【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ここに役者は揃った。
戦場の空気が変わったことがそれを示している。
それは唯一ただ一人、彼女が再び姿を現したからであった。
「……まさか、そんな方法で抜け出すなんてね」
破滅のソルシエラは初めてその瞳に怒りを宿したようだ。
睨みつけるは、自身とうり二つの容姿をした少女――ソルシエラである。
「ふふっ、駄目よ星を奪おうだなんて考えちゃ。貴女には到底手が届かない、過ぎた代物よ」
「……言ってくれるわね。でも、銘は依然として私の中に殆ど残っている。正真正銘の最終決戦を始めましょうか。今度こそ、完膚なきまでに叩きのめす」
ふわりと二人は宙に舞う。
夜空で二つの星が輝きを示す。
「ええ。それじゃあ、一曲踊りましょう。ガーデナー……どうか見ていて、私の輝きを」
ソルシエラはそう言って一人、破滅のソルシエラと対峙する。
その間に割り込もうという無粋な考えを持った者はいなかった。
これは、最終決戦であると同時に己のプライドを懸けた戦いでもある。
真に輝く星はどちらか。
その答えが今出ようとしていた。
「「ッ――」」
夜空を切り裂くのは、二振りの大鎌だった。
蒼白い月光の下、二つの星が宙を舞い火花のように衝突を繰り返す。
刃が交わるたび空気が震え、空を裂く閃光が走った。
「そんなものかしら? オリジナル」
「そう焦らないで。まだまだ始まったばかりよ」
ソルシエラが大鎌を振り抜くとその刃先に集まった銀の魔力が圧縮され、次の瞬間収束斬撃が放たれた。
波状に放たれたそれは星をも掻き消す光となり、敵を切り裂こうと一直線に迫る。
だが破滅のソルシエラもまた、同時に動いていた。
黒鎌を振りかざし、弧を描いた刃の動きに呼応して紅の魔力砲が放たれる。
二つの光線が空中で激突し、弾けた魔力が爆風となって押し寄せる。
その衝撃で雲が吹き飛び、ぶつかり合った魔力が破片のように辺りへ散った。
「私の理想は貴女を越える」
「そんなものは理想とは呼べないわね」
互いに押し合うように宙を駆け、距離を詰める。
刃と刃がすれ違うたび、空中に残された魔力の軌跡が星座のように連なっていく。
銀と紅の閃光が縦横無尽に夜を裂く。魔力砲は矢継ぎ早に撃ち込まれ、その爆光が一瞬ごとに天空を昼のように照らした。
落下すらも舞いに変え、彼女らは鎌を振るい続ける。
「どうしたのオリジナル。その程度? 余裕が無いように見えるけど」
「……っ」
何度目かの交錯の後、ソルシエラは無理やり体を翻して大鎌の柄を破滅のソルシエラへと向けた。
そして、その背中に向けて収束砲撃を放つ。
「拙いわね」
破滅のソルシエラは振り返ることなく、それを障壁一つで完全に防いだ。
そしてゆっくりと振り返り、手をかざす。その目は失望に染まっていた。
「がっかりだわ、オリジナル。まさかあれだけの事を言っておいてこの程度だなんて」
「鎖……!?」
赤い魔法陣が周囲に展開され、中から射出された鎖が転移の隙すら与えずにソルシエラを縛り上げる。
ソルシエラは拘束を解こうとするが、それも敵わなかった。
「求道者!」
「ソルソルっ!」
ラッカとガーデナーが助けるために動き出そうとしたがもう遅い。
破滅のソルシエラは、仕留めるために充分な魔力を蓄えソルシエラへと放った。
深紅の収束砲撃が夜空を照らし、ソルシエラへと直撃する。
悲鳴を上げる事すら出来ず、ソルシエラは激しい爆発に巻き込まれた。
「……終わりね」
黒煙がゆっくりと晴れ、傷つき息絶えたソルシエラが姿を現す。
鎖に縛り上げられた彼女は、その体を今まさに粒子に変えていた。
「また吸収してあげる」
破滅のソルシエラは体から立ち上る粒子を見て、勝利を確信する。
しかし、その粒子は破滅のソルシエラへと引き寄せられることはなく、そのまま夜空へと還っていくかのように昇っていく。
「これはどういう事?」
ソルシエラは確かにこの手で倒した。
目の前で粒子へと変わるソルシエラがその証拠だ。
しかし、それは真実だろうか。
昇る光は、まるで自分を見下ろす様に輝く星々は、本当に破滅のソルシエラの知るものだろうか。
「……まさか」
破滅のソルシエラはすぐに一つの可能性に気がついた。
彼女もまたソルシエラであるならば、破滅のソルシエラのやった事を再現するなど、容易いだろう。
「――それで、良い夢は見れたかしら」
声が響き、世界が割れる。
