【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
映像が終わりを迎え、生徒会室は薄っすらとした暗闇に包まれる。
誰もがその鮮烈な悲劇に言葉を失い、中には涙を流す者もいた。
「うぅ、ケイちゃあぁぁぁん!」
「…………トアちゃん」
トアは再びケイを抱きしめる。
今となってはその行動の意味はよく理解が出来た。
ケイは悲しさに目を伏せ、トアの頭を撫でる。
「……ミユメちゃん、これは本当にネームレスの記憶なんですね?」
「はいっす。間違いなく、ネームレスが経験してきた事っす。もしもネームレスが未来から来ていたのなら、あのエクスギアにも納得がいく。真理の魔眼で解析できなかったのは、相手も同じ真理の魔眼を持っていたっすから」
「……あの未来の私はトアちゃんを置いていくという、愚かな選択をしてしまったようですね」
見る前の騒がしさはとうに消え去り、殆どが悲痛な顔で下を向いている。
それも当然の事だろう。自身の死とその先にある悲劇の結末を目にしたのだから。
「そっか、ネームレスはケイと……。そりゃあんなに必死にもなるわ。……私達に言えばいいだろ、馬鹿なのかよアイツ……!」
クラムはこぶしを握り、振り下ろそうとしてその手をヒカリに包まれた。
ハッと顔を上げれば、爛々と輝く瞳と視線がぶつかる。
この悲劇に衝撃を受けながらも、下を向くことなく動き出そうとしている者達がいた。
「クラム、ここから助けますよ。私達でネームレスを……いえ、トアちゃんを!」
「ああ、ヒカリの言う通りだ」
ヒカリの言葉にいち早くミズヒが賛同する。
その瞬間、間違いなく空気が変わった。
鬱屈として悲観的な重苦しい空気を吹き飛ばす。
それを可能とする少女たちは、この世界では生きている。
ならば止まる訳がなかった。
「少なくともここには全員が揃っている。トアの尽力あってこそだろう。だったら今度は私達の番だ」
「いくつか変化した未来もあります故。特に私の存在は悲劇を打破するうえでアドバンテージとなるでしょう」
映像を見る過程で既に覚悟を決めたのか、ヒカリとミズヒは立ち上がる。
その目に絶望は存在していない。
「クラム、特訓です!」
「ミロク、トア、お前らも来い。先生の残した物の事で話がある」
そう言って二人は先に生徒会室を後にした。
まるで、これからするべきことを示すかのように。
彼女達の背中を見て、一人、また一人と立ち上がる。
真っ赤に目を腫らしているが、それでもその瞳には強い意志が宿っていた。
「トアちゃん、行きましょうか」
「…………うぅ、うん」
「もう、まだ泣いてんのかよ。ほらハンカチ貸してあげるから」
ミロク、トア、クラムの三人は、後を追うように生徒会室を後にする。
残されたミユメは、シエルと共に仮想ウィンドウへと視線をやった。
「過去はサルベージできたっすけど、肝心のネムトアちゃんの作戦がわからないっす」
「ネムトア……? まあ、呼称は一度置いておくとして、トアの残りの記憶のサルベージを急ぐ必要があります故。銀の黄昏の殲滅が目的であることは事実。後は、どこで私達が無理やり協力体制を築くかです。相手が銀の黄昏ならば、エクスギアを持っていようとも負ける可能性が在ります故」
「うーん、話し合いで解決できるならそれが一番っすけどねー」
「……あ、あの」
ケイは遠慮がちに手を上げる。
そして、居心地が悪そうに辺りを見ながらこう言葉を続けた。
「私、何か出来ることはないかな」
「そうっすねぇ、ネムトアちゃんにとって今のケイちゃんは変えた未来の証拠でもあるっす。だから、下手に無理をさせると余計にあの子の行動を加速させる可能性が在るっすよ。正直に言うなら、このままでいる事が一番あの子を刺激せず、助けになるっす」
「このまま……」
「ケイちゃん、貴女はもう十分に戦ったっす。だから、ここからはどうか私達に任せて欲しいっすよ。必ず、ネムトアちゃんをフェクトムに連れ戻すっすから」
諭す様にそう言って、ミユメは頭を撫でる。
ケイは複雑な表情で頷き、そしてこれ以上ミユメを困らせないように頷いた。
「じゃあヒカリちゃん達の特訓のお手伝いをするね。それくらいならいいでしょ?」
「そうっすねー。あ、じゃあこの『覚醒! 限界ブレイクドリンク』を届けて欲しいっすよ。これは特訓の効率を数倍引き上げるっす」
「だ、大丈夫なやつなのそれって」
「翌日に地獄のような筋肉痛が体を襲うっすけど、それも私の発明品で治すっす。だから、ノーリスクっす」
「そうなんだ。……わかった、持っていくよ」
「お願いするっす」
ミユメから、真っ赤な瓶を数本受け取りケイはぺこりと頭を下げる。
そして、生徒会室を後にした。
その後ろをついていくように、0号も無言で部屋を出て行く。
残されたミユメとシエルは、再び顔を見合わせた。
そして、真剣な表情で頷く。
「ソルシエラがいない今、止めるのは結構骨が折れそうっすね」
「トアが自らを犠牲に止めようとしているのはわかっています故。あれだけの兵器を操作するのに代償がない訳がありません。それに、今の彼女は魔力体の筈。存在しているだけでも、多くの魔力を消費しています故。戦って勝利すれば良いというものではありません。ここからは、慎重なプラン設計が必要です故」
「はいっす。お手伝いお願いするっすよ」
二人もまた、他メンバーと同じように行動をはじめた。
フェクトムが一つとなって動き出す。
全ては、友達を助け出すために。
そして、最も彼女を助け出せる可能性がある者は――。
『ワァ……(瀕死)』
『おぉ……(自己嫌悪)』
『主殿ー! 先生ー!』
『テム子、コンテンツの生産を急ぐんだ。私は無垢シエラに再び契約を持ちかけることでコンテンツを。お前はその無い胸を張り、ちびっ子なのにお姉さんとして振る舞ってガーデナーをほっこりさせるコンテンツを生み出せ。急ぐぞ! 相棒が死んだら、大量の美少女粒子が世界に拡散される! そうなってしまっては世界が……いいや宇宙が危ない!』
『一人だけまだまだ余裕そうですね……』
■
同時刻、ビルの屋上でトリムは不意に顔を上げた。
「ほう、ボクの不干渉をそうやって打ち破るか。面白い」
「おい、なんだその嫌な独り言。勘弁してよね」
「お前の依り代にしていた肉体にかけていた不干渉の権能が一部剥がされた。優秀な奴が近くにいるようだな」
「……そりゃね。たくさんいるよ。って事は、遂に私の正体バレちゃうんだぁ、嫌だなぁ……今頃、皆私の事どうにかしようとしてんだろうけどさ」
ネームレスは、そう言って、柵に体を預ける。
そして、空を見上げ目を細めた。
夕日は沈みかけ、空の奥から濃い紫色が広がり始めている。
間もなく、夜が訪れるだろう。
「皆、私に任せておけばいいのに」
「愛されているんだな。愛は人間の持つもっとも強い感情だ」
「そうかよ。私には勿体ないね」
ネームレスは吐き捨てると、トリムにお菓子を渡して歩き出す。
「トリム、最終調整といこうか」
「いいだろう」
そうして二人は屋上から姿を消した。
決戦の日は近い。