【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
銀の黄昏設立当初、一番初めに制定されたルールが存在する。
内容はいたってシンプルだ。
――メンバー同士での決闘を行ってはならない。
これは7人の英雄が、仲間同士で争わないようにという意味合いも強いが、それよりも危惧されていたのは、その先にある滅びであった。
熾天使すらも容易く屠る超常の戦士たちが、もしも自身の銘を本気で行使して争ったのなら、世界は終わりを迎えるだろう。
「もっとギア上げてこいよ! 破滅のソルシエラァ!」
「ふふっ、いいわ! もっと激しいダンスが好みなのね!」
空が割れ、大地が裂け、大気が崩れる。
まるで神々の終末戦争のような光景を生み出したのは二人の少女であった。
「曰く、桜庭ラッカは必ず先手を取る」
逸話により因果が捻じ曲げられ、ラッカは一歩踏み出しただけで既に破滅のソルシエラを射抜く間合いに入っていた。
その手に握られた槍は、生涯でたった一度を除いてすべての敵を殺してきた魔槍である。
桜庭ラッカの勝利という概念が形を成したそれは、今まさに破滅のソルシエラの肩を貫いた。
「あぁ……体がバラバラになってしまいそうな程に痛いわ。ふふ、どうしましょう」
「だったらもっと苦しめよ。曰く、桜庭ラッカに貫かれた者は二度と動かない」
死した者は動くことはない、それを利用した一種の拘束術である。
事実、ソルシエラは動きをぴたりと停止した。
槍をより深くねじ込めば、血が破滅のソルシエラをより赤く染める。
それでも破滅のソルシエラは動くことはなかった。
が、理想の銘はその程度では終わることはない。
「こんな素敵な夜にじっとしているなんてつまらないわ」
破滅のソルシエラは微笑を携えたまま、大鎌をゆっくりと持ち上げる。
逸話に逆らい、力尽くで彼女は遂に大鎌を高く掲げた。
そして、槍が刺さっている箇所を大きく切り裂く。
「狂ってんのか!」
「お互い様でしょう?」
血が噴き出し、魔力が大気に流れ出る。
まるで大輪のように広がる血の中から破滅のソルシエラはより高く飛翔し、ラッカへと向き直った。
その傷は修復されており、ドレスにも血の染み一つない。
「ラッカの逸話をねじ伏せる、それが私の理想。……ようやく体が馴染んできたわ。この銘は、世界と自身に作用させるバランスが重要なのね」
「知った風に言ってくれるね」
二人は笑顔で向かい合う。
その手には槍と大鎌を。
目の奥には渇望と怒りを。
それぞれの目的のために二人は再び激突した。
逸話を適応すれば、理想がそれを上回る。
しかし、その理想へと更に逸話が適応される。
一つ一つが必殺の威力を持つ攻撃が嵐のように巻き起こり、周囲を破壊しつくしてなおも止まらず彼女達は殺し合う。
今まで殺さないようにと手加減していたラッカは、ここに来て全力で破滅のソルシエラを殺すために槍を振るっていた。
理由はただ一つ。
破滅のソルシエラが理想の銘に完全に適応したからである。
「やっぱり……どうやら私は死なないみたい。もはやソルシエラですら私を殺す事は出来ないわ。理想の銘に背かない限り、私は不死身よ。夜空の星として永遠に輝き続けるの」
銘同士の戦いに終わりはない。
どちらかの心が折れるまで、彼女達は何千年でも戦い続けるだろう。
しかし、その唯一の例外をラッカは知っていた。
「バーカ。博愛が元になった銘には欠点があるんだよ」
それはかつてラッカが目撃した銘の弱点である。
「私達の七つの銘はお互いに作用して破壊が可能。まさか教授にぶっ飛ばされてそんなことも忘れちゃったの?。銘を完成させた時点で、お前は私でも殺せるようになったんだよ!」
殺せるのならば、例え自身の友を吸収していたとしても殺す。
それが桜庭ラッカという少女であった。
数多もの決戦を生き抜いた彼女の思考は至ってシンプル。
勝つか、負けるか。これ以外には存在しない。
「あの世でみっともなく言い訳でもしてろ」
ラッカは破滅のソルシエラへと槍を振るう。
必中である筈の槍は、攻撃を防ぐという理想により真正面から受け止められた。
「けれど、私を殺す為には銘の力を本気で行使する必要があるでしょう? 今の私みたいにね」
「ッ!」
破滅のソルシエラとラッカを覆うように球体状に砲撃陣が展開される。
ラッカがすぐに行動に移れなかったのは、その手足に赤い鎖が巻き付いていたからだった。
「っ、曰く、桜庭ラッカは何物にも縛られな――」
「遅いわね」
閃光が瞬き、ラッカめがけて大量の収束砲撃が放たれる。
威力、速度、角度、全てが理想的で完璧な数百という収束砲撃が全てラッカへと直撃した。
