【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第398話 8‐3 始まりの星を詠う君へ

 俺達は今、背徳のソルシエラのお家を飛び出して近くの湖を散歩していた。

 うーん、とても気持ちが良い場所。まるでギャルゲーの背景みたいだぁ。

 

『台無しだよ』

 

 最高の誉め言葉なのに……。

 

 さて、最終戦が始まる前にお散歩でスチルを回収しようねぇ。

 破滅のソルシエラとの戦いになったら、おそらく俺の行動は制限される。

 どういう攻撃を仕掛けてくるのかわからないけど、一旦は通常形態で敗北しかけてそこからいい感じの綺麗ごとを吐きながらパワーアップしよう!

 

『ソルシエラが敗北したり、綺麗ごと吐いたりするわけないだろ。いっつも意味深な事を言って優位に立ち回るんだよ! このイベントシナリオ書いた奴は原作読んだのか?^^』

 

 厄介ファンも見てます。

 

『あの、我はいつまでラッカの気を引けばいいのじゃ? 我も主殿と並んでお散歩したいのじゃ』

 

 もう少し待ってくれ赫夜牟君。

 今は、俺とガーデナーちゃんでいい感じの会話をするターンだ。

 

 これの為に、わざわざ闇落ちしたと言っても過言ではない。

 ソルシエラがソルシエラとしての覚悟を新たにするシーン。

 そして、プレイヤーにガチャを引かせるためのソルシエラスチルゾーンでもある。

 

 ここで多くのプレイヤーをソルシエラガチャ沼に落とすソルよ。

 周年前に石を空にするソル!

 ソールソルソル! 周年に向けて石を貯められるなんて甘い考えソルねぇ!

 

『シエル特攻かな?』

『あんまり人を困らせちゃ駄目なのじゃ』

 

 困らせてないよ^^

 俺はただ、原作では見ることが出来ない儚げ微デレシエラをお出ししているだけ。

 あっちがそれでガチャを引きたくなっても、俺は知らないよ^^

 

『さっきまでソルソル言ってただろ』

 

 そんな事、知らないソル~!

 さ、そろそろ始めるソルよ!

 

 ガーデナーといい感じの雰囲気になってエモシエラをするソル~!

 

『その語尾やめて欲しいのじゃ。頭、おかしくなりそうなのじゃ』

『おぉ……赫夜牟よ、お前も語尾に『ヨム』とつけても良いのだぞ?』

『絶対嫌なのじゃ!』

 

 

 

 

 

 

 湖畔の道は空の光を受けて淡く揺れていた。

 湖面は鏡のように周りの木々の輪郭を映し込み、遠くに連なる灯りが水の上で揺らめき、道を歩く二人を静かに見送っている。

 足元には時折波が打ち寄せ、二人の後ろには水滴が残り淡い光を散らしていた。

 

 二人の少女は肩を並べ、互いの歩幅を合わせるようにゆっくりと進んでいる。

 ソルシエラは湖面を眺めながら、その揺らめきに目を奪われ、指先で風をすくうように動かしていた。

 

「……不思議。長い夢から目覚めた気分だわ。今なら、どんな星にも手が届きそう」

 

 穏やかな表情で空へと手を伸ばすソルシエラは、本当にそのまま空へと溶けて消えてしまいそう予感がした。

 鏡界の空は一日中極彩色であり、昼と夜の境界はない。

 

 しかし、ソルシエラの目には星空が映っているようだ。

 

「街に行っても良かったんだよ? 色々とお店があるってダラちゃんが言ってた」

「私と似た顔が沢山いる街なんて気が休まらないわ。それに、今はこの瞬間を静かに味わいたいの。他の誰でもない、私がここにいるという実感を」

 

 彼女はふわりと笑ってガーデナーを見つめる。

 

「きっと、私が弱い私でいられる瞬間は今だけ。この戦いが終わったら、私はまたソルシエラに戻る事になるわ。完全無欠で、無慈悲な夜の女王。皆が想像するソルシエラにね」

「好きに生きてもいいんだよ? そのイメージ通りに生きる必要はない」

「いいの。私がそれを望んでいるのだから。初めにソルシエラになったのは、私が成りたかったから。星として輝きたかったから。それだけなの」

 

 少女は足を止め、湖畔に身をかがめる。

 細い指先が水面へと伸びると、湖はまるでその存在を待ちわびていたかのように微かに震え揺らめいた。

 

 彼女の指がそっと水を掬い上げると、透明な雫が零れ落ちながら掌に集まり、小さな宝石のように瞬いた。

 雫は指の隙間からこぼれ、ぽつり、ぽつりと湖へ還っていく。 

 その度、静かな音が空へと溶けていくように響いた。

 

