【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
散歩を終えたソルシエラ達を教会前で出迎えたのは、堕落のソルシエラと背徳のソルシエラの二人であった。
彼女達は既にそれぞれの得物を用意しており、戦いに向かう用意は出来ているようだ。
「二人ともお待たせ」
「その表情、私たちが待った甲斐はあったようですね」
背徳のソルシエラの言葉にガーデナーは頷き、ソルシエラの肩を抱き寄せる。
ソルシエラは決して頷きはしなかったが、ガーデナーの手を振り払わずに受け入れている様からある程度の想像はできた。
「よし、じゃあ行こうか。戦闘前の会話パートなんてスキップするのが当然だし。ソルシエラバトルなんてさっさと終わらせよう」
堕落のソルシエラはそう言うとサソリに飛び乗る。
サソリもやる気満々なのか、尾をグルグルと振り回していた。
「ダラちゃんやる気だねー」
「当たり前でしょ。これが終われば、私は何もしなくて良い究極の堕落を手に入れられるんだ。水族館の売り上げで一生暮らす……!」
「そ、そっか」
「はぁ、堕落のソルシエラ。これから決戦なのだから、もう少し気を引き締めなさい」
「ガーデナーの腕の中でいうセリフじゃないなぁ」
ソルシエラは未だにガーデナーに肩を抱かれたままだった。
それでも本人はしっくり来ているのか、堕落のソルシエラに指摘された後でも表情を変えない。
「あら、羨ましいのかしら」
「誰もそんなこと言ってないよ。ダル……もういいからさっさと行こう。破滅のソルシエラに下手に時間を与えても良い事なんてない」
「そうだね。まあ、求道者と私が揃った時点で誰が来ようが負けないけどね! わはは!」
「用心せい。慢心は身を滅ぼすのじゃ(一敗)」
赫夜牟の言葉を聞いてもラッカは高らかに笑う。
どうやら勝利を確信しているようだ。
場の空気は明るく、全員のコンディションも良い。
今が好機であることは事実だろう。
「じゃ、行こうか。皆!」
ガーデナーは懐から招待状を取り出す。
美しい装飾がなされた青紫色の封筒へと魔力を込めると、教会の前に転移魔法陣が展開された。
少女たちは意を決して次々と魔法陣へと飛び込んでいった。
■
飛び込んだ先に見えたのは、夜空と荘厳な城であった。
絶望のソルシエラの城が、戦争の為に作られた堅牢な要塞であるならばこちらは自身の権威を示すための象徴だろうか。
「でっか……」
「これは他の位相世界でも中々見れないね」
城は湖底から聳え立つかのように姿を現していた。
水を割り夜空へと伸び上がるその輪郭は、幻想でありながら確かに質量を持ち、見上げる者を圧倒する。
高く積み上げられた石壁は漆黒に沈みところどころに嵌め込まれた水晶が、月光を受けて青白く輝いていた。
まるで星々をそのまま城壁に封じ込めたかのようである。
塔は幾重にも連なり、それぞれが異なる高さで天へ伸びていた。
門へと続く大階段は白大理石で形作られ、見た者に濡れたままの足で進むことを躊躇させる。
両脇に並ぶ石像シエラは鎌も剣も掲げず、ただ膝を折り、頭を垂れている。
まるで訪れた者が誰であろうと、この城の権威の前には臣下であると告げているかのようだった。
その城に誰もが圧倒されて息を呑んでいる。
故に、その沈黙を破ったのは彼女達の中の誰かではなかった。
「ようこそお越しくださいました」
階段の上に妄信のソルシエラが立っている。
背筋を伸ばして凛とした佇まいの彼女は、丁寧な動作で扉を示す。
すると、十メートルはあろうかという扉がゆっくりと開いた。
「では、ホシヨミキャッスルへとお入り下さい。既に破滅のソルシエラは儀式の間でお待ちです」
そう言うと、妄信のソルシエラはガーデナー達の行動を待つように姿勢を正して口を閉ざした。
「……行こうか」
ガーデナーの言葉に各々が頷く。
そして城へと歩みを進めていく。
やがてガーデナー達が近づくと、妄信のソルシエラは微笑を携えて先導するように歩き始めた。