ガラスの破片のように偽りの世界が辺りに舞い、幻想的な風景をより夢のように飾っていた。
「オリジナルッ……!」
破滅のソルシエラは天を睨み、憎々し気にその名を呼ぶ。
夜空を覆う巨大な銀の魔法陣の中心で、ソルシエラは笑みを携えていた。
「星の光に魅せられたわね」
「随分と舐めた真似をしてくれるじゃない……!」
「お互い様よ。それで、もう既に私は準備を終えたけれど貴女はそのままでいいのかしら」
「何を……いえ、待って頂戴」
その姿をよく確認して、破滅のソルシエラは目を見開く。
「何なの、その姿は……」
それは、破滅のソルシエラの記憶の中には存在しない。
新たなソルシエラの姿であった。
蒼穹を閉じ込めたかのような蒼のドレスが、彼女の身体を優雅に包んでいる。
裾は広がり、白銀の意匠が波のように縁を彩る。
その姿は舞踏会の姫君のように気高く、それでいて勇者の象徴として戦場に立つ凛烈さを帯びていた。
「きっと私一人ではたどり着けなかったでしょうね」
胸元から肩へかけては、柔らかな蒼布の上に白銀の装飾が流れるように重なり、甲冑の形を模しながらも硬質さを抑えている。
背から流れるマントは深い蒼で、内側には淡い白光が漂い、翻るたびに夜明けの空を連想させる。
姫としての清廉な美と、勇者としての希望を告げる力とが一体となり、見る者はただその姿に心を奪われた。
「これが私。全ての理想へと至る真の星よ」
ティアラには白銀の星々が連なり、蒼銀の髪に映えるその輝きは王女の気高さを示すと同時に、戦場の象徴としての使命を帯びる。
その装いは、姫の優雅さと勇者の誇りを一つに繋ぐもの。
名を、
それを纏った彼女は、希望の夜明けを告げる星そのものであった。
「慈悲をあげる。この一撃で、貴女に星の輝きを教えてあげるわ」
まるで星の女神が裁きを与える様に、彼女は破滅のソルシエラへと大鎌の柄を向ける。
ソルシエラの背後で胎動する巨大な銀の魔法陣から半透明の管が次々と伸びていき、大鎌へと接続された。
「っ、見た目が変わった程度で調子に乗らないで……!」
破滅のソルシエラは自身の足元に意趣返しのように巨大な真紅の魔法陣を展開させた。
辺りの魔力を苛烈に吸収する彼女の魔法陣は、しかしソルシエラのものと比べると半分程度の大きさしかない。
それでも抗い存在感を示す様に大きく脈動し、半透明の茨のようなものが大鎌へと絡みついていく。
「私が本当の星。理想の輝きそのものよ!」
大鎌の柄を天へと向け、両者は引き金に指を掛ける。
そして、一呼吸の間の後――。
「「ッ」」
同時にトリガーが引かれた。
両者の収束砲撃は空の中央でぶつかり合い、天地を貫く巨大な光の柱を形成した。
轟音が木霊し、閃光が視界を覆い尽くす。
圧縮された魔力がぶつかり合う衝撃で空気が震え、周囲の雲が一瞬にして霧散した。
「なんて威力だ。ガーデナーちゃん、私の後ろに隠れて」
ラッカは地面に降り立つと、ガーデナーを庇うように槍を構える。
砲撃は決して自分達には牙をむかない。しかし、衝突による余波は違った。
吹き荒れる魔力の嵐にホシヨミキャッスルの外壁がボロボロと崩れ落ち、湖が干上がっていく。
二つの収束砲撃によって、一つの世界は終わろうとしていた。
境界線は膨張し、やがて光の破片が四方八方に弾け飛んだ。
銀の光屑は星の雨となり、赤の火花は流れ落ちる血流のように夜空を焦がす。
その全てすらも飲み込んで、更に突き進むは銀の収束砲撃。
「どうして星が輝くか。その答えを教えてあげる」
ソルシエラの優しくも力強いその声が、今は不思議と近くで聞こえる。
赤い光は削り取られるように消えていき、敗北は目前に迫っていた。
「輝きたいから輝くの。使命だとか、運命だとか。星はそんなものに縛られない自由な存在。だからこそ、私はそれを理想としたのよ。いつか、本当の星に至れるように」
銀の輝きに体が遂に覆われる。
しかし、不思議と苦しみはなかった。
破滅のソルシエラの中にあったのは言葉への理解と共感、そして。
(ああ、そうか)
光の奔流に飲まれながら、破滅のソルシエラは理解と共に手を伸ばす。
まるで子供が星を掴もうとするかのように無邪気で、無意識に。
(私は、ああなりたかったのね……)
憧憬を胸に、彼女は最後の最後に理想の星を見届ける。
それは、夜空で一際強く輝く蒼銀の星。
ここに理想の研鑽は完了した。
「――ふぅ」
収束砲撃の余波で辺りを銀と赤の粒子が舞う中、ソルシエラは夜空を見上げる。
空には、無数の星々が眩く輝いていた。
しかしそのどれも、自分には敵わないようだ。