【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第426話 上映会と始まりの星

「トアが記憶を取り戻したって本当!?」

 

 窓辺から夕日が差し込む教室にクラムの慌てた声が響き渡る。

 久しぶりの訓練に張り切って臨んでいたクラムは、一日中ミズヒとヒカリによりボロボロにされていたのだが、疲弊を感じさせない希望に満ちた声だった。

 

 彼女は笑みを浮かべながらも、今にも泣きそうな顔で生徒会室に飛び込む。

 そして生徒会室を見て固まった。

 

「うぅっ、ケイちゃあぁぁぁん! ミロクちゃあぁぁぁん!」

「私はここにいるからねー」

「大丈夫ですよ。ほら、いい子いい子」

 

 ケイとミロクに抱き着き、大泣きをするトアがそこにいた。

 二人は慈愛に満ちた表情でトアの頭を撫でている。

 

「!?!?!?!?!? ……そういうプレイか!」

「違うっす。それと、記憶を取り戻したのはトアちゃんの方っす」

 

 声のする方を見れば、ミユメがドン引きした顔で否定していた。

 生徒会室の壁一面を使ってプロジェクターの映像を映し出そうとしているのか、ミユメとシエルは二人で作業をしている。

 

「皆がクラムのようだと思わない方が良いっすよ(正論)」

「発明品だけ見たらアンタもこっち側だろ(正論)」

 

 変態を自覚しない二人は「まあ……この人よりはマシだろ……」と脳内で評価しながら、ニッコリと笑い合う。

 

「それで、どうしてケイに抱き着いているのかな? マーちゃんズの餌食になりたいの?」

「うぅ……クラムちゃあぁぁん!」

「ちょっ、こっちにも来るのかよ!」

 

 トアは顔中をべしょべしょに濡らしながら、クラムの方へと駆けだす。

 普段から重砲をひょいと抱える剛腕を持つトアに抱きしめられれば、出不精+訓練の疲弊が重なったクラムが抜け出せるわけがない。

 

「うぅ、汗臭いけど、それが生きていることを実感させるよおぉぉぉぉ!」

「うっ、ケイの前でそういう事言うな! やめっ、ヤメロォ!」

 

 わたわたと暴れながらも、クラムはそのままソファに押し倒された。

 そして胸元をびしょびしょに濡らされていく。

 

「ねえこれなんなの!? ミロク、説明して!」

「今日、クローマでトアちゃんとケイちゃんはデートをしてきたのですが「はぁ!? 」……まだ、話は終わっていませんよ。目的はトアちゃんの中にあるネームレスの記憶のサルベージでした」

「なんでそれでデートに繋がるのよ。……いや、やっぱ説明はいいわ。今、そこのマッドサイエンティストが目を輝かせたのでだいたい察した。トンチキな発明品を使って、記憶を取り戻そうとしたって事でしょ?」

 

 個人的に発明品を頼むこともあるクラムは、ミユメの行動をおおよそ理解して頷く。

 クラムの上着は既にびっちゃびちゃであった。

 

「はい。それで無事にトアちゃんの記憶が戻ったので改めて全員でその記憶の上映会をしようと思ったのです」

「トアちゃんの記憶から抽出した映像をそこのスクリーンに映し出せるように改造中っす。もう少しで完成するっすから待ってるっすよー」

「私がいるので4K対応です故」

 

 シエルは胸を張ってそう答える。

 その片手は常にソシャゲの周回を行っていた。

 

「ふーん。……ちなみにその映像って、私からも抽出できたりするの?」

「? まあ、出来るっすけど」

「ふーーーーーーーん」

 

 クラムはそれだけ言うと、トアにされるがままに天井を見上げていた。

 その顔には、時折気持ち悪い笑みが浮かんでいる。

 

「すまない、遅くなった」

「八束ヒカリ、只今到着ですっ!」

 

 やや遅れて、ミズヒとヒカリも生徒会室に姿を現した。

 クラムと比べて比較的落ち着いているが、その顔にはどこか緊張の色が見える。

 

「ネームレスの記憶を取り戻したそうだな」

「遂に謎のダークトアちゃんの秘密が明らかになるんですね……!」

「うぅっ、ミズヒちゃあぁん! ヒカリちゃあぁん!」

 

