【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
トアの頭から抽出した映像を一言で表すなら『甘』であった。
『あーん』
『あ、あーん』
『どう? 美味しい?』
『うん、美味しいよトアちゃん』
目の前のクソデカ仮想ウィンドウに浮かぶのは、クリームやチョコがふんだんに使われた見るだけでも甘さを感じるパフェをイチャイチャしながら食べるケイとトアの姿であった。
見ているだけで胸やけがしてくる光景に、ミユメは思わず「うわ……」とだけ漏らす。
「み、見ないでええええええ!」
「どう見ても付き合って一か月のカップルっすね」
ミユメはそう言うと拡張領域に手を入れる。
そして何かを掴んで差し出した。
「これを」
「なにこれ」
「これは『エッチ探知ッチΣ』っす」
「……なにこれ」
「改良版っす」
「だから何の?」
「っす」
「なんで答えてくれないのー!? というか誤解だよぉ! 私、こんなの知らないって!」
トアはそう言って仮想ウィンドウを何度も消そうと手を振る。
しかしその手は向こう側にあるミユメの発明品(非人道)へと叩きつけられた。
「ああっ、私の大切な発明品がぁっ!?」
「と、とにかくアレは私じゃないんだよ! これはその……わかんない! こんな事があったら絶対に覚えているし……」
トアにはその確信があった。
あれほどの夢のようなパフェを食した記憶をなくすわけがないという自信。
そして、気になっていた人とのデートなら絶対に忘れないという自信。
どちらか一つをとっても、トアが絶対に忘れることはない強固な証拠になり得るのだ。
「うーん……そうなると、やはり考えられる事は一つっす」
ミユメはそう言って、映像の中でパフェを完食したトアを指さして言った。
「これがネームレスの記憶であるという事っすよ!」
「……うーん」
意外にもトアは驚きも同調もしない。
ただ困惑したように声を上げて、首を傾げる。
そして、困った様子でこういった。
「それはないんじゃないかな?」
「……え?」
ミユメは思わず固まる。
絶対に返ってくるはずのない否定に、彼女は眉を顰めた。
「いやいやいや、トアちゃん。どう考えてもそれが一番可能性が高いっすよ」
「いやいやいや、流石にそれはないよ。絶対に有り得ない」
力強い断言は、冗談を言っているようには見えない。
その目にも嘘の色はなかった。
どうやら、トアは本気でそう思っているらしい。
「……成程」
ミユメは何かに納得したようにトアに向き直る。
そしてトアが一言一句聞き取れるようにはっきりと問いかけた。
「じゃあ、ネームレスがトアちゃんに嘘の記憶を植え付けた可能性は?」
「それはあり得るかも……?」
「私の発明品が未完成でトアちゃんの潜在意識の願望や過去の思い出が混ざり合って、この結果として出力された可能性もあるっすね?」
「そうだね、ちょっと恥ずかしいけど……」
「うんうん、成程」
ミユメは何かを確信したように最後の質問をした。
「じゃあ、これがネームレスの本当の記憶である可能性は?」
「絶対にないよ」
「確定っすね」
自信満々にミユメは頷く。
「他の可能性はどれだけ低くても可能性を考慮するのに、ネームレスの記憶であるという事は絶対に否定する。……自分の記憶を暴かれないように色々と小細工を仕掛けすぎて逆に目立ってるっすよ」
「?」
トアは首を傾げる。
どうやら言葉を理解できていないようだ。
「おそらくトアちゃんは記憶を消す時に何かをされているっす。私はそれをただの記憶消去の痕跡だと思っていたっすけど、どうやらまだまだ何か仕掛けられていそうっすね」
ミユメはそう言って目を閉じる。
やがて開かれた彼女の眼は、青く輝き幾何学模様を浮かべていた。
彼女が目に宿すのは、この世界の全てを解析、理解する真理の魔眼である。
「……構造はわからない。いや、そもそも構造がない? そこに何かある筈なのに、空白だけが存在しているっす。魔法式ではないもっと強引な手段。……系統としてはソルシエラの干渉に近いっすね。これだけの強力な封印を維持するなら、今もエネルギーの供給が必要な筈……」
「み、ミユメちゃん?」
青い目がトアの細部までをも徹底的に解明していく。
大きく見開かれ一度も瞬きをしないミユメの圧に負けたトアは一歩、また一歩と後ずさる。
そして足元のガラクタに躓いて、発明品の山へと倒れ込んだ。
「い、痛っ」
「動かないで、じっとして」
