【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第420話 平穏と始まりの星

 月宮トアにとっての世界とは、幼馴染と食だけであった。

 彼女にはこの二つだけが世界の全てであり幸福の源だ。

 

 しかし、ここ最近はここに友人というものが追加された。

 学園都市随一の天才をはじめとして、彼女は多くの人々と出会った。

 中でも、那滝ケイという少女は彼女にとっては特別な存在になりつつある。

 

 そんな彼女と対面に座り、その中心にはそこそこ大きなパフェが一つ鎮座していた。

 

「結構大きいね……」

「そうかな?」

「えぇ」

 

『カップル限定BIG LOVEパフェ』という露骨な名がつけられたそのパフェを二人は仲良く突いていた。

 大きめの容器にふんだんに盛られたクリームとフルーツは視覚的にも楽しめる。

 が、このパフェの本質ではなかった。

 

「このスプーンなに……?」

「あ、これで食べさせ合うんだって」

 

 このパフェ唯一の特徴、それはアホ程長いスプーンである。

 全長50cmはあるであろうスプーンを二つ与えられたその意味は、考える必要もなくわかるだろう。

 長いスプーンでは、自分一人で食べるのは難しい。

 故に対面に座った相手に食べさせ合うのがこのパフェの正解であった。

 なお、事前に申し出れば普通のスプーンに替えて貰えるのだが、彼女達はその事を知らない。

 

(餓鬼道かな?)

 

 トアはそう思ったが、決して口にはしなかった。

 流石の彼女もそういった雰囲気を読み取る力ぐらいはある。

 これはカップルが互いに食べさせ合うための素敵なパフェなのだ。

 

 トアはスプーンでクリームを掬い、顔を上げる。

 

「……ねえ、あーんして」

 

 その言葉にケイは一瞬まばたきを忘れた。

 頬がわずかに赤くなりながらも、拒むような仕草は見せない。

 差し出されたスプーンを見つめ少しだけためらい、それから静かに口を開く。

 

「い、いただきます」

 

 緊張しながらケイはそう言ってパフェを口にした。

 

 ベリーの酸味と甘いアイスが舌に触れる。

 けれど、それ以上に胸の奥を満たしたのは、相手の視線だった。

 金髪の少女の目は、楽しげだが、こぼさないようにと気を付けているのかどこか真剣だ。

 そして笑顔の奥に、ほんの少しだけ隠された照れと戸惑いがあった。

 

「美味しい?」

「うん。じゃあ、次は私かな」

 

 今度はケイがスプーンを取る。

 

「これ、少し照れちゃうね。トアちゃんは平気?」

「意外と平気かも。パフェが美味しそうだからかな?」

「凄いな、トアちゃんは。じゃあ、あーん」

 

 少しだけ視線を逸らしながら、ケイが差し出す手が震えていた。

 トアがそれを口にした瞬間、二人の呼吸が重なる。

 不思議な一体感に二人は顔を見合わせて、どちらともなく笑顔を浮かべた。

 

 カフェの外では、人々の笑い声とアコーディオンの音が穏やかな時間の中で流れていた。

 

 

 

「――じゃあ、次はトアちゃん。はい、あーん」

「あーん。んぅ~! 甘いクリームとさっぱりしたベリーソースがとっても合う! 食べれば食べるほどお腹が減るよぉ!」

 

 餓鬼道うんぬんやカップルうんぬんは、美味しいパフェの前には些細な事であった。

 トアは既にその過程に慣れきっている。

 ケイもそれにつられるように恥ずかしさがなくなっており、今となっては平然とトアの口にパフェを運んでいた。

 

「クローマって色々な物があるんだね。その……こういうカップル限定の物とかもまだまだありそう」

「デートって尊帝は言っていたね。これからもこうしてカップル用の何かを食べたり、参加したりすればいいのかな」

 

 パフェはトアの尽力により、注文から10分ほどで底をつきかけている。

 その殆どをトアが食したため、実質餌付けであった。

 が、二人が楽しそうなので万事OKなのだろう。事実、ダイブギアから一度だけ『良き……』と声が漏れていたので問題はなさそうだ。

 

 間もなく、二人はカフェを後にした。

 トアは満足そうにお腹を撫でている。

 その横で、ケイはダイブギアで壁になっている尊帝を起動した。

 

