【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第402話 8‐7 始まりの星を詠う君へ

 ソルシエラの吸収により状況は一変した。

 干渉の力を自在に操り、破滅のソルシエラにトドメを刺す事が可能な切り札ともいえる少女が一番初めに戦場から消えると誰が予想しただろうか。

 

 ソルシエラを軸に戦術を組み上げていたガーデナー達にとってそれは、敗北とほぼ同義であった。

 今はもはや戦いと呼ぶことはできない。

 破滅のソルシエラの攻撃に対して後手に回る事でなんとか対処をしている現状は、まるで緩慢な死へと向かっている最中であった。

 

「っ、駄目だ一旦退こう! 無理ゲーだよ!」

 

 堕落のソルシエラは悲鳴のようにそう叫んだ。

 星々のように輝き天蓋を覆う銀光は全てが収束砲撃の為に用意された砲撃陣。

 地上を這うように増え続ける鎖は常に彼女達の隙を狙う狡猾な蛇のように揺れている。

 

 背徳のソルシエラや赫夜牟はガーデナーを守るのに精いっぱいでまともに戦いに参戦することすら出来ていない。

 

「ふふ、駄目よ。私はまだ満足していないわ。夜は長いのだから、もっと楽しみましょう?」

 

 星詠みという存在が、仮に全力を出せばどうなるのか。

 その答えとも言うべき地獄がそこには存在していた。

 

「泣き言言う暇があったらもっと気張れよ堕落!」

 

 ラッカは叫びと共に槍を振るう。

 かつて戦場で無双と謳われた一振りは、空を切ってもなお意味を付与される。

 

「曰く、桜庭ラッカは星を堕とした事がある」

 

 それは、夜空に生み出された無数の魔法陣を星と見立てた逸話の適用であった。

 破滅のソルシエラの背後にあった大量の砲撃陣にひびが入り、一斉に砕け散る。

 

「あら、舞台をより美しくしてくれたのかしら」

 

 舞い散る銀の欠片の中で、破滅のソルシエラは両腕を広げる。

 そしてまるで自身が主役であると証明するかのようにくるりとその場で一回転して見せた。

 

 砲撃陣を破壊された筈の彼女の顔には笑みが浮かび、変わらぬ余裕を感じさせる。

 その真横をすさまじい勢いで通り抜ける槍が一本。

 頬に一閃、赤い筋が浮かび上がった破滅のソルシエラは、地上のラッカを見つめた。

 

「かかってこいよ、パチモン。急ごしらえの理想で憧憬に勝てると思ってんのか?」

「威勢だけは良いのね。ソルシエラではない貴女に私を倒す事なんて出来ないというのに」

「うるせえバーカ!」

「随分と品がないのね」

 

 羽が舞い、破滅のソルシエラの姿が消える。

 その大鎌が次の標的に定めたのはラッカの首であった。

 

「ははっ」

 

 ラッカは呆れたように笑う。

 脱力した姿勢からは考えられない速度で右腕のみが動き、槍が刃を防いだ。

 散る火花の向こうで、わずかに破滅のソルシエラの口角が上がる。

 それは、獲物ではなく敵であると認識した瞬間であった。

 

「曰く、桜庭ラッカに不意打ちは通用しない。曰く、桜庭ラッカに死角は存在しない。曰く、桜庭ラッカの槍は如何なる攻撃も防げる」

 

 次々と語られるそれは、実際に彼女が刻んだ逸話であった。

 例え偶然の防御だったとしても、語られれば揺るがぬ理となる。

 逸話と共に生きる最強の証。

 憧憬の銘を背負う少女に敗北は許されない。

 

「あら、自慢話が好きなのかしら」

 

 破滅のソルシエラは後方へと飛ぶ。

 そして距離を取って砲撃を放とうとしたその瞬間、彼女の片腕が根元からずり落ちた。

 

「……っ」

 

 腕から鮮血が噴き出し、少女の衣装を赤く染めていく。

 片腕を抑え、破滅のソルシエラは初めて眉を顰めた。

 

 視線の先にいるのは、桜庭ラッカただ一人。

 

「曰く、桜庭ラッカの攻撃から逃れた者はいない」

 

 透明な槍の先端に赤い血が滴り、輪郭を見せる。

 ラッカは槍を担いで、親指で自身の首を搔っ切るジェスチャーをしながら言った。

 

「こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって。軽くひねってやるよ、三下。てめえが死にたくなるまで永遠に殺し続けてやる」