「何物にも縛られないものなんて、この世界にはただ一つ。この私だけよお馬鹿さん」
転移した破滅のソルシエラは、爆発を見届けてそう告げる。
黒煙の中からやがて姿を現したラッカは、衣服が焼けこげ、その体は傷ついていた。
しかし、その目はより爛々と輝き口角は上がっている。
「……はは」
漏れ出した笑い声に、ラッカは改めて理解した。
今この胸にあるのは焦燥感や危機感などではない。
久方ぶりに、本気を出しても良いと思える相手との邂逅に心が躍っていた。
「いいねぇ! お前最っ高じゃん! こんなにテンションブチ上げてくれる奴久しぶりだよォ!」
「興奮しているの? 駄目よ、星をつかみ取ろうなんて考えちゃ。それに貴女、
「信頼できるとこに置いてきたんだよ。もしもの時の保険ってやつ。ま、気にすんなよ、破滅ちゃん。そんな事を考えられなくなるくらいに私が遊んでやるからよォ!」
肉体は既に修復され、ラッカは万全の状態へと戻っていた。
否、それどころか更に彼女の体は燃えるように熱を持ち、辺りが蜃気楼のように揺らめき始める。
桜色だった髪は煌々と輝き始め、その手に握られた槍の輪郭がはっきりとし、色づき始めていた。
「覚醒できるのがお前だけだと思うなよ。こっちは数えるのも馬鹿らしくなるくらいに世界を救ってんだ。今回だってその一つに過ぎないよ」
破滅のソルシエラと桜庭ラッカの銘に明確な優劣はない。
あるのは、銘への理解度のみである。
そしてそれは当然、ラッカに軍配が上がった。
「見せてあげる。銀の黄昏でも随一と言われた憧憬の銘の真価を」
空気が一変した事を破滅のソルシエラはすぐに理解する。
そして、嬉しそうに笑みを浮かべると受け入れるように両腕を広げた。
「やってみなさい。何もしないであげるから」
「後悔して泣くなよ――」
心臓へと狙いを定め、槍を持って駆けだそうとしたその時だった。
両者の間にミサイルが飛来し、丁度間で爆ぜた。
攻撃と言うよりは意識を引く目的であろうそれは、まるで花火のように色とりどりの輝きで夜空を照らす。
「……なんだ?」
「あら、新しいお客様ね」
二人の間に割って入る様に、銀色の装甲が夜空を裂いて降り立つ。
舞い降りたそれは、鋼鉄の甲殻を身に纏った堕落のソルシエラであった。
「やあ、お二人さん」
漆黒と金属光沢を帯びた外殻は背中から肩、腰へと伸び、まるで鎧のように彼女の身体を包み込んでいる。
両腕には鋭利な鋏のユニットが接続され、関節が開閉するたびに油のきしむ音ではなく、研ぎ澄まされた刃が擦れるような乾いた音が響いた。
背部からは長大な尾がしなやかに伸び、先端には鋭い針状の兵装が光を反射している。
その動きは機械でありながら生物的で、少女の意志と同調するように空気を切り裂いた。尾がわずかに振れただけで、大気中の魔力が揺れるほどの圧が放たれる。
そして腰部には、とって付けたようなブースターが装着され青白い焔を今もなお吐き出していた。
「では、そろそろ混ぜて貰おう」
堕落のソルシエラは、今までからは想像もできない凛とした顔でそう告げる。
「今の私は、言うなればレベルMAXスキレベMAX完凸済みのスーパー堕落のソルシエラ。レア度が高いだけのお前に勝てるかな……?」
何故か今の彼女は、信じられない程にやる気に満ちていた。
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「あれで本当に良かったのですか? 言われた通り、背徳の権能で彼女を一時的にやる気にしましたけど。というか、あれほどのやる気をみせるなんて、普段の堕落っぷりが窺えますね」
背徳のソルシエラは空を見上げながら呟く。
その隣ではガーデナーが彼女を見つめて、一度頷いた。
「うん。ダラちゃんの作戦なら、きっといけるよ。それに先生がこのまま戦うとハイになって最悪自爆するからね。理事長から先生があの姿になったら何がなんでもとめろって言われてるんだ。だから……託すよダラちゃん」
ガーデナーの願いを背負い、鋼色の星が、今新たに夜空で煌めいた。
『ラッカちゃん自爆出来るんだ……俺と一緒だね。こっちもソルシエラダイナマイトあるからね、負けないよ』
『何と張り合っているんだ君は。というか、少しラッカが強すぎるねぇ。通常の破滅のソルシエラなら既に負けているだろこれ。下手すれば双星形態でも負けるぞ? 破滅のソルシエラを随時アップデートしていく方針で良かった^^』
『何故、味方の不利になる行動をするのですか』
『おぉ……赫夜牟よ、頑張るのだ……』
『こっそり、こっそりじゃ……』