「パフェを食べたよ。次はどうしたらいいかな」

『推奨、手を繋いでこのまま大通りを散策。大推奨、しっかりと指を絡ませること。評価:流石に良すぎ』

「何なのこのAI」

「ま、まあ言う通りにしてみよう。トアちゃん、また手を繋ご?」

 

 二人は偉大なるAIの導きにより、手を繋ぐ。

 今回はよりしっかりと互いの指を絡ませるようにして握った。

 

 しっとりとした掌の温もりが伝わり、トアが小さく息を呑む。

 何故だかそれがとても背徳的な行為に思えて仕方がなかったのだ。

 

「……人に見られたら、ちょっと恥ずかしいね」

 

 ケイは視線を下げ、恥ずかしそうに笑った。

 

「変に恥ずかしがると注目されちゃうよ。平常心平常心……!」

 

 そう答えるトアの声も、どこか上ずっている。

 

 通りには人々の賑わい、音楽、香り。

 けれど二人の世界は少しだけ狭くなっていた。

 肩が触れるたびに鼓動が強くなり、握った手の温もりが離れなくなる。

 トアはケイを緊張させないようにと笑った。

 

「じゃあ、歩こうか」

 

 ケイは頬を赤らめながら、小さく頷いた。

 そうして二人は歩き出す。

 隣で君が笑っている。

 それだけで、街が少し違って見えた。

 

 

 

 

 

 

 なんという美少女エネルギーなんだ……!

 これだけの美少女エネルギーを共鳴や魔法式無しでだと……!?

 あり得ない! 俺を凌駕する美少女エネルギーなどオォォォォ!

 

 イイネ!

 

『たまんねえ^^ ジュルジュルだねぇ! こっそりついてきた甲斐があったというものだ』

 

 何かあった時は0号として登場も出来るし、抜かりはない。

 特に、こういうタイミングで話しかけて来そうな男は女装させて追い出すんだ。

 

『趣味混ざってんな』

『おぉ……マイロードよ、あの尊帝とかいうよくわからないものよりも、私が直接指示した方が良いのではないだろうか。より素晴らしい幼き旅路を提供できるぞ』

 

 できるぞ、じゃないんだよなぁ。

 

『何故、私はデートを見せられているのですか?』

『これは記憶を取り戻す為に必要な行為なのじゃ。故に受け入れよテム子』

『そうですか……であれば仕方が無い? のでしょうか。……いや、やっぱりおか『それにしてもテム子は意外と百合には理解があったんだねぇ』……え?』

『だってそうだろう? 君みたいな堅物キャラは大抵、同性の愛について異議を唱えるじゃないか。やったんぞ?^^』

 

 どうして無い喧嘩を買おうとしているんだ君は。

 テム子はきっとこのトアケイを通じて百合コンテンツの素晴らしさを理解してくれたんだよ。

 そうだよね、テム子。

 

『いや、そういう訳ではないですが』

『ここは合わせておいた方が良いぞテム子!』

『適当な返事は許さないよ。赫夜牟、お前は後で裏で私の講習を受けて貰うから覚悟しておくようにねぇ』

『ひえええええ! カメ先生ー!』

『おぉ……私の甲羅の中に隠れるのだ……』

 

 うんうん、皆トアケイによって活性化しているようだね。

 それにしてもなんと純粋で美しい光景だろうか。

 

 記憶を失ったソルシエラと、ピュアピュアなトアちゃんのデート。

 これは間違いなく神イベントだ。中身が俺じゃないから、無罪確定で楽しめるのも嬉しい。

 

『そうだねぇ。こういうイベントの後って大抵特大曇らせが待っているからそれもポイントが高いねぇ! 落差により生まれる美少女エネルギーも楽しみだよ^^』

 

 今日の事を日記帳に書くんだろうね。

 こうやって少しずつページを埋めていくことを想像すると、自分の事のように楽しみだよ。

 

『自分の事では……?』

『俯瞰とかそういう次元ではないのじゃ』

 

 無垢シエラは期間限定コンテンツだからね、余すことなく楽しまないと。

 ここで逃したら、次は造星計画までお預けだからね。

 その為なら、自分としてではなくコンテンツとして楽しむべきだよ。

 そう思うでしょう?

 

『そう思うのじゃ(降伏)』

『先輩!?』

 

 ほら御覧。

 おててを繋いで二人は街を散策するようですよ……?

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