【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ミユメにより生徒会室へと集められた面々の前には、見慣れないメイド服の少女がいた。
「こちら、ソルフィさんっす」
「こんにちは。ソルフィです。この衣装は迷彩服のようなものなので気にしないでください」
「……ただ自分が着たいだけじゃ」
「なんですか?」
「あっ、なんでもないです……」
トアの指摘に力強い視線を送って我を通したソルフィは、その回答に満足したのか頷く。
そして、全員を見渡した。
「話はミユメさんから聞かせて貰いました。端的に言いましょう。明日、銀の黄昏との戦争がはじまります。ついでに理事長は今、ネームレスと行動を共にしています」
」
「……っ!? それは本当ですか?」
「はい。私は、それを伝えるために理事長におつかいを頼まれました。そして同時にソルシエラの様子を見てくるようにとも言われたのですが……」
「っ」
ソルフィの視線がケイに向く。
怯えたように肩を震わせたケイの前にクラムが立ちはだかると、お返しと言わんばかりに睨みつけた。
が、それでもソルフィは気にした様子はなく、言葉を続ける。
「どうやらネームレスの言う通り、既に戦う力はないようですね。それどころか……少し様子が変わりましたか?」
「っ、え、えっと」
「はい! 銀の黄昏との戦争について教えてください!」
自身の記憶喪失について答えあぐねていたケイをカバーするように、ヒカリが手を上げ、声を張り上げる。
ソルフィは特段気にした様子もなく「いいでしょう」と言ってホワイトボードに図解付きで説明を始めた。
「銀の黄昏の最終目標は、現人類に彼女達の世界の人類を上書きすることです。その為にはまず天上の意志を倒し、この世界での厄災を終わらせる必要があります。天上の意志と私達人類。その二つを相手にするために銀の黄昏が作り出そうとしているのが、夢幻の杖と呼ばれる兵器です」
「夢幻の杖? そんなもの、ネームレスの記憶には無かったっす」
「記憶……? まあ、知らないのも無理はありません。私達も知ったのはつい最近でしたから。問題はここからです」
そう言うと、ソルフィはホワイトボードに『強い!』と達筆に記した。
「銀の黄昏は恐ろしく強い。ですから、夢幻の杖なる物が完成する前に潰す必要があります。そのために、皆さんの力をお借りしたいのです。当然、他の学園にも既に話は通してあります。……一部Sランクにみっともなく泣きつかれ拒否されましたが、なんとか了承させました」
全員の脳裏に誰かの顔が思い浮かび「あぁ」と納得したように声を上げる。
「ここからは総力戦です。そして貴女達の役割は、ネームレスの足止めをすることですね」
「足止めですか?」
ネームレスを止めるために奔走を始めていたフェクトムにとってそれは渡りに船の話である。
が、ミロク達からしてみれば少し都合がよすぎる気もした。
「理事長は既に銀の黄昏との戦いに相応しい生徒達を選出しています。攻略は彼らが鍵になるでしょう。そしてその中にネームレスはいないのです」
「実力は十分にあると思うが」
「確かに彼女は強力です。が、その力はあくまで自身の魂を代償とした物であり、既に限界に近い」
「やっぱり、そうだったんだ……」
トアは悲し気に目を伏せる。
あの力を何度も使った自分の体に全くと言っていい程に後遺症がない。
それが負荷を全てネームレスが肩代わりしていたのだとしたら納得がいく。
「それに彼女は私情で銀の黄昏と最少の人数で対峙しようとしています。故に彼女は戦いの場に相応しくないと理事長は判断しました。一人で突っ走って敗北。それからエクスギアを奪われてはたまったものではありません。制御の出来ない駒は不要です。だから、貴女達にはネームレスの足止めをして貰いたい。そちらとしても、悪い話ではないのではないでしょうか」
