【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
一度会話を始めてしまえば、実にすんなりとクラムの口は動いてくれた。
緊張も最初の数分だけで、今はケイと共に談笑を出来ている。
「――そしたらさ、トアとミユメがそのままホイップクリームの波に流されて行っちゃって」
「ふふっ、結構無茶な事をするんだね」
小さなテーブルの上には皿に盛られたケーキと、湯気を立てる紅茶のカップ。
星明かりとランプの柔らかな光が交じり合い、黄色いクリームや果実の艶やかさを淡く照らしている。
今は、クラムによる過去の面白フェクトムエピソードが繰り広げられているところであった。
奇人変人がやたらと集まるフェクトムではこう言った話題には事欠かない。
なるべくケイが不在であった時のエピソードを選ぶのは、クラムなりの気遣いであろう。
記憶喪失などが関係なく、そもそもケイが知らないであろうエピソードをクラムはそれを身振り手振りを交えて話してく。
その中には、当然自分とヒカリの昔の話もあった。
「私さ、実はこう見えて昔は有名な配信者だったんだよね」
「配信者……? それって、あのネットで色々とやる人達?」
「そうそう。初めはヒカリと一緒にやろうって話だったんだ。騎双学園の悪を断つ、真の正義――JOKERチャンネルってね。……あ、名前はヒカリ考案だから、実際は違うよ!」
チャンネル名を言う時、クラムは敢えて恰好を付けたポーズをとる。
その肩に乗って人吞み蛙達が同じポーズをとっているのが可笑しくて、ケイはまたくすりと笑った。
「それで色々と校則スレスレの配信とかしてさ。……あ、六波羅ちゃんいるじゃん? あの子にさ、私追われたことあるんだよね。普段はあんな感じだけど、怒ると怖いんだよ~?」
「そうなんだ。六波羅ちゃんって綺麗でかわいいイメージだけど、意外だね」
「ぶふぉっ!」
「どうかしたの?」
「っ、い、いやいや。ふふっ、そうだね、六波羅ちゃんは綺麗でかわいいよね! あ、そうそう、六波羅ちゃんって実はああ見えて結構大胆でさ」
クラムはいたずらを思いついた子供のように悪い顔をして、顔を寄せる。
そして囁くように、六波羅ちゃんの秘密を告げた。
「今年の夏楽しむように、結構きわどい水着を買ったんだってさ。……殆ど紐のやつ(嘘)」
「えっ……嘘、六波羅ちゃんが!?」
ケイはその姿を想像してしまったのか、顔をかあっと赤くする。
そして俯いて、もじもじしながら「それは……その……」ともにょもにょと言葉にならない何かを呟き始めた。
これは面白いと目を輝かせて、クラムは更に続ける。
「し・か・も、それって実は一人に見せるためだけに買ったらしいよ? 私の友達の知り合いの先輩のバイト仲間が言ってたんだけど……エイナに見せるためなんだって(大嘘)」
「えっ……エイナちゃんって、六波羅ちゃんの傍にいた子だよね?」
「そうそう」
ケイは少し考えた後に、答えに行きついたようにハッとした。
それからまるで他の人に聞かれてはいけないかのように辺りをキョロキョロと見まわして、こっそり問いかける。
「つ、付き合ってるの?」
クラムは何も答えない。
しかし、その笑みと大きく頷く姿が全ての答えだった。
「~っ! そ、そうなんだ! 仲が良い人たちだとは思っていたけど……女の子同士でそんな……わ、わぁ……!」
顔を赤くして何かを想像しているケイを見て、クラムはくすりと笑う。
(六波羅執行官にバレたら殺されるけど、まあバレないでしょ! それよりも今はケイを楽しませないとね! やっぱ他人の恋って話題として優秀だわぁ)
自分の恋愛はクソ雑魚の癖に他人の色恋沙汰は喜んで話題にするその姿を幼馴染が見れば、深いため息をついていたことだろう。
しかし、そんな事など気が付かずクラムは得意げに会話を続けた。
何せ、まだまだケイと話したいことは沢山ある。
記憶を失おうが、今目の前にいる少女はケイなのだ。
ならば、何を躊躇う事があろうか。
今、クラムは自分史上最も完璧なコンディションへと仕上がっていた。
今ならどんな話でもケイの笑顔を引き出せる気がする。
「ああ、そう言えば六波羅ちゃんで思い出したんだけどさ。リュウコって奴がいてね」
クラムは言葉を紡いでく。
まるで、ケイの欠けたものを補うように。
少女は窓に視線を向け、星の瞬きを指でなぞるようにして眺めながら、話を続ける。
もう一人は紅茶を口に運び、その香りを楽しみながら小さく相槌を返す。
互いの存在がただ傍にあることが、今は十分な温もりを生んでいた。
■
これが純愛百合ADVならこのままでも良かったのだがな。
騙して悪いが、これもコンテンツなんだ。
そろそろ俺達が仕掛けた第一の罠が発動する頃だろう。
まさか二度も食事でスルーされるとは思っていなかったけど、このシチュエーションならきっと気が付いてくれるはずだ。
そう、ケイの味覚がボロボロなままであることに……!
