【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第440話 終わりの月とヒラメキ

 思考を止めない事。

 それがこの戦場においてミユメが戦うための前提条件であった。

 

(考えろ考えろ考えろ考えろ――)

 

 その思考は依然としてネームレス攻略のために動いている。

 降り注ぐ黄金の砲撃の間を閃光となって駆け抜けていくミユメは、同時にこの戦いにおける自身の勝利条件を作り出していた。

 

(まだっす。こんな物じゃない。もっと引き出さないと……!)

 

「考え事?」

「――っ!?」

 

 肩に走った衝撃が、砲撃に掠ったという事実を認識させる。

 ミユメへと降り注いでいる砲撃は、ただの砲撃とは訳が違った。

 エクスギアとトリムにより極限まで最適化された、いわば収束砲撃の極致とも言うべき必殺。

 それが出し惜しみなく向かってくるのである。

 

 それでもミユメが戦えているのは、その頭脳と人類最高の身体能力、そして最適化された特殊な装甲があるからだった。

 そう戦えているのである。

 

「そこっす!」

 

 砲撃の雨の隙間、僅かに人一人が通れるルートを瞬時に判断したミユメは一気に跳躍する。

 そして自身の真横を通り過ぎていく砲撃を足場にして、直角に何度も曲がりながらネームレスへと肉薄した。

 

「接近戦は苦手なままっすね」

「くっ、乱暴だなぁ!」

 

 爪と鎌が激しくぶつかり合い、火花が散る。

 互いにまず狙うのは得物。

 どれだけ姿が変わろうとも、戦いの意味は変わらない。

 これはやり方こそ違うが、大切な友人を守るための戦いだった。

 

「足元がお留守っすよ!」

 

 意識が爪へと移ったその瞬間、ミユメの尻尾が鞭のようにしなりネームレスを縛り上げようと動き出す。

 ネームレスは黄金の鎖を出し反撃しようとするが、それを読んでいたかのようにミユメは尾の向きを変え、空中を打ってその場を離脱した。 

 ミユメへと放たれた鎖が空を切る。

 

 一時的にではあるが、ネームレスの頭上をとったミユメは肩の装甲を展開し二つの砲門を突き出した。

 

「ファイア!」

 

 白い閃光と共に二つの砲撃が黄金の大鎌を打ち落とすべく放たれる。

 しかしそれはネームレスが黒い焔に包まれ消えた事により外れ、地上へと落ちた。

 

「っ、どこに……」

 

 同時にどこからともなく切断音が聞こえ両肩の砲門が細切れになる。

 鱗の奥に砲門を収納したミユメは、着地をすると警戒するように姿勢を低くとった。

 

(これはルトラちゃんの権能!? マズイ、どこから――)

 

 距離を無視した直接的な切断の付与。

 本来の持ち主であるトウラクは意識すらも切断出来ることを知っているミユメは警戒せざるを得なかった。

 

 まるでミユメをからかうように、彼女の周囲のビルが次々と切断されていく。

 まるで蛇が獲物を囲うように、順に切り落とされていくビルの中にミユメは目を凝らす。

 

「……そこっす!」

 

 巻き上がる砂塵の向こうに何かの気配を感じたミユメはすぐに両脚の装甲に格納されたミサイルポッドを展開し、大量のミサイルを放った。

 しかし、砂塵の向こうから出てきたのは、黒い機械仕掛けの蛙である。

 

「ブラフ!?」

「誰が接近戦は苦手だって?」

 

 声が聞こえたのは頭上であった。

 まるで意趣返しのように彼女はミユメの頭上をとり、得意げに大鎌の柄をこちらへと向けている。

 その足には黒いガラスのブーツが装着されていた。

 

「悪いけど、この形態の私は全てのactを制限なく同時に使えるんだ」

「くっ」

 

 黄金の大鎌から、破壊的なまでの極光が放たれる。

 強固な装甲を全て剥がす事が目的とは言え、その威力は一人の少女に浴びせるには絶大だ。

 

 砲撃が地上にぶつかり、辺りを激しく揺らす。

 

「ぐぁぅっ」

 

 装甲が軋みを上げ、砲撃の威力にその場に押しつぶされるようにミユメは地に伏した。

 地面を揺らす程に凄まじい威力の砲撃を頭上から受けたミユメであったが、砲撃が終わると追撃を避けてその場から飛びのく。

 その装甲は大きく破壊されており赤熱していたが、俊敏さは損なわれていないようだ。

 