「それはそうですね。けれど、本当にいいのでしょうか。ミズヒやミユメちゃんは特に銀の黄昏との戦いに赴いた方が良いのでは?」
フェクトムの戦力は過剰である。
それは自他ともに認める事であった。
過去の実績からも、ミロクが自分さえいればネームレスには十分に対抗できると考えるのも無理はない。
しかし、ソルフィはそれに対して簡潔な回答を口にする。
「ネームレスはデモンズギア最終号であるトリムと契約を結びました」
「っ、トリム!? ソルフィ、それは本当ですか!? あれと個人で契約できる人間など存在しません故! 仮に出来たのなら、それは姉上と同等以上の存在になっている筈」
「はい。なので理事長も頭を悩ませていました。今から自分が対応するにしても時間がかかる。そして下手に刺激をすれば、命知らずの思春期ガールが何をしでかすのかわからない」
「確かに、味方としておいておくには怖い存在っすね」
「そして同時に、もうこれ以上彼女個人が傷つく必要はないとも考えています。理事長は意外とお人好しですからね。普段は意味深に笑ってふんぞり返ってますが。仮にもこの星で銘に選ばれた存在です。少女が一人で戦う様をこれ以上は見たくはないのでしょう。たぶんこれが本音です」
ソルフィは平然とそう告げた。
おそらくは理事長本人が隠しておきたいであろう本心を涼しい顔で打ち明けた彼女は、こう言葉を締めくくる。
「ですから、ネームレスを止める存在が必要なのです。どうか、お願いできますか?」
全員の間に僅かな沈黙が流れる。
が、答えは既に決まっていた。
全員で顔を見合わせて頷くと、ミロクが代表して答える。
「わかりました。フェクトム総合学園は理事長の依頼を受けます。そして、ネームレスを……いえ、トアちゃんを止めてみせますよ」
「ありがとうございます。その言葉を聞けて安心しました」
ソルフィは来た時と同じようにぺこりと頭を下げて、そそくさとその場を後にしようとする。
ここに来たのも、数ある仕事の内の一つに過ぎないのだとでも言っているかのようだった。
「また別の学園に行くのですか?」
シエルの問いにソルフィは頷く。
振り返ることはない。会話は手短に済ませたいようだ。
「はい。次は、銀の黄昏の主力メンバーと戦う探索者へと依頼をしに行きます。――御景学園へ」
「……ルトラですか」
「流石はシエル。理解が早い」
「確かにルトラは戦闘向きです。が、その手の内を銀の黄昏は知っています故。それに一度ルシエラに敗北している」
「ご安心を。既に策は講じていますから。では、私はこれで。ネームレスとの接触タイミングはこちらで知らせます」
そう言ってソルフィは今度こそ、その場を後にした。
残されたメンバーは、互いに頷き合いすぐに行動を開始する。
「改めて現状、全員が出来ることを確認するっすよ。それと、ナナちゃんはトリムについて教えて欲しいっす」
「わかりました。ネームレスと戦う上で、トリムの情報は必須です故」
ソルフィの口から語られた事実は彼女達を動揺させるには足らず、むしろその覚悟をより一層強めた。
少女達はミユメを中心に、作戦を立て始める。
それを、ケイは少し離れた場所で一人見ていた。
(私が、私がソルシエラだったら……!)
星は、再び輝きだそうとしている。
例えそれが、望まれぬ事だったとしても。
『ネームレスとトリムが契約している……!? そんなの俺のデータにないぞ!』
『前から思っていましたが、貴女って言うほど知識ないですよね』
『主殿になんてことを……! 否定の材料がないのが悔しいのじゃ……!』
『もう少し頑張ってよ赫夜牟君!』
『君にデータキャラは無理だよ^^ ソルシエラがバリタチになるくらいに無理^^』
『おぉ……星詠みの杖、こちらに集中するのだ。融合式には緻密な魔力操作と演算が求められる……』
『カメさん、がんばってー!』
『お ぉ!』
『集中しろ馬鹿海洋生物。魔力溢れてんぞ^^』