 二人に気が付いたトアは、よろよろと起き上がるとそのまま二人へと駆けだした。

 

「おっと」

「華麗に回避っ!」

 

 トアの抱き着き動作など、二人からすれば止まっているに等しい。

 二人はとりあえず避け、結果としてトアはソファに頭からダイブをした。

 

「これはどういう事だミロク」

「わかりません。記憶を取り戻した時からこうだったようでして。リュウコ生徒会長がここまで送り届けてくれたのですが、彼女が言うには突然知り合いに抱き着き泣く奇行を見せたとか」

「そうか。……ちなみに、脳に異常が発生したとかではないんだな?」

「はい。それはもうミユメちゃんに視て貰いましたが、問題はないです。恐らくは、ネームレスの記憶が関係しているかと」

「成程」

 

 ミズヒはトアを見つめると、その指先から焔を縄のように這わした。

 それを器用にトアに巻き付けて、ソファへと拘束をする。

 

「トア、落ち着け」

「うぅ……でも、でもぉ!」

「大丈夫だ。私達はここにいるぞ」

「うぅっ」

 

 ポロポロと大粒の涙を流しながらトアは何度も頷く。

 その隣に座ったヒカリは、にっこり笑顔を作ってトアを抱きしめた。

 

「私が代わりに抱きしめてあげます! ぎゅー!」

「うぅ、ありがとう……」

「じゃ、じゃあ私も……!」

 

 ケイもそれを見てトアの隣に座ると、ヒカリと一緒にトアを抱きしめる。

 その光景を、クラムは複雑そうな表情を浮かべて見つめていた。

 

「全員揃ったみたいっすね。じゃ、そろそろ始めるっすよー」

 

 ミユメはそう言って、映像を映し出す最終段階へと準備を進める。

 その時だった。

 

「揃った? おいおい、私を忘れていないかな?」

「っ、0号!」

 

 真っ先にクラムが飛び起きてその声に反応する。

 そして人吞み蛙達を召喚した。

 

 窓際に現れた転移魔法陣から姿を現した0号は、クラムからの警戒の視線など意にも介さず、ケイの隣に座る。

 そして今までトアを抱きしめていたケイの隣に座ると、その頭を撫でて一気に抱き寄せた。

 ケイはキョトンとした表情で0号を見上げる。

 彼女は微笑を浮かべて、髪を梳くようにもう一度頭を撫でた。

 

「始めたまえ。こちらの準備はすんだ」

「こいつ……!」

 

 クラムは何か言いたげだったが、ここで争うのは良くないと判断したのか怒りを表す様に勢いよくソファに座る。

 

「それじゃ、今度こそ全員が揃ったので始めるっすよー」

 

 その言葉と共に、映像が遂に映し出されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 マズイぞ……美少女シックスセンスが告げている。

 これからとんでもないコンテンツがお出しされると。

 

『また主殿の好きな奴じゃな(疲弊)』

『なんでも好きじゃないですか(うんざり)』

 

 いいや、違うよ二人共。

 これは言うなれば、死人がゴロゴロ出るタイプのアニメで自分の好きなキャラに死亡フラグが立った時の感覚に近い。

 目をそむけたくなる何かが混ざり込んだコンテンツが、今静かに始まりを告げたんだ。

 

 全員、対ショック体勢!

 心を強く持ち、悲劇的終わりが気に入らない場合は二次創作で自身の心を癒す準備をしろ!

 

『くっ、相棒のこの慌てよう。とてつもない嵐が来るねぇ!』

『おぉ……私にはさっぱりだ。だが、その言葉を信じよう。赫夜牟、テム子、もしも途中で辛くなったら私の甲羅の中に隠れるがいい……』

『無理じゃろ』

『無理ですね』

『おぉ……私は無力だ……』

 

 何を面白やり取りを繰り広げてんだ!

 こっからでっけえでっけえ嵐が来るんでい!

 

 全員、構えろォ!

 

『くっ』

『おぉ……』

『で、結局何が始まるんです?』

『我にはわからんのじゃ』

 

 

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