着いたラッカは、胸元に頭をこすりつける。

 あの騒動で体がまだ不調なのか、ソルシエラはラッカを引き剥がすことが出来ないままガーデナーへと助けを求めるような視線を向けることしか出来なかった。

 

 しかしガーデナーは助けることはなく、二個目のリンゴへを手を伸ばす。

 

「ソルソル! おはよう! シャクシャクシャクシャク……」

「挨拶をするかリンゴを食べるかどちらかにして頂戴」

「シャクシャクシャクシャク」

「……どうしてそっちを選んだのかしら」

 

 目の前で次々とリンゴを頬張るガーデナーの目は、何故か鬼気迫っていた。

 

「魔力を回復するために、天上の果物を食べているんだ。リンゴの他にもいろいろあるよ。でも基本はこのリンゴ。……他のは、貴重だから周回の時しか食べれないんだ」

 

 ガーデナーはそう言って、今までで一番悲しそうな顔をした。

 一体、何のことを言っているのかわからずソルシエラは首を傾げる。

 

 取り敢えず、ガーデナーにとっては重要な問題であることは理解できた。

 

「そ、そうなのね……」

「それよりも、ソルソルはお腹空いていない?」

「……私は」

 

 断ろうとしたソルシエラだったが、ガーデナーの顔をじっと見つめて何かを考え込むとやがて小さく控えめに頷いた。

 

「じゃあ、私にもそのリンゴを頂戴。ガーデナー、剥いてくれるかしら」

「任せてよ! じゃあ、ツグノちゃんから教わった『外来の蛸さんリンゴ』の切り方で……」

「普通に切って頂戴」

「そっかぁ、残念」

 

 ガーデナーは口ではそう言いながら、鼻歌でも歌いそうな程に上機嫌にリンゴを剥き始める。

 ソルシエラは上体を起こし、背伸びをすると改めてラッカを見た。

 

「私はどれくらい眠っていたの?」

「1時間かな。絶望のソルシエラを倒した後からずっと眠っていたんだ。丁度良い休息になったんじゃない?」

「そうね。……おかげで、良い夢を見られた気がするわ」

 

 ソルシエラはガーデナーを見つめてそう呟く。

 その口元が緩く弧を描いていた事に気が付いて、ラッカもつられてほほ笑んだ。

 

「そっか。それは良かった。……ねえ求道者、もう無茶は止めてね? あんな事をしないってこの場で約束して」

「……わかったわ、約束する」

 

 ソルシエラは素直に頷く。

 この場にいる者は気が付かない事だが、それは本来のソルシエラを知っている者からすれば大きな変化であった。

 

 本来、彼女は人の力を素直に借りるような人間ではない。

 ガーデナーとの交流を経て、彼女の中で何かが大きく変わろうとしていることは確かだった。

 

「はい、出来たよ! 宇宙を旅する黒炎リンゴ!」

「普通に切ってと私言ったわよね?」

 

 差し出されたリンゴは、皮をうまく利用して随分と奇妙な形に仕上がっていた。

 見ているだけで胸の内を焔が焦がすような感覚に襲われ、焦燥感が脳を支配する錯覚すらある。

 

 ただのリンゴである筈なのに何か理解してはならないものを再現したソレを、ソルシエラは出来るだけ何も見ずに皿ごと受け取った。

 そして、控えめに小さくリンゴを齧る。

 

「……おいしい」

「でしょ! 天上の果物は何でも美味しいからねー。魔力も回復できるし、これにどれだけ私が助けられたか」

「魔力の回復……?」

 

 ソルシエラはガーデナーの言葉を確かめるように掌を見つめる。

 確かに、知覚出来る分だけでもその魔力量は先ほどよりも増えているようだ。

 

「ガーデナーの異能は結構、燃費が悪いからさ。こうして天上の果物で効率よく魔力を回復しているんだよ。私や求道者みたいに、銘を持っているわけじゃないから魔力の生成量も所詮はSランク探索者程度だしね」

「Sランクでも充分凄いと思うんですけど。先生ってこういう時はマウント取るよね……」

「桜庭ラッカは常に上の存在でなくてはならないからねぇ。少なくとも、Sランクに負ける様じゃ憧憬の銘はとてもじゃないけど扱えないよ。私ってば天才だし。……いや、私達の間違いか! ね、求道者ー!」

