【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ソルシエランドは今、混沌を極めていた。
破滅のソルシエラの死によって辺りに散らばったエネルギーにより、悪シエラとなった者達は後を絶たない。
ガーデナー達は湖畔エリアで悪シエラ達を倒し続けていたのである。
それも、つい先程までの事ではあるが。
「うーん、ソルソル大丈夫?」
「……ええ」
湖畔に生えるひときわ大きな木の傍でソルシエラは青い顔で頷いた。
木に寄りかかった彼女は、いつもの様に不敵な笑みを浮かべて見せるが、どうにも覇気がない。
「ははっ、情けないのぉ。まだ万全ではないか。今なら頭から喰ろうても抵抗はできなさそうじゃ」
「赫夜牟」
「はいはい、わかっておる冗談じゃ。じゃからそんな顔をするなガーデナー。まったく、相変わらずお人好しが周りに集まるのぉ。我は周辺の悪シエラでも蹂躙してくるとするか」
そう言って赫夜牟はその場を去った。
それが彼女なりに周囲の安全を確保する方便であるという事を、ソルシエラ達は知っている。
「それにしても、魔力の供給量の問題かな……うーん、先生がいれば原因がわかるんだけどなぁ」
「大丈夫よ。同じことの繰り返しで、少しだけ気が滅入っただけだから」
「そんな顔で言われても説得力ないよソルソル。ほら、休んで休んで」
「けれど……」
「ガーデナーの言うとおりです!」
やり取りを黙って見ていた信愛のソルシエラは、腰に手を当てて頬を膨らませた。
「無理はだめですよ! 今、あなたの中には大量のホシヨミエネルギーが流れ込んでいます!」
「聞こうと思ってたんだけど、それなんなの?」
ガーデナーの問いを無視して、信愛のソルシエラは、ソルシエラにびしっと指先を突きつける。
「きゅうに力をとりもどしたから、体がびっくりしているんです! そんなときに、無理をすれば間違いなくまた変なソルシエラが生まれます。ですから、ここは無理をせずに休んでいてください!」
「……そう」
「そうです! わたしはこのソルシエランドのかんりしゃですからね! ここではわたしの言う事をきいてください!」
信愛のソルシエラはそう言うと、ソルシエラの傍にウミガメの形をしたクッションを置く。
それから、小さな体で必死にソルシエラを押し倒し、無理矢理その場に寝かせた。
横になったソルシエラの顔は、少しだけ楽になったように見える。
「これでだいじょうぶ!」
「おお、流石は信愛のソルシエラ。ありがとうね。流石は頼れるお姉さんだ」
「お姉さんですか!? ふふっ、そうでしょうそうでしょう! わたし、すっごくえらいお姉さんですからね!」
信愛のソルシエラはふんぞり返って、鼻息を荒く何度も頷く。
その光景に、ソルシエラとガーデナーは頬を緩めた。
「じゃ、軽くあと100周してくるから、少し休んでて」
「私の知る軽くとは違うみたいね」
「ここじゃ100周なんてお散歩だよ。じゃ、行こうか」
「はい! ……あ、でもこれじゃあ一人少ないですね。ソルシエラがいるとホシヨミエネルギーの蒐集効率が良いのですが」
「ああ、それなら」
ガーデナーは種を一つ投げる。
するとそれは人の形をとり、あっという間に見知った姿となった。
「――はっ、こ、ここはどこですか!? 私はフードコートで出す新作のカメさんパフェを試食していた筈……!」
それは、スプーンを片手に頬にクリームがついた悲哀のソルシエラであった。
ガーデナーは気さくに片手を上げて、彼女に自身の存在をアピールする。
「やあ」
「あっ、ガーデナーさん」
「早速で悪いんだけど、今からここの悪シエラを全部倒すから。手伝ってくれない?」
「? まあ、それくらいなら……って、ん?」
肩に置かれた手に気が付き、悲哀のソルシエラが振り返ると、そこには血走った目の堕落のソルシエラがいた。
「ひえ」
今までの彼女のイメージから一転して、その姿はいくつもの夜を越えてなお働き続ける社畜のようである。
堕落のソルシエラは、無理矢理に笑顔を作って悲哀を逃がさないようにその手を握った。
「ようこそ、
そのあまりにもおかしな様子に、悲哀のソルシエラは自身の末路を悟った。