「頑丈だね、それ」

「お姉ちゃんが作ってくれた自慢の体っすよ」

「お姉ちゃん……ね」

 

 ネームレスは嘲笑する。

 底意地の悪い笑顔と共に彼女はミユメを否定するように言葉を続けた。

 

「一度そのお姉ちゃんとかいうのに騙されていたって言うのに。今度は私を信じて痛い目を見ているってわからないの? 学習しないなぁ、頭が良い癖に」

「お姉ちゃんもトアちゃんも私にとって大切な人っす。例え何度同じ選択を迫られても、私は必ず助けるために戦うっすよ」

 

 ミユメは銀の閃光となりネームレスへと迫る。

 装甲は修復を終えており、先ほどの砲撃が嘘かのようだった。

 

「純粋すぎるのも考え物だなぁ」

 

 やれやれと首を振るネームレスの背後にミユメが姿を現す。

 その尾と爪は、首や背中ではなく大鎌へと伸ばされていった。

 が、読んでいたかのように現れた黒い光翼がその動きを阻害する。

 

「くっ光翼……!?」

「一つ、いい事を教えてあげるよ」

 

 再び足にガラスのブーツが展開される。

 ミユメの動きが止まった一瞬の隙を突いて、ネームレスは回し蹴りを放った。

 今度は爪でも尾でもない。

 得物ではなくその胴、本体へとダメージを与えるために攻撃を仕掛けたのである。

 

「っ」

 

 咄嗟に片腕を滑り込ませミユメは蹴りを受け止める。

 が、無敵を付与された蹴撃の威力は砲弾よりも重く鋭い。

 

 受け身を取る間もなく地面を何度も転がっていくミユメを見ながら、ネームレスは大鎌を引き摺って歩き出した。

 

「私ね、ミユメちゃんが大っ嫌いなんだ。お人好しで、虫唾が走る」

 

 ドレスを風に揺らし一歩一歩、処刑人のように迫るネームレスに対して、ミユメは悠然と立ち上がる。

 

「貴女も所詮は空無カノンと同じだね」

「……やめるっすよ」

「やめる? もしかして、今さらこんな事を言われてショックだった? だとしたらごめんね、勘違いさせちゃって。私、貴女の事なんて本当はどうでもいいんだ」

「そうじゃないっすよ、トアちゃん」

 

 今にも泣きそうな声で名を呼んで、ミユメは静かに首を横に振った。

 

「自分の心を傷つけるような嘘をついちゃ駄目っす。そんな事をしても辛いだけっすよ」

「自分が愛されているとでも思ってるの? ナルシストだなぁ」

 

 ネームレスは呆れた声を上げて大鎌を振り上げる。

 その瞬間、彼女の姿が消えた。

 

「っ」

「act1」

 

 宣言する言葉と共に背後に熱を感じたミユメは咄嗟に振り返る。

 が、そこには小さな黒い焔が灯っているだけだ。

 

(そうだ! 同時に力を使えるから、今更actの宣言はいらない――)

 

 脳で理解していても、今までの戦いで得た経験が反射的に反応をしてしまう。

 それに気が付き、ミユメはすぐさま新たに気配を感じた方へと目をやる。

 左側面に、距離を切断し収束砲撃の構えをとっているネームレスの姿があった。

 

「がら空きだよ」

 

 回避や防御のいずれも間に合わないと彼女の頭脳が結論を出している。

 故にミユメはその装甲で受けきることを選択し、次の瞬間には来るであろう衝撃に備えた。

 

 目の前を、一匹の蝶が横切るまでは。

 

「これまさか――」

「等分された死!?」

 

 同時にそれが何かを察知する。

 両者ともに驚いたが、とった行動は全くの正反対であった。

 

 ネームレスはそれが敵であると理解し、砲撃の収束をおろそかにしてでも即座に引き金を引く。

 対してミユメは、一匹の蝶を信じて反撃の為に低く飛び出す姿勢をとった。

 

 間もなく砲撃が放たれる。

 黄金の砲撃を前に、等分された死は突如としてその数を増やし壁となって受け止めた。

 まるでミユメを守る盾の様に連なった等分された死を前に、ミユメは困惑する。

 直感的に信じはした。

 しかし、理解にまでは至らない。

 