『うおおおおおおおおお!』
『治してあげて欲しいのじゃ』
『正論ですね。赫夜牟先輩を支持します』
『先輩……! カメ先生! 我にも後輩が出来たのじゃ!』
『おぉ……よかったな。では後で二人にお祝いのキッシュを作ってあげよう……。これは毎年マイロードの誕生日に食べているものだ。祝い事なら、出しても問題ないだろう』
祝われた覚えはねえよ。
というか、皆もっとクラケイを見てくれ!
ソルクラじゃないぞ! クラケイだ!
記憶を失ったケイと、それを支えるクラムちゃん。
なんて美しいんだ。
しかもミロク先輩とクラムちゃんは俺の日記を読んでいる。
俺の体がボロボロな事には気が付いているし、気を使っているだろう。
移動する時や食事の時など、特にこの二人は動作に気を向けていた。
最初に味覚コンテンツに気が付くならこの二人だと思っていたよ!
『あの……あれってあなたの体なんですよね?』
そうだよ?
『どうしてこんな事を……? 味覚程度すぐに修復できるでしょうし、そもそもこうして魂だけで鏡界に残り続けるのはリスクがあるので早急に体に戻るべきだと思うのですが』
なぜ戻るんだい?
コンテンツが今こうして芽吹きを見せているんだよ?
君は道端の花を踏みにじると?
『いえ、そういう話ではないです。それと、このままだとあの人格が体に定着してあなたの居場所がなくなってしまいますよ?』
それは大丈夫。終わったら剥がすから。
『剝がす……?』
せっかく生まれた無垢シエラには、俺のコンテンツ寵愛を授けたいんだ。
だから、この後も他コンテンツのヒロインにしたいんだよ^^
『ひぇ……悪意無しで悪みたいな事を……! 人の魂を何だと思ってるんですか!』
『死体の理想いじりをしてたやつの言葉ではないねぇ!』
『あれは大義の為です!』
『ならばこちらは趣味だ^^』
『張り合えてないですよそれ!?』
安心してくれテム子。
これが天然もの美少女なら絶対にこんな事はしない。
俺だからこそ、俺の魂から生まれた存在だからこそ好き勝手にいじれるんだ……!
本来は純粋キャラを能動的に曇らせるのは禁忌とされている。
これは国際条約だから、皆も知っていることだろう。
しかしこれには抜け穴がある。
そう――自分だったらOK。
『悪魔ですか?』
コンテンツの為なら、俺は悪魔にでもなってやろう。
『小悪魔シエラ!? それは流石にエッチだねぇ! わからせないと^^』
テム子。俺、星詠みの杖君よりはマシだと思うんだけど。
『どっちも悪魔です』
『お前も後でコンテンツにしてやるから覚えとけよ^^』
『ひえ……』
さあ、皆で仲良く味覚コンテンツを楽しもうねぇ。