『うぅ……美少女……曇らせ……過度な曇らせ……』
『駄目だ、まだこれだけでは意識を取り戻すことはできないねぇ』
『これで戻るわけないじゃないですか。そもそも精神体が意識を失ってうなされている状況に納得がいっていません。そして仮に意識を失っているなら、どうしてこっちのソルシエラは会話が出来ているのですか?』
『それはソルシエラの潜在意識だよ』
『意味が分かりません!』
『おぉ……(自己否定)』
『カメ先生……』
『さて、テム子。ここからは私に任せておくといい^^ 必ず相棒を目覚めさせて見せよう』
■
訓練場へと向かったヒカリ達の後を追ってケイは大量の瓶を抱えて歩いていた。
「んしょ」
崩れ落ちそうになる瓶を何度も持ち直して、彼女は進む。
古びた校舎はまともに整備がなされていない。
そのため、廊下の木材が一部小さくめくれあがっていても彼女は気が付かなかった。
「うわっ」
「っと、大丈夫かいマスター」
「0号……ありがとう」
「別に礼なんていらないさ」
ケイを抱き留めた0号は器用に瓶を空中に浮かせており、その一つ一つを丁寧に床に置いた。
それから、彼女は心底不思議そうに首を傾げる。
「それにしても、なぜ拡張領域に入れないんだい? わざわざこのまま持っていく事に意味があるとは思えない」
「……あっ」
ケイはその指摘で気がついたのか、恥ずかしそうに顔を朱に染める。
それから、なるべく0号と目を合わせないように下を見ながらいそいそと拡張領域に瓶を入れ始めた。
「恥ずかしいな。私、うっかりしていたよ」
「随分と可愛らしい理由だねえ」
0号は微笑みながら、瓶をケイに差し出す。
ケイは羞恥心を誤魔化す様に笑みを浮かべながらそれへと手を伸ばした。
「再びソルシエラになれるとしたら、君はどうする?」
「……え?」
まるで、0号の言葉以外が消えたかのようだった。
予想もしていなかった言葉にケイの心臓は高鳴り、思わず顔を上げる。
無機質である筈の0号の眼に、今は何かを望むように燃える輝きが見えた気がした。
「言葉のままさ。今の君は、自身の無力さを嘆いている。そうだろう? だから、私から一つ提案をしているんだよ」
その言葉は天使の救いにも悪魔の囁きにも聞こえる。
ケイは無意識のうちに、瓶へと伸ばしていた手を引いた。
「ソルシエラに、なれるの?」
たった十数秒口を閉ざしていただけだというのに、口の中は妙に渇いている。
辺りを覆う妙な緊張感に彼女は完全に飲まれていた。
「ああ、なれるとも。尤も、過去の君とは決別してもらう必要があるけどねぇ」
「それってどういう事?」
「簡単な事さ。星詠みとしての契約を再定義するんだよ。今君がソルシエラとしての力を失っているのは契約時と状態が違うからだ。だから、この状態が通常通りであると定義してもう一度契約をする。簡単な事だろう?」
「本当にそんな事が可能なの?」
「ああ」
0号は頷く。
そして、こう告げた。
「しかし、記憶を二度と取り戻せない可能性が高いだろう」
「っ」
それは一人の少女に突き付けるにはあまりにも重い代償であった。
「まあ、私の予測を超える何かがあれば奇跡でも起きるかもしれないね」
言葉とは裏腹に思っていないのだろう。
0号は淡々とそう言って、瓶をケイに押し付けた。
「私はあくまで君に選択肢を提示しただけだ。強制はしないよ」
微笑と共に0号はケイの頭を撫でる。
その表情は、撫でている側である筈なのに随分と心地がよさそうだった。
「相変わらず、君の髪は触れているだけで心地が良いな」
「0号……私は」
「答えを急ぐ必要はないさ。ただ覚えていて欲しいんだ。……星は常に君の傍にあるとね」
それだけ言うと、0号はケイの手を取り歩き始めた。
先を進む0号の表情は、今のケイには窺い知ることができない。
(私はどうしたら……)
ケイは無意識のうちに0号の手を強く握る。
今の彼女はまだ、星の輝きに手を伸ばす無力な少女でしかなかった。
『っ、これは「平穏な世界に戻れたはずなのに、手放した力をもう一度求めてしまう美少女」のコンテンツ!? 揺れ動く心から発せられる美少女粒子を確かに受け取ったぞ!』
『お は よ う^^』
『えぇ……これで目覚めるんですか……』