(……私の魔眼には等分された死を生み出せるだけの力は残ってないっす。いったいどこから)

 

 その正体を突き止めようと思考するミユメの肩に一匹の蝶が留まる。

 それをミユメはしばらくじっと見つめて、吹っ切れたように笑いだした。

 

「っふふふ、そうっすね! 今はあなたが味方であるという事だけわかればいい。それだけで、十分っす!」

 

 例え優れた頭脳を持ってたとしても、全てを知る必要はない。

 大切なのは、如何にして為すべきことを為し遂げるか、それだけだった。

 

「それじゃあ、一緒に行くっすよ!」

 

 故に、ミユメはその協力者の素性も知らずに手を取る事を選ぶ。

 それこそが彼女の強さの根源なのだから。

 

「トアちゃん! こっからが私の最後の本気っす!」

 

 周囲から生み出され続ける等分された死は次々と収束砲撃の魔力を吸収していく。

 そうして奪い取った魔力は、ミユメにもう一度だけ真理の魔眼を扱うだけの力を与えた。

 

「行くっすよー!」

 

 大量の等分された死を連れてミユメは高らかに宣言する。

 砲撃を受け止められたネームレスはその姿に舌打ちをすると距離を取った。

 

「それ魔力を吸うから嫌いなんだけど」

 

 切断音が響き、蝶が一匹、また一匹と切り落とされていく。

 しかし、その度にさらに多くの等分された死がどこからともなく生み出されていった。

 

 その中心、龍の姿のままミユメは動かない。

 ネームレスをじっと見つめた彼女は、その指先を突きつけた。

 

「トアちゃん! 今から放つ攻撃が私の全身全霊、全てを懸けた一撃っす!」

「そう、じゃあ真正面から潰してあげるよ」

「……やっぱり、トアちゃんは優しいっすね」

 

 確信と共に頷き、ミユメは飛翔するネームレスを見上げた。

 彼女の周囲に黄金の魔力が収束を始める。

 

 クラムとヒカリを一撃で倒した収束砲撃、アルテミス・ノヴァであることに間違いはない。

 更にその威力は月詠み形態により底上げされていた。

 

 辺りの魔力を根こそぎ奪い、自身の魔力に変換したネームレスは大鎌の柄をミユメへと構える。

 魔法陣から現れた半透明な管が大鎌へといくつも接続され、魔力が充填されていった。

 

「第一術式から第百術式までを強制連結。発射シーケンスへ移行」

 

 淡々と、宣告するようにネームレスは工程を一つ一つクリアしていく。

 やがて彼女はその引き金に指を掛けた。

 後はこの引き金を引くだけだ。

 

 対して地上では、ミユメが真理の魔眼を用いて最終兵器を生み出していた。

 

「皆さん、お借りするっす!」

 

 腕を組み、空を見上げ。

 いたって真面目に、本気の本気で彼女はその名を呼んだ。

 

「来い! キングジルニアァァァァァァス!!!!!」

 

 真理の魔眼により全てが本物と遜色ないレベルで形作られた白亜の巨大ロボが、ミユメの背後からゆっくりとせり上がってくる。

 鳥で構成された頭部に右腕にはイルカ、左腕にはクワガタ。

 そして胸には獅子の顔があり、その大きな体がロボの体の殆どを担っている。

 

 ジルニアス学術院においてその名を知らぬものはないだろう。

 天才たちの叡智の結晶、キングジルニアース。

 

 荒廃した街に現れた何よりも巨大で威圧感のあるその超弩級自律兵装を前に、ネームレスは僅かに口元を緩めた。

 

「……ミユメちゃんらしいね」

 

 安堵したように小さく呟いた彼女は、引き金にかけた指に力を籠める。

 そして。

 

「星に祈りを」

 

 遂に引き金が引かれた。

 同時にミユメもまた叫ぶ。

 

「ファイア!!!」

 

 瞬間、獅子の口が開き轟音と共に収束砲撃が放たれる。

 それはジルニアス学術院がとうの昔に解析を終えて再現を可能としていたソルシエラの収束砲撃に他ならない。

 探索者や生半可なダイブギアでは体に負担がかかりすぎるか、演算回路が焼き切れてしまう代物であるが、キングジルニアースは違った。

 