「では、付いてきてください」
城の内部は暗がりに沈んでいるはずなのに、壁や天井を覆う紋様が淡く発光し足を踏み入れた者の姿を照らし出していた。
「ツグノちゃん連れて来てたらやばかったなコレ……」
「随分と私腹を肥やしているようね。破滅の名が聞いて呆れるわ」
ガーデナーとソルシエラはそれぞれ小さく呟く。
他の少女たちも興味深そうに辺りを見渡していた。
その中で一人、ラッカだけはいつでも妄信のソルシエラの頭を貫けるように槍を密かに手の中に握っている。
「この広間を抜けた先でお待ちです」
広間は広大で、天井は外観から想像する以上に高い。
見上げれば夜空をそのまま閉じ込めたかのような漆黒が広がっていた。
が、その闇の中に散る光は星ではなく細やかに彫り込まれた宝石片である。
見上げたまま歩けば宝石は輝きを変え、まるで本当の星のようであった。
決して消えることのない永遠の星の輝き、それを見てソルシエラは何か思う所があるのか顔を顰める。
「さて、ここでございます。私にはこれ以上先へと進む資格がありませんので失礼します。どうか、皆様の理想が星となって輝きますように」
妄信のソルシエラは恭しく礼をすると、そのままその場を後にする。
彼女達の目の前に残されたのは、銀の装飾が目を引く巨大な扉であった。
そしてその向こう、明らかに今までとは桁外れの何かが存在している。
全員がそれを感じ取り、各々が得物を無意識に構えたその時だった。
「――あら、緊張しているの?」
「……え」
その声にうまく言葉を返せなかったのは、あまりにもその声と口調がソルシエラにそっくりだったからだ。
ガーデナーが驚いてソルシエラを見れば、ソルシエラも驚愕したように扉を見つめている。
「ふふ、そんなに驚いた顔をして。駄目よ、星詠みならもっと優雅でなくてはいけないの」
聞く者の鼓膜に刻み込むような優しくも力強い声。
やがて、扉がひとりでに音を立ててゆっくりと開いた。
「ようこそ、ソルシエラバトルの勝者たち。当初の予定とは違って、随分と大人数のようだけれど、いいわ。それが貴女達の理想なのよね」
扉の先、広間は静謐でありながら戦いの舞台にふさわしい緊張感を孕んでいた。
天井は高く、漆黒の石に穿たれた巨大な円窓から月光が注ぎ込んでいる。
その光はまるで舞台を照らすライトのように床の中央へと真っ直ぐ落ち、淡く青白い円を描き出していた。
「初めまして、オリジナル」
その中心に一人の少女の姿。
彼女の髪は蒼銀に輝き、流れるたびに夜空の光を掬い取ったかのように淡い青白さを放つ。
髪は月光と融け合い、まるで彼女自身が夜の象徴であるかのようだった。
身を包むのは深い闇を凝縮したような黒のウェディングドレスだ。
裾は大理石の床に広がり、重厚でありながら不思議と優雅な曲線を描く。
漆黒の布地には細やかな銀糸が縫い込まれ、星座を思わせる紋様が月明かりに浮かび上がっていた。
肩口から胸元にかけては薄いヴェールのような布が重なり、透けた部分からは彼女の白い肌がのぞいている。
その肌は黒衣との対比でひときわ際立ち、花嫁であると同時に、葬送の儀を司る者のような静謐を感じさせた。
誰もがその姿を見て理解する。
目の前のその少女は――ソルシエラであると。
「私は破滅のソルシエラ」
少女は冷たく蒼い瞳でソルシエラを見つめる。
ただそれだけで、まるで刃を喉元に突き付けられたようにソルシエラは無意識に大鎌を握る手に力を込めていた。
「どうかそんなに怯えないで。ただ、貴女達の死ぬ時が来ただけなのだから」
少女は優しくも無情にそう言い放つ。
ソルシエラバトル最終決戦。
破滅のソルシエラとの戦いが、今ここに始まろうとしていた。
『なんかあっちのほうがソルシエラじゃないかい?』
『は? 俺が本家ソル! あんなミステリアスで強キャラみてえなのはパチモンソルよ!』
『おぉ……幼き命ではない……』
『見ただけでわかるのじゃ。奴は強い……! 主殿、まずは冷静に相手の出方を見るのじゃ!』