ミユメはトアが逃げないように覆いかぶさり、その目でトアを見つめ続ける。
その口元には、緩やかな弧が描かれていた。
「な、何なのこの状況ー!?」
存在しないイチャイチャを仮想ウィンドウで垂れ流され、薄暗い室内で瓦礫の山に押し倒されるというよくわからない状況にトアは叫ぶ。
しかし、その叫びに返って来たのはミユメの興奮気味の「良いっすね!」という好奇心を刺激された声だけだった。
「な、なにが良いの?」
「わからないことが良いっす! 久しぶりっすよ、視てもわからないものなんて! いや、そもそも見えなかった! トアちゃんの魂の一部分だけが、ぽっかりと見えないっす!」
「ええっ、私魂欠けちゃったの!?」
「いや、そこにあるのはわかるっす。ただ、それ以外が全く分からない。これ程の未知を私が解明できるなんて……最高っすー!」
そう言うと、ミユメはトアの頬を両手でがっちりと掴み逃げられないようにしてからはっきりと宣言した。
「実験に付き合って貰うっす」
「ひえ」
それが死刑宣告に等しい言葉だという事は、フェクトムではもはや有名であった。
■
同時刻、星木の学園ではちびっ子による説明会が始まっていた。
「オリジナルから話は聞かせてもらいました。ソルシエランドは、めつぼうします!」
「「な、なんだってー!」」
ガーデナーとラッカは完全にちびっ子の相手をしているつもりでわざとらしく驚く。
それを本気で驚いていると思ったのか、信愛のソルシエラは胸を張って天に手をかざす。
すると、その手の中に白いバラの花束が握られた。
「ですがご安心ください」
それをクルクルと回して、ガーデナー達へと向ける。
花弁が風に舞い、意味もなく教室が彩られた。
「先ほども言ったとおり、わたしはソルシエランドのかんりとうんえいを任されています! わたしのいうことをきいておけば、だいじょうぶ!」
「おぉ、小っちゃいのに偉いねぇ。おいで、ナデナデしてあげる」
「ガーデナー、子ども扱いはやめてください。わたしは、いちにんまえの星詠みですよ?」
ふん、と鼻を鳴らした信愛のソルシエラはソルシエラとガーデナーを指さす。
しかしその動作に緊張感の欠片も感じられないガーデナーは、ニヤニヤと笑っているだけだった。
「あなたたちが、ソルシエラバトルをこわしたせいで、たいへんです! 今、ソルシエランドには、ひつよう以上のちからを持ってしまった悪シエラがたくさんいます! 彼女たちは、ソルシエランドのいじに必要な力を吸収してしまった存在! 悪シエラをたおし、ソルシエランドを維持するホシヨミエネルギーを集めてください!」
花束をぶんぶんと振って、花弁をまき散らしながら信愛のソルシエラはそう訴える。
ガーデナーとラッカはその言葉を聞いてもなお、どこかほんわかとしていた。
「大変だねえ」
「取り敢えず、膝の上に座る?」
「すわりません! ……もう、あなたたちにはソルシエランドを元にもどすせきにんがあるんですよ? もちろん、ただとは言いません」
そう言って、信愛のソルシエラは再び胸を張った。
「破滅のソルシエラがいざというときのために、貯めておいた数々の素材とこうかんしましょう。ガーデナーはこれが欲しいのだと、オリジナルから聞きました。いかがで「素材の詳しい種類と交換に必要な個数は?」……え?」
気が付けば、空気は重く張りつめていた。
今まではのほほんとしていたガーデナーが、いつの間にか机から身を乗り出している。
「その交換が有効な期間は? ホシヨミエネルギーとの交換で得られるアイテムはランダム? それともこっちに選択権がある?」
「え、えっと」
「信愛のソルシエラ、答えて欲しい」
ガーデナーは立ち上がり、信愛のソルシエラの元へと向かう。
そして片膝をつき、少女の目線に合わせると諭す様にこう言った。
「私がまだ人であるうちに全て教えて」
「ひぃ」
怯える信愛のソルシエラと、それに構わず詳しい情報を聞き出そうとするガーデナー。
それを見て、ソルシエラはこれから先のことを想像してため息をついた。
「……はぁ、出会わせたのは間違いだったかしら」
『大間違いです! 私を解放してください! そもそもホシヨミキャッスルに素材とやらはありません!』
『おぉ……それは既に下級天使に集めさせた。問題ないぞ』
『たまには役に立つじゃないかカメ』
『流石カメ先生なのじゃ!』
『よしよし、それじゃあこれから無垢シエラ共依存と信愛のソルシエラコンテンツを堪能し――ッ新たなコンテンツの気配ッ!?』