「いっけええええ!」

 

 黄金と白亜の収束砲撃が空中でぶつかり合う。

 初撃の威力は同等。

 ここからは如何に効率よく散った魔力を吸収できるかの勝負である。

 

「トリム、演算を手伝って」

『言われずとも』

「等分された死、頼むっすよ!」

 

 収束砲撃の衝突により散った魔力を再び利用し、より収束砲撃の威力を増す。

 そうして互いの砲撃を食い合い、最後に残った方が勝利する。

 故にこれは持久戦であった。

 

 大鎌へと接続された魔法陣が、空気中の魔力を常に収束し続ける。

 対するミユメもまた、等分された死による魔力吸収効果で周囲の魔力を絶え間なくキングジルニアースへとエネルギーを送り続けた。

 

「トアちゃん、私は皆が大好きっす! その中にはトアちゃんもいるっすよ!」

 

 魔力の吸収限界を終え、等分された死が一つまた一つと地上に落ちる。

 僅かに黄金の収束砲撃が前に進んだ。

 

「貴女がいたから、私はここでこうして笑えている! だから今度は貴女を笑顔にしたい!」

 

 真理の魔眼の限界が近づき、キングジルニアースにひびが入り始める。

 ミユメは龍の装甲を解除し、そのリソースを全て注ぎ込むことでその崩壊を一時的に食い止めた。

 しかし、それでも収束砲撃を押し返すことは叶わない。

 

「帰ってきてくださいっす!」

 

 等分された死の数も減りはじめ、目に見えて砲撃の威力が減退していく。

 それでもミユメは変わらず前を向いて、希望を叫んだ。

 

「フェクトムはいつでも貴女の帰る場所っすから!」

 

 やがてキングジルニアースが崩壊を始める。

 泡沫の夢であったかのように、その巨躯は砂のように零れ落ち初め、獅子の口はボロボロに崩れていく。

 

 そして最後には、白亜の収束砲撃は全て黄金の光に飲み込まれた。

 

「――っ」

 

 黄金の光がトドメと言わんばかりにキングジルニアースを粉砕し、背後にあったビルをいくつもなぎ倒していく。

 その余波だけで、近くにいたミユメは地面に転がった。

 

「うぐぁっ」

 

 大きな破砕音の後、立ち上る黒煙と赤熱した地面は、まるで巨大な隕石が落下したかのようだった。

 やがて、辺りに雨粒が落ち始める。

 真っ赤な地面に落ちた雨粒が蒸気を上げ、辺りはまるで霧が立ち込めたかのように白んでいった。

 

「……はは」 

 

 白くなっていく世界の中、泥だらけになったミユメは空を仰ぐように大の字になる。

 そして、黄金に輝く彼女を見て勝ち誇った様子で笑みを浮かべた。

 

「その魔力が……最初から欲しかったっすよ」

 

 雨脚が強さを増す。

 気が付けば、ミユメの傍には誰かが立っていた。

 

 彼女はその姿を見て、安堵したように目を閉じる。

 

「……後はお願いするっす」

「ああ、任せろ」

 

 意思を受け継ぐように、ミズヒはその銃口を空にいるネームレスへと向けた。

 

「今度はミズヒちゃんか」

「ネームレス、私達は今までの奴らのように優しくはないぞ」

 

 まるで万雷の拍手の様に、大量の雨が地上へと叩きつけられる。

 濡れる髪も気にせず、ミズヒはネームレスへと告げた。

 

「お前をぶん殴ってでも連れ戻す」

 

 こうして、最終決戦は幕を開けた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『作戦通り、所定の位置に就きましたね。ここからならお望みの通り観測が……って、どうしましたか』

『なんださっきのミユメちゃんのカッコいい龍形態は!? 俺のデータにないぞ!?』

『なんだあの金ぴかのドレス!? エクスギアとトリムの融合なんて私のデータにないねぇ!?』

『おぉ、ミユメの中から先ほどまで僅かに漏れ出ていた幼き命の波動はなんだ!? あれは私のデータにはない……! いや、ちょっとあるぞ。今すぐにカメさんバインダーの記録を――』

『あ、主殿……その……この状態で衣装出しても三番煎じなんじゃ……』

『『『はわわわわ……』』』

 

 

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