【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第441話 終わりの月と時雨

 照上ミズヒとの対面は、ネームレスが考える中で最も想定したくないもののひとつである。

 ソルシエラや六波羅との戦いと同等以上に避けるべき理由、それは彼女がトアという少女をよく理解している点にあった。

 

「まさか、ミズヒちゃんまで私と戦うの?」

 

 あくまで強気におどけるようにネームレスは笑う。

 しかしその目は、ミズヒの一挙手一投足を見逃そうとはしなかった。

 

(私が知るミズヒちゃんよりもずっと強い。それに、この感覚は何……?)

 

 ミズヒの存在を認知した瞬間から自身の体を駆け巡る妙な感覚がある。

 しかしそれは決して不快ではなく、むしろ力が溢れてくるかのような錯覚さえあった。

 

 気味が悪い。

 ネームレスはそう判断して、取り敢えずで最大の一撃を放つ。

 

「星に祈りを」

 

 キングジルニアースの破壊に使用した魔力が再びネームレスへと集い、放たれる。

 収束の時間こそ短かったが、放たれたそれは先ほどの一撃となんら変わりはない。

 

(ミズヒちゃんはいくらでも瞬間移動できるから、これくらいは挨拶みたいなものだね)

 

 距離を自在に操る力を持つ者を相手に、隙の大きい一撃が当たるとは思っていない。

 これはあくまで、牽制と自身の覚悟を示すための言わば試合開始の鐘に近いだろう。

 

「ほう、最初から奥の手とは」

 

 放たれた黄金の光を見て、ミズヒは感嘆の声を漏らす。

 ネームレスの想像していた通り、彼女はミユメの体を抱えるだけで防御すらしなかった。

 

 間もなく辺りが黄金の光に包まれる。

 砲撃の熱で蒸発した雨が霧のように辺りの視界を奪っていく。

 

 いい加減この雨雲を砲撃で消し去ってしまおうかとネームレスが考えて空を見上げようとしたその時だ。

 彼女めがけて弾丸が放たれる。

 魔力により構成された弾丸は雨の中をまっすぐに突き進むが、ネームレスに当たる前に黒い焔によって消え去った。

 

「私を殴って止めるとか言っていたけどさ」

 

 弾丸の放たれた方へと視線を向ける。

 銃口を向けた姿勢のまま、ミズヒは立っていた。

 崩壊したビルの一画で、雨に打たれながらもその赤い目はネームレスを捉え続けている。

 傍にミユメの姿はない。安全な場所に避難させたのだろう。

 

「こんなもので倒せると思ってるの?」

「お前相手なら、これで充分だろう。一度でも、お前が私に模擬戦で勝ったことがあったか?」

「……ああそうだったね!」

 

 ネームレスはミズヒに向かっていくつも黒い焔を放つ。

 本来の持ち主であるミズヒへの挑発も兼ねているのだが、ミズヒは至って冷静にビルを飛び降りた。

 

 黒い焔をすり抜け、彼女は走り出す。

 そしてネームレスへと距離を詰めながら二つの銃口を向けた。

 

「浮いていないで、降りて戦ったらどうだ? 臆病なのは相変わらずだな」

「そっちこそ、異能を使いなよ。まさか本当にそれで戦うつもり?」

 

 放たれる弾丸はこの戦いにおいてはあまりにも威力が低い。

 人吞み蛙の爆発よりもずっと弱く、脅威とすら呼べないだろう。

 それどころか、ネームレスにはそもそも防ぐ意味すらない。

 

「……はぁ」

 

 馬鹿らしくなったネームレスは、数発を焼却した辺りで防御を完全にやめた。

 ため息をつく彼女の体を弾丸が通り抜ける。

 しかし彼女の体には一切の変化はなかった。

 

(ミズヒちゃん、何を考えているんだろう。この感じは明らかに作戦がありそうだけど……うん、少なくともミズヒちゃん考案じゃないね)

 

 意図は感じた。

 しかし、その目的と発案者までは絞り込めない。

 

(私を挑発しているつもりかな。本当に何を考えているんだろう)

 

 様子見をしながらネームレスは攻撃を続けるが、ミズヒは相変わらず攻撃を避け弾丸をネームレスへと放ち続けた。

 黒い焔が襲おうとも、機械仕掛けの蛙が爆発しようとも、収束砲撃を放たれようとも変わらない。

 ミズヒはネームレスを見上げ、銃口を向ける。

 届かないとわかっていても、彼女は攻撃をやめなかった。

 

「何を考えているのかな、ミズヒちゃん」

「どうしたらお前をぶん殴って正気に戻せるか、それだけだ」

「相変わらず真っ直ぐな目でやばい事言うなぁ」

 

 ネームレスは大鎌を構え、ミズヒを見下ろす。

 そして次の瞬間、彼女の姿が切断音とともに消えた。

 

「後ろだよー」

 

 背後に現れたネームレスは既に次の一手を用意した後だった。

 その背中から生み出された黒い光翼が一斉にミズヒへと向かって行く。

 全ての攻撃に手加減や遊びは存在しない。

 今までのように戦えば負ける可能性があると、誰よりも近くでミズヒを見てきたネームレスは知っていたからだ。

 