「ガーデナー、私はソルシエラとしてまた頑張るわ。幼い頃、道に迷った私を導くように輝いていたあの星のようになるの」

 

 掬った水を見つめる彼女の瞳は湖面そのものを映したように深く、揺れる光を奥で留めていた。

 その仕草は最初から今に至るまで穏やかであり、ただ湖と静かに言葉を交わしているようだ。

 

「弱いまま、臆病なままの私で。ね?」

 

 彼女の横顔は、今まで見たことがない程に優しくどこか神秘的だった。

 同意しようと言葉を用意していたガーデナーは、その美しさに息を呑み暫しその時間に身を預ける。

 ソルシエラの手のひらから落ちる雫の音と湖面をさらうような風だけが辺りに音を響かせた。

 

「だから、私が輝けるように手伝ってくれるわよね?」

 

 湖面を裂くようにソルシエラはゆっくりと進んでいった。

 水はひざ下まで届き、衣の裾を重たく濡らしては波紋を幾重にも広げていく。

 

 やがて湖の中心に差しかかった彼女は、振り返った。

 滴る水が白く細い指先を伝って落ちていく。

 その眼差しは岸辺に立つガーデナーを見つめ、どこか現実から切り離された静けさを宿していた。

 

「ガーデナー、一度しか言わないからよく聞きなさい」

 

 岸辺に残るガーデナーは、その姿をただ見つめていた。

 足を踏み出そうともしないまま、息を呑んで立ち尽くしている。

 湖上に浮かぶような少女の姿は、近くにあるはずなのに触れれば消えてしまいそうな儚さを帯びていた。

 

「ありがとう。ようやく、答えらしいものが出たかもしれないわ」

 

 静かに、噛み締めるようにソルシエラは笑みを浮かべてそう告げる。

 その時、二人の間を風が吹き抜けた。

 水面にさざ波が立ち、揺れる。

 

 ガーデナーはその間、一言も発することが出来なかった。

 

 やがて、ソルシエラはガーデナーの元まで戻ってくるとそのまま横を通り過ぎて歩き出す。

 

「行きましょう。もう少しだけ歩きたい気分なの。ホシヨミキャッスルでソルシエラバトルの最終戦が始まれば、この景色もしばらくは見れなくなるでしょうから」

「あ、うん」

 

 ガーデナーはハッとして追いかける。

 そしてソルシエラの隣にまた追いつくと、何か違和感を感じたのか首を傾げた。

 

「……最終戦の事、話したっけ? 妄信のソルシエラが来た時、実は起きてた?」

「…………絶望のソルシエラに聞いたのよ。あの子、聞けばなんでも答えてくれて助かったわ。おかげで、情報収集に無駄な時間を使わなくて済んだ」

 

 それからソルシエラはガーデナーへと目をやり、不敵な笑みを浮かべる。

 勝利を確信させる完全無欠さと、心の底を決して明かさぬ神秘性を携えた笑顔は、まるでこの先の結末を知っているかのようだった。

 

「ガーデナー、勝ちに行くわよ。()()()

「うん。足を引っ張らないように頑張るよ!」

「そう、頼りにしているわ」

 

 少女たちは笑い合う。

 と、その時背後から不満げな声が響いた。

 

「私達の事、忘れてるでしょ! ねえ、求道者! 私ともお喋りしようよー!」

「ハッ、嫌われたのぉ。ソルシエラも年頃の娘じゃ。お前のような面倒くさい奴の相手などごめんじゃろうて」

「おうおう言ってくれるねぇ! 求道者、やっぱこいつ殺そう!」

「駄目よ。私の使い魔なのだから」

 

 はっきりと『使い魔』と告げられ、赫夜牟が口をぽかんと開ける。

 それを見て、ラッカは指をさして大笑いをした。

 

「アッハハハハハハ! 使い魔だってさ! あんだけ大物を気取ってたのに、お前、その辺の使い魔と一緒!」

「こ、小娘! 流石に無礼じゃろう! 我はあの幻獣大戦の――」

 

 騒がしい二人が合流し、四人で並び歩き始める。

 その騒がしさが、心地よいのだろうか。

 

 ソルシエラはまた、静かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自分に酔いしれて一瞬危なかっただろ君^^』

『そんな事はないソルねぇ。さ、とっとと破滅の所にいくソルよ』

『おぉ……マイロード、赫夜牟よ。きちんと足を拭いてから靴を履くのだぞ?』

『全部終わったら我、ラッカにボコボコにされそうで怖いのじゃ。着々と『怨』だけがラッカに蓄積されているのじゃ。我、何か悪い事でもしたのじゃ……?』

『『しただろ』』

 

 

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