「……ぐっ」

 

 破滅のソルシエラは一瞬、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかし、次の瞬間にはそんな事はなかったかのようにラッカを見た。

 

「……ふふっ」

 

 破滅のソルシエラは自身の中から湧き上がる感情を抑えきれずに思わず笑みをこぼす。

 それは、今まで絶対の強者として君臨していた彼女に、敗北を想起させる威圧感。

 ソルシエラでしか自分を殺せないという前提を覆してしまうのではないかと想像させてしまう程の圧倒的な実力。

 

 自身の命が本当の意味で舞台の上に降り立ったこの瞬間、彼女の心の奥底から湧き上がってきたのは歓喜であった。

 

「あっははははは! いいわ、貴女とってもいい!」

 

 笑う破滅のソルシエラの肩に魔法陣が展開される。

 そして次の瞬間には新たな腕が何事もなかったのように生えた。

 

「衣装が汚れてしまったわね。せっかくだから、変えましょうか」

 

 破滅のソルシエラの足元に魔法陣が展開される。

 魔法陣は彼女を包み込み、その姿をより美しくそして恐ろしいものへと飾り付けた。

 

 身を包むのは、深い赤と黒が絡み合うウェディングドレス。

 裾は血を思わせる赤黒の濃淡で染められ、まるで幾重にも重なった花弁が夜の底から咲き誇るかのように広がっている。

 星光を受ければ赤が妖しく煌めき、影に沈めば黒が静かな恐怖を纏う。

 その相反する色彩が、彼女の存在を昇華していた。

 

「まさか、貴女が私に理想をもたらしてくれる最後のピースだったなんて」

 

 胸元から肩口にかけては黒のレースが覆い、そこに繊細な赤の刺繍が脈打つように走っている。

 それはまるで血管を模したかのようで、ドレスそのものが生きて呼吸しているようにも見えた。

 腰元から伸びる長いトレーンは床を引きずり、その軌跡に紅と漆黒の影を落とす。

  

 花嫁でありながら、祝福ではなく破滅を呼ぶ存在。

 赤黒いドレスを纏った少女の姿は、祝祭と葬送、誓いと呪い、全てを背負う象徴そのものだった。

 

「姿を変えて強くなったつもりか? てめえを殺して新たな逸話を刻んでやるよ」

「そう焦らないで、可愛いお嬢さん」

 

 ラッカの持つ憧憬の銘に共鳴をするかのように、破滅のソルシエラの中にあった理想の銘は急速に形を成し、完成へと近づいていた。

 

 それはただの星詠みに非ず。

 言うなれば、求道者と星詠みの融合した完成形。

 

 ソルシエラバトルは、ここに完成したのだ。

 

「貴女に最大限の礼を持って、破滅をくれてあげる」

 

 再び空を大量の砲撃陣が照らし出す。

 赤黒い魔法陣はまるで今まさに地上に向かって燃え落ちる星のようであった。

 

「んなの間に合ってるんだよ!」

 

 ラッカは吠え、破滅のソルシエラへと向かって行く。

 銘を持つ者同士の戦争が始まろうとしていた。

 

 その様子を観察していた堕落のソルシエラは、ようやく行動を開始した。

 赤く変色した鎖の合間を縫って進んだ彼女はガーデナーの前に姿を現す。

 

「ガーデナー、ラスボスとラスボスが戦いを始めた」

「そうだね。先生、無茶しないといいけど……。とにかく、私達は私達に出来ることを」

「うん、という事で一つ案を持ってきたよ」

 

 堕落のソルシエラは言いたくなさそうな様子を隠さずに、言葉を続ける。

 

「今こそ私の最終形態を使う時だ、ガーデナー」

 

 怪物同士の戦争に、間もなく新たな怪物が加わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さん、ソルシエラバトルはお楽しみ頂けていますでしょうか。運営のソルシエラです』

『返してください』

『破滅のソルシエラの紅禍冥装形態(カラミティフォーム)、驚かれた方も多いのではないでしょうか。予告PVでもこの形態は秘匿されていましたからねぇ^^』

『勝手に変えないでください』

『おぉ……果たして破滅のソルシエラにガーデナー達は勝てるのだろうか。幼き命達の明日を守れるのか』

『勝敗は決まっているんですよ?』

『諦めて委ねるのじゃ……。抵抗しても疲れるだけじゃ……』

『どうしてダンジョン主の昇華体が一番まともなんですか? 早く出て行ってもらっていいですか?』

 

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