「わざわざ宣言するか。正直者め」

「ミズヒちゃんだって馬鹿正直でしょ」

 

 振り返ると同時に地面を蹴ってミズヒが回避する。

 それと同時に、ネームレスの肩を数発の弾丸が通り抜けた。

 しかし、やはり有効打にはならない。

 

 それどころか、無駄に弾丸を放ったその隙をついてネームレスは既にミズヒの背後に移動を完了していた。

 

「私は結構嘘つきだよ」

「ッ!?」

 

 二の手がミズヒへと迫る。

 ガラスの靴に覆われた無敵の蹴撃を背中に受け、ミズヒの体は宙に浮いた。

 完全に無防備になったその体へと、ネームレスは流れるように蹴撃をもう一度放つ。

 

「足癖悪くてごめんね」

「くっ!」

 

 防御をしようとしたミズヒだったが、僅かに間に合わず蹴り飛ばされ近くのビルへと激しく衝突した。

 激しい煙をあげるビルへと、ネームレスは駄目押しで数発の収束砲撃を放つ。

 容赦など必要ない。

 何せ、相手はあの照上ミズヒなのだから。

 

「うわ、なんも見えないなー」

 

 爆炎が立ち上り、蒸発した雨が更に辺りを白く染めていた。

 気が付けば、かろうじてビルの輪郭だけが分かるほどに辺りは霧に包まれている。

 

「トリム、何とかできない?」

『こういう時の索敵担当はエイナだ。私や他の姉さん達の役目ではない』

「自信満々に言う事じゃないねえ」

 

 呆れながら笑うネームレスの耳に、瓦礫が崩れる音と誰かの息遣いが聞こえてきた。

 ネームレスはそれに驚くことなく、再び大鎌を構える。

 

「やっぱりミズヒちゃんは凄いね、頑丈だ」

「この程度、なんてことはないな」

 

 ミズヒは今までと変わらぬ足取りでネームレスへと向かっていた。

 服は裂け、いたるところに細かな傷がついているが、それでも平然としている姿は間違いなく強者の風格がある。

 

「どうした、この程度で終わりか? まだまだ私は戦えるぞ」

「……味方だと頼もしいけど、敵だとこんなに怖いんだね」

 

 ネームレスは手を抜いたつもりはない。

 立ち上がることは確信していたが、ここまでだとは想像していなかった。

 

(流石に頑丈すぎる気もするな……やっぱりいつものミズヒちゃんじゃない。きっと何か仕掛けがある。ちゃっちゃと終わらせよう)

 

 異常な耐久性に異常な行動が目立つ。

 これ以上、遊んでいる暇はないだろう。

 

「トリム、ミズヒちゃんの意識だけ奪うよ」

『ボクに命令するな。言われずともお前に合わせてやる』

 

 黄金の大鎌に不干渉の力が充填される。

 収束斬撃とも言われるその凶刃は今、ミズヒへと狙いを定める。

 

「じゃ、これでお終いだね」

「来い、トア」

 

 ガラスの靴により加速したネームレスはなんの障害もなく、ミズヒの懐に入り込んだ。

 ミズヒは対応しようとしているが、遅い。

 視線は既にネームレスを見失っており、体は取り敢えず後ろに下がろうとしていた。

 

(獲った)

 

 完全にがら空きの体を見て、ネームレスは大鎌を振るい勝利を確信した。

 その言葉が聞こえてくるまでは。

 

『――前提規則。照上ミズヒに攻撃を仕掛けてはいけない』

「規則違反です」

 

 瞬間、体に衝撃が走りネームレスの体が無理やり弾き飛ばされる。

 首元まで迫っていた刃に表情を変えることなく、ミズヒはただその光景を見ていた。

 まるで、それが予定調和だとでも言うように。

 

「この無茶苦茶な能力……チッ」

『まさか、シエル姉さんか?』

 

 答え合わせの様に、霧の向こうから二人の少女が現れる。

 蒼と金の髪は、思わずその姿を見たネームレスの顔を歪ませた。

 

「ミロクちゃんと(ザコ)か……!」

 

 新たに戦場に現れた二人に、ネームレスの脳が警鐘を鳴らしている。

 圧倒的な力を持っている自分が優位の筈だ。

 しかし、何故だがその胸には不安が襲い掛かっていた。

 三人が揃った、ただそれだけの筈なのに。

 

「間に合ったな、ミロク」

「はい」

「……が、頑張るよ!」

 

 三人は並び立ち、ネームレスを見る。

 雨はより一層激しく少女達を打ち付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うおっ、眩しっ!? なんだあの三人の美少女の輝きは!?』

『駄目だ、こうなったらいったん無垢シエラにも雑魚形態を与えて二段新形態で誤魔化すしか……!』

『おぉ、急ぐのだ。赫夜牟よ、少し手伝ってくれ』

『わかったのじゃ!』

『三人に宿るあの輝き、やっぱり……! いえ、ですがそれはあり得ない。余計な事を言って皆さんを混乱させるわけにはいきませんね』

 

 

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