「くっつかないで。離れて頂戴」

 

 ラッカが抱きしめようとしたが、それを予測していたのかソルシエラは鎖を放って動きを止める。

 その光景を見ていたガーデナーは微笑ましそうに頷いた。

 

「うんうん、仲良しだね。ソルソル、リンゴ食べる?」

「貴女が剥いてくれるならいただくわ」

「え、じゃあ私も求道者に剥いてあげるよ!」

「一つで充分よ。貴女は自分の分でも剥いたら?」

「私には厳しくない!?」

 

 ラッカは、自身の逸話を使用して拘束を解く。

 そして赫夜牟に近づき、ソルシエラを指さした。

 

「ねえ、あの子私には当たりが少しきついと思うんだけどどう思う?」

「知らぬ。そもそも小娘はあまり人とのかかわりを好まぬ。お主のような無駄にベタベタと触ろうとする輩など特に嫌いじゃろうて」

「じゃあ、あれは何だよぉ!」

 

 ラッカの視線の先では、ベッドに腰かけたガーデナーとソルシエラがリンゴを食べている。

 その姿は、随分と仲がよさそうに見えた。

 

「赫夜牟、あれはどう説明するんだ!」

「どうもこうもない。知るか、この阿呆め」

「なんだとこのクソガキ! どうせまだ数百年程度の小童が! 偉そうにするなよ? 私はお前とは生きている年数の桁が違うんだよ。先輩として敬え!」

「つまるところが……年増か?」

「あ?」

「いらぬいらぬ、年増はいらぬ。旬を過ぎた人間の肉は筋張ってとてもじゃないが食えたものではない」

「……へえ、そっかぁ」

 

 ラッカはすっと立ちあがる。その手には槍が握られていた。

 それを見た赫夜牟もほくそ笑み、応えるように立ち上がる。

 

「絶望のソルシエラの時は満足に暴れられなくてのぉ、もう少し体を動かしたいと思っていたのじゃ」

「デカいムカデはまだ殺したことがなかったかぁ。私の逸話に刻まれることを光栄に思いながらくたばれよ害虫」

 

 一触即発どころか、あとはゴングの音が鳴れば勝負が始まりそうな空気に、ガーデナーは顔を顰めた。

 

「ちょっとちょっと、ソルソルはまだ起きたばっかりなんだから喧嘩は止めてよね。ね、ソルソル」

「私は別に構わないわ。好きにしたらいい」

「そんなこと言って、二人には喧嘩して欲しくないって思っている癖に」

「あら、随分と私を知った気になっているのね。……けれど、確かに私の食事中に喧嘩されるのは正直言って迷惑だわ。二人とも、止めて頂戴」

 

 ラッカと赫夜牟はお互いに無言でにらみ合う。

 それから、どちらも勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 

「今、最初に目を逸らしただろクソガキ」

「お主が逸らしたじゃろ。我はずっと見ておったぞ」

「どっちも子供だなぁ」

 

 ガーデナーはそう言って、リンゴを食べ終えると立ち上がって二人の間に割って入る。

 そして、ソルシエラへと手を伸ばした。

 

「腹ごしらえも終わったし、お散歩行こ!」

「貴女、やっぱり自由人ね」

 

 呆れた笑みを浮かべたソルシエラは、仕方がないと言わんばかりにため息をつく。

 しかし、その顔はどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう嫌じゃ! ラッカに喧嘩売りたくないのじゃ! 絶対に殺されるのじゃ! それに、本当は年増でも工夫すれば美味いのじゃぁ!』

『いいからラッカに喧嘩を売り続けろ。その方がお前は輝く^^』

『おぉ……赫夜牟よ、本当に怖い時は言うが良い。カメさんエマージェンシートルネードの用意は出来ている……』

『誰も態度がやや軟化したソルシエラに興味ないのかよ。くそっ、目先ののじゃロリに負けてたまるか! 赫夜牟君、俺の『若干デレシエラグーン』とコンテンツバトルだッ!』

『変なバトルに巻き込まないで欲しいのじゃ』

 

 

 

 

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